第107話 花と銃口
ームラサメが狙われている。ー
それは、敵の動きから見ても分かる。ユウジは敵を叩き伏せながら感じ取っていた。
陽動の意味、それは崩れたようだ。
若様、腹に据えかねているんだろうな。無謀な行動でもそれに踏み込み、向かい合わなければならないことをよく知っておられる。あの御方は逃げたことはないな。背負っているモノが多くて重いだろうに。
さて、どうやったら援けることができる?力になれる?
ムラサメの求める場所は人質に張り付いている虎河と彩芭の兵に効果的に涙波紋を叩き込める地点だ。それは仇花の場所とはずれている。
アダケモノにムラサメを傷つけさせる訳にはいかない。あの艦はこれからク海の栓を抜きに行くという大仕事があるだろう。
さて、俺のすべきことはなんだ?・・・待て、陽動はこれからが本番ではないのか?
ふふふふっ
思わず笑いがこぼれていた。
「大叔父上、璃多姫、付き合ってくれまいか?」
「どこへなりとも。」
二人の声が肌から響くようであった。
「しかし、その前に・・・。」
魂座は何かあるようだった。
地響きのような声が、ユウジのその黒き鎧から発せられた。
「者共!今生の別れじゃ!後のことは任せよ!」
一瞬、骸兵どもの動きが止まった。そしてまた威勢よく戦いはじめる。
ユウジは自分の肩に手を置いた。黒き鎧は小刻みに震えているようだった。
一緒に来てくれた月の天鷲が音も立てず翼を広げてくれた。
後ろで響く五百の仲間達の戦いの響きを遮りたくなかったのだろう。
ムラサメに手を出させない、それは俺が最も危険であると思わせれば良い。簡単なことよ。ユウジの体は空へと舞いあがる。
仇花はトンボのアダケモノを自身の周りにもう30匹も作っていた。
理由は先ほどから、自身の花弁が一枚ずつ何者かに撃ち抜かれているからだ。
虫や鳥の目を使い、その危ない奴を見つけ出そうとする。しかし、その眼は何も捉えることができない。
仇花、その危機管理は極めて機械的である。しばらく前、蜂のような飛行物体に対処をしたところ、その後、感情の波、音と衝撃の波が溢れて区別がつかなくなった。それで手下のフグのアダケモノを作って円周上に配置した。すると東南に配置した一匹の反応がなくなり、感情波に特殊な反応を示す目標があり、近づくことが分かった。これに対処する。
しかしここにきて、自身の花が攻撃を受けているのである。しかも、相手が探知できていない。波の飽和状態が続いているからだ。仇花は判断する。今攻撃を受けている相手を最優先の脅威とする。その一番の理由はその正確さにある。この正確な射撃はこの石の花の首を落とすことが可能だろう。つまり王手である。味方を挟むか仇花が逃げるしかない。後者ができない以上アダケモノを差し向けるしかない。フグが毒を塗った相手は後回しだ。そう判断した。
ユウジは璃多の手を借りた。彼女の正確無比な射撃は折り紙付きである。
彼は約2km離れた上空から狙撃を行っている。通常の射撃の10倍の距離である。
璃多姫にすれば、見えれば撃てるのである。
そして、あえて目立つような行動はしなかった。射点をずらし、己の位置を隠蔽する。
ー見つかってもいい。しかし、探せ、探せー
ほんの少しでいい。時間を稼ぐ。突っ込んで暴れるより、より危険だと判断してくれるだろう。
「ほんに、頼り甲斐があるわぁ。」
喜々とした璃多姫の声が脳内で響く。
ユウジの銃を構える腕に指に瞳に瑠璃色の香りを帯びる。仇の花をまた一枚散らした。
ク海潜水艇ムラサメ 艦内
「攻撃の手が少しづつ弱まってます。」 とメル。
「あとどれくらいか?」
「30秒!」
「機関後進!深度、防御壁そのまま!」
シロウの指示でムラサメは急制動を取り始める。
「
「
双子龍の姫の声は一糸の乱れもない。
だが、攻撃を始めよという号令はシロウの口から出なかった。
「それは、やめてもらおうか。」
彼の背に銃口が突きつけられていたからである。
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