第26話 少年と総崩れ
「しかし、ムミョウ丸は・・・」
大殿は
「
そうだ、里子に出されたと聞いた。どこだったか?記憶を
六年前に一度だけ訊いたことがある。あの子はどこに行ったのかと。
「里子にもらわれた先はの・・・
「!?」
そういえば、そうだった。そう・・確かに聞いた。シロウは頭の
今頃は
「では、その客人というのは?」
シロウは大殿の目を真っすぐ見つめた。
「ムミョウ丸よ。」
・・・どういことだ?話の
「
「その通りだ。」
その通りって・・・理由があるはずだがその前にそもそも・・・、シロウは混乱する。
「しかし、ムミョウ丸は里子に・・・」
「違う者を里子に出した。手の者の子をな。そして本物を手元に隠した。」
「なぜ、そこまでのことを・・。」
あの、ク海から出てきたどこの者と分からぬ、ただの子どもに?
「ムミョウ丸を連れ去ろうとする者達から守るため。」
あの子にどんな価値がある?政治的なものか?我は知らなすぎるとシロウは
「十ばかりの子にそこまでの価値があるとは思えませぬ。あるとすれば、やんごとなき
大殿はフトため息をついた。
「特別なのは血筋というよりな、その存在なのよ。」
存在?ク海にかまけすぎて足元のことさえ何も知らぬのだなとシロウは内心、己に
「今は、
ナツキはその明丸という少年の世話をしていたのか。
その時
ーお知らせ申しあげまぁす。どなたかお
廊下の向こう側で大声がした。
「いかがしたぁあ?」
シロウは
そこに、鎧に矢が刺さったままの
「西の
馬鹿な・・・あの父上が?討ち死に?・・・討ち死にだと?
シロウは目が回った。周りから一切の音が無くなった。
「嘘だろう。そんなことはない。夢だろう?・・・誰かどうにかせよ。あ、兄上、兄上達なら・・・」
彼の本来の性分からの言葉が漏れて出ていた。
しかし、次の瞬間全ての気持ちを
迷いはここにいる者達の死につながるからだ。
我の生まれたこの境遇は甘えると即、殺しに来るっ!
「サブロウ兄上はどうしたぁあ?」
三番目の兄が父についていたはず、一番頭の回る兄が!
武者はザっと手をつくと
「
シロウはヒラリと振り返り大殿前で座って
覚悟を即座に決めたのである。
「お祖父様、この
深々と頭をさげる。
ゆっくりと大殿は天井を
フッと息を吐くと
「うむ、息子無き今、この我が命ずる。
「
「只今より、大殿の命により、この
「
国を守るため、即座に立ち上がった孫の背中に爺様は優しく語りかける。
「そちは若い、ひとつことに打ち込め。視野はだんだんと広げれば良い。ク海にかまけても良いぞ。生き残るカギは危険な海に沈んでおる。」
まるで、先ほどのシロウの気持ちを
「この城と民を守り切った後、また、かまけさせていただきまする。」
礼をするシロウにに一言、大殿が言った。
「シロウ、奴らの目的はムミョウ丸ぞ。そしてもうひとつ、・・・鹿に気をつけよ。」
シロウは礼をしたまま固まったが、無言で部屋を出ようとした。
「シロウ、待て。」
「はっ!」
「どんな時でも、
シロウは顔をあげてにっこりとほほ笑む。
「おうおう、おまえはこんまい頃から男前じゃのう。ああ、安心じゃ。」
シロウは深く深く頭を下げた。
爺様が何かに命をかける仕事をしようとしているのは感じ取っていた。
祖父と父とまだ話したいことがあった。
しかし、今は己にはやらねばならぬことがある。
これが二人の最後の会話となった。
シロウが部屋を去ったあと、大殿は
「ナツキよ、我の衣装を頼む。ああ、それとアレを取ってくれぬか?」
そう言って、
「
両手をつき、面を下げるナツキの顔の笑顔も去っていた。
「さぁ、客人をもてなそうぞ。」
しばらく後、
シロウは虎成城で軍議を開き状況を確認していた。
「父上ほどのお方がいて、なぜ
家臣のひとりが答える。
「アダケモノの大群に襲われたそうでございます。」
「ばかな!」
あちこちで
「どいうことだ。詳しく話せ。」
手当を受けながら先ほどの武者が話す。
「二日前のことにございます。
「ああ、こちらでもだいぶん降ったな。」
シロウが目覚めた日のことだ。
「一番難所の山の谷間を西へ下っていた時でございます。我等は目が
「そこで、アダケモノに襲われたのか?」
駆けつけていたジカイ和尚が質す。
「そのとおりにございます。」
「
「いえ、
傷ついた伝令の武者は即答した。
「はあっ?
思わずシロウは声を荒げてしまう。
「いえ、本当のことにござります。」
「そもそも、アダケモノと人は一緒にすらおれんぞ。」
沈黙が流れ、諸岩がたまらず言葉を漏らした。
「何か、他に変わったことはなかったか?」
ジカイ和尚も理解が追いつかないのであろう。
「
「・・・・。」
シロウは深く思考する。
「して、
ジカイが気になっていたことを訊く。
「はい、白き鎧を
「大将が目視できるほど、肉迫してきたのか?」
和尚は
「ともすれば、本人が先頭に出ようとするらしく、それを守る将兵の勢いはおのずと強くなっておりました。」
「・・・・。」
シロウの思考は続く。
「して、我が
ジカイ和尚はシロウの父、
「サブロウ様が南を
肩を震わせ泣き始めた。
ジカイ和尚は力が抜けたようにストンと腰を落とした。
「・・・・のう?」
シロウが口を開いた。
「はっ。」
「
「はっ、先行した隊からの
伝令は、迷うことなく断言した。
沈黙があった。
「・・・引き込まれたのやもしれぬ。」
シロウはジカイと目が合った。
「
ジカイが白い髭をなでた。考え込む時のクセだ。
「大殿は敵の目標がこの城だと申された。しかもアダケモノを使う・・・」
シロウは押し殺したような声でつぶやく。
「最初から計画された
ジカイの言葉にシロウがうなづく。
「罠であり、この城が目標。宝が絡んでいる。もし我の仮説が正しければ・・・。」
シロウはスックと立ち上がり下知した。
「早急に戦えぬ者を北のタロウ兄上の
「
家臣がそれぞれに動き出した。
「若様・・・」
ジカイ和尚がその白い髭を撫でている。
「うむ。」
シロウは
「もし、この城にまでアダケモノが襲うてくるとしたら・・・。」
「・・・裏切り者がいるな・・。」
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