【第二話~怪談する生徒会~】
「本当に
会長がいつものように小さな
正直その通りだとは思ったのだが、あまりに当たり前すぎる言葉だったので、
「あー、うん、ですよね」
「そうなのよ! 幽霊も化物も、結局は人間が生み出すからね!」
「いや、ちょっと
人間が怖いっていうのは、そういうことじゃないんじゃなかろうか。しかし、会長は実に満足そうに
俺のみならず、
会長がこんなことを言い出したのは、最近また生徒の間で七不思議の
七不思議。七つ
大して噂に
「
会長が
なぜか知らないが、会長は現在の状況がいたく気に入らないようだ。まさか本気でバイオハザード的
「(会長さん、なんであんなに張り切ってんだ?)」
「(さあ……。案外、
「(お、それは有力だな。どれ、
深夏はそう告げると、意地悪そうな
「はいはーい!」
「はい、深夏」
「会長さん、こんな話知ってるか? あるトイレに入った女子の話なんだけど──」
「わ、わわ! な、なんで急にそんな話をっ!
「脱線じゃねーよー。ほら、
「うぐ。……と、とにかくっ! 私は聞かなくてもいいの!」
会長の
生徒会メンバー全員の
『(これは
真冬ちゃんまでうずうずしていた。ああ……真冬ちゃん、怖い話とか好きそうだもんな。そして
会長以外の全員が、まるで会長の「怖がり」に気付かないふりをして、話をそれとなく会長の望まぬ方向へスライドさせていく。
まず、知弦さんが動いた。
「深夏の言う通りね。ええ、その通りだわ。まずは
「え、ええ!?」
会長があからさまに
俺はここぞとばかりに知弦さんに
「ですね。ここは、それぞれ知っている怪談を語ってみるべきでしょう」
「ちょ、
「ま、真冬も、やるべきだと思いますっ!」
「真冬ちゃんまで……」
会長がたじろいでいる。ここで俺は、トドメをさしておくことにした。
「あれぇ? 会長……もしかして、怖いんですか?」
「な──」
俺のトドメに、
「まさかぁ、キー君。生徒会長ともあろうものが、たかだか学校の怪談に
「う、うう?」
そこに更に、
「この
「ま、真冬も怖い話、大好きです。……小学生の
「うぐっ」
会長がだらだらと
「お、大人のこの私が、怪談なんて怖がるはず、にゃいじゃない」
知弦さんを見ると、彼女も軽く
俺達が見守る中、会長はいよいよ
「い、いいわよ、やろうじゃない。怪談。で、でも、そんなに時間があるわけじゃないんだから、せいぜい一人一つぐらいよ?」
「いいぜっ! じゃああたしからいくぞっ」
「え、ええっ、もう?」
「早くした方がいいだろう? あれ? 会長……怖いのか?」
「深夏、始めて」
会長が
「じゃあ、一番手たるあたしは気合いれていくぞ。
……この学校の家庭科室には、包丁がない。それはなんでか知ってるか? ……そう、家庭科
調理実習となればほぼ
ではなぜ、包丁は準備室にあるのか。それは……家庭科室に包丁があったがために起こった、ある
深夏がいつもの元気
会長がごくりと
深夏がその様子に軽くニヤリとする。会長は深夏のその表情に更に
「昔、ある女生徒……ここでは
「なんで仮にくりむちゃんとするのよっ!」
会長が
「くりむちゃんは、愛らしい女の子だった。体のメリハリと
「……なんか、話の
「で、そのくりむちゃん。バナナが半分しか食べられないくりむちゃん」
「
「彼女はある日、学校に
夜の学校は
その日もくりむちゃんは、いつものように忘れ物を取りに行った。
そして。
「ひぅ」
会長がびくんと
真のくりむちゃんが「ふ、ふん、それで?」と
「くりむちゃんは……家庭科室で死んでいたんだ。全身を
「な、なんか、いよいよ、くりむちゃんという名前設定がとてもイヤなのだけれど……」
くりむちゃん(真)が
「
当然くりむちゃんは
「…………」
会長が無言だ。よぉく観察してみると、なんか
会長が、こほんと
「な、なぁんだ。そ、その
「いや、
「え?」
「大変なことがあったんだよ……。事件の後、放課後家庭科室に残っていた生徒に……」
「な……なにが?」
会長がごくりと唾を飲み
「事件後、放課後家庭科室に残っていた生徒が、また死んだんだ。……今度は──」
「今度は?」
深夏が散々間を
「家庭科室中の包丁が
「っ!」
会長が
(んなわきゃあない)
会長以外、全員、ちゃーんと分かっている。そんな
「決まっているじゃねーか。それは……」
「それは……?」
「それは……」
深夏がそこでしばし
直後。
「おまえだっ!」
「ひぅっ!」
しかし会長は……。
「…………」
軽く口から
「わ、私が犯人って、そんなわけないじゃない! ば、
その会長の
「いやいや、そういうことじゃねーよ。つまり、犯人はくりむちゃんだって言いたかったんだ。そう……
「う……」
幽霊という言葉に、会長はまた言葉を失う。
深夏は話を
「とても
……それ
「…………」
また会長の魂が口からぽわぽわ出ていた。……相当
……なんていい
その後も、俺達は
真冬ちゃんは、人の体の中に入って自殺を
で、俺はと言えば──
「くりむちゃんという少女がいました。彼女は……杉崎
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
たった一文で、一番会長を怯えさせてやった。
なぜか皆の目が「それでいいのか、お前」と言っていた気がするけど、いいのだ。
「くりむちゃんは、
「ひぃっ!」
「くりむちゃんは、失言問題で生徒会長を
「ひゃあ!」
「くりむちゃんは、
「いやああああ!」
「くりむちゃんの歯ブラシを、杉崎鍵がべろべろ
「きゃあああああああ!」
「くりむちゃんの最後の言葉は、『ふぅ、
「
「くりむちゃんの人生は、
「誰の!」
「くりむちゃんは
「
「くりむちゃんは、実はくりむちゃんじゃありませんでした」
「なんか一番怖いわそれ!」
俺の口から次々
なぜか、知弦さんや椎名
会長いじめをたっぷり
会長はすっかり使い物にならなくなったので、俺は知弦さんに話しかけた。
「でも、皆好きですよね、
知弦さんはサラサラとした
「スリルって言葉あるでしょ。安全が保証された
「でもその『スリル』からして中々不思議な感覚ですよね。いくら安全が保証されているとはいえ、怖いことが楽しいことになるって、なんか
俺の言葉に、真冬ちゃんが「
まだ一人ぶるぶる震えている会長を見ながら、俺は、むしろ会長こそまともな人間なんじゃないかと感じていた。怖い話を怖がって
「そういう意味じゃ……今のこの学校の
「そうね……。そうかもしれない」
知弦さんが同意する。
「怖い話を楽しむ
「そ、そんな考え方やめろよー、二人とも」
深夏が少し怯えている。しかし、真冬ちゃんも「そうですね……」と呟いた。
「真冬は怖い話大好きですけど……どうして大好きなのかは、あんまり説明つかないです。もしかしたら……それこそが、
俺達は
そんな沈黙の中で声をあげたのは、とても意外な人物……会長だった。
「ほら、だから言ったでしょう! 一番怖いのは人間だって!」
なぜかとても
「
深夏の呟きが
今日の議題の
怖い話の
……しかし。そう結論がでたものの、シュンと元気のない会長が、俺は気になっていた。……悪いことしたかな。いじめすぎたか。イヤな人は……本当にイヤなんだもんな、怖い話。
それに会長のような人からしたら、怖い話自体は
…………。
怖い話の止め方、ねぇ。
*
「なんか急にクラスで
例の会議から二日後、会長は
会長はすっかり血色が良くなっていた。どうやら、怖い話を聞かなくなったことが相当嬉しいらしい。
「でも……なんでこんなに急に
「沈静化……ね」
「?」
「いえ、なんでも」
俺は
それを止めるほどの
そんなの。
怖い話しかないじゃないか。
「やー、本当に良かったー。風紀の
「そうですねー。良かった良かった」
会長の
……だって。
俺は、新たな七不思議を作ってしまったのだから。
会長が
俺がしたことは、
話の中身を要約すると、つまりは、「七不思議を
その怪談の終わりの
『七個目超えたら安全なんて、
これが、俺の作った話の原型。今となってはもう……めぐりめぐって、もっと怖く洗練されていることだろう。
でも、そういう変化では、話の
結果。この話で、軽くでも怖くなった人が多いのか、怪談ブームはなりを
だから……。
「やっぱり楽しい話題が一番だよねっ」
上機嫌な会長を
「でも不思議だなぁ。怪談、昨日まで皆あんなに話してたのになぁ」
無邪気に首を
人間。
怪談を聞きたがる人間。
怪談を話したがる人間。
怪談を怖がる人間。
怪談を
そして。
怪談を作り
「会長ぉ」
「うん。なぁに、杉崎」
俺はテーブルに
「やっぱり会長の言う通り、一番怖いのは人間っすね。いや、勉強になりました」
「? え、えへん! そうでしょう! ようやく分かってきたじゃない、杉崎!」
あんな
会長の
会長は、俺に笑顔を向けているのだ。
俺も、会長に笑顔を向けているのだ。
なんだこれは。
(あー、やだやだ。こういう役回りは
俺は気を
「…………」
深夏の
包丁を
しかし同時に。
包丁を家庭科室に置いて帰ってみたいなと考える自分も確かにいて。
……人間って、
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