ハッピーエンドは迎えない

目玉焼き

第一章『始まりあるいは終わり』

第1話:第一章『始まりあるいは終わり』

一:

「これは俺が主人公の物語である!」

こう、前置けば私のような人間の物語でも誰かの目にはとまるだろうか。

我が名は室隅へやすみわたる

先ほどは調子に乗って『俺』という一人称を使ったがやはり『私』には似合わない。

これからはこの一人称で統一していこう。

「彼女いない歴=年齢」「漫画研究部所属」「趣味:アニメ鑑賞」

ここまで言えば私が陰の気を纏った存在、つまり、陰キャであることは聡明な読者諸氏にはご理解いただけるだろう。

休み時間ならラブコメのモブよろしく教室の隅で友達とアニメやマンガの話で盛り上がる毎日。

アニメで例えるならクレジットでは名前が乗らないモブ1。

いや、下手をすれば監督の判断で原作での登場シーンをまるごとカットされるかもしれない存在、それが私である。

ただ、「こんな私でもラブコメの主人公になれるかもしれない。」と考えることはある。

その理由が今一緒に登校している、幼なじみの火鳥ひのとりかえでの存在である。

運動神経抜群、成績優秀。

ちなみにここよりも今通っている高校より上のレベルも狙えたのに「家から近い」という理由でかなり下のレベルのこの高校を受けた不思議な人物でもある(私?ここでギリだ)。

つまりは互いの母が昔からの友人でなければ関わる機会さえないような人物である。

まぁ、一日に数回話す程度の関係なのだが。

「なぁ、渡ぅ。さっきからブツブツ何言ってんだぁ?私に言えないことかぁ?」

やばいもれていたか。

「ご、ごめん。今日のことを考えてたんだ」

あなたのことを考えていました。なんて言ったら、流石にドン引きされるだろう。

「別に謝んなくていいし、っていうか今日何かあったっけ?」

「あぁ~、えっと」

・・どうしよう何も良い言葉が出てこない。

そう思っていたとき「おいおい、今日は部室で映像鑑賞会でござるよぉ。室隅氏へやすみし

その言葉と共に救いの神が現れた。


彼の名前は馬飼うまかいひろしへやすみの友人であり、漫画研究部の部長をやっている。

マジでナイスタイミングで現れてくれた。

「そ、そうだよね。今日は何を見るんだっけ?」

「え~と確か今日は『原作は面白いけど内容が地上波向きじゃなかったアニメ1クール分一気見デー』ですぞ」

「わ~、すっげぇ角が立ちそう。」

そんなことを話しながら歩いていると、ふと気になって楓の方を向いたら、その顔には嫌悪感が張り付いていた。

彼女は私が馬飼君とこういう話をすると決まってこういう顔をする。

すると、気まずくなったのか馬飼君が「先に行っているでござるよ。それでは放課後」と言って走っていった。

そのまま二人でしばらく会話の無いまま歩いているとすぐに校門に着いた。

「好きです。付きあってください」そんな私たちの耳を一筋の告白が貫く。


気になってそちらを見るとクラスメイトの女子が告白されていた。

彼女の名前は黒金くろかね英利えいり校内でもトップクラスの美少女との呼び声高い人物であり、肩まで伸びた白い長髪が特徴的である(余談だがその白い髪は地毛だそうだ)。

成績も常に楓とトップ争いをしており、人当たりも良く、誰からも好かれ、さらには日本でも指折りの大手財閥の一人娘という、まさに物語ラブコメに出てくるような人物である。

それに告白した側の男子も前にクラスの女子たちが噂をしていた人だろう。

その男は端正な顔立ちに程良く鍛えられた肉体を持ち、髪も整えられている。

そんな男子からの告白に彼女は「嫌です」。


即答だった。

取り付く島もないその一言に男のほうは膝から崩れ落ちた。

周りを彼の友人らしき人達に囲まれ慰められている。

私たちはそんな光景を横目に自分達の下駄箱に向かおうとすると

「あ、室隅さん。おはようございます。」

なんと彼女くろかねさん挨拶さはなしかけられた。

ほとんど話したこともない、クラスメイトというだけの私の名前を彼女くろかねさんが覚えているなんて驚きである。

「おはようございます」

私はそう言って挨拶を返すとすぐに下駄箱に向かった。

周りからの「何だこいつは?」という視線が痛い。


「ん?」いつも通りに下駄箱から自分の上履きを取り出そうとすると、中から封筒に入った手紙のようなものが出てきた。

たぶん果たし状か告訴状の類だろう。どちらとも身に覚えがないが。

「どうしたぁ?渡ぅ」

私の様子がおかしかったのか楓が心配そうに聞いてくる。

そんな楓に私は手紙を見せる「いや、こんなのが入っててさ」

動揺しているのか、いつの間にか喉が干上がり声も裏返ってしまった。

すると楓が(なぜか)驚いたような顔をする「お、おま、これラブレターじゃ」

心なしか楓の声も裏返っていた。

しかし私はこう返す「はっは、そんなわけないでしょう」今の時代にラブレターでの告白は相当レアだろうし、私の身近にはそんなことをしそうな知り合いはいない。

そう思い、封筒の中を確認すると『放課後に屋上に来てください。鍵は開けておきます』という内容が達筆の文字で書かれていた。


これはあれだ間違いなく


「ラァブレターだァ!!!ラァブレターだぜぇ、おぉいまァじかよ!!!!!」

おもわずテンションがおかしくなっている気もするがそんなことを気にしている余裕が今の私には存在しない。

「はぁ?それほんとにラブレターか?見せてみろよ。」

教室に向かうまでの道で楓は手紙を私の手からひったくるとそのまま手紙を読み始める。

「・・・うぅぅぅわ。まじにラブレターじゃん。お前、これ返事とかどうすんの?」

私が告白されると思っていなかったのか楓も驚いている。

・・・まぁ、それもそうか今までにこんなことは一度もなかったし、何より私自身も驚いている。

「気が早いよ」

「早いとか無いだろ。気になるじゃんか」

「とりあえず、相手と会ってから決める」

まだドッキリや罰ゲーム等の可能性がある以上、浮かれるのはまだ早い。返事を決めるのは、相手に会ってからでも遅くはないだろう。

「そういえば楓はこういう時いつもどうしてる?」

実は楓はモテる。もう信じられないぐらいモテる。だからこういう時どうしてるのかを聞こうと思ったのだが。

「いや、え?どういうこと?あ、告白されたとき?えっとねぇ。・・ごめん覚えてない」

いまいち要領をえなかった。

そんなことを話しているうちに教室に着いた。私は馬飼君にラブレターのことを話して今日は部活に遅れるかもと伝えた。

馬飼君は笑顔で「爆ぜろリア充」と言ってきやがった。


放課後、屋上に来ると指定時間より早かったせいかまだ誰もいなかった。

そもそも屋上は安全面などから天文部の関係者しか鍵を使えないはずだ。

ということはあの手紙を書いたのは天文部の誰かということか?しかし私には天文部の知り合いなんていない。そもそもこの学校での知り合い自体数えるほどしかいない。

そんなことを考え、少し悲しい気持ちになっていると背後から(古い)ドアの開く音が(甲高く)聞こえた。

差出人が来たのかと思いそちらを向くとそこにいたのは

「ん?今日は部活だろ?何してるんだ、こんなところで?そもそもここは天文部以外立ち入り禁止、ってそれは俺も同じか」


漫画研究部の顧問だった。

名前は五十嵐いがらし八目やつめ、やや紺色に近い髪をポニーテール状にした男性教師であり、私のクラスの担任でもある。

「先生こそここで何を?」そう私が聞くとその教師は答える。

「ヤニ休憩。ここ以外で吸うと教頭がうるさくてね。そっちは?」

そもそも高校の敷地内で教師がタバコ吸っちゃダメだろ。という言葉を吞み込みつつラブレターを見せながら答える。

「これです」

先生はそれを一度見た後「へぇ、ならニコチンくさいおじさんはここにいないほうがいいな。どっか別でいいところ知らない?教頭に見つからないようなところ」なんてことを言ってきやがった。

「それ生徒に聞きますか」

生徒が考えられるところは教師も見回りしているだろうし、そもそも教頭に見つからないようなところそれを生徒が知っていたらダメだろう。

「ま、そうだよなぁ。しょうがない自分で探すよ」

そう思っていると五十嵐先生は勝手に納得して去っていった。

何やってんだあの人はなどとつぶやいているとまたドアが開く音が聞こえた。

何か忘れ物でもしたのかと思いそちらを向くと「ごめんなさい、待たせちゃったよね?」という声と共にある少女がそこにいた。


「黒金さん?」

ありえない なぜここに? まず頭をよぎったのはそんな言葉だった。

彼女は天文部には所属していなかったはずだ。一学期の自己紹介の時にそういっていたし、何より「待たせちゃったよね?」という言葉に繋がらない。

ならば差出人かとも思ったがそれも違う。彼女のグループはスクールカースト上位の陽キャだがこの手のいたずらはしないはずだ。


なお、この時の私には自分が彼女に好意を寄せられているとは微塵も考えていなかった。

考えていればにはならなかっただろうに。


「えっとぉ、ご用件は何でしょうか?」目の前に起きたあまりの事実に思わず声が裏返ってしまう。

そんな私の質問に対し彼女は「え、えっと、そのね」と、なにやら口ごもっている。

やるのならいっそ一思いにやってください。お願いですから。

「あ、あの!好きです!付きあってください」

そういえば今朝も告白こんなことがあったなぁ。

まず思い浮かんだのはそんな言葉だった。

クラスのマドンナや校内でも有名な美少女からの告白。

男なら一度は思い浮かべ、憧れたことがあるであろうシチュエーションだが、それが実際に自分に対しておこるとなると話は別だ。

例えば、ファミレスでメニュー表と実際に出された料理のボリューム感が違ったという経験は誰にでもあるだろう。

つまりはあれと同じことだ。

想像フィクション現実リアルはしばしば乖離を起こす、今回もそれだ。

だいいち彼女と私にはほとんど接点と呼べるものがないのだ。

私の答えは決まっていた。

「罰ゲームですよね?」

このときはまさかが起きるなんて予想もしていなかった。


あとがき:ここまで読んでいただきありがとうございます!

目玉焼きです!

主人公がクソヤロウから始まる物語ラブコメ

はたして挽回仕置きはあるのか!

次回!室隅死す!

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