ネクロフィリアのカッコウ

 私が隣の奥さんが殺人鬼であり、殺した相手との子供をお腹に宿していることに気が付いたのは、4件目の連続殺人事件が起こる少し前だった。


 最初の殺人事件から5年が経った時、既に最初の事件も合わせて、3人の男が殺されていた。殺された3人の男の殺され方は、共通して、めった刺しにされ、体の一部を切り取られ、燃やされると言う手順だった。


 そして、私は最初の事件同様に、その殺された男たちの顔を生きている内に見かけたことがあった。最初の件のように、隣の家から出てきた瞬間を見ていた訳ではない。会社からの帰り道で、殺された男達を何度か見かけたことがあったのだ。


 これだけで隣の奥さんを殺人鬼と疑うには、私の妄想と思われてしまうかもしれないので、この疑いを補強する証拠を挙げようと思う。


 それは、洗濯物だ。


 私が殺された男達を見た日の帰り道、隣の家では奥さんが、洗濯物を取り込んでいる姿を見ることが多かった。隣の奥さんが取り込んでいる洗濯物は、バスタオルだった。


 しかし、そのバスタオルは以前のような真っ赤なバスタオルではなく、真っ白なバスタオルだった。5年間、洗濯物を観察してきたが、普段使いしているバスタオルは、薄い黄色や青色のバスタオルで、白や赤のバスタオルではなかった。


 そして、真っ白なバスタオルは、頻繁に干されることがあるのだが、真っ赤なバスタオルは白のバスタオルと比べると、めったに干されることはない。おそらく、真っ赤なバスタオルはこの5年間で、2、3回しか見ることがなかった。


 さらに、白のバスタオルは赤のバスタオルと同じように、洗濯できなかった次の日の予備のバスタオルでもないようだった。


 私はこのバスタオルとこの連続殺人事件はつながっていると分かっていながらも、確信の持てる推理ができないまま、3件目の殺人が起きた。3件目からしばらくした後、ある事に違和感を覚え、バスタオルの意味をひらめいた。


 3件目の事件が起きた後、4、5か月経った頃だった。私の出勤の頃には、洗濯物が干されていることが続いた。私はまた、奥さんが妊娠したのだなと思った。隣の奥さんは、今まで2人の子供を産んでいるので、これで3人目と言うことになるだろう。


 その時、私ははっとして、ある事に気が付いた。隣の奥さんが妊娠するタイミングは、必ず殺人が起こった後、しばらくしてからだった。また、殺された男は3人で、隣の家の子供は3人だ。


 この偶然を必然として考えるための推理は、隣の奥さんが不倫相手の子供をお腹に宿した後、その不倫相手を殺したということだろう。


 この推理を確かなものにするために、バスタオルと殺人の関係を考えてみた。


 まず、白いバスタオルの意味について考えてみた。白いバスタオルを干す意味は、不倫相手に今日は会っても大丈夫と言うメッセージだろう。


 不倫をする時に、一番気を付けるべきことは、不倫の証拠を残さないことである。浮気や不倫がバレる原因としてよく聞くものは、不倫相手との携帯電話の連絡を盗み見られることだろう。


 メールや電話の履歴を見られることによって、浮気や不倫がバレることはよく聞く。なので、隣の奥さんはそういう証拠を残さないことが、大事と考えたのだろう。奥さんは証拠が残らず、日常の自然な行動の中で、自分と不倫相手だけに伝わる暗号のようなメッセージを探した。


 そして、奥さんは洗濯物のメッセージを思いついた。


 洗濯物は毎日の家の変化を家の外から見ることのできる唯一の部分である。しかし、私のような特殊な人間を除いて、隣の洗濯物をきちんと観察している人はいないだろう。なので、いつもと違う洗濯物が干されていたとしても、誰も気が付かない。


 よって、自然な行動の中で、2人だけの秘密のメッセージが出来上がるのだ。


 そう考えると、干すバスタオルは、白いバスタオルだけでいいはずだ。しかし、赤いバスタオルがたまに干される。この赤いバスタオルには、不倫相手へのメッセージ以外にも重要な意味があるはずだ。


 この赤いバスタオルの意味は、この赤いバスタオルが干された後、しばらく白や赤のバスタオルが干されることが無くなることと彼女が必ず妊娠することを考えれば、おのずと意味は分かってくる。


 今では、検査薬を使えば、妊娠しやすいタイミングが分かるらしい。ならば、その日に赤いバスタオルを干せばいい。そして、その不倫相手の子供をお腹に宿すのだ。


 これで、私の妄想は最もらしい推理となった。


 この推理が出来上がってから、連続殺人事件について詳しく調べてみることにした。その事件を取り上げているネットの記事や週刊誌を見てみた。多くは、妄想や迷信めいた酷い推理が並べられていた。


 だが、1つだけ納得のいく記事があった。


 この連続殺人事件の死体に共通することとして、体の一部が切り取られているという事実があったが、その切り取られた体の一部と言うのが、男性器らしい。


 そして、その記事には、男性器を切り取ったという事実から犯人は、その男性器を使って、屍姦しかんを楽しんでいるのではないかと書かれていた。屍姦とは、死体と交尾することだ。


 私は、隣の奥さんが不倫相手の子供をお腹に宿した後、なぜ、殺してしまうのか分からなかった。


 だが、この記事を信じれば、全てが理解できた。


 しかし、私はこの事実を知った後、警察に通報するでなく、誰に言うこともなく、1人でこの事実を隠し持とうと決めた。


 私がこれ以上生きていても、このようなことに出会うことはまずないだろう。私だけが知っている殺人の事実は、自分の手を犯さずに、人を殺している感覚を味わうことができた。



 私はこの感覚に何とも言えない興奮を覚えた。

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