第18話「落書きが消えない家」
俺は、定期点検で通っている空き家にまた足を運んだ。ここ最近、この空き家には少し厄介な現象が起こっている。何の変哲もない壁に、突然現れる「😊」の落書き。
最初に気づいたのは先週だったが、子供のいたずらだと思い、軽く消してしまった。しかし、今日再び見てみると、同じ場所に「😊」が現れている。しかも前より微妙に表情が変わっている気がする。
「ちょっと気持ち悪いな…」
俺は再び清掃用具を取り出し、壁を念入りに拭いた。これで大丈夫だろうと思って帰ったが、その数日後、また点検に訪れた俺は再び驚かされることになった。
壁にはまたしても「😊」が描かれていた。しかも、前のものとは微妙に違う。笑顔の角度が少し変わり、目の位置もわずかにずれているようだ。
「これはさすがに、ただのいたずらじゃないかもな…」
念のため三度目の清掃を終え、次の点検日には必ず確認しようと決めた。
そして、四度目の点検日。俺は少し身構えながら空き家に入った。予感は的中し、壁に描かれたマークはまた表情を変えていた。
最初の「😊」は少し険しい表情に変わり、「😐」へと変わっている。
「まるで段々怒りをためてるようだな…」と不気味に思いながら、再度清掃する。
だが、五度目の点検でとうとう「😡」マークが現れた。目の部分ははっきりと怒りを表し、眉間にはしっかりと皺が刻まれている。その怒りに満ちた表情がこちらを睨んでいるようで、俺は思わずぞっとしてしまった。
「これはもはや子供のいたずらじゃない」
頭の片隅で感じながらも、俺は掃除を続けた。次に行った時、また「😊」に戻っていることを祈りつつ。
会社に戻り、社長に報告した。
「社長、あの空き家の点検ですが、どうも奇妙でして……。最初はただの『😊』の落書きだったのが、回を追うごとに表情が険しくなり、ついには『😡』のマークにまで変わってしまいました。何度消しても現れるんです」
社長は俺の話をじっと聞いて、ふっと笑った。そして、淡々とした口調でこう言った。
「お前、壁にも挨拶をしたかい? こういうのは最初が肝心なんだよ、田中。礼を尽くして、ちゃんと謝っておいたほうがいいかもしれんぞ」
その一言が妙に不気味で、俺はただ肩をすくめて苦笑いするしかなかった。
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