【第三話~放送する生徒会~】

「他人とのれ合いやぶつかり合いがあってこそ、人は成長していくのよ!」

 会長がいつものように小さなむねってなにかの本の受け売りをえらそうに語っていた。

「なんですか? それ」

 よく意味が分からなかったため、聞き返す。すると会長は、ホワイトボードにキュッキュと議題を記し、「これよ!」と、バンッとボードをたたいた。

「ええと……ラジオ放送?」

 ホワイトボードにはクッキリとそう記されていたが……しかしやはり意味が分からなかったため、首をかしげる。見れば、づるさんやしいまいも、不思議そうな顔をしていた。

 会長は一人、胸を張ったままで続ける。

「そう! これから生徒会で、ラジオをやろうと思うの!」

「ら、ラジオって……」

 気弱で引っ込み思案のふゆちゃんが、何かいやな予感でもしたのか、少しおびえながらたずねる。

「あの……ラジオですか? 音楽かけたり、しやべったりする……」

「そうよ。その、ラジオ」

「……えと。それって……あの、なんで生徒会がするんですか? そういうのは、放送部とかの仕事だと、真冬は思っていたのですが……」

 全くその通りだよ、真冬ちゃん。真冬ちゃんだけじゃなく、みな、そう思っているよ。しかし……ただ一人、そういうじようしきが無い人間が、ここにはたようだ。

「何言っているの! 生徒会って、生徒をまとめる立場にあるしきよ! せいけん放送みたいなものもたまにはしないといけないわ!」

「政見放送なんて言葉、よく知ってたわね、アカちゃん。よしよし、いい子いい子」

 知弦さんが、どもをあやすように会長の頭をでていた。会長はいつしゆん気持ち良さそうに目を細めたものの、しかし、ハッとわれを取りもどすと、「うがー!」と知弦さんの手をはらいのける。

「政見放送ぐらい、知ってるよ! 子どもあつかいしないで!」

「そうね、アカちゃん。ごめんなさいね」

「わ、分かればいいのよ」

「ええ。……そういえば昨日、こうちようりつクイズ番組で『政見放送』をテーマに問題が出てたりしたけど……。いえ、なんでもないわ」

「…………。……と、とにかく! 政見放送よ!」

 どうやら、思いつきらしい。テレビ番組に思いっきりしよくはつされたらしい。

 しかし、会長は言い出したら聞かない。俺のとなりで、なつたんそくじりに発言した。

「まあ、もん言ってもどうせやるんだろうけどよ……。でも、なんでラジオなんだ? えいぞうの方がいいじゃねーの?」

「それも考えたけど……放送部にしかけたら、『今わたせる機材はこれしか……』と泣かれたから、ラジオなの」

 そう言いながら、会長はてきぱきとじゆんを開始する。放送部にやらせたのか、配線関係は水面下でとっくに終わっていたようで、会長は俺達の前にそれぞれ一つずつマイクスタンドをせつした。

 ……わいそうに、放送部。

「か、完全に準備されちゃってます……」

 真冬ちゃんが元気をなくしていた。まあ……元々こういう「目立つこと」が好きなタイプの子じゃない。ごしゆうしようさまだ。

 全員が引きながらもあきらめてじようきようを受けれる中、会長はただ一人、テンションが高いまま口を開く。

「ほら、最近はせいゆうさんのラジオもえたじゃない。美少女がたくさん集まって喋っていれば、皆、大満足のはずよ」

「会長、声優やパーソナリティ、そしてリスナーをめてるでしょう」

 ツッコム。しかし、会長はこのかくし通す気のようだ。

「可愛い声でキャピキャピ喋りあっていれば、だんせいリスナーなんてコロリとだまされるはずよ」

あやまれ! 俺以外の男性に謝れ!」

すぎさきは騙されるんだ……。まあ、それに、五人もいれば会話がきることもないでしょう。だいじよう大丈夫。いつも通りに喋ればいいんだから」

「いつも通りといっても……」

「あ、杉崎はあんまり喋らないでね。杉崎は、そんざい自体が放送コードにひっかかっているから」

「ひでぇ!」

 まあ、分かるけど。だんいきおいでエロ発言すると、たしかに、けんそうだ。だまる気はないけど。

 そうこうしている間に、セッティングはすべかんりようしてしまったらしい。何か、ノートパソコンが部屋のかたすみで起動している。どうやら、あれに音声データがろくおんされるようだ。つまり、生ではなく、録音放送。それだけは……まあ、助かった。トラブルがあっても、たいしよ出来る。

 真冬ちゃんも、元気が無いものの、すでに諦めているらしい。げんなりしながら、マイクをツンツンつついていた。

 かたや知弦さんは、「コホン」とせきばらいをし、のどの調子を確かめている。やると決めたら、もう、手はかないかまえのようだ。知弦さんらしい。

 深夏はと言えば、既に落ち着き払い、腕を組んで、堂々とにふんぞり返っていた。まあ、アイツはいっつもクラスでも中心になって喋っているからな。校内放送ぐらいできんちようするようなこともないのだろう。

「さあ、始めるわよ!」

 会長が声を上げ、何か手元にえつけられた大量のスイッチの一つを押す。


 ……さて。仕方ない。やるなら、俺も、ちゃんと取り組むか。



 ON AIR


会長「さくらくりむの! オールナイト全時空!」

杉崎「放送はんでけぇ!」


 ♪ オープニングBGM ♪


会長「さあ、始まりました。桜野くりむのオールナイト全時空」

知弦「夜じゃないけどね」

会長「この番組は、書房の一社ていきようでお送りします」

深夏「どうしたんだ、富士見書房……。とうはなはだしいな、おい……」

会長「まあ、ギャラもゼロ円だし、機材も放送わくにもお金かかってないから、スポンサーにしてもらうことは何もないんだけどね」

真冬「じゃあなんで提供を読んだんですか……」

会長「それっぽいじゃない。うん、今のところ、とてもラジオっぽいわ」

真冬「……はぁ。いいですけど」

会長「こら、真冬ちゃん! そんなテンションじゃよ! リスナーは、もっと、こう、女の子の元気な会話を望んでいるんだから!」

真冬「そ、そうでしょうか……」

会長「うん。男子リスナーなんて、そんなものだよ」

杉崎「こらこらこらこら! なんでリスナーを見下げた発言すんの!? 生徒にけん売ってんの!?」

会長「パーソナリティあっての、リスナーじゃない」

杉崎「リスナーあっての、パーソナリティだ!」

深夏「おお、けんものすごく真っ当な発言してる! すげぇ! ラジオこう、すげぇ!」

会長「……そうね。私がちがってたわ、杉崎」

杉崎「分かればいいんですよ、分かれば……」

会長「そうよね。やっぱり、あるていびておいた方が得よね。うん、私、大人」

杉崎「だから、そういう発言を堂々としちゃ駄目だって──」

会長「お便りのコーナー!」

杉崎「!? ラジオなのに、言葉のキャッチボールきよ!?」

知弦「それがアカちゃんクオリティ」

杉崎「なんでなたは要所要所でしかしやべらないんですか! もっとかじりして下さいよ!」

知弦「…………」

杉崎「ラジオで無言はやめましょうよ!」

会長「さて、一通目のお便り」

杉崎「進行重視かっ! 会話の流れ無視ですかっ!」

会長「『生徒会のみなさん、こんばっぱー!』はい、こんばっぱー!」

杉崎「え、なにそのずかしいあいさつ! こうれいなの!?」

女性じん『こんばっぱー!』

杉崎「俺以外の共通にんしき!?」

会長「『オールナイト全時空、いつも、楽しくいております』ありがとー」

杉崎「うそだ! 第一回放送のはずだ、これは!」

会長「時系列なんて、まつな問題よ、杉崎。このラジオにおいてはね」

杉崎「さすが『全時空』!」

会長「あと、言いわすれていたけど、いちおう、生でも放送されているわよ、これ。聴いている人は少ないだろうから、また明日昼休みに校内で流すけど」

杉崎「どうりでメールが来るはずだ! っていうか、じゃあもっと発言に気をつけて下さい!」

会長「はいはい。じゃ、メールの続きね。『ところで、皆さんにしつもんなのですが、皆さんは、どんな告白をされたらうれしいでしょう? ぼくは今、こいをしているのですが、どう告白しようかまよってます。くりねえ、アドバイスお願いします』」

杉崎「『くりねえ』ってばれてんだ! こんなにロリのくせに!」

会長「そうねぇ……。これはむずかしい問題ね。でも、れんあいけいけんほうな私に言わせれば──」

杉崎「男と手つないだことさえないくせに……」

会長「つうに告白すればいいと思う」

杉崎「なんかテキトーなアドバイスした──────!」

会長「知弦はどう思う?」

知弦「そうね……好きにすればいいんじゃないかしら。私には関係ないし」

杉崎「パーソナリティがリスナーに冷てぇ──────!」

会長「真冬ちゃんはどう?」

真冬「え? そ、そうですね……。えと……真冬は……。……わかりません」

杉崎「まさかの『わかりません』発言キタ──────!」

会長「深夏は?」

深夏「当たってくだけろ! 以上!」

杉崎「もっとリスナーのハートをていちようあつかおうよ!」

会長「次のお便り。『妹はあずかった。返してほしくば、指定こうに──』……ん? あれ? これ、間違いメールね。ちょっとスタッフー、しっかりしてよぉー。まったく。……じゃ、次」

杉崎「スルーしていいの!? 今のないよう、そんなかんたんにスルーしていいの!?」

会長「『生徒会の皆さん、こんばっぱー』こんばっぱー!」

女性陣『こんばっぱー!』

杉崎「だから、なんでこれだけ皆ノるの!? いつ打ち合わせしたの!?」

会長「『くりねえ。どうしよう。私、お金がさつきゆうに必要で……。というのも、うちの妹がゆうかいされちゃって、両親がきんさくに走り回っているんだけど、集まらなくて……どうしたらいいかなぁ』」

杉崎「ディープなおなやみキタ──────! っていうか、ここにメールする以前に、けいさつれんらくしろよ! それに、間違いなくさっきのメールに関連してるよな、これ!」

会長「ううん……そうねぇ。分かった。ラジオネーム《がいしやの家族》さんには、富士見書房から、《まとまったお金》をプレゼント! 待っててねー」

杉崎「ええええええええ!? 用意すんだ! しかも勝手にスポンサーから引き出すんだ! いいんですか、それ!」

会長「全ては富士見書房だいね」

杉崎「なんでアンタそんなにえらそうなんだ!」

会長「よし、じゃあ、ここで一曲。先日私が出したニューシングル。《妹はもう帰ってこない》を聴いていただきましょう」

杉崎「空気読め───────────────────!」

会長「どうぞー」


 ♪ 《妹はもう帰ってこない》フルさいせい ♪


会長「さて、聴いていただきましたのは、ぜつさん発売中のシングル《妹はもう帰ってこない》でした。デビューシングルの、《弟ははつこつしていた》も合わせてよろしくねー」

杉崎「アンタのに一体何があったんだ!」

会長「じゃあ、ここで恒例のコーナー。《椎名まいの、姉妹でユリユリ♪》」

杉崎「…………。……そ、それはちょっときたいかも」

真冬「せんぱい!? ちゃんとツッコンで下さいよ、そこは!」

深夏「そうだ! 聞いてないぞ、そんなの!」

会長「このコーナーは、リスナーから送られてきたずかしいっぽいきやくほんを、椎名姉妹がえんじるという、人気コーナーです」

杉崎「人気なせつていなんだ……。俺が言うことじゃないけど、ここの生徒、だいじようか?」

会長「私じん的には好きじゃないんだけどね……。ほら、ごげん取りよ、ご機嫌取り。これやっておけば、とりあえず、生徒は満足だろうから」

杉崎「だからそういう発言は、本番中にしないで下さい!」

会長「じゃ、椎名姉妹、よろしくー。はい、これ、台本」

真冬「う、うぅ……ホントにやるんですか?」

深夏「うわ、なんだこれ! こんなの読んでられっかよ!」

会長「こら深夏! げないで! これを乗りえてこそ、ホンモノの副会長よ!」

杉崎「副会長のかくとまるで関係ないでしょう……」

深夏「……やるしかねーようだな」

杉崎「なんでなつとくしてんの!?」

真冬「真冬も……かくを決めました」

杉崎「なにキッカケで!?」

知弦「ふ……それでこそ椎名姉妹よ」

杉崎「なたはどうして変なところでだけ、思い出したように発言するんですか!」

会長「じゃ、いってみよー」


 ♪ たんなBGM ♪

『真冬……。あたし、もう……』

『あぁ、おねぇちゃん……。んっ! あ、はぁはぁ』

『真冬……わいいよ、真冬……』

『おねぇ……ちゃ……。……んん!』


杉崎「待て待て待て待て待て! 個人的にはドキドキワクワクだけど、これは、校内放送でやっていいレベルじゃないでしょう!?」

会長「う、うん……そ、そうね。こ、これは、なんか、やりすぎたわ」

真冬「えええええ!? こ、これだけやらせておいて!」

深夏「ひでぇ! そういうはんのうされると、あたし達、ほんかく的にいたたまれねーじゃねーか!」

知弦「……椎名姉妹のからみは、放送コードにひっかかるわね。そういうディープなのは、プライベートだけでとどめてくれるかしら」

深夏「かんちがいされるようなこと言うなよ! プライベートはこんなんじゃねー!」

真冬「そ、そうです! リスナーのみなさん、信じないで下さいっ!」

知弦「……そうね。うん。ここは、そういうことにしておくべきだったわね。けいそつな発言して、ごめんなさい、二人とも」

椎名姉妹『もうやめてぇぇぇぇぇぇ!』

会長「さ、さて、じゃあ、次のコーナー! 《杉崎鍵の『なぐるならおれを殴れ!』》」

杉崎「なんですかそのコーナー!」

会長「このコーナーは、校内でもしだれかを殴りそうなほどカッとしてしまったら、とりあえず、杉崎を標的にして発散しましょう、というコーナーです」

杉崎「俺のじんけんは!?」

会長「生徒のいざこざをかいけつするのも、生徒会の仕事。というわけで、今日もめ事がありましたら、二年B組の杉崎までごれんらくを──」

杉崎「するな──────────────!」

会長「仕方ないわね……。希望者もいないようだし、今日はこのコーナー飛ばすわ」

杉崎「なんで俺のたんとうだけ、そんなコーナーなんスか……」

会長「じゃあ、次は私のコーナー! 《桜野くりむへのファンレター》!」

杉崎「明らかに差別してね!? コーナーのかくはげしいですよねぇ!」

会長「とくめい希望さんからのお便り。こほん。『桜野くりむ様。貴女の可愛らしさを見るたびに、僕の心はいつもドキドキとときめいて──』」

杉崎「ファンレターと言うより、ラブレターじゃないですか! 誰だ! 俺の女にちょっかいかけるヤツは! いいきようだ! 出て来い! 俺が相手して──げふっ」

会長「な、なにを口走っているのよ、なたは!」

杉崎「だ、だって、俺の彼女にラブレターなんて送るヤツがいるから……」

会長「私は杉崎の彼女じゃないよ! ラジオ放送で変なこと言わないの!」

杉崎「すいません。カッとなってやりました。反省はしていません」

会長「なんでそんなにふてぶてしいの!?」

杉崎「うぅ……。で、でも、その、かんべんして下さい。その会長への手紙のコーナーは、俺がしつくるってしまって、えられません」

会長「う……」

深夏「…………どうでもいいけど、イチャついてないで、早く進めろよ」

会長「い、イチャついてなんかないわよ! 深夏まで変なこと言わないで! も、もう……調子狂うわね。こほん。……じゃあ、次のコーナー……」

真冬「あ、なんだかんだ言ってせんぱいの希望通り、手紙読むのやめてくれるんですね」

会長「う……。と、とにかく、次! 《学園 五・七・五》」

杉崎「……なんか、急に、つうの定番コーナーですね……」

会長「うん、ネタ切れだからね」

杉崎「言っちゃうんだ!」

会長「このコーナーは、リスナーが考えた、この学園にまつわるおもしろおかしい五・七・五を、しようかいするコーナーです」

杉崎「ぎやく感をいだくほど、ありきたりなコーナーですね」

会長「こほん。では、いきましょう。匿名希望さんからの五・七・五」


えちまえ メラメラ燃えろ 杉崎家』


会長「……らしい詩ですね。じようけいが目にかぶようです」

杉崎「…………」

会長「? えっと……杉崎? 私が言うのもなんだけど……ツッコマないの?」

杉崎「いえ……。…………。すいません。リアルに身のけんを感じて、テンションが上がりにくいです」

会長「あー……」

深夏「……ちょっと笑いのレベルをえていたよな、今のは……」

真冬「真冬も、じやつかん引いてしまいました」

知弦「まあ、でも、そうよね。キー君って、そういう立場よね、ほん。皆のあこがれの美少女達が集まるコミュニティにざいせきしているだけでもアレなのに、その上、自分から『こうりやくする』だの『ハーレム』だのせんげんしているんだから……ごう自得?」

杉崎「う、うぅ……。え、ええい! かまうもんか! ここは俺のハーレムだ! もんあるヤツ、けんなら買うぜ! だから──」

会長「だから?」


杉崎「火、つけるのだけは勘弁して下さい。すいませんでした」


会長「……杉崎がラジオなのに泣きながらしたところで、次のお便りいこうか。これも……ええと、匿名希望みたい。こほん」


『金が無い いきおあまって 人さらい』


杉崎「はんにんコイツかぁ────────────────────!」

会長「え? なに? どういうこと?」

杉崎「いや、だから、さっきのゆうかいけんの──。い、いえ、そんなことより、コイツの名前と住所! 書いてないんですか!」

会長「それはないけど……ついしんで『二万円も要求してやったぜ!』とは書いてあるわ」

杉崎「二万円かよ! 安いな、うちの生徒の妹のみのしろきん! なんで両親用意できねーんだよ!」

会長「私に言われても……。杉崎。世の中には、めぐまれない人もたくさんいるんだよ」

杉崎「そ、そうですけど! ……なんかこの事件……わりと浅い気がしてきました」

会長「そんなの誰もが最初から気付いているわよ。まあ、うちはラジオを続けましょう」

杉崎「……しゆうろくちゆうっていうか放送中に決着つきそうッスね……誘拐事件」

会長「では、最後の五・七・五です。こほん」


にさ 仕事をしろよ 生徒会』


杉崎「いつぱん生徒のなおはんのうキタ──────────!」

会長「まったく、失礼しちゃうわよね」

杉崎「いえ……俺が言うのもなんですが、すげぇ気持ち分かります」

深夏「あたしも分かる」

真冬「真冬も分かります」

会長「なによ! やるべきことはちゃんとやってるわよ!」

知弦「やらなくていいことも大量にやっているけどね」

会長「かいだわ。このコーナー、しゆうりよう

杉崎「そういうたいなんだと思います!」

会長「さて……じゃあ、そろそろ終わりも近いし、フリートークしましょうか」

杉崎「今までもじゆうぶん自由でしたけど……」

深夏「お、会長さん。メール来てるみたいだぜ」

会長「え? なになに?」

真冬「ええと、ですね。『妹が誘拐されていた件ですけど、無事かいけつしました』らしいです。良かったですね!」

杉崎「おお……解決したか。良かった良かった」

知弦「……ちっ」

杉崎「すげぇ聞こえてますけど、知弦さん。今のしたち」

知弦「なんのことかしら」

杉崎「ろくおん&放送されているっていうのに、なにその自信満々な開き直り!」

知弦「でも……ずいぶんあっさり解決しちゃったわね。どんな犯人だったの?」

真冬「ええと……よく分からないですけど、最終的には、さらわれた妹さんが、自分で、犯人をたたきのめしたらしいです。犯人さんは……今、重体です」

杉崎「二万円しかっただけの犯人────────────────!」

真冬「妹さんも、ほん的には犯人さんに遊んでもらっていただけのようですよ。でも……このラジオをたまたま聴いていて、自分が攫われていることに気付いて、あわてて、犯人をボッコボコに……」

杉崎「俺達のせいかっ!」

深夏「結局、なんで二万円欲しかったんだ、コイツは……」

真冬「えと……ですね。メールによると……うん、なんか、犯人は、しきを失う前、『この子の姉に……したままの二万円を……返してほしかった……だけなのに。ガクリ』とたおれたようです」

杉崎「いたたまれね──────! っていうか、しよあくこんげんは姉か! リスナーか!」

真冬「そのリスナーさんから送られてきたメールの最後は、『悪はほろびるのよ! あっはっは』でめくくられています」

杉崎「このラジオのリスナーはろくでもないな!」

真冬「ま、まあまあ。いつけん落着ということで……」

杉崎「……俺、この放送終わったら、犯人のとこい行くわ。助かってくれ……」

会長「こ、こほん。ええと……色々ありましたけど、このラジオも、そろそろ、お別れの時間が来たようです」

杉崎「やっとか……。短い番組の割に、おどろくほどディープだった……」

会長「最後は、『今日の知弦うらない』でお別れです。それではみなさん、また来週」

 ♪ しん的なBGM ♪

知弦「では、今日の知弦占いを。

 当校ののあなた。近日中に、『世にもみような物語』っぽいたいまれるでしょう。注意して下さい。タ○リを見かけたら全力でげなさい。

 ラッキーカラーは《殺意の色》。どす黒いか、しんか、その辺は各々のイメージにまかせます。

 ラッキーアイテムは《かく》。つねに持ち歩けるとなおよし。なたがメタルギアなら、それものうとなるでしょう。

 最後に一言アドバイス。


死なないで


 以上、知弦占いでした」


杉崎「こわいですよ! 獅子座の人間、今日が終わるまでビクビクですよ!」

知弦「また来週、この時間に会いましょう。……獅子座以外」

杉崎「獅子座ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!」


 ♪ ED曲 《弟ははつこつしていた》 ♪



「今日の放送はだいこうひようだったねー!」

 例の番組の放送があった後の放課後。会長は大満足の顔で、生徒会室でふんぞりかえっていた。知弦さんも、楽しそうにニヤニヤしている。

 しかし……俺と椎名まいは、すっかり、げんなりしていた。

 会長に聞こえないよう、小声で、深夏と会話する。

「(おい深夏……。あれ……好評だったように見えたか?)」

「(いや……少なくともうちのクラスは、ドン引きだったよな)」

「(ああ……皆、ちゆうはし止めたっきり、しよくよくなくして、結局、昼飯が食えてなかったな)」

「(会長さんは、なにをもって、大好評だと思ってんだ?)」

「(おおかた……会長と知弦さんのクラスは、二人に気をつかって、皆、あい笑いしてくれたんじゃないか?)」

「(ああ、なるほど……)」

 深夏がなつとくしたところで、会長がこちらにせんを向けてきた。おれたちはぎくりと体をこわらせる。

「二人のクラスではどうだった? 皆、だいぜつさんだったでしょう!」

「う……」

 そんなじゆんすいな目で見つめられると……こう、事実を言いづらい。さすがの深夏も、そっと視線をらしていた。

 俺はぎこちなく、笑う。

「え、ええ……。大人気でしたよ」

「そうでしょう!」

 いかん。これでつけ上がらせるのもまた、問題だ。

「ええ……そうですね。言うなれば、小学生のなりたいしよくぎようランキングにおける、『会計』と同じぐらい、大人気でしたよ!」

「それ、人気なの!?」

 会長は首をかしげていた。……うむ、うまくごまかした。深夏が「グッジョブ!」と俺をたたえる。

 しかし、会長のほこさきは、すぐに、真冬ちゃんに向いてしまった。

「真冬ちゃんのクラスでも、人気だったよね!」

「え」

 真冬ちゃんが、カチカチに固まる。……ああ、彼女のクラスも……うちと同じか。

 真冬ちゃんが、すごく、すごくいびつみをかべた後、ふるえながら返した。

「は、はい。そ、そうですね……言うなれば、スーパー○リオブラザーズにおける、《さかさメット》ぐらい、大人気でしたよ!」

「それは本当に人気と言えるの!?」

 真冬ちゃんも、うまいこと(?)かわしていた。……うそは言ってない。嘘は。

 会長はしかしすっかり気がゆるんでいるのか、「そっかそっかぁ」と実に満足げだ。……まずい。こりゃあ、もしかすると──

「じゃあ、第二回もやらないとねー!」

『…………』

 会長以外全員……今回は知弦さんもふくめ、たんそくする。知弦さんはあるていノっていたけど、それでも、二回三回とシリーズ化するとなると、話は別らしい。

 全員で、アイコンタクト会議開始。

(どうしますか……。会長、まだやる気ですよ)

(アカちゃんにしては、しゆうちやくが深いわね……。一回やれば満足するとふんでいたのだけれど。下手にクラスメイトが気を遣ったことが、うらに出たわね)

(どうすんだよ……あたし、もう、あんなのかんべんだぜ)

(真冬も、もう、無理ですぅ……)

 全員で、うーむと考え込む。会長は一人、じようげんで次のかくを練っていた。

 俺は……仕方ないので、きようあんていしてみることにする。

「会長」

「ん? なぁに、杉崎」

「その……ですね。こういうのは、ほら、たまーにやるからこそ、味が出るんじゃないかと」

「? どういうこと?」

「つまり、ですね。二回目をやるにしても、ある程度間をおいた方がいいんじゃないかと……」

「…………」

 俺の提案に、会長が考え込む。そのすきに他のみんなを見ると、皆、こちらにグッと親指を立ててくれた。……そう。会長は、すぐに流行に流される人間。ある程度期間さえおけば、すぐに、こんな企画はわすれてしまうだろうというもくだ。

 会長は数秒たっぷりなやみ……そして、がおで答えてきた。

「そうねっ! このラジオは、クオリティ重視だもんね!」

「え、ええ」

 そのわりには、クオリティがおどろくほど低かった気もするが。

「分かったわ、杉崎! 次は……そうね。一ヶ月は置いてからにしましょう!」

「そうですね」

 全員、むねで下ろす。

 こうして、この、けんすぎるラジオの第二回は、少なくとも一ヶ月はやらないことに決定したのだった。

 これで、未来はあんたい──


「じゃあ次は、生徒会のPRビデオのさつえいにかかりましょう! ようやく、えいぞうようの機械もそろったのよ!」


 ドンッと、つくえの上に置かれる、大きなビデオカメラ。

 …………。

『え?』

 全員、信じられないものを見たように、固まる。

 会長だけは……一人、ニッコリと、ほほんでいた。

「さぁ、これからが本番よ~!」

『…………』


 ……………………。


『いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!』


 じゃないのに、世にもみようげきまれた俺達であった。

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