第5話 最悪
落ち着いてきたら凄く恥ずかしくなってきた。
「...西園さん。もう、大丈夫だよ」
そう言っても離してくれない。
「あの...西園さん?そろそろ俺が
西園さんの肩を軽く叩いてギブだと伝えるも
「...そう簡単に愧死なんてしないよ」
予想外の返答が返ってきた。
「いや、なんで愧死の意味知ってんの!?」
思わずツッコんでしまうと
「恥ずかしさの余り死んでしまうとか、死ぬほど恥ずかしいって意味でしょ?」
笑いながら離してくれた。
そして、俺の目をニヨニヨしながら見て、
「辛いことがあったら、また抱きしめながらヨシヨシして慰めてあげるね」
「勘弁してくれ...」
そして、西園さんはすっかり忘れてるみたいだが、ここには、もう1人いるのだ。
「すまん。見苦しいところを見せてしまって」
すると、申し訳なさそうな表情で謝ってくる。
「いえ、元はと言えば私が花咲君に話すよう強要したようなものですから...」
俺は全く気にしていない。むしろ、
「いんや、話したことで俺も少し楽になれたからむしろ感謝てる。それに、斎条さんが友達想いの良いやつだって知れたからプラスだよ」
俺の言葉にため息を吐く斎条さん。そして、呆れたように口を開く。
「本当にお人好しなんですね」
肩を竦める。別にこれくらい普通だと思うけどね。
姉ちゃんの事務所の同期の人達なんて、赤の他人でしかない俺を弟のように扱ってくるんだ。その人らに比べりゃ、普通だろ。
「てなわけで、話はこれで以上かね?なら、俺は友達のところに戻るけど...聞いておきたいこととかあるかいな?」
2人に問いかけると、西園さんが挙手する。
「じゃあ、花咲君!私達とL〇NE交換しない?沙那ちゃんもいいよね?」
「ええ、いいわよ」
「ええよ」
そこから、LI〇Eを交換するためにスマホを取り出しQRコードを表示させる。
「え?花咲君のL〇NEに女の人っぽいのめっちゃ多くない!?」
「確かに、異様に多いわね」
西園さんはどこか不満げに、斎条さんはジト目でこちらを見てくる。
「まぁ、姉ちゃんの会社の友達の人達とも仲良くしてもらってるからね」
姉ちゃんの同期やら後輩やらがオフコラボで割りと家に泊まりに来るしな。
「へぇ〜、お姉さんいるんだ!!」
「自慢の姉だよ」
ドヤ顔で胸を張ると
「花咲君ってシスコンなのかしら?」
なんて、言われる。が!
「そう!俺は姉が大好きな弟なのだよ!!ちなみに姉ちゃんとブラコンね」
この言葉に、斎条さんはちょっと引き気味だ。
しかし、西園さんは顔を赤くして、
「ダッ、ダメだよ!近親相姦なんてッ!」
爆弾発言をしてくる。
それに思わず斎条さんとハモってしまう。
「「...え?何言ってるの(かしら)?」」
それで、余計にワタワタし始める西園さんに向かって言う。
「いや、別に俺と姉ちゃんはただの仲良し姉弟なだけだよ?」
すると、勘違いしたのが恥ずかしかったからなのか、顔を真っ赤にして、今度は「アウアウ」し始める。
その姿が面白くて、斎条さんと笑っていると立ち直った西園さんに腕をペシペシされる。
「あー、笑いすぎて腹痛い」
「ホントに...ふふっ。朱音は意外とムッツリよね」
「も、もーっ!私じゃなくて、勘違いするような言い方をする花咲君が悪いと思いますっ!」
ひとしきり3人で笑いあった後、問いかける。
「とりあえず、今は解散かな?」
「そうだね。後でまた、お喋りしよ!」
「まぁ、いいんじゃない?」
そして、俺は恭弥のいる屋上へと戻り、2人はここで昼食を食べるらしい。
「よう、恭弥!今戻ったぞって、おろ?樹もいるんか」
「おかえりー。昼休み、あと半分もないから急いで食えよ」
「うん、久しぶりだね響」
「天上さんはどしたんよ?」
付き合いたての彼氏が彼女を置いて何しとんねん!って思い聞いてみると
「そのことについて、僕から話したいことがあるんだ」
真剣な顔で言うため、こちらも態度を改め、手で続けてと促す。
「実は...僕と天上さんは付き合ってないんだ」
信じられない言葉に少し間が開き。
「「ナンダッテェェェェェェェ!!!」」
マジか!
え!?
マジか!
すると、恭弥が要らんことを言い切る前に口を塞ぐ。
「えっ?じゃあ、西ぞn...」
「お前...ガチで言ってる?何のために?」
西園さんがとても傷付いるので、無意識に言葉に鋭さがでる。
「うん。僕としてもあまりやりたくなかったんだけど、どうしてもやる必要があると判断したんだ」
その答えに再度問いかける。
「だから、どうして?」
少し間が開き、衝撃的な答えが返ってくる。
「このことは他言無用でお願いするよ。天上さん。彼女がストーカー被害にあっているらしいんだ。そして、僕はストーカーを誘き寄せるための餌なんだ」
恭弥が息を飲むのが分かる。
「ストーカーって本当か?」
自分でも驚くほど冷めた声が出る。
「あぁ、この目でしっかりと見たよ」
思わず床を殴ってしまう。
「...クソがッ!」
さらに、恭弥が問う。
「このことを知ってるのは、俺達3人と天上さんと他には誰なんだよ?」
「天上さんが友達の西園さんと斎条さんに今日話すって言っていたよ」
そうなのだ、あの日...西園さんと公園で会った日に彼女があそこまで弱っていたのは樹と付き合った、実際はそうではないようだが。それが、親友の1人である天上さんだったからだ。
クソっ!本当に厄介なことになったな。
おかしいと思った。別に好意を寄せ合っている感じもなかった2人が急に付き合い出したこと。それに、
天上さんは、西園さんが樹を好きなことに気付いていなかったのか?
有り得んだろ...いや、有り得るか。
あの、超が着くほどのド天然。さらに、ラノベ主人公よりも万倍鈍感な天上さんなら有り得てしまうのか...!
あぁ、本当に面倒だ。
それに、樹の対応は大間違いだ。
ストーカーなんてのは、対象に恋人ができたと知ったら、事の真偽に関わらず暴走して、どっちかを殺る可能性があるからな。
それは...経験者だからよく分かる。
「響、大丈夫かい?」
「お前、顔色めっちゃ悪いぞ」
そうか、西園さんのお陰でだいぶマシになったと思ったが全然克服できていないみたいだな。
それに、俺も被害に遭ったことがあるのを知っているのは、あの2人だけだ。
一度深呼吸をして答える。
「あぁ、流石にこんなこと聞いたらな」
顔色も戻ったのか2人の表情が柔らかくなる。
「んで?なんで俺達には話したんだ?」
俺の疑問に恭弥も頷く。
「2人は僕の親友だからね。解決するのに良い案を出してくれるんじゃないかと思ってね」
満面の笑みで答える樹。
「はぁ。てよ、響さん」
「はいはい、とりあえずだが俺だけで動いてみるから、樹は偽装を続けといてくれ」
とりあえず、樹と天上さんが帰っているところを尾行しつつストーカー野郎を特定する。尾行に関しては一人の方がやりやすい。
それに最悪、クソ野郎と殺り合う羽目になる。それに、何の格闘技も習っていない素人2人を巻き込む訳にはいかんからな。
「1人で大丈夫なのか?俺も手伝うが...」
心配そうな顔でこっちを見てくるが、「これでも、空手を結構やっていたから大丈夫だ」と伝える。
そんなことより、
「樹、お前が一番危ない。天上さんと一緒に帰る時は常に周囲を警戒しろ。ストーカーのやつがなんかしてきたら、天上さんを連れて直ぐに走って逃げろよ」
「確かに、ストーカーなんてヤバいやつなら樹に逆上して襲いかかりかねないのか」
俺が尾行することは伝えない。伝えた場合、樹の挙動が不自然になる可能性があるからだ。
俺の忠告に納得したように頷く恭弥。
そして、真剣な表情で答える樹。
「分かったよ」
本当に、今日に限って要らんことが起きないでくれよ...
こっちは、トラウマのせいでちゃんと動けるかも分からんのに...
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