【最終話~振り返る生徒会~】
「
会長がいつものように小さな
よく分からないが、また、俺をジーッと見ている。……イヤな予感。
「え、ええと?」
立ち上がった会長を
一通りそれぞれと目を合わせると、会長、大きな声で
「第一回、チキチキ、
「……はい?」
ドンドンパフパフ~と、会長は一人で何か
「な、なんだぁ?」
「ほら、深夏! ムードメーカーなんだから、
「え、と。い、いぇ~い?」
「
「えぇ? え、えとえと……パチパチ」
真冬ちゃんが、おずおずと
俺は知弦さんとアイコンタクトを
椎名姉妹の盛り上げに満足したのか、会長は、ようやくホワイトボードに今日の議題を記し始める。キュッキュと、サインペンの音だけが室内に
そうして……。
「親睦会?」
知弦さんがボードを
「今日は親睦会をしようと思うわ!」
自信満々に告げる会長の
「また、どうしてこの時期に親睦会なんて……」
知弦さんは
会長はと言えば、そんな知弦さんの
「ふと思ったんだけど、この生徒会メンバーって、お
「知らない? いつも
深夏が不思議そうに首を傾げる。しかし、会長は「ちっちっち」と人差し指を振った。
「
「どういうことだ?」
「つまり、私が知っている深夏っていうのは、椎名深夏っていう名前で、男口調で、体育が得意な、高校二年生。それだけってことなのよ」
「なんの問題が?
深夏の言葉に、
しかし、会長は全く
「
「何と戦っているんですか、
「社会の
「うわー、熱血青春っぽい戦いしてるんですね、俺達」
初耳だった。そんな熱い集団だったのか、生徒会って。
「そうよ! だからこそ、そんな背中を
「…………」
高らかに
俺はとりあえず今日の仕事が自分一人で
「で? 会長は
「? 何が分かったの?
「会長、この企画、俺も
俺はすっかりシミュレーションも
「あ、うん。賛成してくれるのは
「会長! つまり……つまり、『スリーサイズは?』とか、『好きな
「
「『最初のデートはどこがいい?』とか、『告白は待つ方? したい方?』とかですよね!」
「親睦会というより、単なるフィーリングカップルじゃない! しかも一対四!」
「そういうことなら、俺も
「脱がなくて
「ええー」
俺はがっくりと
「つまりね。杉崎の言っているようなものでは全くなくて……。私としては、お互いの……そう、
そう会長が言った
「あ、い、いや、そ、そんなに深いこと
わたわたと慌てる会長が、
俺達は……ちゃんと話したことはなかったけれど、お互い、どうやら「立ち入られたくない過去」というのがあるようだ。俺達に限らず
会長もその辺は分かっているハズだから、わざとじゃないんだろう。親睦会っていうのも、別に深いところを
俺はどうにか自分にそう言い聞かせ、ニコリと、ぎこちない
会長も安心したように
会長がちょっと泣きそうになってしまっているのを見て、嘆息する。……会長は、会長なりに、俺達ともっと仲良くなろうと親睦会を
(仕方ないな……)
ハーレムの主として、ここは、俺がなんとかしなければいけない。とりあえず時間さえ
俺はぎくしゃくしてしまったこの空気を打ち
「杉……崎?」
会長、そして皆が見守る中……俺は、一度
「ぶっちゃけ俺には、美少女の
空気が、とりあえず、変わった。……
*
「ちょっと待ちなさい」
俺の発言に、会長が表情を
「なんですか?」
「なんですか、じゃないわよ! なにそれ!
「失礼な。俺がそんな妄想するような男に──」
「見えまくるわよ!」
「……でしょうね」
自分で自分の行動を
「でも、そうは言っても、事実は事実ですからねぇ……」
着席し、
「ええと……キー君。それは、その、この場の空気をなんとかしようとしてついた
「む、失礼な。俺はいつだって
「そういう発言が信じられないのだけど……」
「信じて下さい、知弦さん。俺の言葉は、
「逆に信じられなくなったわね」
そう呟き知弦さんは
そうこうしていると、今度は深夏が「ちょっと待てよ」と、椅子をガタガタ鳴らしながら俺を
「そりゃあおかしいだろ、
「? 何が?」
「だってお前……それが本当だとしたら、お前、
「あー、それはだな」
「あ、いや、分かった。そうか、フラれたんだな、その二人にも」
「
「ええー」
全く信じてない目だった。深夏に
俺はふんと鼻を鳴らした。
「いい機会だから言っておこう。この生徒会は、どうも、俺を
「オ○マバーとかでか?」
「そんな
「
「理由が分からん!」
「千の風にでもなったのか?」
「私は死んでなどいません!」
「……じゃあ、誰にモテてるんだよ……」
「
「…………」
深夏は目をパチクリとする。真冬ちゃんまで
「そ、その発想はなかったですね……」
「なかったの!? 一番最初に出るべき発想じゃね!?」
「世の中には、科学では
「
俺は全力で「俺がいかにモテるか」を生徒会メンバーに熱く語る。そうこうしていると、話を区切るように会長が「それで」と切り出した。
「杉崎がモテるのは……百歩
「あ、
「そんな
「ああ、そうでしたそうでした」
俺はそこで一区切りし、少し
メンバーにも「飲む人ー」と声をかけるも、特に誰も
番茶を一すすりし、俺は話を
「まー、
「え? 杉崎って、中学時代からそういう感じじゃなかったの?」
「んー、まあ、そうですね。今の俺から、エロ
「なにその理想の杉崎。高校に入って
酷い言われようだった。まあ……
会長はくるくると
「それで、そのカッコイイ杉崎は、幼馴染と義理の妹で
「なんか
「で、フラれたショックで、エロゲに
「はい」
「今
「その通りです」
「典型的な
「…………。…………おおっ」
「今気付いたの!?」
「今気付きました」
「どこまで堕落すれば気が
「いやぁ、まさかとは思っていましたけど、事実だけを
「なにをヘラヘラと! 副会長が最低人間でどうするのよ!」
「
「最低人間が番茶で何を気取っているのよ!」
仕方ないので、
「
「…………」
俺の
数秒して、おずおずと、真冬ちゃんが口を開く。
「で、でも、あの、あのっ! 真冬は……真冬は、杉崎
「真冬ちゃん?」
一生
「それは、その、確かに、杉崎先輩は女の子にだらしないですけど……。でもでも、だからこそ、女の子を傷つけるようなことは
「……ありがとう、真冬ちゃん。でもね……傷つけたのは、事実だから」
「先輩……」
真冬ちゃんが悲しそうな顔をする。少し
「ま、その……俺にとって、二人はとても大事な……両親以上に大事な二人でさ。家族、って言うより……家族の中でも、特に大事な人……みたいな
「先輩……。で、でも」
真冬ちゃんが言葉に
「鍵。あたしも真冬に
「深夏……」
「別に
深夏のその言葉と同時に、会長と知弦さんと真冬ちゃんが、コクリと
俺はそんな
「俺にとってはさ。その二人って……何より大事だったんだ。世界で一番愛している二人だった、と言っても全然
で、ある時、俺は、
だけど、妹は……
「事件?」
会長が首を
「
「あ、ごめん……」
「いえ。とにかく、色々ありまして……妹は、
「…………」
「俺にとっては妹もすごく大事な子だったから……林檎に付きっきりの
「
「ご名答です」
俺の回答に、会長が、急に
「なにそれ! そんなの、二股じゃないじゃない!」
「いえ、二股ですよ」
「どこがよ! だって、杉崎は入院中の妹のことを案じていただけで……」
「たとえ行動的にはそれだけだったとしても。俺の心は……その
「そんな……」
会長がシュンと落ち込む。
「それで、キー君達は結局どうなったの?」
「ああ……
「…………」
知弦さんまで黙り込んでしまった生徒会に向かい……俺は
「つまりは、俺、杉崎鍵を主人公としたラブコメは、一度、
『…………』
「うっ」
しまった。なんか……生徒会の空気が、
な、なんとかしなければっ!
「あ、安心しろ、
「いや、そこは
会長の
「あ、そ、それにほら、この事件を
「なによ、教訓って……」
「もう、大事な人間に無理に順番なんて付けようとしないって。いくら苦しくても、
「──────」
会長が、ハッとした様子でこちらを見る。
「杉崎……。まさか、
「…………え、と」
う、ううむ、しまったなぁ。こういうのは、言っちゃったらカッコ悪いじゃないか。
なんか全員こっちを同情的な
こ、こうなったら、
「第二部!」
「は?」
「杉崎鍵物語、第二部! 生徒会メンバー
「はぁ?」
会長はすっかり状況に取り残され、キョトンとしている。
数秒後、ようやく、会長は話題に追いついてきた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、杉崎。邂逅編もなにも、私達の出会いって、今年の春に生徒会室で顔合わせしただけじゃ────」
会長がそう言いかけた
深夏は俺と会長を
「少なくともあたしは、一年前……初夏ぐらいだったかな? とにかく、一年の時に会っているぞ、鍵と。確かにあの頃の鍵は、今ほどエロスの
「え、え? そうだったの?」
会長は初耳だったらしい。すっかり
「私も去年の秋に一度会っているわね、
「ほ、保健室?」
「ええ。……そこで私がキー君を……大人の男にしてあげたのよ」
「え、ええ!?」
知弦さんがあまりに
すっかりお
「あ、ここでは話してないですけど、真冬も、この学校に入る前……中学三年生の冬に、杉崎
「ま、真冬ちゃんまで?」
「はい。あの時……杉崎先輩は、公園でコテリと
「なにその出会い方!
会長が、すっかり「
しかし……そうは言っても……。
「会長、会長」
「なによ、杉崎!」
「いや……その、今この
「だから、なによ! これ以上に
「あの……会長と俺も、出会ってるんですよ、以前に。あ、その頃はまだ会長は副会長でしたけど」
「ふぇ?」
「しかも、去年の春。つまり、ここのメンバーの誰よりも早く、邂逅してます」
「え。…………。えええええええええええええええええええええええええ!?」
会長の
そういえば……あの時、この人、俺の顔をちゃんと見てなかったな。
「ちょっと、どういうことよ、それ!」
会長が俺の
俺は一つ
*
「んじゃ、会長が
俺は会長の方へと視線を向ける。彼女はなぜか、
「会長との出会いは、学校の廊下です」
「廊下? まさか、すれ違っただけ、とかじゃないでしょうね?」
「違いますよ。ちゃんと会話もしました」
「ええ? ……全く覚えがないわ」
「でしょうね。会長はあの時、俺の顔を見ていませんから」
「? 廊下で会って、
会長が首を
俺は番茶を一口飲み、きちんと最初から説明を始める。
「そもそも、あの頃の俺は、ほら、中学時代の
「さっきの話を考えれば……分からないじゃないわね」
「飛鳥は内地に行っちゃうわ、妹とは面会
で、俺もすっかり落ちぶれた生活していたんですけど……。そんな時に、
「お、私の登場ね!」
「『本の化物』と」
「誰よ!」
「
「私は『本の化物』じゃないわよ!」
会長が全力で
俺は続ける。
「具体的に言えば、大量の本を持って、上半身が
「う……。そういえば、去年は、副会長としてよくそんな
「で、完全に他人に興味をなくした
「そ、そうだったんだ……。あれ? でも、それじゃあ、なんで私は覚えてないの?」
「結局、本を半分ぐらい俺も持って手伝うことにしたんですけど、それでも、会長ちっこいから、俺の顔が自分の持つ本の束のせいで全然見えなかったみたいですよ。運び終わった後は、俺も、すぐに去りましたからね。結局顔は見られなかったのかと」
「う……」
ちっこいという
俺は
「なんせ会長、三階の図書室から、同じく三階の生徒会室に
「うっ」
「ただでさえ歩幅小さいのに、
「うう……」
「そんなんだから、見かねて『俺が全部やりましょうか?』って声かけても、『ふ、副会長をなめちゃいけませんっ!』とか
「ううう……」
「階段上る時なんて、
「あぁ、去年の私って……」
会長はがっくりとうな
あんまりいじめるのも
「んで、期せずして長時間同行するハメになってしまいましたのでね。荒れていた俺でも、ついつい
「どうしたの?」
首を傾げる会長。……やっぱり覚えてないのか、この人。はぁ。
「会長、こう言ったんですよ。『
『は?』
会長のみならず、生徒会全員が目を点にする。
会長は、
「どうやら会長、その時期、丁度なんかの恋愛シミュレーションゲームをやって感動した直後だったらしくてですね。友達から
「あ」
思い当たるフシがあるらしい。……まあ、この人、すぐ流されるからな……。あの後他のマイブームが来て、
「当然、俺はキョトンとしましたよ。当時の俺はそういう
「あぅ……」
「でも、会長はいたって本気で言うんです。『ああいうゲームの主人公を見なさい! モテモテなのに、結局、
「きょ、去年の私って……」
会長はどんどん落ち
「その
「それ、私のせいだったんだ!」
会長は、俺の今のこのキャラが自分のせいだと知り、とんでもなくショックを受けたらしい。まるで世界の終わりみたいな顔をして、落ち込んでいた。知弦さんや椎名
そんな様子に俺も苦笑し……しかし一言だけ、付け加えておくことにした。
「でも……俺は、それで、救われました。ありがとうございました、会長」
「え?」
「あの
「……ギャルゲだけどね」
なんかまた会長が
「そうは言いますけど、あの頃の俺には
「……杉崎……」
「特に、ギャルゲの主人公って、どういうわけか俺と
「…………」
「でも……
『…………』
思わず
「俺はもう一年前の俺じゃない。春に会長と出会って、キッカケを
一
「皆好きです。
全員の顔を
会長は「まったく」と
知弦さんは「ふふっ」と、心底楽しそうに目を細めていて。
深夏は「理想の
真冬ちゃんは「ある意味
そんな皆の様子を見守り、俺は、改めて
ああ、俺はやっぱり、この生徒会が大好きだと。
口に出すとまた軽くなっちゃいそうなので、心の中だけで
(俺にとっては皆も……もう、家族と同じくらい大事だぜ)
……なんでか、今日は、
*
「そういえば、結局、知弦と、深夏、真冬ちゃんとの出会い話は?」
俺の
知弦さんが「そういえば話してないわね」と
「アカちゃん、気になる?」
「う、ううん。気になるにはなるんだけど、一番聞きたかった、自分と杉崎の出会いは聞けたしなぁ。
「私とキー君の出会い……それは、一年前、
「語りだした! なんでこのタイミングで!? 話さなくていいよ別に!」
「え? いいの? ここからが
「濡れ場あるの!? 知弦と杉崎の出会い話は、濡れ場があるの!?」
「八十一
「どんだけ
「
「じゃあいいよ! 話さなくていいよ! 凄く気になるけど!」
「残念」
まったく残念そうじゃない
二人は顔を見合わせ、俺を一度見た後、まず、深夏から
「まー、帰宅時間押してまで話すようなエピソードじゃねえしなぁ……」
「そうなの?」
「ああ。言っちゃえば、あたしが、鍵を『男』から『
「すんごく深そうなんだけど……」
「そう……それはたとえるなら、無印からZを飛ばしてGTの
「大進化じゃない! 杉崎に何があったのよ!」
「まあ、やっぱり、帰宅時間押してまで語るような話じゃねえな」
「私にはそうは思えないんだけど!」
会長の
深夏の様子を見て、会長も
「私と杉崎
「いや、お姉さんの話と同レベルなら、凄い話だと思うけど……」
「ただ私が、冬の公園で、
「なんか今までで一番
「あの時は大変でした……。なんせ、男性
「だ、だんせいけい──」
会長が顔を真っ赤にする。真冬ちゃんはほんわかと付け足した。
「ええ。男の人に
「
「そして、
「なんで!? それ、なんて
「真冬はその
「どんな子よ!」
これが、本当だから
「まあ、どうでもいい話ですよね。早く帰りましょう、会長さん♪」
「ええー! 全然どうでもよくないよ! っていうか、知弦も深夏も真冬ちゃんも、全部のエピソードが気になるよ!」
「お
「ああ、知弦! 勝手に
一人
「ああ、待ってぇ~! お、置いていかないでよぉ!」
……そう。『出会い』はとても大切だけど、『出会い方』なんて、実はそんなに重要なことじゃないのかもしれない。俺は
「ねぇ、知弦!
「さぁて、どうしようかしらねぇ」
知弦さんが、意地悪な
会長は知弦さんに事情を
「杉崎ぃ……」
「う……」
不覚にも
「仕方ない、話すとしましょうか……」
「ほ、本当!? ありがとう、杉崎!」
「いえいえ」
今日という一日ももう終わる。
俺は
「そう……あれは、十五年前のことだ。
「ええ!?
……相変わらずの、会長
最後ぐらい、
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