第22話 感情と内側
「その通りにございます。」
メルが淀みなく答える。
「これらは誰の
ユウジには、この現象が今ここにあるという事実しか分からない。
「この世に生きとし生ける全ての者。」
メルの藤色の瞳はおどろくほど澄んでいる。
「どういうことだ、ク海の上の我ら人間の
マチルダは壁の方を向いているが、
「ああ、あなた達の感情は・・・・知らぬだろうがその体から立ち上り、雨となりク海にそそいでいるのよ。」
「まさか、それが海面を押し上げているのではあるまいな?」
これが、実はユウジが一番引っかかっていた疑問だ。
マチルダは背中を向けて語る。みるみるうちにその髪が長くなり背中は大きくなっていった。
「いやその通りだ。それが理由のひとつ。しかし形なきものが溜まるには器が要る。」
「器?」
「そう、女王の花。それが器の本当の姿だ。そして私達、宝とあなた達が呼ぶ存在は全て女王の子。」
「女王?ローラが口にした人物か?いや、待てよ、女王の花?」
「お察しの通りでございます。」
「
「
ユウジが骨の刀を思わず
「おやめなさい。あなたなら気づくでしょう?」」
いまだに天井を飛び回る光の精が目に入った。
「恩がある・・。そして俺の体はもう。」
その時だった。
「ユウジ殿ッ!」
ーガツンー
背を向けていたマチルダが懐剣に炎を
骨の刀を握りしめるユウジ。
どこだ?どこから来た?まるで気配を感じなかった。
いや、待て・・・
波石だ。波石の上が微かに赤く光っている。
怒りの色、
よく見ると人の足跡くらいの大きさでふたつ一組。やはり人のモノと考えて良さそうだ。
「まずい!囲まれてる。」
ゆうに十人程度の
「メルっ!離れるなっ!・・」
ーシャァキンッー
言うや
首の皮一枚だ。
闇の中、正確に狙ってきた。
しかしこれは、マチルダを吹き飛ばした一撃ではない。
違う者の攻撃だ。
「おっ待たせぇー」
一直線に降りてきた光りが辺り一面を照らした。
呑気な声と同時に
その光のもと、ユウジが目を見張る。
そこにいたのは、骸骨の群れであった。
それぞれに鎧を
「
これはアダケモノではないのか?
ク海は想像をいつも超えてくる。
ユウジは今、気が動転している。
マチルダが吹き飛び、メルの気配が後ろにないのだ。
振り向いて確認できるほどの隙を亡者どもは与えてくれない。
斬られてはいないハズだ。しかし確かに居ない。
一旦忘れて戦う覚悟を決めねば。
「ともかくここを切り抜ける。」
どちらだ?どいつが動く?
舌先が乾いている。体中が不安を感じている。
緊張しているのだ。
だからユウジはあえて考えないようにした。
澄ませ、感覚を研ぎ澄ませよ。
腰を少し落とし、重心を移した足元の波石が蒼くそして白く変わっていく。
すると、洞窟の奥の方に大きな存在を感じる。
こいつだな。
マチルダを吹き飛ばした一撃を放ったのはこいつで間違いない。
直感だ。
一生に一人会うかどうかの危険な存在であろう。
ローラから教えてもらった言葉・・・
ヤバいってヤツだな・・・。
ユウジは乾いた舌を巻いた。
「ローラ。」
「なあにぃ?」
耳元で呑気な声がする。
「先ほど、俺の記憶が読めたよな?」
「うん。ちょっとだけどね。でも内側には入ってないからね。」
また訳のわからないことを言う。
「内側に入る?・・・ともかく、なんとか
「できるよぉ」
また簡単に言う。
「どうすれば?」
「中に入っていいよぉって言ってくくれば。」
そんなことでいいのか?不安なんだが。
「・・・良い。」
「いいのぉ?ねぇメルも連れてっていい?」
メルはどこに行ったかわからない。しかし。
「何が何だかわからんが。ええいこの際!いいぞ。」
「わかったぁ!」
耳元の金色の光が飛び立った。すると紫の光も後を追う。
ユウジのうなじの後ろに緑の魔法陣が出現し回転して渦を巻く。
「ふええぇええどいぃぃぃぃん!」
いったん上空へ登った金と紫の光はゆっくりとその魔法陣に降下してくる。
ツルツルした変った服になったローラとメルが大の字でその魔方陣の中に消えた。
「ローラさん、いろいろ聞きたいんだが・・・」
「
ローラの姿は見えない。しかし話はしっかり聞こえてくる。
「メル、
ローラの声が脳内で響く。
「は、はい」
その
「私達の行動の
なんか嫌な表現だ。それにローラさんや、人格変わってないか?
「でも、どうすれば?」
「思うように動いて!私たちが全力で
ユウジの知らない言葉が混じっている。
「言ってることの意味がわからん!」
「いいから好きにしてぇぇん!」
こいつは、俺と一緒で行き当たりばったりな奴だなとユウジは確信した。
「ローラ、後で聞きたいことがいっぱい・・・」
遮る声が脳内に響く。
「ユウジ様、敵の総数は11体、呼称名表示します。呼称名
メルの声と同時にユウジの視界の骸骨達の頭の上に見たことのない文字が浮かび上がる。
「
ローラのこれなら分かるようになるっしょ!というつぶやきが聞こえた。
「見える!」
今まで、暗闇で骸骨達の足元の波石の微かな反応でしか見えなかった敵の輪郭が分かる。
「さあ、これで少しはましになってきたハズよぉおお!」
ローラ、何かにとり
「ユウジ様、私達のスキルを使用した
こちらは甘い声だが落ち着いている。
「了解、言葉の意味は理解できるようになった!」
「KS
ローラ熱血だな。
へその前に出現した魔法陣が
「
索敵担当のメルだ。
ガキンと石を叩くような音がする。
「やっぱり固ぇぇ。」
右手に
「骨の刃に風の圧力を
脳内でメルが叫ぶ。骨の刀が緑の風を巻き込み
「
目の隅で「ここよ!」ばかりに
メルの適格な仕事のようだ。
ユウジは地面で風を纏う刃を
「いっけぇぇぇぇ!」
脳内でローラが絶叫する!
向かう先は
―カッー
一陣の緑の風が舞う。
ゆっくりと立ち上がったユウジの背中で3体の骸骨が崩れ落ちた。
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