【第六話~遊ぶ生徒会~】

「大事なのは勝ち負けじゃないの! 努力したかいなかなのよっ!」

 会長がいつものように小さなむねってなにかの本の受け売りをえらそうに語っていた。

 しかし……今回はその言葉も、だれの心にもとどかない。

 なぜなら。

「アカちゃん。とっても見苦しいわよ」

「うぐ……」

 づるさんに冷たくあしらわれ、ひようじようを引きつらせる会長。さすがに今日はこれ以上はんろんも出来ないようだった。

 会長はながづくえに散らばったトランプの山をくやしそうにジッと見つめている。……こうしていると、本当にどもみたいだ。ゲームで負けてここまで悔しがるじゆんすいさは、つう、高校生になってまでできるものじゃない。

 負けた人間がカードのかいしゆうやシャッフルをするあんもくりようかいがあったはずなのだが、会長がすっかりはいじんになっているので、おれがバラけたカードを集めてデッキにし、念入りにシャッフルを開始する。今回はババきだったため、二まい一組になってかたまってしまっているから、きっちりシャッフルをしないと次のゲームにえいきようしそうだ。

 単純に切ったり、二つのデッキに分けてパラパラと指ではじいてこうにカードを組み合わせたりしていると、なつが「まだやるのか?」と話を切り出した。

 ふゆちゃんがそれに答える。

「ううん……けつこう色々やっちゃいましたよね……」

 知弦さんはたんそくした。

「そうねぇ。負けずぎらいの誰かさんのせいで、ついにババ抜きなんて原点回帰までしちゃうほど、主なカードゲームはやりつくした感あるわね」

 その発言を受けて、全員で会長を見る。彼女は「うぅ」とうなっていた。

 そもそも、どうしてこうなったのかと言えば。

 今日は本当に仕事らしい仕事、議題らしい議題がなかった。つうっていてもよかったのだが、今日はたまたま真冬ちゃんがトランプを持ってきていたため、じゃあそれで遊びながらしやべろうかとなったのだが……。

 さすがにそこは生徒会。典型的な人間たる会長は最初「いくら仕事がないからって、生徒会室でさすがにそれは……」としぶり気味だった。そこで俺が、「じゃあ、会長が勝ったら、そこで遊びはおしまい、というのはどうでしょう」と軽い気持ちでていあんしたのだが……それが、このえんえんと続くカードゲームの始まりだった。

 けつろんから言って。

「……ぜつぼう的に弱ぇな、会長」

「がーん」

 俺のつぶやきに、会長がさらにダメージを受けてうなだれる。

 どういうわけか会長、とことんカードゲームが弱かった。いや、あるていげんじつ的理由はある(顔に出やすい、せんりやくとか考えてない)のだが、それを差し引いても、弱い。かなり運のようの入りむゲームにおいても、何回やってもビリになった。

 こうなると負けず嫌いの会長、当初の遊び反対という立ち位置はすっかりわすれているようで、ゲームが終わるたび、結局はこう言い出すのだ。

「も、もう一回!」

『…………』

 その言葉に、あからさまなひようじようにこそ出さないものの、げんなり気味のハーレムメンバー達。いくら遊び好きのメンバーとは言え、そろそろトランプ自体にきていたし、その上、会長が連続で負ければ負けるほど、ゲーム中に変なきんちよう感がただよっていて、とても楽しめる空気ではない。

 俺がシャッフルしつつ「じゃあ、次なにしますー」とやる気のない言葉を会長に投げかけていると、となりの深夏がツンツンとつくえの下で俺の太ももをつついた。「あ・い・し・て・る」のサインかと思ったが、きっと何年たってもこうして同じ二人ではいられないだろう俺と深夏なので、ちがうだろう(じやくねんそうに伝わるネタかじやつかんの不安をいだきつつ)。

 深夏の方に顔を向けると、彼女はこそこそと小声で話しかけてくる。

「(なぁ……そろそろ、わざと勝たせてやるべきなんじゃねーの?)」

「(それは俺も知弦さんもとっくに考えているんだが……)」

 それでも、知弦さんとの「アイコンタクト会議」の結果は、「いや、それはやめておいた方がいい」だ。深夏にそれを伝えると、彼女はこつに不満そうな顔をした。

「(えー。なんでだよー。そろそろあたしもつかれたよー)」

「(よく考えろ深夏。うまくいけばいいが、会長に不正がバレたらどうなるか……)」

「(…………。……かなりの期間、げんだろうな、会長さん)」

「(だろ? 会長、こういうことに関してはかなりしつこいぞ。お前、数週間会長のテンションが低くて空気暗いのと、今日だけカードゲームをえるの、どっちがいい?)」

「(だんぜんカードゲーム耐える方だな)」

「(なら、あきらめろ。全力をつくしながらも、会長が勝つことを神にいのるんだ!)」

「(う、うう……。なんか切ねぇー。てきぐんに好きな人がいる兵士みてぇなしんきようだ)」

「(ようやくさとったか深夏。今この生徒会室はまさに……戦場なんだっ)」

「(もう何がせいで何が悪なのやら……)」

「(世の中そんなものさ。それぞれがそれぞれの正義をかかげて戦っているんだ!)」

「(ああ、まさかこの小説でそんなに深いテーマがあつかわれるとはっ!)」

「(ライトノベルの宿命だ。受けれろ、深夏)」

「(く……。エロゲキャラもいやだが、ライトノベル人生もけつこういやだなっ!)」

「(かもしれん。しかし深夏。世界がほろぶようなてんかいでも、主人公とヒロインだけは生き残るかくりつが高いぞ、ライトノベル人生は。どうだ。俺とくっつく気は……)」

「(ねぇよ。むしろ世界のほうかいき込まれた方がいいよ)」

「(どんだけバッドエンド扱いなんだよ、俺のこいびと!)」

 深夏はそれ以降、すっかり何かたつかんした様子で、次のゲームにそなえてせいしん集中を開始してしまった。仕方ないので俺はもくもくとシャッフルを続ける。

 一方で、会長と知弦さん、真冬ちゃんは次のゲームを決める話し合いをしていた。

「真冬は……ドキドキしないのがいいです。だ、だいごうとかを、まったりしましょう」

 大富豪なら、かくめいなどを使えばうまいこと会長を勝たせられそう(手いているとさとられずに)だからだろうか。めずらしく真冬ちゃんが意見したが、しかし当の会長がなんしよくを示した。

「大富豪ねぇ。たしかに飽きないゲームではあるんだけど……。今の私は、こう、それだけじゃ満足できないのっ!」

「あ、え、あの……。……どうして、ですか?」

「それこそ、まったりしすぎているのよっ! 大富豪って! なんか『みんなで和気あいあい』って空気たっぷりじゃない、大富豪!」

「そ、それがいいと、真冬は思いますけど……」

ちがうの! 大富豪はいいゲームよ? だけど……今の私のテンションとはそぐわないの! 今の私は……こう、わざと技がぶつかり、りやくと知略が火花を散らし、うんようがいいあんばいに場をみだす……そんな熱いバトルに勝利することを望んでいるのよっ!」

 ……その技や知略や運が誰よりもおとるからこその今の会長のじようきようなのだが……本人はまるでそれに気付いてないらしい。……なんてやつかいな人なんだ、さくらくりむ。

 さすがにこの会長の相手は、真冬ちゃん単体では荷が重すぎた。「す、すいません……」とちぢこまる真冬ちゃん。わいそうに。またしゆくしちゃったよ。

 それを見かねたのか、ようやく、このちゆうゆいいつ会長のぼうそうを止められるのうせいを持つであろう女性、知弦さんが動いた。

「じゃあアカちゃん。ポーカーなんてどうかしら?」

「ポーカー?」

 ポーカー? と、俺も会長と同時に首をかしげた。どうしたんだ知弦さん。ポーカーじゃ、それこそ今の運のきた会長じゃどうにもならないだろうに。

 俺達のやるポーカーなんて、コインけたりするわけじゃないから、「りる」とかそういうせんたくもない、つうのポーカーだ。強い手を作った人が勝利。ただそれだけ。

 こうなると、相手の手を読むなんてせんりやくせいはまるでなく……どのカードを変えるかというようこそあるものの、ほとんど運のいきのゲームだ。今日は完全にやくと思われる会長に勝ち目は、ぜつぼう的に無い。そんなゲームをどうして──。

 …………。

 ……いや。まさか、これは……。

(そういうことなんですかっ、知弦さん!)

(……こくり)

 知弦さんがカ○ジばりのゆったりした時間進行の中、あせをかきながら俺にうなずき返す。

 なんてギャンブラーなんだ……あか知弦! あんた……あんたおとこだよ!

 俺には分かる。これは……コペルニクス的発想のてんかんだ!

 つまり!

 会長を勝たせるんじゃない!


 俺達が勝たないんだ!


 そう、かんたんなことだ! ポーカーなら……自分の手札を「役が出来ないように」調整すればいい!

 イカサマなら他のゲームでも出来る! それこそ、大富豪で手を抜くことも出来るだろう! しかし……しかしっ! バレにくさがだんちがいだ! 例えば大富豪なら、自分の手札の初見で、自分がどのていの順位にいけるか、大体わかってしまう! 強いカードがまるでなく、弱いカードばかりで、革命もねらえなかったら、そのゲームはほぼあきらめるだろう。

 今の会長なら、クズカードばかり来る可能性は高い。しかし……そのさい、俺達があからさまにカードを出さなかったら……会長に勝たせようとしたら……。大富豪は長いゲームだ。バレる可能性が高い。感に気付かれる場面が多い!

 しかし! ポーカーなら、短い、一回きりの勝負ばかりだ! ゲームのちゆうで悟られる可能性は低い! 俺達のルールじゃ、いちいち相手が何をてたなんかかくにんしないし!

 要はこういうことだ。俺達は……出来るかぎり、自分の手をくずす。

 もちろん、引くカードは分からないから、ぐうぜん手が出来てしまうこともあるだろう。しかしそれにしたところで、せいぜいワンペア。大体はブタ(役無し)だろう。

 ならば。

 会長は、ワンペアを代表とする「ちょっとした役」を作るだけで、勝利できる!

 しかし……これは、賭けだ。

 いくらポーカーと言えど、対戦数が多くなれば、イカサマがばれる可能性は高くなる。

 何度も何度も全員がワンペアさえ出さなかったら、さすがのお子様会長でも、おかしいと気付くだろう。そこで、捨てた札を確認されて「手を崩した」ことが発覚してしまったら、もう、アウトだ。

 これはけんな賭けだ。しかし……知弦さんは、それをていあんした。

 ふ……れたぜ、紅葉知弦よぅ。俺のこの命……アンタにあずける!

 というわけで、会長以外の全員が、いつしゆんで意思つうをはかる。真冬ちゃんと深夏が静かに頷いた。

 ……ほうもうは、完成した。

 生徒会室で今、最大のせんえきが始まろうとしていた。

 しかし……俺達は、勝ちに行くんじゃない。

 そう、これは、相手を勝たせるための、とうとい戦い。

 人類の歴史上、かつてこれほど切ない戦争があったろうか。

 俺達は知っている。

 この会長は……勝ったら、まずちがいなく、る。

 それも、中身がどもだけに、俺達が本気でイラっとくる威張り方をするだろう。

 散々自分をたたえ、俺達をとけなすだろう。

 それは、いくら大人な知弦さんや俺でも……問答無用でかいにさせるじゆごん

 俺達は何も知らずにごまんえつの会長を見て、ただただつくえの下でこぶしにぎることだろう。

 だがっ!

 俺達は今、自らその道を歩もうとしている!

 知弦さんの目を見る。決意をめた目だ。お子様会長の暴言をかくしたかんの目だ。

 深夏の目を見る。そうぜつな目だ。未来を守るために、自分を必死でし殺す戦士の目だ。

 真冬ちゃんの目を見る。愛にあふれた目だ。せいを覚悟したせいじよの目だ。

 みんなの決意を受けて。

 おれは、このゆったりした時の流れ(この思考およびアイコンタクトに要した時間、コンマ一秒弱)をち切り、知弦さんにせいした。



「ポーカーをしましょう、会長」

すぎさき? ……って、どうしたの、杉崎! 顔がげきタッチになってるよ!」

「気にしないで下さい会長。さあ始めましょう……。……戦争を」

「始めないよ! なんで急に戦争が始まることになってんの!?」

「く……」

 つらい。思わず顔をらす。見れば、知弦さんもしいまいも辛そうにうつむいてしまっていた。

 これが……これが戦争かっ!

 俺達がこんなに苦しんでいるというのに……この会長は、何も知らずにツッコミかよ!

 こんな……こんなどうゆるされるのかよっ!

 なんて……なんて不公平。神よ。どうして俺達ばかりに……こんな。

 会長は一人、「ちょ、みんな、どうしたの?」とキョトンとしていた。

 くぅ……。……えろ杉崎けんだいじようだ。

 ポーカーだ。うまくいけば一分でカタがつく。一分だ。一分、自分を押し殺せっ!


 一分戦争。後にこの戦役はそうばれ、生徒会で代々語りがれることだろう。


 いいだろう。見せてやろうではないか。げん生徒会の底力をっ!

 いざ、じんじように勝負!

「俺のターン! ドロー!」

「ちょ、杉崎!? なに勝手にゲーム始めてるの! っていうか、ポーカーってそういうゲームじゃないでしょう!」

「……今のはただのあいさつです。昔、けつとうしやと書いてデュエリストと呼ばれた俺なりの、りゆうです」

「は、はぁ。まあ……ポーカーやるのはいいけどさ」

 会長が一人まどう中、俺はカードをもう一度だけ念入りにシャッフルし、一つしんきゆう。そうして、全員の顔をかくにんすると……ばんかんの思いを込めて、カードを配り始めた。

 シャッシャッとカードを配る小気味良い音だけが生徒会室を満たす。会長はと言えば、すでにこの空気へのもんより、次の勝負に関心が向かったようだ。自分に配られるカードを一まいずつそくに確認しては、しんけんに次のカードを待っている。

 全員に五まいずつ配り終える。俺達はそれぞれ、手持ちのカードを確認にかかった。

 ちなみに、このゲームのルールはたんじゆん

 手札を見て、一回だけ、山札のカードとこうかんのう。順不同。パッと見て、換えたかったら、一回換える。カードをてて、自分で山札からカードをとって……それでしゆうりよう

 さつそく、会長が動いた。

 カードを捨てる。

 五枚。

『!?』

 全員の顔にきんちようが走った。

(なんて……なんてことをっ!)

 オールチェンジだと?

 ポーカー、めているのか?

 会長のせいかくを考えると、手札にまるで共通点がなかっただけとは……考えづらかった。

 少し思い当たることがあって、おそるおそる会長に声をかけてみる。

「あ、あの、会長」

「なに? 杉崎」

「その……参考までに、今捨てたカード、見せてもらっていいですか?」

「? いいわよ? あ、ズルとかする気?」

「い、いえ! じゃあ、俺も手札確定してからにしますから!」

 そう言って、俺はあわてて自分の交換をませ、うまいことブタにしてから、会長の捨てた五枚を確認させてもらう。

 そして……俺は、この戦争の真のおそろしさを知った。


「な……そんな……。まさか……。そんなことが許されるのか……神よ」


 俺はがっくりとくずれ落ちる。俺のはんのうどうようしたメンバーは、次々と自分の手札を確定、「私に見せて!」「あたしにも!」「ま、真冬にも!」と、会長の捨てた五枚のカードをひったくった。

 そうして……全員が一様に、ショックを受ける。

 会長が「え、ちょ、な、なに?」とまどう中……俺達は、すでに、生けるしかばねと化していた。

 俺達は……舐めていたんだ。戦争というものを。

 ここまで……ここまでむごいのか、戦争とは。

 こんな……こんな行いがゆるされるのかっ!

 俺達は完全に打ちのめされていた。

 最後に会長の捨てカードを確認した真冬ちゃんの手から、はらりとそれが落ちる。

 そのデッキを……もう見たくもないのに、見てしまう俺。

 A・A・A・K・K。

 つまり。

 フルハウス。

 初手から、フルハウス。

 それを。

 この会長は。

 捨てやがったのだ。

 全部。

 そして、恐らく……。

「じゃ、オープン!」

 会長が高らかに告げる!

 全員、ダラリと、カードを公開する。

 ブタ・ブタ・ブタ・ブタ・ブタ。

 全員ブタ。

 全員。そう。会長も。

 そうして、会長が、言ってはいけない一言を……俺達にとってかくにもひつてきするきんを、口にしてしまう。

「むー。出ると思ったんだけどな……ロイヤルストレートフラッシュ」

『…………』

 全員が思った。

『(こいつは……しんせいの……)』

 さとった。

 世の中には、『ぜつたい』があるのだと。

 たとえ太陽がのぼらない日があっても。

 この会長がカードゲームであつしようする日は、『絶対』来ない。

 知弦さんの目を見る。絶望にまっていた。てきぐんが……そうぞう以上の……じようしきでは考えられない弱さだったのだ。こちらがいくら手をいてもどうにもならない……それはまるで九十九レベルの勇者が、ス○イムを一撃でたおさないようにこうげきしろと言われているようなものだった。無理だ。そんなレベルまでりることは、俺達には出来ないっ!

 俺達は……無力だ。いや、ちがう。会長が、無力だ。無力すぎる。

 俺達が絶望に包まれている中、会長が自主的にカードをかき集めながら告げる。

「じゃ、次はなにするー?」

『!?』


 ざわ、ざわ、ざわ。


 俺達のバックに、そんなおんが出ているのを感じた。

 真冬ちゃんと深夏の目がどうようはげしくらいでいる。知弦さんも冷静をたもとうとはしているものの、むねの辺りを苦しそうに押さえていた。

 俺も……会長を、おびえた目で見つめる。

 なん……だって? 次? 次、だって? しかも「なにするー?」って……もう、ポーカーは終わり? そんな……そんなっ! あんだけ……あんだけ決意してのぞんだ戦争を……そんな……そんな一言で終わらせて、次の戦争を起こそうというのかなたはっ!

「ふ……ふは……ふははははは」

「す、杉崎?」

 俺は思わず笑い始めてしまった。会長がキョトンとしている。

「いえ、なんでもありませんよ、会長。いえ……ベルセルク」

「意味分からないよ! ベルセルクじゃないよ、私!」

「ふ……では、しゆと改めさせてもらいましょうか」

「会長か桜野くりむと改めてよ! なんで修羅になったのよ!」

「修羅よ。貴女は、そこまで戦争が好きなのかっ!」

「好きじゃないよ!? なんでそんなかんちがいされているの!?」

「いいでしょう。貴女がそこまで血を望むのならば、われらは喜んでひとくうとなりましょうぞ!」

「口調とテンションがまるでかいできないよ!」

「さぁみなのもの! いくさじゃ、戦じゃー!」

『おおー!』

「なんでみんなまで!? なんなのこの気持ち悪いじようきよう!」

 俺の言葉におうし声をあげた知弦さんと椎名まいを見て、会長のひようじようがひきつる。

 こうして俺達は、長い長い戦いへともつれこんでいくのであった。

 これが、後に「クリムゾンのげき」と呼ばれる戦争の始まりである。



《戦争、絶対ダメ》という共通にんしきを会長以外の全員が持つにいたった日のよくじつ

 俺達は少しおくれている会長を待ちながら、どんよりとした空気で会合していた。

 知弦さんが切り出す。

「さて……私達は昨日、あの戦争を『もうおそいから』という理由で休戦に持ち込みたくしたわけだけれど……。アカちゃんの目、見たでしょう? あれは、まだまだ戦争を続けるを持った目だったわ。つまり……今日も、戦争の続きが始まる。戦争はいまだに終結していないのよ」

 知弦さんの言葉に、椎名姉妹がかたを落とす。生徒会室の暗さがじんじようじゃない。

 どうしてこんなことになったのだろう。それもこれも……。

「真冬……あんたがトランプなんて持ってくるから」

 深夏が、言ってはいけない一言を言う。真冬ちゃんは「ひぅ」となみだになり、しかし、そのほこさきを姉ではなくて、俺に向けてきた。

「そ、そんなこと言ったら、す、杉崎せんぱいが『会長が一勝したら終わり』なんてていあんをしたのがそもそも……」

「な、真冬ちゃん、そりゃないよ! それに、あそこまでのせんえきかくだいしたのは、知弦さんがポーカーなんてギャンブルに出たから……」

「あ、あら。私がいけないというの? 何もしてない人よりいいと思うけど。……そこの……今回のけんにおいてとことんかげうすい深夏よりはねっ!」

「な──。あたしはたしかに何もしてないが、状況を悪化させもしてないだろ! そうだ! そもそもこんなにがいが出たのは、この三人のせいじゃねえかっ!」

「ひ、ひどいよお姉ちゃん! じゃあ言わせてもらうけどさぁー」

 ……というわけで、生徒会室はげんざい、大変、ぐだんぐだんだ。とんでもなくごこの悪いハーレムだ。戦争とは、人の心をすさませるものらしい。

 会長以外の四人で今日のたいしよほうを練るはずが、もう、作戦さえ立てられる状況じゃない。

 なんてこった……今回の話のタイトル、変えるべきじゃねえか、これ。

 というわけで勝手に新タイトル。


【真・第六話~ほうかいする生徒会~】


 やべぇ。最終回だこれ。もしくは、最終回の一回前ぐらいだ、このタイトル。

 っていうか、おれの予定じゃじよじよけつそくしていって、最終的にハーレムになる計画だったのに。なんだこれ。第一話のころより仲悪くなってね?

 ここは、主人公たるこの俺がビシっと決めてこそ、ライトノベルだろう。

「聞け、俺の女ども!」

『キー君(先輩・鍵)はだまってて! ハ○ター×ハンターが完結するまで!』

「いつまで!?」

 というわけで俺、すごすご退たいじよう

 けつろん

 ごめん、これ、どうやらバッドエンドらしいぞ、読者しよくん

 サービスカットを期待していた人。きわどいシーンを期待していた人。少なくともキスシーンぐらい読みたかった人。ホントごめん。ちゃんとこうりやくサイト見るべきだったわ。

 次のプレイではこの反省をかして、第六話で【遊ぶ生徒会】のルートに入らないように気をつけよう。真冬ちゃんがトランプを取り出したら、その時点で「待て!」のせんたくを選ぶことにしよう。そうしよう、そうしよう。

 …………。

 ライトノベルなんだから、ここで都合のいい時間ぎやつこうげんしようとか起きないもんかと期待してみたが、結果はさんだった。ケンカがエスカレートしている。もう、びようしやしたくないほど、エスカレートしている。

 さてさて、どうしようか。バッドエンドかくていって、どうすんの?

 あ、そうか。

 死ぬか。デッドエンドか。いつたんでんげん切るか。

 というわけで。

みなさん、さようなら。俺は、次の世界に行く」

『はい?』

「死のう」

 首にカッターナイフをきつける。すると──

『わー!』

 今までケンカしていた知弦さんと椎名まいが、あわてて俺に飛びかかってきた。

 たいせいをくずし、がらがらと三人でくずれ落ちる。

 結果。

『…………』

 喜べ、読者諸君。

 サービスシーンの完成だ! ここはおそらくカラーイラストでもピックアップされると思うぞ! とくと見ろ!

 俺の上に、知弦さん、深夏、真冬ちゃんがたおれてきていた。

 俺が、じよせい三人に押し倒されていた。

 残念なことに、むねに手が……みたいな体勢にこそならなかったものの、かなり幸福だ。

 やーらかい。やーらかい体がむにむにと、三方向から俺に押し付けられているのだ。

 これが……。

 これが、ハーレムルートかっ!

 俺はさとった。生きるとは、こんなにも、らしいことなんだと。

 なんてかんなんだ! なんて……なんて幸福なんだ!

 かいした。

 もう俺はあきらめない! この……この幸福を手に入れるためなら、なんだってしてやる!

 そうだ! 戦争がなんだ! そんなもの、かんたんに吹き飛ばしてやるさ!

 ゲームやアニメで用いられる、あの手法を……最後のしゆだんを使ってでも!

「……いったぁ」

 知弦さんがうめき、三人がもそもそと体勢を立て直そうとする。しかし俺はそれを……ぐいっと、りなおした! たんふたたび体勢を崩して俺にみつちやくする女性達!

「こら、鍵、何するんだ!」

「せ、せんぱい、苦しいですぅ!」

 椎名姉妹のもんして、きしめ続ける。

 時間をかくにん! うむ、そろそろだ! そろそろ……。

 しゆんかん、ガラガラと生徒会室のとびらの開く音。そして──


「さぁて、今日も元気にトランプするわよーっ……て」


 それは、会長の声だった。あいにくこちらからひようじようは見えないが……恐らくは、今、俺達を見て、一生けんめい思考していることだろう。

「え、えーと」

 どうやらはんのうこまっているらしい。

 しばしのしゆんじゆん。そうして……どうやら、行き着いたらしいけつろん

「す、すぅ~ぎぃ~さぁ~きぃ~!」

 とりあえずおこっておこうと思ったらしい。

 計画通り。

 同時に、俺のこうそくけ出た三人むすめもぎゃあぎゃあとさわぐ。

「な、なにするのよキー君! まさかそこまでせいよくを持てあましているなんて……。くっ。この紅葉知弦、あやまったわ!」

「くそ、この、死ね! てめぇいよいよほんしようあらわしやがったなこら!」

「ぐす……。杉崎先輩……そこないました」

 全員が俺をぞうのこもったせんで見ている。

 そうして。

 会長の、決定的な一言。


「そこになおりなさい、杉崎! 今日はずっと説教よ!」



 こうして、この「クリムゾンのげき」は、とある青年……『人類共通のてきしゆつげん』によって、うやむやのうちに終結した。


 この後、実に三百年にわたってこの『敵』は最低の男として語りがれることになる。しかしその後、彼の記した書物『生徒会の一存』の発見により、歴史のかいしやくは大きくらぐこととなった。

『青年は、実は敵ではなく救世主だったのではないか』『彼は自己をせいにして、戦争を止めたのではないか』と論じる学者が出現したのだ。

 しかし、その解釈は多くの者にたんとみなされ、直後になぞの奇病で学者が死亡したこともあり、結局は世間に受けれられることなく消えていった。

 真実は今も、やみの中である。


 …………。


 っていうか、ぶっちゃけ皆、どうでもよかったのである。

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