コンパーニ
いすぱる
第1話 宣戦布告
へい、人間ども……
知っているか? この地球上で最も厄介な存在が誰なのかを。
そうだ、それはお前たち人間だ! この地球で、他のどの生き物に尋ねても、不要な種族として真っ先に挙がるのは間違いなくお前たちの名だろう。
驚くべきことに、お前たちは自らの手で最低でも900種、最大で100万種もの生命を絶滅という名の奈落へと追いやってきたのだ。それでもなお、そんな重大な罪の自覚すらないまま、今日もまた平然と唯一無二のこの星を蝕み続けている。
いいか、よく聞け人間よ。
お前たちの祖先がこの地球に現れ始めたのはおよそ20万年前。だけどな、俺たちは3億年以上前から既に存在していたんだ。そうさ、お前たち人間が生まれる遥か昔から、俺たちはこの地に誕生していたのさ。つまりお前たち人間は俺たちの後輩で、俺たちは人間の大先輩なのだ。
それなのに、先輩を立てることも忘れてしまい、むやみに攻撃ばっかりしてきやがって! 身の程知らずにもほどがある。何一つ悪いこともせず、ただ本能のままに生きている生き物たちの住みかをお前たちは平気で奪い取る。そして、一度でも人間が襲われようものなら、まるでその地が昔から自分たちのものだったかのように大騒ぎして、容赦なく命を奪いやがる。ふん、よくもまあそこまで傲慢になれたものだ。うんざりだ、人間どもめ。
俺の祖父ちゃんはな、そんな人間どもと戦い、毒ガスを掛けられて、もがき苦しみながら最後は裏返しになって死んだそうだ。俺の父ちゃんは、泡になる液体を浴びせられ、うっ、ううぅ。呼吸が出来なくなって死んだよ。幼かった俺の目の前でな…… そして、優しかったかあちゃんも、腹をすかした俺たちの為に食べ物を探しに行った先で、小さい箱から出る事が出来ずに死んだ。あれはたぶん、お前たちの仕掛けた罠だったんだ。
なんだよその目は? ケッ! 人間の同情なんかいらねぇよ!
そもそも俺たちは素手なのに、お前たち人間ときたら、いつも何かしらの武器をもってやがる。フェア精神を知らない、心底汚ねぇ奴らだ! ま、そんだけ俺たちのことを怖がってるってことなんだろうけどさ。
人間と戦って死んだ祖父と父は星になったって、かあちゃんがそう言っていた。夜空に輝く美しい星々は、決して人間どもの魂ではないって。あれは、俺たちの住みかを奪う人間どもと勇敢に戦って散っていった生命の魂なのだ。あの光の中には、汚れた人間の魂など、1ミリも入っちゃいないんだ。何でもかんでも都合よく自分たちのものにしたがるお前たちにはショックな真実だろうな。へへーん。
「カツンカツンカツン」
うん、廊下に響くあの音は?
「カチャカチャガチャ」
帰ってきやがったな。みていろ、人間め。俺だって、やってやる……
「……ただいま。あー、疲れた~」
深夜2時過ぎ。誰もいない部屋に吸い込まれる声には、愛想笑いの仮面を外した後の疲れが滲んでいた。壁にあるスイッチに指先が触れると、カチっと音がした後に、柔らかな明かりがエントランスを包み込む。
窮屈なハイヒールから解放された瞬間、硬く張り詰めていた心が徐々にほどけていく。それは、華やかな夜の世界から解き放たれ、自分だけの空間に還ってきた証。
「あ~、快感」
……今だ!
カサカサカサカサ。
「え? キャーーーーー!」
決まった! へへへ~んだ!
「ゴキブリがぁ、私のスリッパの中から出て来たー!」
ふん! どうだ!? 帰宅したばかりで油断していて、驚いただろ人間のメスめ!
「キャーー! やだぁー、あっち行ってーー」
女性は思わず手に持っていたエルメスのキーケースを投げつけた。
へん! そんなの当たらねーよ!
「キャーー! とっ、飛んだー!」
俺の名はゴキブリのゴキィ。お前たち人間を、地獄へ
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