第39話 貼札と飴玉
虎成城 奥
大イノシシは自分の突撃が跳ね返されるとは
モモの前に出来た桃色の六角の方陣に勢いよく突っ込み、自分の力の反動で入口まで吹き飛んでいた。
一方のモモはどこ吹く風であり、明丸はその様子を見てキャッキャと喜んでいる。
「なぁ?モモの
またジカイがカカと笑う。
目が
破壊した入口や廊下の破片の中で、大イノシシはヨダレを垂らしながら伸びている。
「とんだ邪魔が入ってしもうたの。」と大殿。
「ホンに、なぁ 明丸殿。そろそろアレを出しましょうかね。」
ヨウコ婆がモモの背から手のひらの大きさの銀色の皿のようなものを取り出した。
「うーあー。」明丸、興味津々。
「はぁい、おてて
そういうと婆様は明丸の手をとって皿の縁をクルンと右回りに一撫で一周した。
すると、銀の小皿の縁が金色に光り、底の部分が抜けた。
それをそっとヨウコが覗くと、そこにはたくさんの星が煌めく空間がどこまでもつづいているようだ。
「うーきゃいきゃい。」明丸、大満足。
一緒に覗いてくれる。
「あうあぁ」明丸、触れてみたいらしい。
小さなおててが小皿の底の境界面に触れた時、小さな四角片の紙切れが飛び出た。
はっとヨウコ婆がつかみ取る。
表だろうか銀色が一面に輝いて裏面には文字が書いてある。
「ああ、この年ではきついわね。」
ヨウコが紙切れを右手で前にやったり、後ろにやったり。
「こりゃ、こんまい
いつのまにかジカイがやってきて
なんだか居間でじいちゃん二人とばあちゃんと孫が虫眼鏡を覗きこむような光景。
「おおこりゃ、
ジカイは指差す。
ヨウコ婆がなんだか唸っている。
「いいですけど、昔みたいに裏紙はがせないわ。手がぱさついて。ナツキ、これナツキ!」
「はい、お任せを」
ナツキが口を押さえながら、そばににじり寄る。
これは、じいちゃんばあちゃんではダメで、若い母親登場の絵に近い。
たしか、ここは今、戦場だったはずだが・・・。
大イノシシが目覚めたようだ。
山のような巨体を起こし白い蒸気のような息をはく
「はぁぁぁ?」
一同大ヒンシュク
「そのまま、寝てればいいのに。」大人たちの目が刺さる。
明丸だけが両手をあげて、大歓迎のようだ。
なぜだか一瞬、気圧された大イノシシだったがまた、白い息を吹き出し、床を前足で削り始めた。
突進する気だ。
「モモや、もう一度頼めるかえ?」
ヨウコが言うやいなや、大イノシシは床を蹴っていた。
婆様の言葉を理解したのか、モモの瞳が桃色に燃え、六芒星の障壁方陣が立ち上がる。
大イノシシがぶつかる。今度は吹き飛ばない。
大イノシシはその全力で押している。その後ろはもうもうと煙たつようだ。
しかし、モモは微動だにしない、というより普通だ。首を伸ばしてあちこち見ている。
「モモ、包んでくれるかねぇ。」
そう、ヨウコに頼まれるとモモはようやく大イノシシに向き直る。
モモの目が再び桃色に染まり、障壁の方陣が変形を始めた。
いや、変形というより増殖という方が正しいか。無数の六芒星の障壁が大イノシシを球状に囲っていく。
「はいっ。ギュッギュッ」ヨウコ婆さんがおにぎりを握るマネをする。
すると、明丸もしてみたい。
マネをしたら、それを見たモモの目も合わせて点滅。
「うふっふふ」明丸楽しいか?
問答無用に圧縮されていく。
「はいっ。ギュッギュッ」 明丸ギュッギュッ モモピカン!
ーグガッァァァバキッバキッー
「ギャァアァア」
「うふふぁ!」明丸ぅ楽しいねぇ!
「はいっ。ギュッギュッ」 明丸ギュッギュッ モモピカン!
ーグガッァァァバキッバキッー
「ギャァアァアアアアン」
「あーう!あいあーい」
「はいっ。ギュッギュッ」 明丸ギュッギュッ モモピカン!
ーグガッァァァバキッバキッゴキッー
「ギャメェァテェエエィィン」
「えへへへへ、えへへへぃ」 明丸大満足。
何度か繰り返すと
ポトリ 紅いかたまりが落ちた。
「あぁ、飴玉になってしまったわい。」
ジカイは大イノシシ飴玉を拾うとそっと懐紙で包んだ。
「でも、なんだかばっちいから、明丸殿にはやらんとこ。」
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