第2話 探し物は楽しんで
食品売り場のほこりにまみれた棚や散乱した商品を片付け、カートを集めてスペースを確保する。少し前に二人で話し合い、丈夫で食料もあるショッピングモールを拠点にすることに決めたのだ。
希は持ち歩いていたブルーシートを開けたスペースに敷いて整えたあと、立ち上がってあたりを見回す。
「一先ずこれでいいかな。他のフロアで食料以外も色々探そっか。服とか、寝床に使えそうな毛布とか」
少しの期待を含んだ希の言葉に、トワは短くうなずく。
「了解しました。効率的に探索を進めるため、ゾーンごとに分けて確認しましょう」
二人はエスカレーターに向かい、次の階へと足を踏み入れる。
階上に着くと、古びた書店の跡や服屋、そしてかつてはにぎやかだったであろうフードコートが点在していた。静まり返るモール内に二人分の足音が響く中、ふと視界に緑が映り込む。周りを見渡せば、蔦がガラス張りの天井から壁を這うようにゆっくりと侵入してきていた。無機質なショッピングモール全体が緑に覆われる日もそう遠く無いだろう。
「こんな所で食料を探して、物資を漁って……なんかサバイバルゲームみたい」
希は服屋を覗きながら、遠い記憶にあるスマホアプリのサバイバルゲームを思い出す。主人公と仲間が迫り来るゾンビを倒しながら、終末世界で生きていくというものだ。ゾンビのような敵は居ないけれど、世界観や探索をして物資を集めるという点はよく似ている。
想像を膨らませていると、離れたフードコートの店舗を見ていたトワは少し窘めるように機械的に答えた。
「現実はサバイバルゲームとは異なり、再挑戦は不可能です。安全確保を優先しましょう」
「…………そこは『サバイバルゲームなら武器やバリケード等が必要ですね』くらいノリノリで返してくれないと。真面目に考えてばっかりだと疲れちゃうよ?」
トワは一瞬考え込む素振りを見せた後、表情を変えないまま答える。
「……サバイバルゲームならば、武器やバリケードに使えそうなものを中心に探すべきでしょうか?」
「ふふ、そうそう!これで探索も楽しみが増えるでしょ?」
模範解答を真似た返答に希は少し笑って、よく出来ましたと軽く拍手をする。
こんな世界だからこそ少しの余裕と遊びを持っていなければやってられない。アンドロイドのトワだって、そういう余裕を持ってくれないと。
「では、まず防御力を高める手段から検討しましょう。店内マップによると現在地から右手200mほどの位置にインテリア用品店があります。そこでしたらバリケードの元になる物資が残っているかもしれません」
トワはそんな希の様子を見ながら静かに側へ寄り、冷静なトーンでつぶやく。
驚いた。一応主人の命令だから学習して言葉を返しているだけだと思っていたのに、ここまでちゃんと計画も提案もしてくれるとは。工業機械は使う人間に合わせて形が変わると言うが、アンドロイドも主人の思考を理解して変わるものなのだろうか。
今は二人きりのこの世界で、自分の気持ちを理解してくれると言うなら、これほど嬉しいことは無い。
「よ〜し!そうと決まれば、バリケードの材料探しにレッツゴー!」
希は喜びと気合いを込めた拳を高く突き上げ、意気揚々と走り出す。
インテリア用品店には木材から金属まで、様々な素材を使った家具が並んでいた。サビや腐食はあるが、分解して綺麗な部分を集めるだけでもバリケード作りには十分な量になりそうだ。
「バリケードには強度と安定性が求められます。効果的に組み合わせられる材料を探しましょう」
トワはその様子を見て冷静に状況を分析しつつもアドバイスを欠かさない。二人は店の棚から裏の倉庫まで探索をした。
◇ ◇ ◇
「これって、バリケードっていうより……」
「完成した建築物を分析……結果、住居・小屋のように思われます」
「そうだよね〜?」
1階の食品売り場前に完成した構造物を分析し冷静に答えるトワに、希は首を傾げながら同意する。
思ったよりも優秀な素材が集まったことに加え、あまりに気合いを入れすぎた結果、二人はちょっとした屋根付き、柵付きの我が家を作り上げてしまったのだ。布で屋根を張ったトタンと木の小屋だが、二人が寝るのに十分なスペースがある。
「バリケードを作るはずがこんなにしっかりしたものになるとはね」
「ですが、これで安全性が向上しました」
無表情ながらもどこか満足そうなトワと新たにできた我が家を見て、希も笑みが零れる。
「さあて。食料もある、頑丈で立派な寝床もある。となると次はやっぱり生存者探しだ。トワ、ここら辺で人が居そうな場所は?」
トワは一瞬思案するように沈黙し、少しの機械音を出しながら内部データを検索する。
「周辺の主要な避難所として、このショッピングモールから半径5キロ圏内に学校跡地があります。その近辺には住宅地も存在していたようです。生存者が居る可能性が高いのはこの二箇所ですね」
「いいね。じゃあ明日からはその辺りを探検だ!」
「了解しました」
希の期待を込めた頷きに、トワもいつもより大きいように見える頷きで答える。
自分以外の人間はきっとどこかに居ると、そう思いながら歩き続けてきた。どれだけ低かったとしても、可能性は0じゃない。世界中を見て回らない限りは分からない。だから、大丈夫。
希は心の中で少しの不安と多くの期待を抱えながら、これからの旅路を思い描いていた。
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