【第五話~恋する生徒会~】

「恋、だけじゃなのよ! 愛にしようしてこそ、ホンモノの《れんあい》なの!」

 会長がいつものように小さなむねってなにかの本の受け売りをえらそうに語っていた。

 みように俺に対してトゲのある言葉だったので軽くせんらしていたのだが、会長はここぞとばかりに、「そうよね! すぎさき!」と、俺に話をってきた。……ちくしょう。この受け売りお子様会長め。

「そ、そうですね。ええ、愛は、ないといけませんよ」

「そうよねー」

「え、ええ」

「ねー」

「……ええ」

 チクショー! なんだこのこうげき! ああ、俺はどうせ軽いですよ! ハーレム目指していますよ! せいじつじゃないですよーだ!

 会長はじように満足そうにふんぞり返っていた。……く、くやしい! あの会長にからかわれると、じように悔しい!

けん~。めずらしいなー、お前が会長に負けるなんて。ニシシシシ」

 となりからなつがイヤな笑いをかべつつささやいてきた。顔が近い。それはとてもうれしいのだが……ああ、今はなおにそれも楽しめない!

「あのお子様会長は、ホントせいろんばかりだから、ときおり反論のねぇんだよ……」

「あー、それは分かる。いやだよなー、正論って」

「『悪いのは分かっているけど、そういう問題じゃないんだよー』っていう感じのこと、多いだろ、世の中。でも、正論を振りかざすヤツっているわけよ。そうやってふんぞり返るヤツっているわけよ。……アレみたいに」

 深夏と二人で会長を眺める。小さい胸をむんと張って、とても偉そうだった。……それがほほましい時もあるのだが……今はたんじゆんにムカツク。

 ななめ前にいるふゆちゃんも、小声で話に加わってきた。

「真冬もわかりますー、そういうの。あのあの、真冬はテレビゲーム好きなんですけど、親に、すぐ言われちゃいます。『目悪くしてそれクリアして、なんか意味あるの?』って。その通りなんですけど……その……」

「あー、分かる。人にめいわくかけてないかぎり、あんまりそういうことに口出しされたくないよな。それが正論であることなんて、こっちも分かっているんだからさ」

「そ、そうですそうです!」

「あー、あたしもあるなー、それ。あたしは……信号つきおうだん歩道でも、どう見ても車が来てなかったらわたっちゃうんだけど……」

たしかに、ルール的に見たらはんだよな、それ。でも……なんかアホらしいよね。特に俺の地元なんてなかだから、視力1・5の俺が左右見ても、地平線まで車が無い時あるわけよ。それなのに、信号待っているのって……なんか、ひどむなしいっていうか」

「注意されたら、そっちが正しいから、あまんじて受けるしかねーけどな。ううん、まー、悪いのはこっちなんだけど。こっちなんだけどさー。ってなるよな」

 俺としいまいみような結束感でだんけつしていると、づるさんが勉強をちゆうだんして、ふふっとほほんだ。

「でもよね、ルールはん

『うっ……』

「テレビゲームは目に悪いから、ほどほどに」

「あぅ」

「横断歩道は、ちゃんと信号かくにんしてわたりましょう」

「うぅ」

「まぁ、私は暗い中ゲームもするし、信号より自分の視力を信じるけど。ゲームでダメダメになったこの視力をねっ!」

『一番駄目じゃん(ですよ)!』

 正論を振りかざすくせに自分には特例をみとめるという、一番イヤなタイプだった。知弦さん。相変わらず……なんというか。

 そうこうしていると、ようやく会長がとうすいの世界から帰ってきた。「よっこらせ」と席から立ち上がる。

 そうして、ホワイトボードに今日のテーマ。

「『校内の風紀のみだれについて』……ですか。なんか、すげぇ定番ですね」

 俺のつぶやきに、会長はくるりと、がおで振り返る。

「定番だからこそ、つねに生徒会がしんに取り組むべきテーマでもあるのよ」

「う……」

 また正論だった。……あーもう、今日はどうもが悪いなぁ。今日のてんびんほど下位だったのだろう。けつえきがたせんしゆけんおそらく最下位だ。

 ボードのテーマを見て、知弦さんが首をかしげる。

「でも、こういうのは風紀委員にまかせるべきじゃないかしら。それに、この学校、わりみないい子でしょう? 少なくとも、他校にくらべたらかなりのゆうりようこうだと思うけど」

 たしかにそうだ。きんりん校の「おとぶき高校」なんて、すさまじくれていると聞くし、他の学校にしても、あまりいいうわさは聞かない。

 そんな中において、このへきよう学園はとてもめぐまれた学校だった。でんとうの生徒会システムがこうそうしているのか、この学校は割と、こちらがぎゅうぎゅうにめ付けなくても、それぞれ皆があるていのモラルをもって行動してくれている。「皆で学校を作っている」というしきが高いのだろう。

 だから、風紀委員会も生徒会も、そんなに仕事はいそがしくない。起こる問題だって、先日のかいだん問題や新聞部に代表されるように、ほとんどほほましい部類のものだ。

 そんな学園において、これ以上、わざわざ生徒会で議題に取り上げてまで正すような風紀の乱れなんてないと思うのだが……。

 しかし、そんな考えにかつを入れるように会長が大声を上げた。

「なに言ってるの! 乱れているわ! 主に……その……せ、せいがっ」

「性?」

 真っ赤な顔でそんなことを言うロリ会長にたずねなおす。彼女は「そ、そうよっ」と自分を取りつくろいながら話を続けた。

「副会長のせいかもしれないけど。最近、どうも、その、校内でナンパな光景を見ることが多くなった気がするのよっ! その……男女が手つないでいたりとか……」

「? 手繋ぐぐらい、そんなに問題にするようなことですかね?」

「も、問題よ! 二人っきりでっていうならまだしも、その、生徒がたくさんいる前で手を繋いで歩くなんて……きんしんよ! 学びたるこうしやでなんということを……」

「はぁ」

 だんからエロゲを愛好するおれの方が感覚がずれているのかと周囲を見回してみる。しかし、知弦さんも椎名まいもやはり、ぴんと来てないようだった。やはり、会長が少しびんすぎる気がする。

 深夏が、「はーい」と手を挙げる。別に挙手の必要はないのだが……。会長が「はい、深夏さん」と教師のように当てると、深夏はあっけらかんと告げた。

「会長は知らないかもしれないけど、そんなのより大変なことしているのなんて、いくらでもいるぜ? 放課後の校舎内を見てみなよ。ちょっとひとの無いところいけば、キスはもちろん、○○○○している光景なんて、けつこうかくりつもくげき──」

「な──」

 会長がぜつする。しかし、深夏はそのまま続けた。

「まー、確かに乱れていると言っちゃ乱れているけどさ。別にいいんじゃねーの? それでだれかにめいわくかけているわけでもねーんだし。ま、そういう場所通りかかるとすげぇ気まずいけどさ。それこそ愛し合っているってことだろ」

 深夏に、俺もせいしてみることにした。

「そうだぞ、会長。会長だって、数ヶ月したら俺にこうりやくされて、校内でさえ俺を求めるように──」

退たいがくよ────────────────────!」

 言葉のちゆうぜつきようされた。会長は顔を真っ赤にしながら続けてくる。

「そ、そ、そんなことしている人を見かけたら、今後は、全部退学! 問答無用で退学! お、おかしいわよ! ここをなんだと思っているの!」

「フラグを立てるための場──」

「杉崎はだまっていて! プレイステーション5が出るまで!」

「期間なげぇ!」

 いつになるか分かったもんじゃなかった。4じゃないところがけいひどかった。

 そんな中、知弦さんがあくまでマイペースで、クールに告げる。

「でもそれは仕方ないわよ、アカちゃん。せいみだれなんてここだけの話じゃないし、生徒会が動いて止められるものでもないわ」

「止めるんじゃないの! はいじよするのよ!」

「そんなことしたら、杉崎じゃないけど、かなりの生徒が消えちゃうわよ、この学校」

「仕方ないわよ!」

「……アカちゃん。生徒会長は、風紀の乱れを正すのも大事だけど、まず最初に生徒のことを考えるべきなんじゃないかしら。『生徒』の『会』の『長』なのよ」

「う……」

 知弦さんはじように大人だった。会長もたじろいでいる。……むぅ。どうして俺の説得はすぐきやつされてしまうのか……。会長のツンっぷりは酷いなぁ。

「いや、おめぇのは誰でも却下するから」

 深夏がまたも俺の思考を読んでツッコンで来た。むむむ。俺は、こんなにも生徒達を愛しているというのに……。

 しかし会長は、知弦さんの説得にも、やはりおうじなかった。「やっぱり!」とさいさけぶ。知弦さんはあきらめたように両手を上げて、俺達に首をった。……「こうなったアカちゃんはもう止められないわ」の意だった。俺と椎名まいたんそくする。

 そんな中、これまで場を静観していた真冬ちゃんが、おずおずと手を挙げた。「はい、真冬さん」と会長に当てられ、小さく口を開く。

「ま、真冬も、そういうのはあまり得意じゃないですけど……その……したい人には、させてあげればいいかと……」

「したい人?」

「い、いえ、そういう意味じゃなくてっ!」



 俺のしつもんに、真冬ちゃんは会長以上に真っ赤になる。元々はだが病的に白いせいか、彼女が赤くなるとすごく目立つ。そして……そんな真冬ちゃんは、しゆんかん最大風速において、時折会長のそれさえ上回るほど「え」るのだ。……ああ、かいかん

「こういう時なんだよなぁ、鍵に殺意がくの」

 深夏が非常におそろしいつぶやきをしていたものの、それは気にしないことにした。

 真冬ちゃんの意見に、会長が「駄目よ!」と、めずらしく真冬ちゃんにまで大声をあげる。真冬ちゃんは「ひぅ」となみだになってしまった。……ああ、萌える。

「そんなだから、わかものの性の乱れが酷いってはんされまくるのよ! どこかで歯止めをかけないと駄目なの! このままじゃ、ような学生がどんどんつうどもを産んじゃう世の中になっちゃうわよっ!」

「いや、昔はもっとていねんれいとついでいたような……」

「と、とにかく! この学校では、そういうことはあってはならないのっ!」

「どうしてですか」

「私が会長だからっ!」

『…………あー』

 なんかみなみようなつとくした。ロリなよう姿の会長をながめ回して、妙に納得した。たしかに、それはあかんと思った。この会長のおさめる学校は、なんとなく、もっと子供でじゆんすいであるべきかもしれないと、たしかに思った。

 しかし……。

「そうは言っても、知弦さんも言いましたけど、こういうことって上からあつぱくすればするほどえあがりますからねぇ。たいしよほうなんて無いに等しいと思いますよ? ほら、学校で○○○○しちゃうのだって、それが、そこはかとなく『きん』だからですよ」

「え?」

かいだんと同じです。スリルを楽しんでいるんですよ、そういう人は。だから、むしろ生徒会がやつになってせいしたら、かえってぎやくこうになるおそれもあるんじゃないでしょうか」

「む、むむ。杉崎にしてはめずらしくまっとうな意見ね……」

「そりゃそうですよ! 学校で○○○○出来ないなんて、ゆめが無いでしょう! せつかく学校をたいにしたエロゲなのに! エロCGに学校シチュがなかったら、きようめですよ!」

「……とりあえず杉崎を退たいがくにしたら、この学校の校風はかなりかいぜんする気がしてきたわ」

 会長がひたいに手をやる。失礼なっ。俺ほど学校を愛している人間はいないというのにっ! ……主にせい的な意味で。

 しかし、会長はいたってなやんでいるようだ。全員で顔を見合わせる。

 むぅ。いつものノリじゃ、流せないか……。

 俺はちょっとトーンダウンしてたずねてみた。

「そういう会長こそ、こいとかしないんですか?」

 俺に、と言おうかと思ったけど、なんとなく会長のふんが真面目なので、今回はやめておいた。

 会長は「そうねぇ」とつぶやく。

「たとえしたとしても、ケジメをもってこうさいするわ」

「ま、それはせいろんですけど」

 でも……れんあいって、そういうことさえ見失ってしまうからこそ恋愛なんじゃなかろうかとも、俺なんかは思うけど。まあ、こういうことって人それぞれだから、答えなんてない。……むずかしいところだ。

 いつも思うが、この生徒会であつかう議題は、主に人間をテーマにするせいか、いまいちハッキリした答えが出ない。だからこそ誰でもつとまるし、だからこそ、誰がやっても苦労するのだろう。ううん……どうしたものか。

 俺がうなっていると、真冬ちゃんが口を開いた。

「で、でも、その、じゆぎようちゆうにいちゃついている……というわけでもないんだったら、いちおう、けじめはついているとも思いますけど……。こ、こうしやないとはいえ、放課後は、もう、生徒それぞれの時間とも言えますし……」

「そうかしら? 私は、せいふくからふくえるまでは、生徒としての自覚を持つべきだと思っているけど。……じゆんせい交遊は駄目」

「う……」

 それも正論。その通り。制服で問題を起こすのと私服で問題を起こすのでは、やはりまるでちがう。

 不純異性交遊……ね。でも、不純かどうかなんて、誰が決めるのだろう。わかい男女がはげしく愛し合っていれば、体を求めるなりなんなりするのは当然じゃないか。それをどうしていちがいに不純などととらえるのだろう。

 ……まあ、一方で、遊び半分でそういうことするヤツが多いことも事実だから、強くは出られないけれど。遊びかいなかなんて、他人がはんじられることじゃない。

「で、会長はどうしたいんです? 恋愛はつにでも?」

「そ、そこまでは望まないけど……」

 会長は俺の言葉にたじろいだ。ま、ちょっと意地悪だったか。きよくろんすぎたな。

「私はただ、けじめをつけてほしいだけよ……」

「…………」

 ……まあなぁ。ついついふざけすぎちゃったけど、たしかに、俺だって、校内でいちゃつかれるのをすいしようは出来ない。ホントに。でも……いちゃつく側の言い分だって分かるんだ。誰にめいわくかけているわけでもないのに、どうして規制されなきゃいけないのかって。

 うまい落としどころはないものだろうか。

 そう考えていると、知弦さんがペンをくるくる回しながらていあんする。

「じゃあ、生徒会からのお知らせとして、ちょっとしたけいこくを記したプリントでも配ればいいんじゃないかしら。アカちゃん、それじゃ不満?」

「ん、んー」

 しかし会長は、それでもなつとくいかないようだった。うでを組んで唸っている。

「警告じゃなくて、きんしたいの」

「禁止ならすでこうそくでされているわよ。げんを先生にさえられたら、停学ぐらいにはなるんじゃないかしら、げんじようでも」

「で、でもでも、今はそんなの、あってないようなそくじゃない!」

「だったら、いまさらアカちゃんが新しく規則をもうけても、同じような道を辿たどると思うわよ?」

「う、うぅ」

 会長は知弦さんに言いくるめられて、泣き出しそうになってしまっていた。

 さすがに、俺も椎名姉妹もちょっとどうじよう的になってしまう。当の知弦さんでさえ、こまり顔だった。……失敗した。知弦さんに、イヤな役回り押し付けちゃったな。反省。ハーレムの主、しつかくだ。

 俺は場を仕切りなおす。

「最初に会長、言ったでしょ? 愛にしようしてこそ本物のれんあいだって。問題はそこですよね。おたがいを本当に思いやる意味での恋愛をしている人まで……会長は、ルールでしばりたいと思います?」

「う……。そ、そんなことは、ないけど。で、でも、今の生徒達って、そんなの少ないと思うっ! こいかれているだけで、愛なんて無いように見えるもの!」

「……まあ、ね」

 会長はどもっぽいよう姿だし中身もアレだけど、それだけに、けつこうじゆんすいに物事のほんしついている。確かにこの学校で「愛」なんてべるきようでお互いを思いやっているカップルなんて、そうそういないだろう。

 それに、愛し合っているからなにをしてもいいのかというと、そんなこともない。規則は規則という意見も分かる。それでいて、深夏のいう「おうだん歩道」と同じように、誰にも迷惑かけない行動がなぜいけないのかという側も分かる。

 どうしたものか。今回は会長が結構マジだから、本当にむずかしい。かいだんの時とか新聞の時みたいにはいかなそうだ。

 ふんを変えようと思ったのか、深夏がとうとつしやべり始める。

「そ、そういえばさー。サッカー部のキャプテンとマネージャーも付き合っているらしいぜー。でも、あのカップル、もう二ヶ月付き合っているのに、いまだに手さえにぎれてないらしいぞ」

「……そういうのが、健全です」

 会長がつぶやく。それは、会長の理想の恋愛のようだ。まあ……分からないじゃない。

 おれは、「じゃあ」と続けた。

「会長は、例えば大学生なら、エッチなことしてもいいと考えますか?」

「……。……ううん。どう、かなぁ。それでも、校内でそういうことするのは、だと思う。それは、会社員でも同じだよ。しよくとか学校でそんなことしちゃ、駄目」

「手つなぐのも?」

「駄目」

たくにいちゃつくのは?」

「いい」

「高校生は?」

「……帰宅後も、ちょっと、駄目」

「大学生は?」

「……ううん、いい、かな」

「なるほど」

 会長のじゆんは大分分かってきた。典型的な人間だけど、それなりにいつぱん的なかんせいでもある。

「ま、真冬も、会長さんと同じように思いますけど……。で、でもでも、他の考え方の人もいるわけで、そ、その、しばり付けるのは、よくない、です」

 めずらしく真冬ちゃんが自分から、ハッキリと意見を会長に告げた。それに対し会長は、「むぅ」とまた考えんでしまう。

 あー……これは、まずいな。この議題は、まずい。答えが出ない。こういうのって、おうおうにして時間ばかりかかって、最終的には何もけつろん出ずに終わる。それなら……。

 知弦さんとアイコンタクトをわす。そうしてから、俺は動いた。

「会長の言い分は分かりました。それはもっともなことです。正論です」

「そ、そうでしょう?」

 俺のせいに自信がついたのか、会長が目をかがやかせて、むねる。そこに、知弦さんも乗った。

「そうね。アカちゃんの意見はもっともだわ。プリントを配って、次の全校集会でも、注意をうながしましょう。職員室の方にもれんらくして、取りまりもきびしくしてもらいましょうか」

「う、うん」

 会長にがおもどるも……やはり、どこか浮かない顔だった。あー……しまった。下手に他の意見を聞かせたせいで、結論が自分の当初の意見をそんちようしたものでも、少しなつとくできなくなってしまってきているな……。それが会長のいいところでもあるんだけど。

 空気をびんかんに察した椎名まいも、俺と知弦さんに加勢してくれる。

「そ、そうだなー。たしかに目にあまるものはあるから、ちょっとビシッと言うぐらいで丁度いいかもなー」

「で、ですよね。ま、真冬も、あんまり変な光景は見たくないですし……」

 それらの言葉を受けて、じよじよに会長も元気を取り戻し始めた。

「そ、そうよね! やっぱりたるんでいるのよ、みんな! ここはビシッと言ってやらないと!」

「わー、会長カッコイイー」

「えへん! 次の集会で、ビシッと言うわよー!」

「…………」

 ちょっと考える。集会で……このじゆんじよう会長が……せいみだれについてげんきゆう……。


(「み、皆しゃん! あ、か、んじゃった……。こほん。み、皆さん。ごきげんよう。気候もめっきり夏らしく……。新緑が……。ええと……。そ、それはさておき。

 さ、最近っ。そ、そのっ! こ、こ、ここ、校内で、は、れんこうが目につきます! よ、良くないとおもいまひゅっ! ひゃう。と、とにかく良くないです!

 み、皆さん、健全なお付き合いをお願いします! ぺこり!」)


 …………。

 なんか、けいにピンク色の空気になりそうだった。全員が「ぽわ~ん」としそうだった。

 これはいけない。知弦さんも椎名姉妹も同じようなそうぞうをしたのか、あせをかいている。

 俺はあわててていあんした。

「つ、次の全校集会ですけどっ! その、俺があいさつしていいですかっ!」

「ふぇ? 杉崎? どうしたの、急に。そんなに張り切って……」

 会長がキョトンとする。俺は席から立ち上がって続けた。

「い、いえ! ほら、俺みたいなヤツだからこそ、ぎやくに、そういうびかけがこう的になることって、あると思うんですよ! ほら、こんなハーレムろうに注意されたら、逆に引き締まるでしょう!?」

「そ、そうかな?」

「そうです!」

 たじろぐ会長にる。彼女はされたように、「わ、分かったわよ」と、俺に次の集会の挨拶をまかせた。


 かくして全員がほっと胸をで下ろす中、このけんは、どういうわけかこの学校で一番じゆんな心の持ち主たる俺が恋に浮かれた生徒達にかつを入れるという、カオスなてんかいにもつれこんでいくのであった……。

 で。

 今回の結末。



 では次に、生徒会副会長、杉崎鍵さんお願いします。


「えー、皆さん。副会長の、杉崎鍵です。……ほらそこ! 会長じゃないからってブーイングしない! 美少年たる俺に何の不満があるというんだ! ……っておい、なんで全校生徒いつせいに大ブーイングなんだこら! てめぇらいいきようだ! 俺がただのエロゲ好きだと思ったらおおちがいだぞ! この、そうシリーズでつちかったうででてめぇら生徒どもを千人りでいつそうしてやっても……。……あ、すいません、ごめんなさい、やめてください! 物投げないで! ごめんなさい! 副会長はなたたちれいです!

 ふぅ。……ま、まあ、今日はこの辺にしといてやるよ、ふん。

 というわけで、本題だ。……ええい、ブーイングやめい! っていうか二年B組、耳ふさぐな! っていうか深夏、てめぇがあおってどうするんだ!

 はいはい、静まれっ! 静まれみんども! ……うをっ!? だ、だれだ今、《しゆけん》投げたヤツ! かみちゆうったぞおい! リアル手裏剣じゃねぇか! ここの生徒、どんだけキャラにはばあるんだよ! にんじやキャラまでいんのかよおい!

 美少女くのいちだったらゆるしてやるけど、それ以外だったら殺すぞこら! かくしておけ! ……って、うわぁ! なにこれ! らいとん!? 室内で落雷って、じようしきはんちゆうえてるぞおい! どんだけチャクラ量あるんだよ! きゆうでも入ってんのかおい!

 こ、こほん。おいてめぇら。会長がにらんでいる。そろそろに話させろや。

 …………。

 ……会長の名前出したたん静まるのな、お前ら。……まあいい。

 最近、校内の風紀がみだれている。主にせいが乱れている。乱れすぎだ。

 ……OK。お前らのその、「てめぇが言うな」的せんは想定みさ。ああ。いたくなんかない! 心が痛くなんかないさっ!

 聞けっ、てめぇら! 俺はただのエロゲ好きだ! だがぎやくに考えろ! リアルに性的よつきゆうを満足させられないからこそのエロゲけいとうだっ! 分かったかっ! むしろ、俺はかなり清らかな体なんだよっ! 悲しいことになっ!

 ……おい。やめろよ。そのどうじよう的な視線、やめろよ。つらいよ。逆に辛いよ。

 こほん。

 まあとにかく、そんな俺からしても、校内であんまりイチャつかれるのはこまる。殺意くからな。お前らだって……付き合っているやつだって、他人がイチャついているの見てはら立つこと、全くないか? ないとは言えないだろう?

 れんあいかぎらず、なんでも、ほどほどにしといてくれって話だ。分かる。イチャつきたいのは分かるさ。俺だって、目標は、生徒会室で、五人でのあーんなことやこーんなことだ。

 …………。

 おい、いいげんにしろよ忍者。さすがにけんねらってクナイはやりすぎだろう! おま、俺のはんのう速度じゃなかったらちよくげきだったぞこら!

 ちっ。ま、それはいい。よくないけど、いい。忍者は後回しだ。お前は後でたっぷり相手してやるから、チャクラでも練っとけや。

 とにかくだ。このままでは、やりたかないが、生徒会も動かざるをえない。ルール化してしばるしかなくなる。放課後は部活や委員会以外で校内にいることさえきんになるかもしれないし、男女のきよさえ決められてしまうかもしれない。

 そういうのは……全員にとって、不幸だろう? マナーのはんちゆうで終わらせたいだろう?

 だから、悪いけど、ちぃっとまんすることを覚えてくれや。

 こう考えろ。我慢することによって、逆に、自由を得ているんだと。

 我慢するからこそ、もっとはげしくえ上がるんだと。

 かまどってあるだろう? あれは、かぎられた空間で、限られた方向に熱を発散するからこそ、調理器具としてゆうしゆうなんだ。ほのおき散らすだけのき火とはわけが違う。

 同じ火遊びするなら、かまどでやれや。ときおりはキャンプファイアーみたいに燃えるのもいいが、いつもそれだと、すぐに燃えきるぜ? お前、こいってもどかしいからおもしろいんだぜ?

 やりたいこと全部、せいげんでやろうとするなよ。やりたい気持ちは分かるけど、おさえることも覚えろや。それはルールのためじゃねぇ。自分達のためだ。恋だけ楽しみたいやつも愛にいたりたいやつもそうだ。

 楽しいことは長く続いた方がいいだろう? ケチをつけられて終わりたくねぇだろう? だったら、せいしろや。他人に制限される前に、自制しろや。そっちの方がぜつたい気分いい。だんげんする。高校生にもなると、そろそろ他人に注意されるのうぜぇぞ? かなりイライラーっとするぞ? 自分が悪いと分かっていることならなおさらだ。

 ま、せいろんっていうのはいつの時代もつまらねぇけどな。そのつまらねぇものをかいするためには、先に正論を守っておくのが利口なのさ。

 別に時折ハメをはずすのまで規制しようとは思わねぇ。ただ、「てきに」って言葉だけは絶対わすれるな。恋愛って熱病だから、自制きかないことも多いだろうけど、それをがんれるかどうかがぶんてんだ。学生と両立したいなら頑張れ。恋のために学校やめれるってんだったら、ぼうそうすりゃいいさ。それは各々のさいりようまかせる。

 ……ん、まあ、俺からは以上だ。……おい、やめろよ、そのちょっとマジなたい。いつもみたく軽く聞き流せよ。……ったく、調子くるうなぁ。

 って、お前ら、はくしゆとかすんなよ! なんだよ! やめろって! なんだこれ! めっちゃずかしい! ってにんじやこら! なに花束投げてんだ! 卒業生のあいさつみたいな空気になってんじゃねえかよ! なにこのほほましい感じ! あーもう! ……お、覚えてろよ!」


 以上、生徒会副会長、杉崎鍵の「生徒会からのお知らせ」でした。

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