【第一話~駄弁る生徒会~】

「世の中がつまらないんじゃないの。なたがつまらない人間になったのよっ!」

 会長がいつものように小さなむねってなにかの本の受け売りをえらそうに語っていた。

 しかし今回はめずらしくかんめいを受けるおれ。なるほど、その通りだ。

 俺自身がけいけんを積むことで、なにも楽しいと思えないつまらない人間になってしまったのだろう。

 世の中、なんだかんだ言って「初めて」ほど楽しいことはない。

 初めてのれんあい

 初めての親友。

 初めてのこう

 初めての成功。

 初めての……エロゲ?

 まあなんにせよ、いつだって思い返すとこう思う。

「昔は楽しかった」

 いくえんに入った時、自分と同じたいかくの人間が大量にいるのにびびった。

 小学生になった時、ランドセルをうのがあんなにうれしかった。

 中学に上がった時、バスの定期をていすると大人になったような気がした。

 高校に受かった時、他者をとして結果を勝ち取るということのえつらくを覚えた。

 で、そういう意味でいうと……。

「じゃ、どうていもそんなに悪くないってことですか?」

「ぶっ!」

 俺のしつもんに、会長は思いっきり茶をき出して、げほげほとむせていた。相変わらずアドリブにはめっぽう弱い人だ。二人きりだから、今日はけいにからかいやすい。

 会長はなみだだ。目の前のながづくえをティッシュできつつ、俺をにらみつけてくる。

「今の私の言葉から、どうしてそんな返しが来るわけ?」

あまいですね会長。俺の思考回路はほん、まずはそっち方面に直結します!」

「なにをほこらしげに! すぎさきはもうちょっと副会長としての自覚をねぇ……」

「ありますよ、自覚。この生徒会は俺のハーレムだという自覚ならじゆうぶん──」

「ごめん。副会長の自覚はいいから、まずはそっちの自覚をてることから始めようね」

 会長が今日もしんに俺にツッコンで来てくれていた。やっぱりわいいなぁ、会長。

 俺よりがらでちんまりしたたけ。その上、自分のおさなさを必死でおぎなおうとびしまくった言動や、果ては生徒会長にまでなってしまった空回り具合が、いつそうえるのだ。

 そう、萌え。そんな言葉がげんじつで当てはまる女子なんて、そうはいない。その可愛らしさは、すでに全校生徒のみとめるところだ。あまりに可愛すぎる。会長を一度生で見たら、もうまんやアニメの萌えキャラにときめくことは出来ない。はんそく少女。

「会長ぉ」

「なによ」

 会長は茶を拭いたティッシュを丸め、生徒会室すみのゴミ箱にシュートしようとねらいを定めている。かたつぶってマジで狙っているのが、やたら可愛い。

 そんな会長に、俺は机にひじをついたまま、よくようもなく告げた。

「好きです。付き合って下さい」

「にゃわ!」

 見事にゴミ箱とは反対方向へ飛んでいくティッシュのかたまり

 会長はまた俺を涙目で睨みつけていた。

「杉崎は、どうしてそぉけいはくに告白ができるのよ」

「本気だからです」

うそだ!」

「『ひ○らし』ネタはみように古いですよ、会長」

 それに涙目でぷるぷるふるえながら言われても、まるでさんげきの予感がないし。



「杉崎、この生徒会に初めて顔出した時の、第一声をわすれたとは言わせないわよ!」

「なんでしたっけ? ええと……『俺にかまわず先に行け!』でしたっけ」

しよぱなからどんなじようきようなのよ生徒会! ちがうでしょ!」

「あれ? それじゃあ……『ただの人間にはきようはありません。ちゆうじん、未来人──』」

けんよ杉崎! 色んな意味で!」

だいじようです。原作ですから」

「なんのしよう!? あとアニメの出来は神だよ!」

 会長も見ていたらしかった。……いや、この話題のり下げ、まずくないか? レーベルを間違ってないか? さっさとあの時のことを思い出そう。

 ……そうだそうだ。俺、たしかあの時、生徒会に集まったメンバー……四人の美少女に向かって、こうせんげんしたんだっけ。


みんな好きです。ちよう好きです。皆付き合って。ぜつたい幸せにしてやるから」


「そうよ! あの時点で、この生徒会になたのいいかげんさは知れわたってるのよ! だれでもいいから付き合えって堂々と言う人間に、誰がなびくっていうの!」

「失礼な。誰でも良くはありません。ス○ーカー文庫的に言えば、『美少女以外に興味ありません』」

「可愛いなら誰でもいいってことでしょうがっ! あと、やるならせめてファンタジア文庫的なたとえで行きなさい!」

いちなんです! 美少女に!」

くくりが大きいわ!」

しようしゆですよ、美少女」

「そういう問題じゃない! ふくすうの人間に告白している時点で、せいじつじゃないのよ!」

「ええー。ふらふらしている主人公より良くないですか? 最初からこう、バンと、『俺はハーレムルートを狙う!』と宣言している方が、いさぎよいでしょう?」

「残念ながら貴方はギャルゲのモテモテ主人公とはスペックが違うわ!」

「じゃあなんの主人公だと言うんですか! こんなに女の子が好きなのに!」

ほん的に主人公じゃなくて悪よ! とうされる側よ! それか主人公の軽い親友タイプよ! リアクションがいいたぐいのギャグ要員よ!」

 会長はとてもくわしかった。

「顔はいいのにぃー」

の力よ!」

 それを言ったら美少女キャラたる会長こそ……と思うものの、まあいいだろう。

 俺はしやべりながらも会長のはずしたティッシュを拾いに行くと、それをきんきよからゴミ箱にシュートした。

「…………」

 会長がふくざつそうに俺を見ながら着席する。俺は自分の席にもどりつつ首をかしげる。

「どうしました? 会長」

「……杉崎は、たまに気がくっていうか、やさしいわよね……しきに」

「ええ。そういうギャップって、好感度のじようしようはば大きいでしょう?」

「狙い!? しまった! すでに私の中の好感度はいくらか上昇してしまっていたわ!」

「ふふふ……。ま、じつさいそれはおおにしても、多少はたしかに狙っていますよ。というか、昔からのクセですね。じよせいにモテるための。今やほとんど無意識ですね」

「ふぅん……じんじようじゃないエロパワーね」

「ええ、尋常じゃないせいりよくですよ、俺は。ハーレムルートの行き着く先では、やはり体力が必要になりますからね」

「あー、なんのための体力かは、言わないでね」

 会長はロリなよう姿通り、この手の話がだ。耳をふさりをしている。……わいい。

 しかし……。

「会長。そのたいおうが既に、俺が言わんとしていることを分かっているあかしでは……」

「…………。……はぅ」

 赤くなってしまった。もじもじしている。……可愛いなぁ。ホント可愛いなぁ、会長。俺が血のにじむ努力をして生徒会に入った理由だって、この会長が原動力になっている部分大きいもんなぁ。

 そんなわけで引き続き会長をいじっていると、まことに残念なことに、二人の時間をじやするように生徒会室のとびらが開いた。

「キー君。あんまりアカちゃんイジめちゃだめよ」

 そう言いながら、会長と同じ三年の、書記である女性、づるさんが入ってきた。

 ちなみにキー君とは俺のこと。俺の名前は「鍵」と書いて「けん」だから、キー君。

 で、アカちゃんは会長のこと。これも、会長の名前が「くりむ」だから、クリムゾン=しんで、アカちゃん。どちらもすごたんじゆんなあだ名なのだけれど、知弦さんは気に入っているようだ。会長自身は「赤ちゃんみたいじゃない!」とおこるのだけれど、ロリな容姿でそんなことを言われると、俺も知弦さんもけいに「(ぴったりだ)」と思うのであった。

 ただ、ほん的には同級生はみようで、下級生は名前でぶ人だ。それだけに、彼女にあだ名でばれると凄く光栄な気がするのだが、知弦さんいわく「別に友好度で区別しているわけじゃない」らしい。……女はみすてりー。

 さてその知弦さん、会長とは正反対の人間だ。長身で、出るとこ出てまるとこ締まって、さらにロングのくろかみのサラサラと流れるしつかんが、れてしまうほど大人のりよくを振りまいている。せいかくも、クールでありながら優しさも持ち合わせているという……。

 会長とは別の意味で、理想の美少女と言える人だった。いや、美少女というより、美人と言うべきかもしれない。

 対面の席に彼女がすわったのを見計らって、俺ははんろんする。

「いじめてなんかいませんよぉ。ただ、はずかしめていただけです」

「ある意味余計に悪質じゃない」

だいじようですよ。同意の上でですから」

 俺がそう説明すると、会長がまた「うそだっ!」とさけんできたので、これに関してはスルーすることにした。

 会長がいじけている間に、知弦さんと話すことにする。

「しかし、今日はどうも集まり悪いですね、俺のハーレム」

「キー君のハーレムじゃなくて生徒会ね。いいんじゃないかしら? 別にこれといってイベントもひかえてないし。集まっても、結局お食べて喋るだけじゃない、最近」

 そう言いながらも、知弦さんはさつそくかばんから出したミネラルウォーターを一口飲む。

「分かってないですねぇ、知弦さん。基本的に好感度は、ちよくせつ会わないとじようしようしないんですよ。ほら、ギャルゲだって、よくどう場所でヒロイン決まるでしょう?」

「当然のしきのように言われてもこまるけど」

「つまり、生徒会室に来ないことには俺との愛をはぐくめないわけで、となれば彼女らはイベントなんて無くたってここに来るべき──」

「だから来ないんじゃないかしら。むしろ」

 さらりとひどいツッコミを受けた。知弦さん……会長のようにあからさまなツンではないのだけれど、それだけに、たまに酷い。心的ダメージは地味に高い。

 俺はコホンとせきばらいし、ポジティブシンキング。

「でも、知弦さんは俺との愛を育みに来てくれたわけですね!」

「…………。……あ、うん、そうね」

 ていされるより酷かった。すげぇ上の空だった。鞄からスナック菓子を出してそれをつまみつつ、宿題らしきものをカリカリ始めながらの言葉だった。

「く……。しかしこういうクールキャラこそ、れたらはげしいにちがいない!」

「あ、それはせいかい。激しいわよ、私。小学校で、はつこいの子に一日三百通『好きです』だけをれつした手紙わたして、果てはせいしんほうかいまで追いんだから。意外ともろかったからそこで恋は冷めちゃったけどね。……なたはどうかしら」

 細目で口元にうすら笑いをかべながら俺を見つめる知弦さん。

 会長の「ひ○らし」ネタよりよっぽどこわかった。

 仕方ない……。

「分かりました」

「え、この話聞いた上でかく出来たの? 私のすべてを受けれるって? それ、ちょっとポイント高いわ、キー君。確かにキー君フラグが私の中でじやつかん──」

「知弦さんとは、体だけの関係を目指すことにします! 心はいりません!」

「…………。……さ、次の問題は、と」

 れいなるだった。まあいい。しかし……体だけの関係を目指すのって、下手したら彼女作るよりむずかしくないか? ……むぅ。

 そんなことを考えていると、ふと、会長が勝手に知弦さんのスナック菓子に手をばしているのに気がついた。おれはスナックが彼女の口に入る直前で、ちゆうこくする。

「太りますよ」

「うぐっ。……だ、大丈夫。栄養を、むねに回すんだもん!」

「いいですけど。はら回りに回った時のリスクは、多大なものがありますよ」

「だ、大丈夫! 私ほら、太りにくいから!」

「胸と背も発達しにくいですがね」

「……ええい! はむ!」

 あ、食べちゃった。

「……次の問題の回答は……よし、『メタボリックシンドローム』、と」

「…………」

 知弦さんがノートに目をやったままで、酷いことを言っていた。……本当にそんな問題があったのだろうか。

 会長は、スナック菓子一まい食べただけで、えらいテンション下がっていた。……結局なやむなら、食わなきゃいいのに。

 俺はぷるぷるしている会長のかたに手を置く。

「大丈夫ですよ、会長。もし、もらい手がなくなったら……」

「え? もしかして……太った私でも、好きって言ってくれるの? 美少女じゃなくなっても? 杉崎……あなた……」

 うるうるとなみだぐむ会長。俺はニコッと笑いかけてあげた。

「もらい手がなくなったら……仕事に、生きて下さい」

「リアルなアドバイス!?」

「俺、かげながらおうえんしますから!」

「陰からなんだ! 私、ほんてられたんだ! 太った私にはないんだ!」

「まあ、ですから太らないようにがんって下さいっていう、俺なりのしつげきれいですよ」

「あうー」

 会長が肩を落とす。じつさい、会長ならちょっとぐらい太っても、それはそれでわいらしい気もするのだけれど……だからといってだんされては、俺のハーレム要員として困る。俺のハーレムメンバーは、それぞれ、自分をみがき続けなければなのだ! 母になったら女を捨てるようなしきでは生き残れないのだ!

「頑張れ、俺のハーレムにとどまるために!」

「あ、なんか急に太ってもいいような気がしてきた」

「…………」

 どうしてみな、こうツンばかりなのだろう。そろそろ一人ぐらいデレてくれないと、俺はさびしくて死んじゃうぞ。モテないギャルゲの主人公ほど、みじめなものはない。チャンスがたくさんあったのに、最終的に親友エンドに行っちゃうような人生は、むしろモテない人生よりさんだと思うのだ。

 知弦さんはほんかく的に宿題に取り組み始め、会長は開き直って食べ始めたスナックちゆう

 とてつもなくひまなので俺が次の話題のネタを考えていると、また戸がガラガラと開き、今度は二人の女子が入って来た。

「おっくれましたぁー」

「す、すいません」

 対照的なたいで入ってくる二人。

 前を歩く元気少女、しいなつは俺と同じく副会長で、さらに俺のクラスメイトでもある。長いかみをツインテールに分けており、「この生徒会」に入っていることから分かる通り、当然美少女。

 特定の部活こそ入ってないものの、運動しんけいが良くボーイッシュ……というか男口調。かいかつさわやかなことから、男子人気もさることながら、女子人気もかなり高い。しかもなことに、その本人からしてじやつかん気味なため、人気はうなぎのぼりだ。

 ただ……それだけに、俺みたいな男はきらいらしく、同じクラスで同じ副会長という立場も手伝って、すぐに俺とてきたいするけいこうにある。せいとうのツンデレだ。……デレる気配がじんもないのは問題だが。

 そしてそのはいからペコペコと俺達に頭を下げつつ、俺とせんが合うとあせってはずしてしまう少女が、椎名ふゆ。深夏の妹で一年。会計というやくしよくめいこそあるものの、まあ、この生徒会ではあまりぶんたんは関係ない。

 この子がまた、姉の深夏に全部元気をい取られて生まれてきたようなはかなげな子で、その上だんせいが苦手という、一部男子のきんせんれまくる子なのだ。まあ……男性嫌いのげんいんは、かくじつに姉なのだけれど(姉の百合しゆどくにかかり、男性は怖いものだと思いこまされているみたいだ)。

 しきうすいストレートヘアーと白いはだ、そしてちょこんとつけたリボンがチャームポイント。自分のことを「真冬」と名前でんじゃうところもじようにグッド。そんなどもっぽさとわいらしさを持つため、皆彼女を「ちゃん付け」で呼んでいる。なんだか「さん付け」とか「呼びて」がしっくりこないのだ、この子は。ゆいいつ、姉である深夏だけは「真冬」と呼び捨てるが、これはなぜかしっくりくるのだから不思議だ。

 その椎名まいが定位置につくと、俺は二人に話しかけた。

「そうそう、深夏と真冬ちゃんは、『初めての時はあんなにおもしろかったのに』みたいなことって、なんかあるか?」

 最初の話題にもどることにする。

「なんだよ、やぶからぼうに」

 俺のとなりすわった深夏が、しんそうに俺を見てくる。

「いやさ。会長が、世間がつまらなくなったんじゃなくて、自分がつまらなくなったんだ、なんて久々にいいこと言うものだからさ」

「久々とは失礼なっ!」

 会長がまたなんかさわいでいたけど、。椎名姉妹は二人して「う~ん」と考え込んでいた。

 俺のななめ前に座っていた真冬ちゃんが、最初に答えを返してくる。

「ま、真冬はおしよう……コスメですかね」

「化粧?」

「はい。子供のころは母親がしているのを見て、すごくしたくてしたくて仕方なかったんです。それで、中学生の頃、初めて自分のコスメを買ったときはうれしくてたまらなかったんですけど……。よく考えると真冬、あまり自分をかざるのって好きじゃなかったみたいで。最近だと、さいていげんのことしかしたくないといいますか……」

「ああ、なるほどね。真冬ちゃんらしいなぁ。だいじようだよ、真冬ちゃん! 真冬ちゃんは、化粧なんてしなくてもじゆうぶん可愛いから! むしろ、真冬ちゃんの本来のぼうかくしてしまう化粧なんて、無い方がいい!」

「あ、ありがとうございます……」

「こらけん! あたしの前で妹くなよ!」

 真冬ちゃんが俺の言葉にほおめてちぢこまっていると、そこに深夏がつっかかってきた。いつものことだ。俺はたんそくして、隣の席の深夏のかたに手を置く。

「まあまあ。しつするな、深夏よ。……お前もちゃんとりよく的さ!」

「いやいや、嫉妬じゃねーから!」

「深夏にも、けつこんすれば真冬ちゃんが義妹になるという大きな魅力が──」

「しかもあたしの魅力じゃねぇ!」

 深夏はすごおこっていた。……可愛い女だ。そんなにヤキモチやかなくても……。

「ヤキモチじゃねーって!」

「おお! ついに以心伝心まで! ゴールインは近い!」

こわいよもう! なんかお前怖いよ! 思い込みのはげしさが怖すぎるよ!」

「思い込み? ……仕方ない。そういうことにしておいてあげるよ。照れ屋さん♪」

「こ、殺したい……」

 俺の言葉にふるえる深夏を、真冬ちゃんが必死でなだめている。

 さて、なんだかんだで生徒会メンバーは今日もきちんと集まった。

 俺は自分を囲む美少女四人を見て、一人、えつる。

「ううん、ハーレムばんざい。いつ見てもいいねぇ、この光景。頑張って生徒会入って、本当に良かったなぁ」

 俺の言葉に、知弦さんが「そういえば」と返してくる。

「キー君は《ゆうりようわく》で入って来たんだっけ。……とてもそうは見えないのに」

「そうだよなー。コイツ、どう見てもただの色ボケ男だよなー」

 深夏が同意し、真冬ちゃんはしようしていた。

 俺がはんろんしようとすると、会長がバンッとつくえに手を置く。

「散々言ってきたことだけど、やっぱりこの学校の生徒会役員せんばつじゆんはおかしいわよっ! 人気投票からしておかしいけど、《優良枠》にしても、せいせきだけじゃなくてメンタル面までひように加えるべきだわっ!」

 会長が、すでに何度目か分からないもんを言う。俺はそれにお決まりの反論。

「俺はこのシステム、最高だと思いますけどね」

 この学校の生徒会役員選抜はとても変わっている。

 まず、ほん的にはじゆんぜんたる《人気投票》で生徒会メンバーを決める。ただしこれは、ほぼ必ずよう姿で、可愛い女子に決まってしまう。つまり、ぶっちゃけただのミスコンだ。

 れいじよせいっていうのは、男子女子共通のあこがれみたいなところがある。美男子は、おうおうにして男子から反感を買うしな。やはり可愛いはせいだ。

 しかもこのシステム、実はけつこう理にかなっている。いくら容姿で選ばれたとはいえ、選挙活動も何も無いため、生徒達はじゆんすいに日々の生活から、憧れる人を自分で決めて投票するわけで。

 となると、その「憧れの生徒達」が上に立っていれば、案外みな生徒会の言うことをちゃんと聞く。それに……ぶっちゃけ、生徒会の仕事なんてだれでもやればなんとかなるものだ。容姿で選んだとて、大きな問題はない。カリスマせいさえあればいいのだ。

 結果、生徒会は美少女の集まる場となるわけで。

 しかし、やはりきようてんはある。それが、《優良枠》。各学年の成績ゆうしゆうしや……年度末の試験のトップ成績者は、本人が希望すれば、生徒会に入ることが出来るようになっている。これにより、優秀な人材も取り入れられるように、表向きはなっているのだが……。つう、そこまで頭いいヤツってのは勉強に入れんでいるわけで、希望者なんていやしない。

 だがそこに、年度末でトップをとって希望を出したのが……この俺、杉崎鍵だというわけだ。理由はかんたん。それは……。

「しかし、鍵もよくやるよなぁ。そのパワーはじんじようじゃねーぞ」

 深夏があきれたせんで俺を見る。会長もたんそくし、「まったくだよ」とつぶやいていた。

「俺は、《自分以外全員美少女のコミュニティ》に入るためなら、なんだってしますよ。ええ。入学当初ほとんど最下位の成績でも、一年でトップに上りめるぐらい、朝飯前です」

「……な、なんか真冬、たまに杉崎せんぱいすごく大きく見えます……」

「真冬っ! それはさつかくだ! 鍵なんかに憧れるなよ!」

 深夏がじように失礼なことを言っていた。

「頭いいのは事実だぞ、深夏よ」

「動機がじゆんなんだよ! そんな心持ちで生徒を束ねる生徒会にざいせきしようなどと……」

せいだって、よくじよせい問題でスキャンダルになるだろう? 人間、多少エロい方が、人の上に立ちやすいんだよ。俺も、中年になっても、手鏡で女子高生のスカートの中をのぞくようなハングリーせいしんだけはわすれたくないものだ」

「悪い見本をりだすな!」

 深夏の言葉を受けて、会長も「そうだ!」と乗ってきてしまった。

「成績いいってだけで入れちゃうのは、やっぱり変だよ! そのせいで、杉崎みたいなもんだいが入ってきて……」

「生徒会の全員をメロメロにしちゃったのは悪いと思っていますが……」

「誰一人なってないわよ!」

「ええっ!」

「なにそのしんせんおどろき! 自信じようはなはだしいわね!」

「まさか……そんな……。……まだ会長だけしかオチてなかったなんて……」

「私もオチてないわよ!」

「ええぇっ!」

「マスオさん的な驚き方、やめてくれる?」

「そんな……会長。じゃあ、あの夜のことはなかったことにするというんですか……」

「な、なによそれ」

 会長がおくさぐるよう引き下がる。

 みなが見守る中、おれは言ってやった。

「あの夜、会長、ゆめの中で何度もはげしく俺を求めたじゃないですかっ!」

「ここにはんざいしやぐんがいるわ! ストーカーのたまごがいるわっ!」

ひどい! 俺のじゆんじようもてあそぶなんて!」

「むしろ私が弄ばれているんじゃないかしらっ!」

 会長がさけつかれ、ぜぇぜぇと息をしながら着席する。会長はがらなだけに、体力もない。ちょっとこうろんに持ち込めば、し切れてしまうのだ。

 その様子を見かねたのか、知弦さんがノートをぱたんとじて話しかけてくる。

「キー君。私は別になたのこときらいじゃないけど、もうちょっとせいじつに立ち回った方が利口だと思うわよ? ハーレムを作るにしても、それをせんげんしちゃうんじゃなくて、むしろ誠実さで落として行くのが、王道というものじゃないかしら」

「う、ううむ……。知弦さんの意見も一理ありますけど……。しかし、どう取りつくろっても、これが、俺ですから! このよくぼうに満ちた姿すがたが、本当の俺ですからっ! 自分、不器用ッスから! そして、せいよくちゆうじつッスから!」

しんからこってりくさりきっているなお前」

 深夏が冷たい目で俺を見ていた。ああ、ツンだなぁ。皆してツンの時期だなぁ、まだ。

 いいさ。俺の人生のバイブルたるギャルゲ……いや、実はエロゲ(ねんれいせいげんはツッコマないでしい)もそうだろう。最初からハーレムなんじゃなくて、ツンだった人間が、じよじよにデレていくていが、実は一番しいところなんだ。そういう意味において、俺は今とても幸福な位置にいる。

「ふふふ……これから次々と、生徒会メンバーは俺のの手に落ちていくのさ……」

「魔の手とか自分で言い始めちゃいましたね……」

 真冬ちゃんがしようしていた。

「ま、あんまりにデレないと、すみやかに学園りようじよくモノに早変わりするプランも──」

すがすがしいほどどうだな、てめぇ」

 深夏のツン度がメーターをり切りそうだった。

 俺は彼女に「ちっちっち」と指を振る。

だいじようさ、深夏。そうならない手は考えてある。……実はこういうけいとうの物語は、全員の好感度を徐々に上げるんじゃなくて、『一人一話』形式で上げていくんだよ」

「なに?」

「ギャルゲにかぎらず、学園ドラマでもそうだろう? きようは、一話で一生徒のなやみをかいけつして、徐々にクラスにけ込んでいくんだ。そして最終回では、クラスの生徒全員が先生にかんしやしまくるという、ある意味ハーレムエンド」

「学園ドラマの最終回をえらくけがされた気分だぞ、おい」

「そうさな……まずわりげんてんで好意的な真冬ちゃんあたりを皮切りに、会長、深夏、そして知弦さんと、徐々になんが上がっていく感じで問題を解決していき、気付けばあら不思議、皆俺のとりこに……」

「どうでもいいが、あたしが知弦さんよりこうりやくしやすいと思われているのが、軽くしやくだぞ、こら」

「真冬は……最初にオトされちゃうのですか……」

 真冬ちゃんがなぜかぶるぶるとふるえていた。しやぶるいかな。

 会長は、まだつかれているだろうに、やはりつっかかってきた。

「どうして私が真冬ちゃんの次に攻略しやすいのよっ! なつとくいかないわっ!」

「え? だって会長……すでに俺のこと、気になり始めているだんかいでしょう? 俺が例えば他の美少女と歩いていたら、げんになるぐらいの位置でしょう?」

「杉崎が他の美少女と歩いていたら、私は速やかにけいさつれんらくして、その美少女のようせいするわよ!」

「会長はしつ深いなぁ」

「……あー、杉崎を一番むごいバッドエンドに送りたい」

 会長がとても暗い目をしていた。なんかゾクリとしたので、あわててせんらす。

 そろそろ誰も味方がいなくなってきたので、話題も変えちゃうことにした。

「でも、俺が一番きようするのは、最初に会長が言った通りのことなんですよねー」

「? なに? どういうこと?」

「つまらない人間になる……つまり、めぐまれたかんきようにいても、それを恵まれていると思えなくなること、というんでしょうか。今の話でいけば、俺は今……生徒会に入ってまだ一ヶ月たる今は、このハーレムじようきようが楽しくて仕方ないっすけど。いつか……いつか、この状況をあたり前と感じるようになったら、と思うと」

「あー。まあ、分からないじゃないかな、それは」

 会長はめずらしく俺の意見に同意してきた。そうして、たんそくする。

「そういうのは、気をつけてどうにかなることじゃないからね。生活ランクと同じよ。一度ゆうふくな生活をした人間は、たとえしゆうにゆうが落ちても、今の生活じゆんをなかなか下げられないのといつしよで」

「また、えらく美少女ロリ学生らしくない例出してきましたね」

「うちがそうだったのよ。けいえいしやだからね、うちの父さん。良くも悪くも、しずはげしい収入っていうか」

「なるほど。それで会長は、美少年を金ではべらすしゆいまだにやめられないと……」

「杉崎と一緒にしないでよっ! なにその趣味! 私悪女じゃない!」

「それに、男のほおを札束でペシペシたたせいへきも、変えられないと……」

「どんだけ私ぞくなのよ! いくらなんでも、そこまでのスケールじゃないから!」

びんぼうな今は、ゆいいつ、家にしんにゆうしてくるアリの手足をもぐことだけが生き……と」

「もうただの根暗女じゃない私! お金とかそういう問題じゃないじゃない!」

 会長がまた全力でさけんでつかれている。……こんなにいじり甲斐のあるせんぱいも珍しい。

 しかし、たしかに、一度上のランクにいたると、そうそう自分から下にはもどれない。つまりはそれが、つまらない人間になるということなのだろう。

 すぐそこにある幸せが、目に入らなくなる。上に行っても上に行っても、まだ上に行きたくなる。でもいつかげんかいは来るから……そこでていたいしてしまった時、そいつは世の中がつまらないと感じるだけの、「つまらない人間」になってしまうのかもしれない。

 でも……。

「ま、真冬は、そうなりたくないですけど……でも、どうやったら、そうならずにいられるのか、よく分かりませんね」

 真冬ちゃんがらくたんする。その通りだ。上を求めるのなんて人間なら当然のよつきゆうだから、歯止めをかけるなんてむずかしい。知弦さんが、「最終的には《さとり》とか、そういうせいしん的なきわみのきよういたるしかないんじゃないかしら」と、もっともなことを言っていた。

「えー、つまんねーな、なんかそれ」

 深夏がむくれている。……確かにつまんない。どうせなら……まだわかいからかもしれないけど、俺は、悟りなんか開かずに、いつまでもウハウハやっていたい。

 知弦さんが続ける。

「ま、一部の人間……勝ち組と呼ばれるような人は、どんどん上に行き続けるけどね。たいがいの人間は、どこかできようして、そこそこ幸せにやるのよ」

「そこそこ幸せに……ねぇ」

 俺も、結局はいつぱんの中にまいぼつするのだろうか。

 大して大手でもない会社に行って。

 中の上くらいの給料もらって。

 手ごたえのない仕事して。

 がんってのしあがってもせいぜい課長くらいで。

 どんなに仕事しても世界は変えられなくて。

 自分が消えても代理がたくさんいて。

 でもそんなかんきようからけ出すほどの勇気や気力もなく、まあいいかと、日々をごして。

 ………………。

だな」

「え?」

 俺のつぶやきに、全員がこちらを見る。俺はそのせんを一身に受け……そして、思い切り立ち上がった!


「俺は美少女ハーレムを作る!」




 高らかにせんげんする!

 深夏が、「や、かいぞくおうになるみたいなノリで言われてもな……」とあきれている。他のメンバーも「またか」と言った様子で俺を見ていたが、それでも俺は、続けた。

「妥協するにしても、俺は高い所で妥協してやる! 美少女をはべらせて、いつか、『あー、美少女にもきたな』って言えるところまで上ってから、妥協してやる!」

「……なるほどね。とりあえず行くとこまで行ってみようってことね。いいんじゃないかしら。好きよ、そういうの」

 知弦さんがなぜかほほんでいた。おお、なぜかポイントアップ? 相変わらず、ねらわないところでひよう受けるな、俺。

 深夏もまた、「まあハーレムはさておき、そのスタンスは悪くないな」と笑っている。真冬ちゃんは「そうですよね……今からなやんでいるより、とりあえずは上にいってみるのが、いいかもしれませんね」とやんわり微笑んでいた。

 で、会長はと言えば……。

「えー、あんまり頑張るのは疲れるよぅ」

 人間だった。

 悟りの境地でも、上を目指すのでもなく、わりすでに妥協していた。

 生徒会長というやくしよくで満足しているっぽかった。

 ぽりぽりとスナックほおりつつ、なんか幸せそうな顔している。

 …………ま、いいか。

 幸せならそれでいいんだ、うん。たんじゆん単純。

 会長はお菓子を食べ終わる(知弦さんのなのに……)と、けぷっとわいらしくゲップして、満足そうにせんげんした。

「というわけで、今日はかいさんしますかぁ」

『…………』

 全員が、彼女をとことん駄目人間だと思った。

 ま、俺達も結局解散しちゃうんだけどね、それで。

 ……俺も、そろそろ仕事を始めないといけないし。



「……で、杉崎はまた生徒会室に残ってるんだ」

 くりむは校門前でふたたび出会った生徒会メンバー達に向かって、しようした。彼女達もどこかやさしげな顔をしながら、微笑んでいる。

 深夏がかたをこきこきと鳴らした。

「まったく、だからたいおうこまるんだよな、あいつ。……あたし達と長時間るために、生徒会のざつは自分一人で全部かたけて、何事もなかったふうにするんだから……」

「ま、真冬は、杉崎せんぱい、好きですよ?」

 真冬の言葉に全員がめ息をき、そして、くりむが代表して告げる。

「この学校で、あいつのことホントにきらいな人間なんて一人もいないわよ。まったく……これでハーレムだなんだと自分で言い出さなければ、アイツなら彼女の一人や二人、かんたんに出来るでしょうに……」

「あれ、アカちゃん。やっぱりキー君のこと実はけつこう?」

「な、なに言ってるのよ知弦! そんなわけないでしょ!」

 くりむのあせりように知弦はもちろん、深夏と真冬もクスクスと笑う。……みな分かっていた。自分達は全員、たしかに、杉崎鍵にある種の好意を持っている、と。しかしそれをうまくよくせいしているのは……ほかならぬ、杉崎鍵自身なのだ。

 ハーレムだなんだと強調することで、彼はどこかで特定のじんとだけ仲良くなることをふせごうとしているフシがある。しかしそれでいて、本当に生徒会メンバーの全員を心から好きなようでもあり、くりむ達は対応に困っていた。困ってはいたが……。

 知弦が生徒会室の方を見上げて呟く。

「ハーレムとか言うだけあって。彼は……私達の、大黒柱なのかもね」

「大黒柱?」

「そう。いまさら言うのもなんだけど、私達全員、どこかちょっとフクザツなあるみたいでしょう。きずあと、と言いえてもいいかもしれないけれど」

 知弦のその言葉に、くりむ、深夏、真冬のひようじようくもる。確かに彼女らは、それぞれプライベートでちょっとした問題をかかえていた。お互いにそれを話したことはないし、勿論杉崎鍵もくわしくは知らないはずだ。

 知弦が続ける。

「でも、生徒会で駄弁っている間は、とても救われている。楽しいだけでいられる。的だけど……家族の食卓のようなぬくもりが、あそこにはある。

 そしてそれを作っているのは、ちがいなく、キー君なのよ。だから……大黒柱。生徒会の大黒柱ということは、ひいては、この学校の大黒柱ってことでもあるけど」

 知弦の言葉を受けて、くりむも生徒会室にせんを向ける。

「まったく。自分で言っていたけど、あれじゃあまるで学園ドラマものの先生役よね」

「違うのは、問題を解決しようとってくるんじゃなくて、ただ安息の場所をあたえてくれるだけっつうところだけどな」

「ま、真冬はでもすごく、凄くかんしやしています」

 真冬の言葉に、全員で苦笑する。それは、全員そうだから。なんだかんだ言って、どんなに用事があってもほぼ毎日生徒会室に顔を出してしまうのは、やはり杉崎鍵がいて、そこに楽しい空間が形成されるからだった。

 くりむは「さて」と仕切る。

「さっさと帰るとしましょう!」

「で、でも、本当にいいのでしょうか。真冬は──」

「いいのよ。というか、杉崎はそうしてもらうことを望んでいると思うの。だったら、彼のそんちようしてあげないと」

「…………」

「まあ、その代わり、杉崎が何か困っていたら、その時は全力で彼の力になるけどね」

「会長さん……」

 真冬は感動したように目をうるませる。そうして、「でも……」と続けた。

「でも、付き合ってはあげないんですね、会長さん」

「それとこれとは話が別。だれがあんなうわしようと……」

 そくとうだった。

 くりむはそれを区切りに、「じゃあ、また明日ねっ」とけ出す。メンバー達も、別れのあいさつと共にそれぞれの帰路についた。

 ゆうれの中、くりむはふと、杉崎と自分達のことを思いかべてつぶやいた。

「つまらない人間も、悪くないのかもね……」

 にちじようをつまらないと思う人間がり集まると、もしかしたら、ぎやくにとても楽しいことが発生するのかもしれない。


 私立へきよう学園生徒会。


 そこでは毎日つまらない人間達が楽しい会話をり広げている。

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