静寂
「ここが・・・・・・菌糸の森・・・・・・」
多様な植物の生い茂った森の、その湿度を感じながら辺りを見渡す。
樹木の枝葉の隙間から差し込む光線は明るいが、基本的にはどこも薄暗かった。
「暗殺者の森と比べると、だいぶ静かだね。いい具合に涼しいし、探索事態は楽かもね」
ラヴィもひとまずはといった感じで、伸びをしながら周囲の様子を確認する。
ラヴィの言うように、実際過ごしやすい環境ではあった。
ただ・・・・・・。
「でもここに居るんだよね・・・・・・」
最初から何かを探すつもりで来ているせいか、多少神経が過敏になっている。
風に木の葉が揺れる音とか、どこからか聞こえる微かな水の音だとか、普段は気にしないようなこともはっきりと脳に届いていた。
だからあたりの暗がりが、全部何か潜んでいるんじゃないかと思えてくる。
菌糸の森のヌシ・・・・・・もしかしたらそんな得体の知れない怪物の瞳がどこかの影で光っているかもしれない。
「うう、やっぱ・・・・・・不気味・・・・・・」
ヌシに会うために探しに来たというのに、いざこうやって森についてみると、やはり出くわすのが怖くなってくる。
御者さんの話を聞いた感じだと結構やばそうだったし・・・・・・。
結局のところ相手が“何”なのかも判然としないこともあって、単純に大型の魔物に挑むのとはまた違った緊張感と恐怖があった。
「ひとまず痕跡を探ってみよう。聞いた話によれば結構かたまった位置にあるらしいから、その辺りに居る可能性がまぁ高いと思う」
今のわたしにはコードがあるんだ、と自分を勇気づけ、一通り周囲の確認を済ませたラヴィの背中に張り付くようにして歩みを進めた。
あらかじめの情報収集が周到だったようで、ラヴィの足取りに迷いはない。
その“痕跡”とやらを目指して、ずんずん進んで行った。
菌糸の森というだけあって、道中キノコをたくさん見る。
わたしはシュルームみたいに詳しくないから、何が食べられるとか、何が食べられないとか、全然判断がつかない。
色の明るい派手なのはまぁ毒なんだろうなっていうのが唯一得られた教訓だ。
「それにしてもさ・・・・・・」
漠然と、ずっとなんだか不気味に感じていた。
しかしその違和感の正体にやっと気づけた。
この森は今まで行って来た森の中でも、一際異質な雰囲気を持っていた。
「ねぇ、さ・・・・・・なんか、魔物少ないっていうか・・・・・・居なくない?」
魔物どころか、生物の気配がしない。
少なからず何かの生き物は普通居るものだけど、全く出会わない。
これが違和感の、なんとも言えない漠然とした嫌な感じの正体だった。
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