次の電車で
伏見同然
次の電車で
金曜の午後3時、中学の時の親友のユウキが出てきた。もう死んでるはずなのに。
俺は「うぇっ」とか変な声が出ちゃったんだけど、ユウキは「おう、プレステやらせてくれよ」とか言ってくる。ちなみに、こいつが言ってるのは初代プレステのこと。
「なんだよ、お前なんか顔変じゃね?」とユウキは俺の顔を下から覗き込んでくる。変もなにも俺もう38だぞとか思ってると「相談乗るよ、降りないけどな」っていう、懐かしくていまだに意味がわからないことを言いながらユウキが肩を組んできた。
俺の頭にはクライアントの無茶振りと、それを相談した先輩の「そこからが本番だな」っていう、ストレスの塊があったけど、隣でニコニコしてるユウキをみてたら、そんなのどうでもよくなった。
俺は肩に乗せられた腕をどかしてユウキを正面から見据える。
「お前、バイク乗るな」他にも言いたいことはたくさんあったけど、その言葉が自然と出ていた。
「なんだそれ? 俺は相談に乗るっていったの。降りないけどね」ユウキはあのときのように目をうっすら閉じてニヤけながら言った。
そんなユウキを見ていたら、それ以上言葉が出てこなくなった。バイクでも相談でもなんでも乗ればいい。もう降りなくていいし。
ユウキが死んでからもう20年経つ、もうその存在も普段はほとんど思い出さないのに、なんで今日、目の前にいるのか。俺は自分でわかっていた。
駅のホームでかれこれ1時間、線路を見つめてベンチに座っている。俺の中でずっと何かが戦っている。次の電車が来たら⋯
そう思ったときにユウキが現れた。お前が降りる気がない相談の内容が、まさかこんなことなんて、思ってもないだろうな。それか、全部お見通しか。電車が到着する度、様々な人が通るが、ユウキのことは誰にも見えていないようだ。というか、俺のことも見えているのかわからない。
「なあ、ダウンタウン汁撮った?」俺とユウキが当時楽しみにしていたテレビ番組だ。そういえばそんなのあったな。
「いや、悪い。撮り忘れた」俺は情けない顔で答える。ユウキはもうその話題はいいという様子で別の方を向いている。
電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。
「お前、これ乗れ」ユウキがそういって手を差し出してきた。
俺は手を掴んで立ち上がり、促されるままに到着した電車に乗った。
「降りずにずっと乗ってろ。ずっと」ユウキが言うと同時にドアがしまり、電車が走りだした。ポケットに手を突っ込んで立っているユウキの姿が見えなくなっても、いつまでも見ようとした。
次の電車で 伏見同然 @fushimidozen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます