第66話 順番と報復


成馬宮なるまみや城を見渡す高い丘


 もう、お天道様は、一番高いところまで登っている。


 シロウ達は、成馬宮なるまみや城に巣くうものを見て呆れた。


「なんじゃありゃぁ。」


 天守閣に大きな大きな大ムカデが巻き付いているのだ。


 この城は西方面に郭を設け、その他方位は急峻きゅうしゅんな崖の山城である。


 傍から望むその城は、すでにアダケモノの手に落ちたように見える。


 那岐なぎ彩芭さえばの赤もチラホラ見える。


「こりゃぁ、やり返し甲斐があるというもんじゃ!」




昨日の晩の話 成馬宮なるまみや城へ続く街道 


成馬宮なるまみや城へ向かう!?」

 みんなの視線がシロウに集まった。


 いいかげんどうするか決めねばならない。ここには長く居られないのだ。


「ふむ。若。成馬宮なるまみやが健在である可能性は低いと思いますが。」

「グンカイ、まだこの目で見ておらぬ。それにあのタロウの兄上がやすやすと敗れるとも思えぬ。まず、不肖ふしょうの弟としての大儀は、兄の元へはせ参じることである。お祖父様と父上を失った今、我が勇那いさな重家かさねけ惣領そうりょう嫡男ちゃくなんであられるタロウ兄上だ。」

「ごもっとも。」

「そして、我は多く民を北へ着の身着のままにがした。その責をとらねばならぬ。」


「こんなことになってるなんて思ってもなかったもの。」

 サヤは、若様のせいではないと言わんばかりだ。


「サヤ、指導者は全てに責を負うのだ。重家かさねのいえ虎成とらなりの城を失うまでに敵に足をとられた。見抜けなかったことが一番の罪だと思っている。」


「では、心配事をあげまする。まず、兵力が皆無であること。先の城下の戦いで、アダケモノの総攻撃と火災で統制が崩れ、兵は逃げ散りました。再び会合できるとは思えませぬ。我々は戦える者は三人じゃ。普通なら、これでは落ち延びるのも難しいというもの。しかも傷つき疲れ果てている。」


 シロウは目を閉じてグンカイの話を聞いている。


「そして、敵の戦力、兵力が未知数であること。北の彩芭さえばうごめいておる。」

 

 グンカイは続ける。

「最後に、我々は仇花アダバナの危険界から脱しておりませぬ。」


「この場所は虎成とらなり城よりもずいぶんと高い場所にあるはず。しかしまだ目が霞む。」

 チエノスケが目を押さえた。


「つまりは、まだこの上にはまた違う仇の花が咲いておるということか。・・・よくもまぁ次々と。」

 アダケモノの心配と恐怖がまだ去っていない。

 

「状況が混沌としすぎて、どうしていいか分からないですね。」

「行き当たりばったりになるな。まぁ逃げるにしても周りは敵とク海だらけ。当てがない。」

 チエノスケとグンカイも腕組みをしたままだ。


 シロウが言い出した。

「ああ、あれじゃ。体を洗う順番!。」


「湯あみのですか?。」

 チエノスケが目を丸くして、それが何か関係がと聞いた。


「おう!我は体を洗う時、頭から洗うのじゃ!皆は違うのか?」

「いえ、私もそうですが。」

 チエノスケはピンとこない。


「もう、ごちゃごちゃ悩まず、汚れは上から落としたいのじゃ!。」

 本来の若様らしさが戻ってきたらしい。


「上とは、成馬宮なるまみやのことですな。」

 グンカイが笑う。


「ウチも掃除する時はまず上の埃から落としますよ。それに・・・。」

 サヤは明丸を見た。


「サヤ、そなたの狙っていたものと会えたようじゃの。」


 サヤはモモの甲羅越しに明丸を撫でる。

 何も言わない。


 シロウはその様子を見ていた。

「最初から悪意は感じていなかったのだ。だから逃げた時、追わせなかった。」

 チエノスケを見る。彼はうなづいた。


「本当に気をつけるべきは、隣に座っている鹿だったからの。」

 シロウの目は淋しそうだった。


「あの時、一か八か、大江殿をサヤ殿の見張りにつけた訳ですね。だから私だけを連れて戦いに出た。」

 チエノスケも少し気持ちが落ち着いたようだ。


「ふふ、あの戦いで死ねばそれまで。生きて帰れば、何か分かるだろうとは思っとった。」

 今は火は使えない。川原の石の影に隠れて休んでいるからだ。


 まだ月は半分も欠けてはいない。 川はやわらかくその姿を水面に映す。ここは・・・ク海なのに。


「それにしても、まさか婆やがあんなに美しい女性ひとであったとはの。勇那一の天巫女あまみこか・・・。さすがナツキの婆様よの。」


 シロウは深く、多く傷つき過ぎた。


「若、見張りはこのグンカイとチエノスケにお任せあれ。今日はおやすみください。」

 元お傅役は何かを思ったのか、早く寝ろと言う。


 シロウは微かに笑うと

「このところやられっぱなしじゃ。ここらでやり返さねばのう。」

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