第48話「インチキ霊媒師2」
「田中さん、助けてください! 霊が出るんです!」
マンションの住人、30代くらいの男性が電話越しに叫んだ。どうやら最近入居したばかりのこの男、夜中に聞こえる不気味な音と「霊がうごめく気配」に怯えているらしい。そして、そこに目をつけたのがあのインチキ霊媒師・
俺は渋々現場に向かうことにした。こういう時、一ノ関に押し付けたいところだが、どうせ「怖いから嫌だ!」と泣きつかれるに決まっている。
現場に着くと、例の
「これで霊を沈めるのだ!」
彼は振り回していた杖を床に叩きつけ、続けざまに謎の呪文を唱え始めた。
「ウンパカドッコ、カルアニカルアニ、ィア、ィア!」
杖の先についた鈴がカランカランと虚しく響く。その後ろで、住人たちが不安そうに彼を見守っていた。
俺は少し離れた場所でその光景を眺めていたが、魔朱が突然、床に寝そべり、手足をバタつかせ始めた時には思わず目を疑った。
「こ、この動きで悪霊を追い払うんだ!」
床を転がりながら、彼は力強く言った。
「いやいや、それは悪霊じゃなくて住人が引く動きだろ……」俺は呆れた。
儀式が一段落したところで、俺は住人たちに事情を聞きながら、部屋の中を調べ始めた。不気味な音の話を聞いた時、俺にはある程度心当たりがあった。水回りの不具合だ。古いマンションや劣化した設備では、給水や排水のたびに配管が共鳴して「ゴンゴン」という音を立てることがある。
案の定、マンション外にある貯水槽は古く、かなりの劣化が見られた。さらに、給水管を叩いてみると、乾いた音がマンション全体に響く。
「給水配管の劣化ですね」
俺がそう言うと、住人たちは驚きつつもほっとした顔を見せた。だが、一人だけ納得していない男がいた。
「素人にはわからない! この音も悪霊が出しているのだ!」
魔朱が杖を振り上げ、またもや奇妙なダンスを踊り始めた。今度は腰を大きく回しながら、脚を交互に高く上げるという、なんとも言えない動きだ。
ちょうどその時、一ノ関が到着した。
「おっ、田中、どうなった?」
彼は部屋に入るなり、踊る魔朱を見て硬直した。次の瞬間、顔を手で覆い、肩を震わせる。必死で笑いを堪えているのがバレバレだった。
「おい、一ノ関……笑うんじゃない」
「無理だろ、なにあの動き!」
一ノ関が完全にツボにはまり、身体をくの字に曲げ、手を口に当てて笑い声を抑えていたが、全然抑えられていない。住人たちも最初は戸惑っていたが、次第に笑いが漏れ始める。
魔朱は必死に儀式を続けようとしたが、完全に雰囲気は台無しだ。
「これ以上の妨害は許さない!」
最後の抵抗を見せるが、俺は淡々と説明を続けた。
「この配管、今すぐ修理しないとダメですね。すぐに業者を手配しますのでご安心ください」
住人たちは最終的に俺の説明を信じ、魔朱を追い出すことに決めた。彼は名残惜しそうに杖を振りながら帰っていったが、その後、住人たちの笑い声がマンション中に響いていたのは言うまでもない。
仕事を終えた帰り道、一ノ関が笑いを堪えながら俺に言った。
「いやー、田中。あいつの踊り、クセになるな」
「お前、何しに来たんだよ……野次馬しに来ただけじゃないか」
俺は肩をすくめながら、次の案件に思いを巡らせた。
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