【えくすとら~創作する生徒会~】
「頭で書くんじゃないの! 心で
会長がいつものように小さな
俺は「うー」と
ノートパソコンののっぺりとした画面を
モニターへ向かってキーボードをカタカタ打つというのは、それだけで、
その上、それが「
例えば
どうして俺が……文才なんてあるはずもない俺が、そんな、
しかし、執筆をやめるわけにはいかない。なぜなら……。
「ほら杉崎! 手が止まっているわよ! どれどれ……って、まだ『第一話』の『
「うぅ……分かってますよぅ」
泣きそうになりながら、カタカタと指を動かす。「杉崎鍵」の物語。
〈
そこまで書いて、また一つ
俺が心の中で血の
「最終話の『とても優しい生徒会』は、今までの真面目な
会長が
『そうですねー』
あかん。あれは、もう俺に丸投げする気だ。会長の
皆の上辺だけの同意を得て、会長は更に胸を張っていた。
「具体的には……そうね。生徒会もゲームしたり
『そうですねー』
(
心の中でツッコミつつ、手は一話の執筆。
〈会長は不良生徒達に言った。
「やめるのよ。人を
不良生徒達は会長の言葉にいたく感動し、生徒会に
自分で書いておいて軽く
っていうか、誰だこの「会長」。会長に指定された
……いや、よそう。キャラ名は
俺が執筆を続ける中、最終話の話し合い……というか、会長の意見の押し付けは続いている。
「最後の文章は、『私立
『ほんと、そうですねー』
(ああ……知弦さんと椎名姉妹から生気が感じられない。執筆者たる俺も
トランプの時もそうだが、この会長の暴走はホント
そもそも、今回は「クリムゾンの
「新聞部問題に
数日前にこんなことを会長が
だから、本日会長が、
「私達も
と言いだした時、俺達はまず
会長の言葉はこうだ。
「同じ新聞じゃ勝ち目はないわ。曲がりなりにもコンクールで
「では、私達は
半ドキュメンタリーってなんだよ、と誰もが思ったが、会長の顔が
そうして……この
パソコンの
ちなみにこの本、どうやら本気で
「…………」
自分の執筆した小説を
〈会長は
「…………」
どの年代の、誰を
タイトルは「あぁ、すばらしき生徒会」らしい。この学校の生徒達には今後、教科書と
俺がぐったりしながら
「鍵……
「いや……去年からがむしゃらに生きてきた俺だけど、今日、
「今回ばかりはさすがに
深夏が
「ところで深夏。お前の
「ああ、テキトーで
「じゃあ、これで……」
「『美しい』『
「指定しまくってんじゃねえかよ! あと最後の二つ名みたいなのはなんだ!」
「ライトノベルっぽいだろ? っぽいだろ? 最近のラノベじゃあ、お前、変な
「いらねぇよ! そういう
「ええー。じゃあ、二話から能力者だせよー。
「話の運び方がまるで分からねぇよ! 生徒会の話からそこに
「あと、
「知らねぇよ! それ以前に最強がどうとかいう話じゃねえよ!」
「死を
「
「鍵の能力は『
「説明するまでもなく、弱ぇのは分かるっ!」
「弱い能力で強い能力
「
「そこをなんとかするのが主人公っ! つうか作者!」
「無理だわ! 俺の頭じゃ主人公が急にレベルアップする以外で
「それは
「じゃあお前が考えろっ!
「やだよ、めんどくせー」
「……てめぇ」
「ちなみに会長さんの能力は『
「……あ、なんかその二つ名だけは小説に組み込みたくなったわ」
「だろう」
深夏と会話しつつ、第二話の執筆を開始する。
〈それは
「──え?」
「貴公には
「そんな……バカ、な」
僕の目の前には、一瞬にして死体の山が出来上がっていた。
しかし……
分からなかったのだ。まるで、認識できなかった。
気付いたら、死体の山だった。
死体の山?
それ以前に、生者さえいなかったのだ。
ただただ、
何もない空間に。
死体の山が
「どう……や、って。まさか……」
「空間
「…………」
「
「お前……は」
「ふ……。覚えておけ。杉崎鍵。我は、『
「な、なんだってぇ──────────────」〉
「無理だぁ──────────────────────!」
俺はキーボードを
「もっと
「
「それはお前が勝手に……」
「ええい! この二話なし! 伝奇の
「ええー。
「そもそも生徒会を題材に燃え要素を作る意味がわからんわ!」
「そんなこと言い出したら、生徒会の話を書く意味も分からねーだろうが」
「う……」
それは
俺と深夏のやりとりを見ていたのか、今度は
「
「なんだい、真冬ちゃん。いい案でもあった?」
「はいっ! 真冬の案も、組み込んでほしいです!」
「分かった分かった。美少女のお願いはとりあえず聞いてしまうこの杉崎鍵、全力で真冬ちゃんの
「ありがとうございます! それではですねぇ」
真冬ちゃんが第二話の提案を始める。俺はそれを聞きながら、執筆を
〈
「兄……さん?」
「弟よ」
キュン。
あれ? これ、なんだろう。この
その
兄さんの
「弟よ……会いたかったぞ……」
「
「……弟よっ」
ガシッ。
「あ……。にぃ……さん」
「……弟……よ」
近付く二人の
死体の山の中心で、その時、僕らは心で愛を
二人の顔が近付く。あぁ……兄さん。
「…………」
「…………」
そうして……僕らはむさぼるようにおたがいのくちびるを──〉
「どんな
「かなり書いてからツッコムあたり……芸人ですね! 先輩!」
「そんな
真冬ちゃんを
しかし真冬ちゃんも、今回は
「いいじゃないですかっ!
「ここまで開花を
「せめてもう少し! 二人でベッドに入るところまではっ!」
「やめろよ! 切り
「
「耐性つくまで
「わがままは『メッ』ですよ、先輩!」
「相変わらず
〈二人はベッドインした。エキサイトな夜だった〉
「ありがとう先輩っ!」
「どういたしましてっ!」
俺は泣きながら
俺がすっかり
二人して、俺の様子を見に来る。
パソコンを
「き、キー君……これ……」
「杉崎……あなた……」
「見るな! 見ないでくれよぅ! 汚れた……汚れちまった俺を、そんな目で見ないでくれよぅ!」
泣きながらノートパソコンを
「うぅ……知弦さんっ、知弦さんっ!」
「
「知弦さぁん……。俺……俺……」
「大丈夫よ、キー君。……貴方、出会った時から
「知弦さぁああああああああああああああああああああああああああああん!」
トドメを
心の
俺は言われるままに執筆を続けた。
〈会長
会長こそ
会長なくして世界はなく。
会長のなき世界に
兄さんとの
そんなことを感じていたんだ〉
「ふふふ……いい感じよ、杉崎」
「へへ……もうどうにでもなれってんだ。……へへへ」
「キー君。自分を見失っちゃ
「知弦さん!」
「思い出すのよキー君。本当の貴方を……」
「知弦さん……」
俺の目に生気が
「さあ思い出しなさい、キー君。……私の
「知弦さぁああああああああああああああああああああああああああん!」
なんか変な
〈兄さんとの
そこで僕を待っていたのは……大きな赤いソファにゆったりと
「キー君。生徒会の仕事を
「ご、ごめんなさい、知弦さん」
「知弦さん? なに言っているの! ユ
「イエス、ユアハイネス!」
「いい子ね、キー君」
「あぅ」
僕は照れた。ユアハイネスに
知弦さんは「ふふふ」と微笑む。
「ほら、キー君。いつものように……私の
「イエス……ユアハイネス!」
そして僕は、
僕はユアハイネスの足元にかしずくと、その靴にゆっくりと──〉
「がが、ががががが」
「あら。パソコンより先にキー君が壊れちゃったわね」
「がが、がががが、ががががが」
「ふぅ……仕方ない。キー君。私が今から3カウントすると、貴方はいつものキー君に戻るわ。いいわね。……3、2、1、はい!」
「ガガガ文──はっ! 俺は一体……」
急に時間が
俺は今まで……なにを……。
知弦さんが優しげに微笑んでいる。
「なにも心配しなくていいわ、キー君。私はいつでも……キミの味方だから」
「知弦さん……。やっぱり貴女は
「ふふふ、そんなことないわよぉ」
知弦さんが
そうこうしていると、あら不思議、いつの間にか二話が完成していた。
続けて三話の
「
『!』
「今まで散々アンタらの意見を聞いたんだ! 三話目は好きにやらせてもらう!」
「す、杉崎!
「これは
「く……分かったわ、杉崎。第三話だけは好きにしなさい」
会長が
俺は彼女達のその
〈生徒会室には
桜野くりむ、
彼女らは一様に、俺……杉崎鍵に熱っぽい視線を向けている。
「ああ、鍵! あたし……あたしもう、耐えられない! あたしを……あたしをっ!」
「まあ待て深夏よ。俺は、皆を愛しているんだ。特定の一人だけと……そういうことはできねぇな」
ニヒルに
「そんな……あたし、あたし、もう、鍵を愛する気持ちが止められないんだよっ!」
「おいおい、そんな情熱的な目で見つめるなよ深夏。そんなことをしていると……」
「
「わりぃ、真冬。あたし……これだけは
「ま、真冬だって、こればっかりはお姉ちゃんに負けたくない!」
「真冬……」
「お姉ちゃん……」
椎名
俺がその様子を
思わず正面を見る。知弦さんが、
同時に、アイコンタクトを開始する。
(キー君……。私も……私も本当は貴方のこと……。だから……私と……)
(おおっと、それはいけねぇぜ、知弦さんよぉ)
(ど、どうしてっ)
(それは
(だけどキー君! 私は……私はっ!)
(おっといけねぇ! 動揺しすぎだぜ知弦さん! アイコンタクトが……彼女にバレちまったようだ)
(え?)
知弦さんが
どうやら、俺と知弦さんにヤキモチをやいてしまったらしい。……
「知弦と杉崎……。たまにそうやって見つめ合っているわよね」
「な、そ、そんなこと。アカちゃんの思い
知弦さんがガラにもなく言葉を噛む。会長はそれをつまらなそうに見た後、知弦さんから
そうして、
「か、会長命令よ、杉崎っ」
「なんですか? 会長」
「私と……私と、付き合いなさい!」
「会長……」
真っ赤になって告白する会長と、俺は見つめ合う。
そうしていると……今度は、知弦さんと椎名姉妹が
「
「あ───────────────────────!」
椎名姉妹がなぜかホッと
「な、なんてことするんだ! このひとでなしぃー!」
「どう考えてもこっちの
会長に言い返されてしまった。しかし、今のは
「今まで自分達だって散々好き勝手やったくせにぃー!」
「杉崎のは、なんか一次元
「そんなことない!
「フィクションの
「
「いいえ! 下手するとそれより酷いわよ!」
そこまでけなされるとは。
俺が
ぐだぐだな空気の中、ただ一人冷静だった知弦さんが、一つ
「どちらにせよ……私もふざけてしまったから言う
『…………』
その言葉は、俺達を落ち込ませるのに
俺は、知弦さんの言葉を引き
「あの新聞部は……
俺のその言葉に、会長は、
「ふん! 当然でしょ! うちの学校の新聞部は、
と、なぜか新聞部の
会長は……この学校を
しかし、だからこそ、一生
新聞部には、変な記事書いて足元を
だからこそ、必死で、一部活のためだけに、こんなに一生懸命に生徒会を活動させる。
深夏が、「あははっ」と笑った。
「
それに続いて、真冬ちゃんが
「新聞部さんは……凄いです。事実を
真冬ちゃんの言葉に、全員が
別に……誰も、自分達の妄想が「つまらない」とは思っていない。それはそれで、充分に楽しいことだし、これで誰かを楽しませることは出来るだろう。
だけど。
その道に本当に
つまり。
「私の言い出したことって……的外れ、だったのかな……」
そういう
会長は、元気をなくして落ち込んでいた。
でも……
「いえ……会長の
「杉崎?」
俺は、この人が間違えたなんて、思ってなくて。
だって。この人はこの人なりに新聞部を……この学校を考えて、この
数日前から口にしていた、というのがその
少なくとも会長は、この企画を口にするまでに、日をまたいで
だから、会長の
そういう、ことだから。
変な方向にぶれてはしまったけれど。
最初に
少なくとも俺は、誰が否定しようと、
だから。
このお子様会長に、俺は
「新聞部が優秀なのは
「杉崎……」
「だからこそ。会長が言うように、ここらで一回鼻をへしおってやらないとね。
とはいえ、どうせあの新聞部は、上から言っても聞かないでしょう。
ならば、同じ土俵で……文章という
俺の言葉に、知弦さんも椎名
会長は、ちょっとだけ……
「よしっ! じゃあ杉崎っ! 会長命令っ!」
「なんですか、会長」
「
「……え?」
その言葉に俺は
「ちょ、俺、さっき書いたみたいに、どうしようもない──」
「ううん。大丈夫。杉崎は、大丈夫よ」
「…………」
「私はね。やっぱり……この生徒会を……この
「会長……」
「でね。たぶん……生徒会をありのままに描けるのは、杉崎しかいないよ。だから……ね。杉崎。
「会長……」
そう
「いいんですか? 俺で」
その問いに、深夏が、真冬ちゃんが、知弦さんが答える。
「当然だろ、鍵」
「真冬も、杉崎
「むしろ、キー君以外じゃ誰もこの生徒会を描けないわ。
「……みんな……」
俺は、彼女達の
そうして。
会長の目をしっかりと見て、答えを返した。
「
俺のその言葉に、
「うん、お願いね。……あ、ただ、一つだけ要望!」
「? なんですか?」
「杉崎が書き終わってからでいいから、私達にも、ちょっとだけ加筆させてね」
「? えと……いいですけど、それは、どういう?」
「えへへ、ナイショ」
そう会長が呟くと共に、なぜか全員、会長の言葉の意味が分かっているように、にやりと笑う。……なんだ? 俺だけ、意味がわかってないの?
俺が
「そうね。じゃあ、第一話の後と、本の一番最後に、私達の
「お、それがいーな! 最初と最後はあたし達で
「ま、真冬も
「分かりましたよ……ええ、分かりました。一話と
まったく。
*
ってなわけで、俺はこうしてこの物語を書いていたというわけだ。あー、
メタな発言が多いのは、つまり
さて、一巻目の
まあ、でも、楽しかったよ。うん。……俺が楽しかっただけで、読者が楽しいのかは
……んじゃま、最後に、お前ら生徒達に一言。
俺の女達は
……まあ、それだけだ。
あ。重大な
こほん。俺、杉崎鍵は
お待ちしております。……や、マジで。ホント、
*ページ制限上、ここで切らせて
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