鮮血に染まる

血縁関係

　隣の家では息子さんの行方が分からなくなっているらしい。

　朝、いつものように家を出たきりどこに行ったか分からなくなったそうだ。私はその噂を聞いて、「それは心配ですね。」ととぼけて見せた。

　もちろん彼の心配などしていない。だが、彼がどこへ行ってしまったかも知っている。いや、どこへ行ったかは分からないが、この世にいないことだけは分かる。

　あの人が殺してしまったからだ。

「ただいま」

　あの人が帰ってきた。私は玄関の方まであの人を迎えに行く。

「お疲れ様、あなた。」

　私は彼の仕事カバンを受け取る。どうせ今日は仕事をしていないのだろうと思いながら、カバンを見つめる。

「何かカバンについているかい？」

「いや、何も。」

　私達は笑顔をかわす。

　この人はきっと私に殺人鬼だと勘付かれていることを知っている。私達は全てを知っていながら、知らないふりをしている。この関係が心地よいと感じているから、私達は何も言わない。

「ねえ、今日は久しぶりに……。」

　私は彼から目線を逸らし、そう言って見た。彼はにやりと笑った。

「ああ、いいよ。」

　私はもう年だ。これが子供を産むことのできる最後の機会かもしれない。

　だから、最後くらいはこの人の子供を作ってみたいと思った。この人の子供はどんな風になるのかしら。とても楽しみだけれども、その子供の成長を私は見ることができないかもしれない。

　私が子供を産むことができないと知るとこの人は、生きた私と一緒にいてくれるかしら。きっとそんなことはない。私の最後を考えた時、この人との子供を作りたいと思った。

　でも、この人は私の不倫相手が殺した後にしか私としようとしない。きっと彼はそれに楽しさを覚えている。私が他人の子を孕んでいると分かっている時にしか、彼はもう興奮しないのだ。

　私の子宮に他人の受精卵があるときにしか、彼は興奮しない。自分の子種が使われることが無いと自覚している時に吐き出す射精が快感なのだろう。そんなマスターベーションのようなセックスが彼の好みなのだ。

　だから、この人は赤いバスタオルが干されないと私としようとしない。

　そしたら、ちょうどいい男がいるなあと思ったわ。私は試しに赤いバスタオルをいきなりかけてみたの。そうしたら、まんまとお隣さんは引っ掛かってくれた。

　そして、お隣さんは思った通り私としてくれなかった。でも、お隣さんはこの人に殺された。

　これで計画通り。

　彼は誰の子も孕んでいない私としてくれる。

　私たちの子供達は、最後にこの人の子供を産むことで完成するの。

　私は思わず笑い声を抑えきれず、ついつい吹き出してしまった。

「どうした？」

「いや、これからが楽しみだと思っただけよ。」

　私はにこりと笑いながら、これからを考えるとゾクゾクしてきて、興奮した。

　私は真っ赤なバスタオルを手に取って、体を洗うために風呂場へと向かった。