ひとつ、昔話をしようか。

オオオオオオオ丹

ひとつ、昔話をしようか。


こんにちは。

ねえ君、今一人?あはは。ナンパ。

うん、そうかもね。僕は今、君をナンパしてるかも。

お話くらい、付き合ってくれるでしょ?ここはおごるからさ。

5分だけ。付き合ってくれないかな。

うん、ありがとう。


……とはいっても、なにを話したらいいかな。

自分から話すのは、実は苦手なんだ。

うーん、そうだなあ。じゃあ……。

これは聞き流してくれても構わないんだけど。



――ひとつ、昔話をしようか。



昔々あるところに、あやかしに恋をした人間がいた。

きっかけは、雨宿りのために立ち寄った木の下でその人間の話を聞いたことだった。

何が良かったのか、たったそれだけのことで人間は恋に落ちたらしい。

あやかしは人間の恋心にすぐ気づいたが、決して応えはしなかった。

しかし人間もまた諦めが悪かった。

会うたび会うたび、そのあやかしに求婚をして困らせた。

10年、20年と時がたち……そしてとうとう、最期のその瞬間まで人間は――あやかしを愛していた。


つくづく阿呆だと思うよ。

その人間も……あやかしも。

だってあやかしは人間が死んでからずっと後に、自分の気持ちに気づいたのだから。

人間の一生をかけた愛の囁きに、自分はとっくに絆(ほだ)されていたんだってね。


ようやく自分の気持ちに気づいたあやかしはどうなったと思う?

嘆き悲しんだ?それとも、もう気持ちを伝えられない絶望に打ちひしがれた?

いやいや。期待に胸を膨らませて――死んだよ。

自棄になって自ら死んだわけじゃあない。

もともと、死んでしまう運命だったんだよ。


それでもあやかしは、来世に期待した。

自身が人間に生まれ変わり、またあの人間と出会えることを。

生まれ変わりだとか、人間なるだとか、そんなものを信じて疑わなかった。

そして幾年もたち、生まれ変わったあやかし――あやかしだった人間は、自分に恋をした人間と巡り合うことができ、愛の告白をしましたとさ。

これでお話はおしまい。



――どう?

あはは。作り話だって顔をしているね。

君はわかりやすいなあ。

そう、昔から。

ああ、いや。君がわかりやすいというよりは、僕が、わかってしまうんだ。

だって僕は、僕の前世は――サトリ、だからね。


……思い出したかい?泣かないで。

前は言えなかったけど、今度はちゃんと君に言うよ。

――愛していると。




【補足】

妖怪の「サトリ」は人の心を読むと言われている妖怪です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひとつ、昔話をしようか。 オオオオオオオ丹 @nanao_akira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画