ロリコン退魔師・路里紺の人外楽園計画♡
吉武 止少
第1話 その男、ロリコンにつき
路里・紺(みちざとこん)はロリコンだ。
初恋はニチアサの魔法少女。五人組の少女の中で唯一小学生だった女の子である。
当時中学生だった紺は「あーうんうん。別に年齢じゃないし。好きな人を好きになっただけで別に年齢とか関係ないから。うんだってホラすげー魅力的じゃん? ビジュアルだけじゃなくて性格も最高だし。いやそもそもニチアサ魔法少女って小学生とか幼稚園児向けな訳だし共感性高いのは中学生より小学生だよな、つまり小学生キャラが魅力的なのは当たり前」と脳内で早口な言い訳をしていた。
だが、目に留まるキャラクターが全て小学生かそれ以下ともなれば己の性癖と向き合わざるを得なかった。
年齢は低い方が良いのか?
否。大切なのは中身。年齢で人を判断するとか人間性疑うわ。っていうか人を愛するのに年齢とかただの数字じゃん。そんなものに拘るの絶対おかしいって。
おっぱいは小さい方が良いのか?
否。断じて否。
ビタミンと一緒で、それぞれ全て、人間が生きていくためにはなくてはならない要素なのだ。
Aが少ないと夜盲症になるように。
Bがないと
Cが不足すると風邪を引きやすくなるように。
Dが足りないとカルシウムが吸収できなくなるように。
どんなアルファベッドも欠けることなく存在する、それが理想だ。
身長が低くて童顔な方が良いのか?
当たり前じゃん。
紺は気づいた。
——
のじゃロリやロリ巨乳は許容できるが、生後一年の女子高生や起動直後のアンドロイド娘は許容できない。
——だってそれ、ロリじゃなくて無知っ娘だし。
それが紺という人間だった。
「ハァ……死にたい」
そんな紺だったが、高校生になって人生で初めて三次元に恋をした。
相手は友達の妹。
友人の家が複雑な過程だったこともアリ、大学生の紺と友人に対し、妹は小学四年生だった。
にかっと笑って、友達とゲームをやっていると混ざりたがる快活な子だった。
ちなみに身長は128センチ。
ストライクである。それもただのストライクではない。ド級のストライク、ドストライクである。
密かに思いを寄せていた紺だが、それも今年——大学二年生の夏までだった。
妹ちゃんは変わってしまったのだ。
きっかけは友達と買ったという付録付きの雑誌だった。
メイクセットがついたそれに、KOAKUMAな雑誌の方向性に染められ、ひと夏にしてギャルになっていた。
濃いめのメイクにつけまつげ。毛先はスプレーでピンクや金に染め、いかにもダルそうな話し方。
ネイルも魔女みたいな長さで、黒魔術してそうなデザインだった。
「おにっ……兄貴のダチね。あーしに何か用~?」
無理しているのが丸わかりだったが、紺の恋心を打ち砕くには十分なギャル口調だった。
「ハァ……分かってたよ。どうせ、どんなロリもいつかは大人になる……しかもロリの内に手を出せば犯罪だ……はぁ、死にたい……」
紺は真っ暗な夜の森をひとりで歩いていた。
鬱蒼と茂る枝葉が星月の明かりを遮り、塗り潰された闇が辺りを支配していた。
紺は目の下に深い隈を刻み、幽鬼のような表情をしている。時折漏れ聞こえる願望も相まって、ロリコンとは別の方向性でヤバい奴にしか見えないだろう。
不意に誰かと遭遇すれば通報待ったなしである。
だが、そもそも誰かと会う心配などほぼ存在しなかった。
なぜならば紺が歩いているのは
俗にいう、富士の樹海だからだ。
かつては自殺の名所という不名誉なレッテルを貼られた場所だが、そのイメージを払拭するために多くの努力を重ねている。
入口付近に立札があったり。
ボランティアを中心にひとりで訪れた人に声掛けをしたり。
定期的に紺のような人間を呼んだり。
その甲斐もあってか、こんな夜更けに樹海の奥まで入ってくる人間など、早々いなくなっていた。
「どっかに合法エターナルロリとか落ちてないかな……やっぱり転生してそういうのが許される異世界でロリ奴隷を買うしかないのか……はぁ、死にたい……そして転生したい……」
溜息と共にヤバい願望を口にした紺は、この世の全てを恨んでいるかのような目で周囲を睨む。
そして懐から細長い紙切れを取り出した。
和紙のような材質のそれには筆で何かが刻まれている。
人差し指と中指で紙切れを挟んで構えると、図形や模様にも見える紙上の文字が青白い光を放ち始めた。
「路里流
紺の体内で練られた
昏い森の中を、呪符を中心に現れた魔法陣が
切り取られた暗闇に、影が
もやのようなものが渦巻き、まるで意思を持っているかのように濃淡を作り出しているのだ。
風が吹けば容易に千切れて飛んでいきそうなそれには、人の顔のようなものがぼんやりと浮かんでいた。
ぽっかりと空いた
引きつれたように端が持ち上がった口。
ぼさぼさの髪の毛。
それは、まるで女性のようだった。
だがしかし、女性ではない。——少なくとも、生きた人間の女性では。
闇の中から現れたそれは、
にたり、
と笑いながら紺に虚ろな目を向け、紺に手を伸ばす。
「オトコぉ……高収入ノオトコォ!」
爪が
「——
紺の言葉と同時、呪力が吹き荒れた。空中に形成されていた魔法陣がそのまま地面にも浮かび上がり、多数の刃が突如として生えたのだ。
紺の呪力を帯びた刃はそれの身体を貫き、切り裂き、散らしていく。
「ギャァァァァァッ!」
それが耳をつんざくような悲鳴を上げた。
それは苦悶に顔を歪ませながらも、執拗に紺へと手を伸ばす。
「傷物ニシタ責任トッテヨネェェェェ!」
どう考えても届かない距離だが、刃に引き裂かれ、傷口からもやを巻き散らす腕が、ずるりと伸びた。
「若イ女ハ許サナイワァァァァァァッ!」
多数の関節をでたらめに繋ぎ合わせた腕が紺に迫る。
「無駄だ。——路里流符術、
別の呪符を手に挟んだ紺が告げると同時、雷を鍛造したかのような剣が生まれた。バチバチと紫電を巻き散らす剣を紺が即座に振るえば、豆腐のように腕が切り飛ばされた。
そのまま踏み込んだ紺は、腕を細切れにしながらそれに近づいていく。
「ガァァァァァァッ!? うで! ワタシノうでガァァァアァ!!」
不明瞭な悲鳴を上げるそれの額に、聖刃を突き立てる。
「——あっ」
間抜けな声をあげたそれが、額から大量のもやを噴き出した。腕と言わず、脚と言わず、それの身体が崩れ、空気へと溶け消えていく。
そして、樹海に静寂が戻った。
闇にひしめていたもやも、地面から生えた無数の刃も、それらを呼び出した魔法陣も、紺の手に握られていた輝く刃も、すべて消えていた。
夢だと言われれば納得してしまうほどに、何も無かった。
「ふぅ……今のが低級霊扱いって……ここは本当に”淀みやすい土地”っぽいな……本格的に鎮魂してもらわないと、いつかまた自殺の名所になっちまうぞ」
ため息交じりに呟いた紺はスマホを操作し、電話を掛ける。
画面に表示されるのは『退魔師協会』という文字だ。
「もしもし。特級祓魔師の路里です。依頼の霊は無事に祓いました。ぶっちゃけ割とエグいレベルまで強化されてたんで——……」
言葉の途中で紺が固まる。その視線はある一点で釘付けになっていた。
紺の視線の先は森の片隅——先ほどまで”何か”がいたすぐ側に向けられている。
そこにいたのは、ひとりの少女だ。おかっぱ頭にアップリケ付きの赤い吊りスカートとやや時代を感じさせる服装だが、間違いなく紺のストライクゾーンにブッ刺さるロリだ。
ただし、微かに光を帯びた身体は透けていて、背後の樹木が見えている。
「……霊。さっきの低級霊に取り込まれてたのか?」
『おにーちゃん。ありがと。お陰でママとパパが待ってる天国に行ける』
少女はふよふよと紺の近くまでやってくると、その頬に軽く口づけた。
「待ってくださいお巡りさん逮捕しないでこれは不可抗力というか事故というか、そもそも俺はイエス・ロリータ・ノー・タッチを守って生きてきた健全かつ模範的なロリコンで——」
『? だれに言い訳してるの? 私はもう幽霊なんだよ? それに、1992年生まれだし』
「!?!?!?!?」
『それじゃ、ありがとね』
少女は花がほころぶような笑みを見せ、そのまま薄くなり——消えた。
後に残されたのは、呆けた顔の紺だけである。
『紺さん? もしもし? もしもーし!?』
スマホからは応答を求める声が漏れ聞こえるが、紺の耳には1ミリも届いていなかった。
「怪異や幽霊のロリっ子を探せばいいんだ……怪異や幽霊ならお巡りさんもオッケー! つまり合法ロリハーレムも夢じゃねぇ……!」
『もしもーし! なんかヤバい言葉聞こえてくるんですけどー!?』
路里・紺、二〇歳。
人生の目標が決まった瞬間だった。
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