第47話 王城へ
俺たちは馬車に乗って王城へと向かっている。
しかも騎馬乗りの騎士様が五人も護衛してくれているという待遇だ。なんて豪華なのだろうか。
「流石は貴族の乗る馬車だなあ。椅子に座れるなんて」
乗合馬車、あるいは商人の護衛で馬車に乗ったことはある。
だが前者は人を多く詰めるため、後者は商品を多く詰めるために椅子なんてない。
「普通だと思いますわ」
「椅子がない馬車ってどうやって座るの?」
お嬢様組のイリアさんとラクシアが首をかしげる。
こういう何気ないところで生まれの差って出るよな。
「そりゃ馬車の床に座るんだよ。たまに荷物が詰まれてる時は背もたれにしてさ。重い装備だと値段が増えるから、重武装の奴は遠出する時だけ軽い装備にしたりさ」
「それは荷物と同じ扱いで運ばれてるのではありませんか?」
……そう言われると確かに荷物扱い感がするなあ。
少なくともこの馬車と比べてしまうと、乗合馬車は人を人扱いしてないかもしれない。重さで値段が変わるって荷物扱いっぽいし。
……いやいや。お貴族様の馬車が特殊なだけだ。
そんなことを考えながら窓から外を覗くと、城塞都市が見えてきた。
「あそこが王都ですわ。国王、そしてその他が住んでいる場所です」
その他が誰を指すかについては聞かないようにしよう。
「王都かー。初めて来たなあ」
「わ、私もです……」
俺とリーンちゃんの冒険者組が口を開くと、イリアさんたちが少し前に乗り出した。
「そうなんですのね! でしたら王都には色々といい店がありますわ! 宝石を綺麗にちりばめた服が……!」
イリアさんがすごくテンション高いが、彼女のご用達の店は庶民には厳しそうだなあ。
「ここの魔道具店は強い呪物が多く売ってるよ! 生きてる人間を呪い殺すのに十分な……!」
ラクシアがすごくテンション高いが、彼女のご用達の店は人間には厳しそうだなあ。
まあ王都ならお貴族様向け以外にも、平民相手の店もいくらでもあるだろう。
俺とリーンちゃんはやることないし、観光がてら王都で遊んでもいいかもしれない。
隣国の王太子様の病とやらも、イリアさんの治癒魔法にかかればイチコロだろう。あ、回復するって意味な。一撃で殺すって意味じゃなくて。
なにせあまりに強すぎる過剰回復で、攻撃になってしまうような治癒魔法だぞ。逆に治せないことあるのか? と聞きたい。
……ただ俺としては王都に行くのは微妙だ。イリアさんが王太子を治癒したらすごく困ることもあるから。ただまあ口に出すわけにはいかない。
流石にそれを言ってしまったら終わりだからな……。
そんなことを考えていると急に馬車がガクリと大きく揺れた。
「なんだなんだ?」
俺は窓から外を覗く。馬に乗った小汚い男たちが馬車の横で並走している。
合計で二十人以上はいそうだな。お貴族様の馬車を襲撃しに来たってことか。
……王都付近なのに治安悪いなあ。
「皆様はお座りを。我々騎士団が対処いたしますので」
すると騎士団長の声が外から聞こえてくる。
ただ騎士団長含めても騎士たちは五人だ。相手は二十人以上いるので、人数差の不利はありそうだが。
ラクシアたちもそう思ったようで、俺たちは顔を見合わせると。
「ボクがゾンビ召喚して援護しようかな?」
「むしろ邪魔になるだろ。いきなりゾンビが出てきたら戦場が混乱するだろうが」
「ワタクシが回復魔法で援護しましょう」
「騎士と盗賊のどっちを狙うか教えてもらってもいいですか?」
「か、カエル出しますか……?」
「下手に出したら戦場が混乱しちゃうかな」
……うちのパーティー、外と連携しづらいことこの上ないな。
そんなことを考えている間に騎士たちは盗賊に突撃。そして騎士たちが次々と盗賊を切り裂いていく。
人数差こそあれども練度や装備の質が違い過ぎるな。盗賊たちはロクな鎧も着てないのに、騎士たちは全身フル装備なのだから。
あれなら万に一つと負けることもないだろう。
もし不利なら馬車から飛び出すつもりだったけど問題なさそう。
「いやー、騎士の護衛がいるっていいなあ。普通なら冒険者の俺たちはむしろ馬車の護衛役なのに」
「え? いつもボクがゾンビを出して護衛させてるじゃない」
するとラクシアがたわけたことを言いだした。
「騎士とゾンビを同列にするのは、おこがましいと思わないのか?」
「護衛には変わらないと思う! ゾンビにだって優れてるところはあるよ!」
「例えば?」
「お金がかからない! 食料いらない! 使い潰してもいい!」
「護衛というより使い捨てのコマだろそれ」
まあゾンビは油断したり体調不良にならないから、そういう面では騎士より優れている……?
そんなこと考えている間に騎士たちが盗賊を全滅させていた。
そこらの冒険者よりよっぽど強いな、騎士様たち。少なくともベイロン領の兵士たちとは比べ物にならない。
「イリア様、申し訳ありません。実は先ほどの戦争で馬が一頭負傷してしまいました。よろしければ癒して頂きたいのですが」
騎士団長の声が外から聞こえてきた。
「もちろんですわ。馬車を止めてくださいな」
イリアさんは停止した馬車から降りると、馬が彼女の前に歩いていく。
その馬の胸部分が出血していた。おそらく矢が刺さったのだろう。
だがイリアさんが回復魔法を唱えると、怪我は跡形もなく消え去ってしまった。
「おお! 流石はイリア様! やはり治癒魔法は世界一ですな!」
「ありがとうございます! おかげで愛馬を失わずに済みました!」
騎士たちは目を輝かせてイリアさんを褒めちぎる。
元々彼女は騎士団の人も癒していたらしいし、騎士たちからの評判はすこくいいのだろう。
彼女は本来ならば王城に住んで、騎士や貴族たちに尊敬されるべき聖女なのだから。
「お礼なんていいですわ。それより王城へ向かいましょう」
そうして馬車は王都へと入り、俺たちは王城へと無事にたどり着けたのだった。
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今年最後の投稿になります。
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