幼馴染に振られた少女と家族を失った孤独な少年の慰め合い同盟〜いつの間にか離れられなくなってしまって〜

めのめむし

第1話 プロローグ

 ロータリーが入学式後の新入生でごった返している中、

 羽山涼はやまりょうは『第28回大嶺高等学校入学式』と書いてある立て看板

の前で悪戦苦闘していた。


(うーん、立て看を入れて自撮りができない。困ったなぁ)


 涼は自分のスマホの画面を自撮りモードにしながら上に下にしながら、困った表情を浮かべる。


「あの……、私が撮りましょうか?」


 急に声をかけられて、驚きながらも顔を上げると、そこには誰もが認めるような美少女が立っていた。

黒髪のロングヘアと小さな顔ぱっちりとした二重の瞼とモデルのような高めの身長が、印象に残る女性だった。


「本当ですか?それではお願いします!」

「はい、それではスマホを貸してください」

「これでお願いします」


 背に腹は変えられない心境の涼は、二つ返事で見ず知らずの少女にスマホを渡す。


「もう少し看板に寄ってください…そうですね。それではいきますよ」

「はい」

「3、2、1 はい」


パシャ!


「念のためもう一枚撮りますね」

「お願いします」


パシャ


「ふふ、とてもいい笑顔でしたよ」


と、言いながら少女はスマホを涼に返す。


「えっ、あ、ありがとうございます。……あ、そうだ、よかったらお返しに撮らせてください。」

「いえ、私は両親がいるし約束がありますので。」

「なるほど、それなら大丈夫ですね。あの、実はこの写真は今日来れなかった、母さんが

とても楽しみにしていたんですよ。でも自分じゃ撮れなかったから困ってて、

そんな時に助けてくれたので、君は恩人なんです。

今日はもういかなきゃいけないんですけど、何か困ったことがあったらこの恩を返させてください」


「そんな大袈裟ですよ」

「いえ、俺にとっては本当に助かったので」

「ふふ、そうですか。それなら機会があれば、お願いしますね」


そう答えると、涼は嬉しそうに笑った。


(この人、笑顔が素敵だな)


少女は内心、涼の笑顔に見惚れていると。「じゃあ」と涼が振り向こうとしてこちらに向き直す。


「そうだ、俺の名前は羽山涼。入学式の新入生代表の挨拶していた人だよね。同じクラスだったと思うんだけど、

自己紹介中考え事してて、聞いていなかったんだ。悪いんだけど名前を聞いてもいい?」


「ふふ、そうだったんですね。自己紹介はちゃんと聞いたほうがいいですよ。」

「ごめん、次から気をつけるよ」

「大丈夫です。私は栗山奏くりやまかなでです。3年間よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。それじゃあ、いかないといけないから、また」

「はい、それじゃあまた」


 涼は走って校門をくぐっていった。


 奏が、なんと話に見送っていると、後ろから声をかけられる。


「どうした、奏。」


 振り返ると、そこには恋人の大山賢治おおやまけんじと二人の母親が立っていた。

 

 賢治と奏は幼稚園からの幼馴染であり、中学3年から付き合い始めた恋人同士でもある。


「ああ、賢治。なんでもないの。私たちも記念に写真をお母さんに撮ってもらいましょ」


 奏は立て看の前に立った時に、もう一度校門の方をみる。


(羽山涼くんか。なんか、明るくて真っ直ぐな感じの人だったな。

それにしても、恩だなんて写真撮ってあげただけなのに大袈裟よね)


 一陣の風が桜ふぶきをつくり、奏はその美しさに身惚れていた。
















 

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