第34話 説明、そして……


 俺たちは受付嬢さんに対して、懇切丁寧に説明をしている。


「ええと。まずダリューンさんたちが悪魔になって蘇ったんですね? それでベイロン領に魔物を連れてやってきたのを、真の力を隠していた皆さんが捕縛した」

「真実の愛!?」

「違いますよイリアさん。あ、受付嬢さんは合ってます」

「そうしたらギルマスが殺してしまったので、死んだダリューンさんたちをゾンビにした。それで証拠を全部言わせてからギルマスを倒したと」

「そうですそうです」

「それでギルマスをゾンビ化して、着服した金などを言わせて連行してきたと……なんで魔物退治に行ってこんなことに?」


 むしろ俺が聞きたいです。


 なんでこんなややこしいというかカオスなことになってしまったのか。


 俺たちはベイロン領に出現した魔物を倒しに向かっただけなんだ。それがどうしてこんなゾンビまみれの話になるのか。


 いやゾンビ関係は全部うちのラクシアがやったことだけどさ……。


 受付嬢さんはチラリと視線を向けた。その先にいるのは直立したギルドマスターだ、ただし白目を剥いているが。


 その後に彼女は、俺たちが持ってきた金貨の詰まった宝箱を確認すると。


「なるほど……まあギルマスが金を着服したのは知ってましたし、確かにやっていてもおかしくないですね。特に最近は不自然に留守が多かったのですが、この理由なら納得がいきます」

「信じてもらえるんですか? 正直俺達がギルドマスターに暴力を振るったってことで、処罰される危険もあると思ってたのですが」


 正直、俺たちのやったことはかなり酷いからな。


 だが受付嬢さんは肩をすくめると。


「以前からギルマスは物凄く怪しかったですからね。私がヴァルムさんたち四人をひとつのパーティーにしようとした時も嫌がってましたから。『汚名を隠すなら掃きだめの中』とか、『危険同士が組み合わさったら禁忌』とか言って」


 なんて言いぐさだ。もう何発か殴っても許されるのではなかろうか。


「ともかく皆さんのおかげで助かりました。ギルドマスターが冒険者を食い物にしているなんて、最悪な行為にもほどがあります!」


 強く叫ぶ受付嬢さん。


 そりゃそうだよな。冒険者ギルドのマスターが、冒険者を食い物にするとか外聞がひど過ぎる。


 するとダリューンたち三バカどもが騒ぎ出した。


「そうだそうだ! 俺たちは被害者なんだ! 罪は免除されるべきだっ!」

「即座の開放を! そして慰謝料として金貨を渡せ!」

「そうなんだな! ボキュたちを開放するんだな!」


 あいつらの戯言はともかくとして、ギルドマスターの行いは本当に酷い。


 どれくらい酷いかと言うと、聖女様の治癒魔法が人を殺すより酷い。


 …………いや互角くらいかもしれない。あの爆破魔法を治癒と言い張るのも相当な詐欺だよ。


「それで受付嬢さん。これからどうするつもりなんですか?」

「すでに冒険者ギルドの本部に手紙を出しました。おそらく今のギルドマスターは公開処刑された上で、新しいギルドマスターに変わることになるでしょう」

「公開処刑されるんですね」

「当たり前です。冒険者を食い物にするギルドマスターですよ? そんなの許したらギルドの信頼に大きくヒビが入ります!」


 確かにその通りだ。ギルドマスターが冒険者を殺していたなど、もはや冒険者ギルドの根幹にかかわるような大問題。


 徹底的に見せしめにしないとどうにもならないだろう。ただひとつ気になっていることがあるのだが。


「あの。受付嬢さん、ちょっといいですか?」

「なんですか? あ、ギルドマスターの首を跳ねたいのですか? 確かに被害者のヴァルムさんが処刑する方が、他の冒険者にウケがいいかもですね!」


 よくないです。別に俺は処刑したいわけじゃないんだが?


 そして俺が聞きたいのはそんなことではない。俺は受付嬢さんを軽くにらむと。


「遠慮しておきます。それより受付嬢さん、さっき『ギルマスが金を着服してたのは知ってました』と言ってませんでした?」

「……」


 張り付いた笑みで笑う受付嬢さん。


 さっきの発言ってつまりは、『ギルマスの悪行を知ってたけど放置しました』ってことじゃん。


 すると受付嬢さんはメソメソと泣き始めた。


「……うう、実は私も脅されていたのです。もし話したら犯した後に殺すと……! 諸悪の根源、全ての元凶はギルドマスターです! 彼ひとりが全て悪いのです」


 と開き直ったように叫び出した。


 対してゾンビ状態のギルマスは「あー……」と唸るばかりだ。死人に口なしとはまさにこのことである、死んでないけど。


 だが良心の呵責に耐えられなかったのか、受付嬢さんは俺の肩を両手で掴んでくると。


「違うんです! まさかギルドマスターがここまでのことをしてるとは思ってなかったんです! せいぜい銀貨を数枚抜いてる程度かと……!」


 それも放置したらダメなのでは? と思わなくもない。


「……まあいいですけどね。次からはもう少し気を付けてくださいね。最悪、巻き添えで罪人になってましたよ?」


 俺としては別に受付嬢さんに恨みはない。


 なんなら恩義を感じてもいる。なにせ今のパーティーを集めてくれたのは彼女なのだから。


 それに受付嬢さん自身は悪いことしてなさそうだしな。


「うう……! ヴァルムさんんんん!!!」


 すると受付嬢さんは俺に抱き着いてきた。柔らかい感触があって役得だ。


 だが急にラクシアが迫ってきて、受付嬢さんを俺から引きはがしてしまった。


「ダメ! 受付嬢さんは反省して! ヴァルムが嫌がってるでしょ!」

「え? 別に嫌がってない……」


 言い切る前にラクシアに睨まれてしまった。なんなんだいったい。


 受付嬢さんは気を取り直すように咳払いをした後に。


「まあいいです。ところであの、ダリューンさんたちはどうされるのですか? 流石に皆さんが連れているのは外聞が……でも放置されるのも困るのです」


 どうやら受付嬢さんは、ゾンビ化したダリューンたちが気になるようだ。


 確かにあいつらは厄介な存在だ。流石につい最近まで生きてた奴のゾンビを、色々な場所に連れまわすわけにもいかない。


 かといって野に放つのもダメだ。今のアイツらは強力な魔物な上に、性格もねじ曲がっていて悪いからな。


「早く解放しろ! 俺たちに自由を!」

「もう悪いことはしないからよ! これからは真面目に生きるからよ!」

「そうなんだな! ボキュたちはギルマスに騙されてただけで、根は善人なんだな!」


 相も変わらず微塵も反省しない奴らである。そりゃ受付嬢さんの心配も当然だ。


「安心してください。考えてますから」


 俺は受付嬢さんを安心させるように笑うと。


「ちゃんとあと腐れないように処分しますよ」

「「「!?」」」



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