怪盗ダウト「大貧民の星」
船越麻央
お星様をいただきに参上します 前編
『お星様をいただきに参上します。ダウト』
ダウトはプリンターが吐き出した用紙を手にして目を細めた。そしてウーンとひとつ伸びをすると、今度はパソコンに何やら文章の入力を始めた。その内容は……。
「吾輩は怪盗である。名前はダウトである。吾輩はWeb小説サイトで生まれた。人は吾輩をお星様ドロボーと言う。
吾輩は、国籍、年齢、性別、学歴、身長、体重、すべて不明である。吾輩の素顔は誰も知らない。
今回サイト内で大きなコンテストがあるようだ。お星様が大量に出回るらしい。吾輩の出番が来たと言うことだ。
狙うはただ一つ、『読者様からのお星様』である」
◆ ◆ ◆
「フリーセル会長! 自分はICPOのポーカーであります。ダウトです! 情報ではヤツが会長のお星様を狙っています!」
「ほほう、ダウトですか。その怪盗とやらが私のお星様を盗みに来ると? それは光栄ですなあ。怪盗ダウト……かなり人気のある有名人だな。ところでポーカー警部、あなたはホンモノ……かな?」
「し、失礼な! ヤツは自分の名を語ってお星様を預かっているのです! しかし自分が来たからには必ずヤツをタイホして……」
「ハハハ、怒らないでくれたまえ、冗談だよ。それで警部さん、ダウトの目的は何かね? 単なるお星様集めではないと思うのだが」
「それは、その……ヤツの目的は『大貧民の星』です。フツーのお星様ではありません。伝説の星があるらしいのです」
『大貧民の星』。
ポーカー警部の口からその言葉が出ると、フリーセル会長の顔色が変わった。フリーセル財団の会長にして実業家で不動産王。国内屈指の大富豪と言われている。長身瘦躯で甘いマスクのいわゆるイケメンである。独身ということで女性に人気があった。
そしてあるペンネームを使いWeb小説サイトで小説を書いていた。それなりに人気のある作家でもあった。当然怪盗ダウトの存在は把握しており警戒していた矢先にポーカー警部がやって来たのである。
「ポーカー警部。『大貧民の星』をダウトが狙っている……。私がその『大貧民の星』とやらを持っていると本気でお思いか?」
「……フリーセル会長! やはりお持ちなのですね!」
「ハハハ、さあどうですかねえ。ポーカー警部、このクローバーハウスのセキュリティは万全だが……まあいいでしょう。私が『大貧民の星』を持っているかどうかは別として、協力は惜しみませんよ。お星様ドロボー、ぜひタイホしてもらいたいですな」
フリーセル会長は結局『大貧民の星』の所持について肯定も否定もしなかった。しかしポーカー警部は確信した。ヤツは必ず来る! ダウトはフリーセル会長のお星様を狙っている! ポーカーは会長のだだっ広い豪邸に警官隊を配置して待ち構えた。
そもそも『大貧民の星』とは何なのか。伝説のお星様である。それは一つの星で千個のお星様に匹敵すると言われている。つまり星ゼロからいきなり星千個になれる。
獲得した星の数はコンテストの読者審査のランキングに反映される。そして一次審査突破に極めて重要な要件と言われている。
その星の数が一気に千個! まさに夢のようなお星様だ。底辺作家にとって喉から手が出るほど欲しいシロモノである。
今、伝説の『大貧民の星』がコンテストに出現し、ある作家が手に入れたらしい。そんな噂が流れていたのである。その伝説のお星様を手にしたのは一体誰なのか。
「た、大変です! ダウトです、怪盗ダウトから予告状が来ました!」
翌日、ついにフリーセル会長に予告状が届いた。
「ほほう、ダウトとやらずいぶんと律儀ですなあ。本当に予告状を寄越すとは」
「会長! なんとノンキなことを! それでダウトは何と?」
ポーカー警部の剣幕にフリーセルは黙って予告状をポーカーに渡した。
『お星様をいただきに参上します。ダウト』
A4サイズの用紙一枚にたった一行、印字されている。いつものパターンであった。
「うーむ、間違いなくダウトの予告状です。これが郵便受けに投函されていたのですな。ヤツの狙いは恐らく『大貧民の星』でしょう。会長はやはり……」
「ポーカー警部。前にも言ったがこのクローバーハウスのセキュリティは完璧だ。それに君の部下達もいるのだろう? 何をそんなに恐れているのかね?」
「ヤツは変装の名手です。老若男女を問わず誰にでも化けられます。それにヤツは神出鬼没、油断は禁物ですぞ!」
「しかし警部、ダウトはいったいいつわが屋敷にお見えになると言うのかね。おもてなしの準備をしなければならん」
あくまでも余裕の大富豪フリーセル。ポーカーは頭に血が上った。
「フリーセル会長! 少しは真面目に……」
「ハハハ、そうムキにならんでも。私のお星様の保管場所は私しかパスワードを知らんのだ。怪盗ダウトと言えども手出しは出来んよ。まあワインでも飲みたまえ。だが今はコンテスト期間中の大事な時だ。私はこれで失礼する」
フリーセル会長はそう言い残すと、小説執筆のため書斎に引きこもってしまった。残されたポーカー警部はワインを飲みながら考え込んでいた。
(お星様ドロボー、怪盗ダウト。ICPOの名誉にかけてこのポーカーがタイホして見せる!)
「な、何ですと! 『大貧民の星』が盗まれた? フ、フリーセル会長どういう事ですか!」
「……ポーカー警部……まんまとしてやられた……。昨晩までは確かにあったのだが。私の、私の千個のお星様……」
「会長! 落ち着いてください。昨晩までは確かにあったと言う事は……ダウトのヤツ、いったいどうやって……」
「ポーカー警部……頼むから『大貧民の星』取り戻してくれ……」
フリーセル会長は憔悴しきって、声を絞り出した。
◆ ◆ ◆
どこからか怪盗ダウトの哄笑が聞こえてくる。
「ポーカー警部、邪魔をしないでくれたまえ。これからいい所なんだ。アハハハ!」
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