【えくすとら~創作する生徒会~】

「頭で書くんじゃないの! 心でえがくのよ!」

 会長がいつものように小さなむねってなにかの本の受け売りをえらそうに語っていた。

 俺は「うー」とうなり、ひたいさえる。つかれていた。バイトも勉強もエロゲも全部こなして一年やってきた俺だが、その俺でも、この作業だけはだった。

 ノートパソコンののっぺりとした画面をにらみつける。

 モニターへ向かってキーボードをカタカタ打つというのは、それだけで、はたから見ていても「疲れそうだな」と感じられるこうだ。

 その上、それが「しつぴつ」となればなおさらだ。なんつうか……のうや体というより、心が疲れる。真冬ちゃんの最近っている「知り合いでボーイズラブ執筆」のように、自分の好きなないようを好きなようにしゆで書くならいいが。今のこの俺のように、会長に押し付けられた物語を書かされるというのは、言うなればせいしんりようじよくだった。

 例えばげんじつの俺はエロゲけいとうしやだが、今執筆している物語の語りは、とてもな青年「副会長・すぎさきけん」である。真面目で真面目で真面目な生徒、杉崎鍵である。

 どうして俺が……文才なんてあるはずもない俺が、そんな、どうせい同名なだけのくうの人物……しかも対極の考え方を持つ人間のいちにんしようで書けるというのだろう。

 しかし、執筆をやめるわけにはいかない。なぜなら……。

「ほら杉崎! 手が止まっているわよ! どれどれ……って、まだ『第一話』の『ろんする生徒会』じゃない! なにしてるの! みんなの話題はもう、最終話の『とてもやさしい生徒会』にまで入っているわよ!」

「うぅ……分かってますよぅ」

 泣きそうになりながら、カタカタと指を動かす。「杉崎鍵」の物語。

ぼくは思った。じゆんせい交遊など、言語どうだんだと。そんなこうのがすわけにはいかないと、僕の心はせいほのおで真っ赤にえていた〉

 そこまで書いて、また一つたんそく。……疲れる。なんだこれ。なんだこのイジメ。なんだこのごうもん。新しすぎる。執筆拷問。作家なら別にいいだろうが、しろうとのこの俺に、自分と正反対の自分を主人公にして、そのしんきようえんえんと語らせる。……俺、明日には一人称「僕」になってるんじゃなかろうか。エロゲ、全部ててるんじゃなかろうか。

 俺が心の中で血のなみだを流している間、生徒会の皆も話し合いを続けていた。……会長以外、へきえきしたひようじようを見せながら。

「最終話の『とても優しい生徒会』は、今までの真面目なないようを一転、実はふところの深いところと、そしてしよみん的な部分を見せ付けることで、生徒の心をグッとつかむのよ!」

 会長がき活きとせんげんしている。しいまいづるさんはいつしゆん顔を見合わせ、そうして、死んだ目で返していた。

『そうですねー』

 あかん。あれは、もう俺に丸投げする気だ。会長のぼうそうを止める気力さえ無い目だ。

 皆の上辺だけの同意を得て、会長は更に胸を張っていた。

「具体的には……そうね。生徒会もゲームしたりまん読んだりするんだよ、っていう内容がいいわね! でも、ケジメはつけるってところを描けると、なおいいわね!」

『そうですねー』

うそつけっ! この前生徒会室でそつせんしてトランプしたのはだれだよ!)

 心の中でツッコミつつ、手は一話の執筆。


〈会長は不良生徒達に言った。

「やめるのよ。人をなぐった時にきずつくのは……君自身の、心なのよ」

 不良生徒達は会長の言葉にいたく感動し、生徒会にぜつたいふくじゆうちかうのだった。僕、杉崎鍵の心も、感動に打ちふるえていた。この会長についてきて良かったと、心から──〉


 自分で書いておいて軽くき気をもよおしたが、。俺は今、執筆マシーンだ。自分の考え方とは切りはなせ。同姓同名なだけの、別人だと思え。そう思わなきゃ……やってられっか。

 っていうか、誰だこの「会長」。会長に指定されたよう姿びようしやが「ほうまんなボディラインに、足はすらりと長くようえんきやくせんを描いている。その顔は気品にあふれ、まさに会長のうつわたるれいじようだった」という文章なのだが……。



 ……いや、よそう。キャラ名はさくらくりむだけど、それも、同姓同名なだけだ。

 俺が執筆を続ける中、最終話の話し合い……というか、会長の意見の押し付けは続いている。

「最後の文章は、『私立へきよう学園生徒会は、今日もれいに活動している』がいいわね」

『ほんと、そうですねー』

(ああ……知弦さんと椎名姉妹から生気が感じられない。執筆者たる俺もたいがいわいそうだが、まるで同意できないプロットを延々と聞かされ続ける彼女らもホント……)

 トランプの時もそうだが、この会長の暴走はホントひどい。他人から「やる気」や「元気」や「優しい気持ち」なんてものを根こそぎうばっていく。

 そもそも、今回は「クリムゾンのげき」とちがって、始まりからして会長のせいだった。会長をうらまずして、誰を恨めというのか。

「新聞部問題にするどく切りむ手はないものかしら……」

 数日前にこんなことを会長がつぶやいていたのが、今考えると「大いなるふくせん」だったのだが、にちじようで伏線なんかに気をつけて生活しているやつぁいない。

 だから、本日会長が、

「私達もしゆつぱんしましょう! そうよ! かみばいたいで打ち負かせばいいのよ!」

 と言いだした時、俺達はまずたんじゆんおどろき、その後、「ああ、しまった……」と、伏線を思い出してこうかいした。特に知弦さんなんか、「手を打っておくべきだった……」と、本当にくやしそうにしていた。

 会長の言葉はこうだ。

「同じ新聞じゃ勝ち目はないわ。曲がりなりにもコンクールでゆうしようするような部活だからねっ」

 たしかに、とうどうリリシアひきいる新聞部の実力は折り紙つきだ。だから、会長のその言葉はもっともだったのだけれど……。

「では、私達はぎやくに、物語で勝負しましょう! 私達生徒会のゆうしゆうさを全校生徒に知らしめる、日々の活動をえがいた半ドキュメンタリーでいきましょう」

 半ドキュメンタリーってなんだよ、と誰もが思ったが、会長の顔がすでに「決定」の顔だったため、俺達はあきらめた。

 そうして……このじようきようだ。

 パソコンのあつかいにれている俺が、タイピング速度がいくぶん速いからというだけの理由でしつぴつしやに選ばれ、それ以外の皆で、プロットを会議している。

 ちなみにこの本、どうやら本気でせいほんする気らしい。会長が先ほど書房とかいう出版社にかけあっていた。ライトノベルの出版社らしい。

「…………」

 自分の執筆した小説をながめる。

〈会長はらしいじよせいだ。このてきてきどうしやの下でならば、この学校は最高の学校になると……僕、杉崎鍵はこの時、かくしんしたのであった。十六さいの春だった〉

「…………」

 どの年代の、誰をねらった小説なんだろう、これは。これをおもしろいと思う人は、どういう人なのだろう。まるで読者の顔がそうぞう出来ないないようだった。エンターテイメントたるようじんもない。

 タイトルは「あぁ、すばらしき生徒会」らしい。この学校の生徒達には今後、教科書といつしよこうにゆうを発生させるとか。……酷い。色々と、酷い。

 俺がぐったりしながらしつぴつを続けていると、会議がいちだんらくしたようだ。気分てんかんのためか、それとも戦友を心が求めたのか、となりなつが話しかけてきた。

「鍵……だいじようか?」

「いや……去年からがむしゃらに生きてきた俺だけど、今日、ついに心が折れそうなほど、つらい」

「今回ばかりはさすがにどうじようするぜ。どれどれ、ないようは……。…………。……ホント、がんったよ、お前は」

 深夏がそんけいで俺を見ていた。すんげぇうれしかったが、今は喜ぶ体力ももったいない。代わりに弱々しく笑うだけで返しておいた。深夏が末期のガンかんじやでも見るようなうるんだひとみで俺を見ている。……そこまで酷いか、俺の顔。

「ところで深夏。お前のびようしやだけど──」

「ああ、テキトーでかまわねーぜ」

「じゃあ、これで……」

「『美しい』『かつこういい』『たよりになる』『ゆう』『最強』『れいにしてせんさい』『いくさおとというしようごうふさしい』『ライジンエア』という言葉さえふくんでくれれば……」

「指定しまくってんじゃねえかよ! あと最後の二つ名みたいなのはなんだ!」

「ライトノベルっぽいだろ? っぽいだろ? 最近のラノベじゃあ、お前、変なのうりよくやらび方の一つぐらい無いと、生き残れねーぜ?」

「いらねぇよ! そういうけいとうの話じゃねえよ!」

「ええー。じゃあ、二話から能力者だせよー。でんっぽくしろよー」

「話の運び方がまるで分からねぇよ! 生徒会の話からそこにいたる自然な流れがまるで思いつかねぇ! 読者に『ちようてんかいすぎてワロタ』とか言われるぞこら!」

「あと、じよばんに最強そんざい出ると、り上がるぜ?」

「知らねぇよ! それ以前に最強がどうとかいう話じゃねえよ!」

「死をあやつる能力『エコー・オブ・デス』を使うヤツがラスボスな」

じやがんじゃねえかっ! でもなんか最強っぽいな! 戦いたくねぇわ!」

「鍵の能力は『チキン・チキ』っ! その力とは──」

「説明するまでもなく、弱ぇのは分かるっ!」

「弱い能力で強い能力たおすところに、読者はえを感じるんだぞ」

りやくじゃおぎなえない差を感じたんだがっ!」

「そこをなんとかするのが主人公っ! つうか作者!」

「無理だわ! 俺の頭じゃ主人公が急にレベルアップする以外でかいけつほうが思いつかんわ!」

「それはだ。そういうのはきようめだ。あくまで、最初のじようけんで勝たないと燃えねー」

「じゃあお前が考えろっ! せんとう方法はお前がかんしゆうしろや!」

「やだよ、めんどくせー」

「……てめぇ」

「ちなみに会長さんの能力は『オールキヤンセル』」

「……あ、なんかその二つ名だけは小説に組み込みたくなったわ」

「だろう」

 深夏と会話しつつ、第二話の執筆を開始する。


〈それはいつしゆんだった。

「──え?」

「貴公にはにんしきさえ出来まい。われの能力がなんであるか」

「そんな……バカ、な」

 僕の目の前には、一瞬にして死体の山が出来上がっていた。

 しかし……おののいたのは、その光景に、ではない。

 

 気付いたら、死体の山だった。いな

 死体の山? たくさんの人間が死んだことがじよう? ちがう。

 それ以前に、

 ただただ、

 何もない空間に。

 死体の山があらわれたのだ。

「どう……や、って。まさか……」

「空間どうのうりよくだと考えたか。死体を転送したと考えたか。違う。違うな。杉崎鍵よ。我の力はそんな……

「…………」

まぼろし? 否。時のせいぎよ? 否。空間のちようえつ? 否っ! 我の能力は、!」

「お前……は」

「ふ……。覚えておけ。杉崎鍵。我は、『エコー・オブ・デス』。お前の……兄だ」

「な、なんだってぇ──────────────」〉


「無理だぁ──────────────────────!」

 俺はキーボードをたたくのをやめてばんざいした。深夏が「ぶー」とほおふくらます。

「もっとがんれよぉ。じつさいけつこうしいぜ? それっぽいよ、うん」

つかれるわ! なんか疲れるわ! しかもなんだ兄って!」

「それはお前が勝手に……」

「ええい! この二話なし! 伝奇のほうこうせい、なし!」

「ええー。ようなしかよぉー」

「そもそも生徒会を題材に燃え要素を作る意味がわからんわ!」

「そんなこと言い出したら、生徒会の話を書く意味も分からねーだろうが」

「う……」

 それはたしかに。しかし……それとこれとは別問題。能力者を出すなんていうせつていはやはりぜつたいきやつだ。書いていて本気で疲れる。

 俺と深夏のやりとりを見ていたのか、今度はふゆちゃんがこちらの会話に加わってきた。ちなみに会長と知弦さんは「プロットをつめる」作業中だ。

せんぱい先輩っ」

「なんだい、真冬ちゃん。いい案でもあった?」

「はいっ! 真冬の案も、組み込んでほしいです!」

「分かった分かった。美少女のお願いはとりあえず聞いてしまうこの杉崎鍵、全力で真冬ちゃんのていあんを受けれてやろうじゃないか」

「ありがとうございます! それではですねぇ」

 真冬ちゃんが第二話の提案を始める。俺はそれを聞きながら、執筆をさいかいした。


ぼくは自分のむねの高鳴りの正体が分からなかった。

「兄……さん?」

「弟よ」

 キュン。

 あれ? これ、なんだろう。このめ付けられるようないたみは……なんだろう?

 そのの無いきんにくこつではないが、たよりがいのあるむないた。そして、たんせいな顔立ち。

 兄さんのすべてに、僕の心は苦しいほどはんのうする。

「弟よ……会いたかったぞ……」

エコー・オブ・デス兄さん……」

「……弟よっ」

 ガシッ。

 エコー・オブ・デス兄さんが僕をきしめる。

 たん、僕のほおはカァっとこうちようした。

「あ……。にぃ……さん」

「……弟……よ」

 近付く二人のきよ

 死体の山の中心で、その時、僕らは心で愛をさけんでいた。

 二人の顔が近付く。あぁ……兄さん。

「…………」

「…………」

 そうして……僕らはむさぼるようにおたがいのくちびるを──〉


「どんなてんかいだぁ──────────────────────────!」

「かなり書いてからツッコムあたり……芸人ですね! 先輩!」

「そんなひようはいらんわ!」

 真冬ちゃんをりつける。だんなら彼女にこんなたいをとることなどぜつたいないが、今回ばかりはげんかいだった。

 しかし真冬ちゃんも、今回はゆずれないものがあるのか、おびえずに俺に立ち向かってくる。

「いいじゃないですかっ! さいのうありますよ、先輩!」

「ここまで開花をおそれる才能もめずらしいわっ!」

「せめてもう少し! 二人でベッドに入るところまではっ!」

「やめろよ! 切りはなして考えているつもりだったけど、ここにきて、どうせい同名がようつらいんだよぅ! 助けてくれよぅ!」

れです! エロゲと同じですよ先輩! こういうのは、たいせいがついちゃえば、もうずかしいとか思わなくなるんです!」

「耐性つくまでせつしたくさえないわっ!」

「わがままは『メッ』ですよ、先輩!」

「相変わらずわいいなぁ、ちくしょうめ!」


〈二人はベッドインした。エキサイトな夜だった〉


「ありがとう先輩っ!」

「どういたしましてっ!」

 俺は泣きながらしつぴつしていた。……よごれちまったよ。俺……汚れちまったよ、あすりん。生徒会で、俺ぁ、汚されちまったよ。体どころじゃねえよ。心が、まさかまさかの真冬ちゃんにりつぶされたよ。しつこくに。いや、ある意味ももいろに。

 俺がすっかりきていると、知弦さんと会長の会議が終わったようだった。

 二人して、俺の様子を見に来る。

 パソコンをのぞき込む二人。そして……ひきつる、三年生両名。

「き、キー君……これ……」

「杉崎……あなた……」

「見るな! 見ないでくれよぅ! 汚れた……汚れちまった俺を、そんな目で見ないでくれよぅ!」

 泣きながらノートパソコンをかかえ込む。知弦さんが「よしよし」と俺をなぐさめてくれた。あのけんしつのようなぬくもりが、そこにあった。

「うぅ……知弦さんっ、知弦さんっ!」

こわかったね……。だいじようよ……なたは大丈夫よ、キー君」

「知弦さぁん……。俺……俺……」

「大丈夫よ、キー君。……貴方、出会った時からすでに、ギトギトに汚れていたから」

「知弦さぁああああああああああああああああああああああああああああん!」

 トドメをされた。書記はてきだった。

 心のこわれてしまった俺の耳元に、会長が何かささやいている。

 俺は言われるままに執筆を続けた。


〈会長ばんざい。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。会長万歳。

 会長こそわれらがほこり。会長こそ我らが命。

 会長なくして世界はなく。

 会長のなき世界にはなし。

 兄さんとのほうようを通じて僕は。

 そんなことを感じていたんだ〉


「ふふふ……いい感じよ、杉崎」

「へへ……もうどうにでもなれってんだ。……へへへ」

「キー君。自分を見失っちゃよ!」

「知弦さん!」

「思い出すのよキー君。本当の貴方を……」

「知弦さん……」

 俺の目に生気がもどり始める。知弦さんは、ふわりとほほんだ。

「さあ思い出しなさい、キー君。……私のぼくだったころの貴方をっ!」

「知弦さぁああああああああああああああああああああああああああん!」

 なんか変なり込まれた。


〈兄さんとのみつげつの後、僕は生徒会室におもむいた。

 そこで僕を待っていたのは……大きな赤いソファにゆったりとこしをかけた知弦さんだった。足を組み、ようえんな目つきで僕をながめている。



「キー君。生徒会の仕事をほうするとは……どうなるか、かくは出来ているんでしょうね?」

「ご、ごめんなさい、知弦さん」

「知弦さん? なに言っているの! ユ殿びなさい!」

「イエス、ユアハイネス!」

「いい子ね、キー君」

「あぅ」

 僕は照れた。ユアハイネスにめてもらえることは、僕にとってはじようの幸福なのだ。

 知弦さんは「ふふふ」と微笑む。

「ほら、キー君。いつものように……私のくつめなさい!」

「イエス……ユアハイネス!」

 そして僕は、やさしくされること以上に、彼女にあしにされるのがたまらなく好きなのだっ!

 僕はユアハイネスの足元にかしずくと、その靴にゆっくりと──〉


「がが、ががががが」

「あら。パソコンより先にキー君が壊れちゃったわね」

「がが、がががが、ががががが」

「ふぅ……仕方ない。キー君。私が今から3カウントすると、貴方はいつものキー君に戻るわ。いいわね。……3、2、1、はい!」

「ガガガ文──はっ! 俺は一体……」

 急に時間がんだ気がした。

 俺は今まで……なにを……。

 知弦さんが優しげに微笑んでいる。

「なにも心配しなくていいわ、キー君。私はいつでも……キミの味方だから」

「知弦さん……。やっぱり貴女はせいじよだっ!」

「ふふふ、そんなことないわよぉ」

 知弦さんがけんそんする。横で深夏と真冬が「あれが……あれが、書記の実力かっ」「ある意味既に一種ののうりよくしやでありくろまくっぽいかも……知弦せんぱい」と、なにかつぶやいていた。気にしない。

 そうこうしていると、あら不思議、いつの間にか二話が完成していた。

 ないようは……あえて読まないことにした。なぜか、俺のせいぞん本能が、「見るなっ!」とけいこくしていた。意味は分からなかったものの、それにはなおしたがっておくことにする。

 続けて三話のしつぴつを開始する。すると、たんにメンバー達はぎゃあぎゃあと俺に意見をしてきたが、すでに色々っ切れていた俺は、それに対し大きくさけんだ!

いな!」

『!』

「今まで散々アンタらの意見を聞いたんだ! 三話目は好きにやらせてもらう!」

「す、杉崎! なた、会長命令をして──」

「これはじようですよ会長。第三話だけ明けわたして……他を思い通りにするか。それとも、ワガママを通して、俺が執筆を放棄するか。二者たくいつです」

「く……分かったわ、杉崎。第三話だけは好きにしなさい」

 会長がくやしそうな顔をしながら引き下がる。他のメンバー達も、同様ににがむしつぶしたような顔をしていた。おそらく、俺に好きにやらせたらどうなるか、分かっているのだろう。

 俺は彼女達のそのひようじようをたっぷりとたのしむと、ゆがんだみをかべながら執筆を開始した。


〈生徒会室にはげんざい、四人の美少女が集まっていた。

 桜野くりむ、あか知弦、椎名深夏、椎名真冬。

 彼女らは一様に、俺……杉崎鍵に熱っぽい視線を向けている。

 え切れなくなったのか、中でも一番情熱的なオンナ、深夏が声をあげた!

「ああ、鍵! あたし……あたしもう、耐えられない! あたしを……あたしをっ!」

「まあ待て深夏よ。俺は、皆を愛しているんだ。特定の一人だけと……そういうことはできねぇな」

 ニヒルにほほむ俺に、深夏は「ああん」と身をくねらせる。

「そんな……あたし、あたし、もう、鍵を愛する気持ちが止められないんだよっ!」

「おいおい、そんな情熱的な目で見つめるなよ深夏。そんなことをしていると……」

ひどいよお姉ちゃん! ま、真冬も、ずっと杉崎先輩のこと好きだったのにっ!」

 とうとつに、今までもじもじしているだけだった真冬ちゃんが、顔を真っ赤にしながら大きくせんげんした。その告白に深夏はいつしゆんどうようした目を見せるものの、しかし次の瞬間、妹に対してはんろんする。

「わりぃ、真冬。あたし……これだけはゆずれねぇんだ!」

「ま、真冬だって、こればっかりはお姉ちゃんに負けたくない!」

「真冬……」

「お姉ちゃん……」

 椎名まいが俺を取り合っている。しゆだった。

 俺がその様子をゆうの笑みで見守っていると、ツンツンと、つくえの下で対面から俺のひざをつつくものをかくにんした。

 思わず正面を見る。知弦さんが、いたずらっぽくウィンクしていた。

 同時に、アイコンタクトを開始する。

(キー君……。私も……私も本当は貴方のこと……。だから……私と……)

(おおっと、それはいけねぇぜ、知弦さんよぉ)

(ど、どうしてっ)

(それはきようというものでさぁ、知弦さん。俺のことを好きなのは……アンタだけじゃねぇ)

(だけどキー君! 私は……私はっ!)

(おっといけねぇ! 動揺しすぎだぜ知弦さん! アイコンタクトが……彼女にバレちまったようだ)

(え?)

 知弦さんがあわてて横を見る。そこには……ムスっとした、会長がいた。

 どうやら、俺と知弦さんにヤキモチをやいてしまったらしい。……わいいオンナだぜ。

「知弦と杉崎……。たまにそうやって見つめ合っているわよね」

「な、そ、そんなこと。アカちゃんの思いごし、よ」

 知弦さんがガラにもなく言葉を噛む。会長はそれをつまらなそうに見た後、知弦さんからせんをはずし、俺に目を向けてきた。

 そうして、くさそうに告げる。

「か、会長命令よ、杉崎っ」

「なんですか? 会長」

「私と……私と、付き合いなさい!」

「会長……」

 真っ赤になって告白する会長と、俺は見つめ合う。

 そうしていると……今度は、知弦さんと椎名姉妹がそくもんを──〉


きやつ

「あ───────────────────────!」

 しつぴつがノッてきたところで、いつの間にかマウスをにぎっていた会長に、今までの文章をデリートされてしまった。それに動揺して会長に文句を言っている間に、今度は知弦さんがカタカタとそうして、文章のふくげんさえのうにする。

 椎名姉妹がなぜかホッとむねで下ろす中、俺はげつこうした!

「な、なんてことするんだ! このひとでなしぃー!」

「どう考えてもこっちのせりでしょうがっ!」

 会長に言い返されてしまった。しかし、今のはじん的にかなり力作だったため、俺はさらに反論する。

「今まで自分達だって散々好き勝手やったくせにぃー!」

「杉崎のは、なんか一次元ちがうのよ!」

「そんなことない! ほとんど事実にもとづいたびようしやだったじゃないかっ!」

「フィクションのあらしよ! 一つもリアルなようが見当たらなかったわよ!」

エコー・オブ・デスやボーイズラブよりはリアルじゃないか!」

「いいえ! 下手するとそれより酷いわよ!」

 そこまでけなされるとは。

 俺がへこんでいると、深夏が「エコー・オブ・デスを引き合いに出さねーでくれよ……」と、なぜか彼女も落ちんでいた。真冬ちゃんも、「うぅ……この世のどこかでは、ぜつたいにボーイズラブなげんじつがあると真冬は信じてますっ」とねていた。

 ぐだぐだな空気の中、ただ一人冷静だった知弦さんが、一つたんそくして告げる。

「どちらにせよ……私もふざけてしまったから言うかく無いかもしれないけど。……少なくとも……このままじゃ、あの新聞部よりゆうしゆうなものなんて、できっこないわね」

『…………』

 その言葉は、俺達を落ち込ませるのにじゆうぶんな言葉だった。だって全員……そんなの、とっくにかいしていたから。

 俺は、知弦さんの言葉を引きぐ。

「あの新聞部は……くさっても、が校のほこる新聞部ですよ……ね。こんな……こんな、下らない、ただのもうそうかたまりになんか、負けやしねぇ部活だ」

 俺のその言葉に、会長は、

「ふん! 当然でしょ! うちの学校の新聞部は、すごいんだからっ!」

 と、なぜか新聞部のかたを持っていた。……いや、そのはんのうは、みな、最初から分かっていた。

 会長は……この学校をだれよりも愛する会長は、同時に、誰よりも、生徒達の活動をひようしている。新聞部もまたしかり、だ。

 しかし、だからこそ、一生けんめいになる。

 新聞部には、変な記事書いて足元をすくわれてほしくなんか、ないから。

 だからこそ、必死で、一部活のためだけに、こんなに一生懸命に生徒会を活動させる。

 深夏が、「あははっ」と笑った。

しろうとが、しゆ丸出しのそうさくであの新聞部を上回ろうなんて……ちょっと、浅はかすぎたかもしれねーな」

 それに続いて、真冬ちゃんがつぶやく。

「新聞部さんは……凄いです。事実をおもしろく伝えるって……妄想じゃなくて、すでにある事実で人を楽しませるって……。創作とは違うけど、だからこそ、凄いです。それって……へんしゆうって、いうのかな? ……真冬たちがかんたんにそれをていするのは……ちょっと、ぼうとく、かもしれない……です」

 真冬ちゃんの言葉に、全員がだまってしまう。

 別に……誰も、自分達の妄想が「つまらない」とは思っていない。それはそれで、充分に楽しいことだし、これで誰かを楽しませることは出来るだろう。

 だけど。

 その道に本当にしんけんに取り組んでいる人間の創作物さえ上回るものかというと、決してそんなことはないということも、事実で。

 つまり。

「私の言い出したことって……的外れ、だったのかな……」

 そういうけつろんに行き着くことは明白で。

 会長は、元気をなくして落ち込んでいた。

 でも……おれは。

「いえ……会長のていあんは、間違いじゃ、ないですよ」

「杉崎?」

 俺は、この人が間違えたなんて、思ってなくて。

 だって。この人はこの人なりに新聞部を……この学校を考えて、このかくを立ち上げたのだから。

 数日前から口にしていた、というのがそのしようだ。

 少なくとも会長は、この企画を口にするまでに、日をまたいでじゆつこうしている。そういうことだ。

 だから、会長のぼうそうへきえきはしていても、誰も、企画をつぶそうと……否定しようとなんかしなかった。みなが、ノリノリではなくても、ちゃんと会長の言葉を受けれた。

 そういう、ことだから。

 変な方向にぶれてはしまったけれど。

 最初にいだいた気持ちは、ぜつたいちがいなんかじゃないから。

 少なくとも俺は、誰が否定しようと、つねにこの人の部下で……味方で……ささえる人で……。この人にとっての、「副会長」でいたいから。

 だから。

 このお子様会長に、俺はほほむ。

「新聞部が優秀なのはみとめますけど、その一方で、やはりたまに『行きぎる』ことは事実です。生徒会が注意しているうちはだいじようですけど、いつか……例えば先生方やPTAをてきに回してしまうことがあっては、一大事です。生徒会ではもうかばえない」

「杉崎……」

「だからこそ。会長が言うように、ここらで一回鼻をへしおってやらないとね。びすぎた鼻は、誰かがてきしてやらないと。

 とはいえ、どうせあの新聞部は、上から言っても聞かないでしょう。

 ならば、同じ土俵で……文章というばいたいで、気付かせてやるのが一番ですよ。会長が提案した通りです。俺達の文章で……アイツらに、初心を思い出させてやりましょうよ」

 俺の言葉に、知弦さんも椎名まいも微笑み、会長を見る。

 会長は、ちょっとだけ……いつしゆんだけひとみをうるっとさせた後、しかし、次の瞬間にはいつもの元気な会長にもどり、そうして、俺に命令した。

「よしっ! じゃあ杉崎っ! 会長命令っ!」

「なんですか、会長」


なたの好きなように、生徒会をえがきなさい」


「……え?」

 その言葉に俺はおどろいて、彼女を見返す。どういうわけか、他のメンバーも全員、会長に同意した目で俺を見ていた。

「ちょ、俺、さっき書いたみたいに、どうしようもない──」

「ううん。大丈夫。杉崎は、大丈夫よ」

「…………」

「私はね。やっぱり……この生徒会を……このらしい生徒会を、ありのままに書いてもらうのがいいなって、今、思ったの」

「会長……」

「でね。たぶん……生徒会をありのままに描けるのは、杉崎しかいないよ。だから……ね。杉崎。しつぴつを、お願い」

「会長……」

 そうつぶやいてから。全員を見回して、俺は、たずねる。

「いいんですか? 俺で」

 その問いに、深夏が、真冬ちゃんが、知弦さんが答える。

「当然だろ、鍵」

「真冬も、杉崎せんぱいの書く文章は、いいと思います」

「むしろ、キー君以外じゃ誰もこの生徒会を描けないわ。だんげんする。しようする」

「……みんな……」

 俺は、彼女達のしんらいせんを全身に感じて。

 そうして。

 会長の目をしっかりと見て、答えを返した。


りようかいしました会長。全力で、生徒会を描きます」


 俺のその言葉に、うれしそうにする会長。

「うん、お願いね。……あ、ただ、一つだけ要望!」

「? なんですか?」

「杉崎が書き終わってからでいいから、私達にも、ちょっとだけ加筆させてね」

「? えと……いいですけど、それは、どういう?」

「えへへ、ナイショ」

 そう会長が呟くと共に、なぜか全員、会長の言葉の意味が分かっているように、にやりと笑う。……なんだ? 俺だけ、意味がわかってないの?

 俺がどうようしていると、知弦さんと椎名姉妹が会長にせいした。

「そうね。じゃあ、第一話の後と、本の一番最後に、私達のたんとうする場面をつけ加えさせてもらいましょうか。キー君がいない場での会話とかもあるしね」

「お、それがいーな! 最初と最後はあたし達でめてやるぜっ!」

「ま、真冬もがんります! すごく……凄く、描きたいことありますから!」

 みないきおいに、俺はのまれてしまう。く……仕方ない。

「分かりましたよ……ええ、分かりました。一話とかんまつの締めはそちらにおまかせします」

 たんそくじりに言うと、会長は「よろしいっ!」とうなずいた。

 まったく。



 ってなわけで、俺はこうしてこの物語を書いていたというわけだ。あー、つかれた。

 メタな発言が多いのは、つまりしつぴつ者が俺であるせいだが、実際、だんから大体こんな感じでもある。それで「じつすん大」の俺達が伝わったなら、これ幸いだ。

 さて、一巻目のげん稿こうもそろそろ終了。ようやく時系列が今に追いついたぜ。……ろうこんぱいだ。まあ、生徒会の活動を思い出すのは苦じゃなかったけどな。知弦さんがいつの間にかつけておいてくれた「活動記録」のおかげで、かなり正確に当時を描けたし。

 まあ、でも、楽しかったよ。うん。……俺が楽しかっただけで、読者が楽しいのかははなはだ疑問だがな。んなこたー、知ったこっちゃねぇ。どうせここの生徒にしか売れねーんだろうし。なら、お前ら読者(生徒)に気なんてつかってられっか。

 ……んじゃま、最後に、お前ら生徒達に一言。


 俺の女達はよう姿だけじゃねえ! それをとくと見やがれ! 以上!


 ……まあ、それだけだ。


 あ。重大なこく忘れてた! あぶねー!

 こほん。俺、杉崎鍵はぜつさん彼女募集中だ! この本で俺にれたって生徒(美少女限定)は、生徒会室までどうぞ。大かんげいだ。ずかしいなら、手紙でもオッケー!

 お待ちしております。……や、マジで。ホント、えんりよとかいいから。全力で、来る者をこばまないスタンスだから、ひまだったら生徒会室までごれんらくを。あ、もしキミがここの生徒じゃない場合、下記のうちの学校の住所と電話番号まで──


 *ページ制限上、ここで切らせてもらいました(たんとう編集)

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