二人用ダンジョン

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴って帰りの挨拶が終わるや否や、オレは席を立つ。


「おっ、やまと! 今日もゲームかー!?」

「それ以外にあるかよ?」


 早々に教室を出ようとするが、クラスメイトに呼び止められる。わかりきったことを、何を今更……


「ははっ、まあ、お前はいっつもそうだもんな! けど、たまには身体を動かすのもいいんじゃねぇか?」

「体育の授業だけで十分。こんなクソ暑い日に外で遊びたくなんてねぇよ」

「そっか……まあ、気持ちはわかるぜ。面白いし冷房が聞いた部屋でできるもんな、フルダイブ型のゲーム」

「ああ、ゲームの中で身体を動かすことにするよ」

「ん、まあ、リアルで運動したくなったら声かけてくれや。我がバスケ部はいつでも人員不足だからな!」

「それは部活としてやっていけてるのか……? いや、めんどくさい話になりそうだから失礼するよ。また明日な」

「ははっ、バレてるか。泣き落としでもしようと思ってたんだけどな! ん、また明日ー!」


 悪いやつではないのだが、オレとしては放課後の一分一秒でも多くゲームに注ぎ込みたいから少し困りものだ。

 ……まあ、こうやって話しかけてくれること自体には感謝するべきなんだが。



「──さ、ゲームゲーム」


 自宅に帰り、ゴーグルとボディスーツを装着しベッドに横たわる。


 初めてフルダイブ型のゲームが発売されたのは三年前……オレが中学二年生の頃で、MMORPGが発売されたのはその次の年だった。

 村から引っ越したばかりで都会の空気に圧倒されたオレは、あまり触れなかったゲームというものに没頭することになり……今に至る。


「……このゲーム、マジで改名しないままなのかな」


 真っ暗だった視界一面にいかにも異世界チックな風景とタイトル画面がデカデカと現れる。

 オレが今やっているゲーム、『Sugoku Omoshiroi Online』は一年半ほど前に発売されたゲームだ。

 ……『すごく おもしろい オンライン』だぞ? 開発陣にとんでもなくヤバいやつが居るに違いない。

 このゲーム、通称『SOO』はそのネーミングセンスと無名のゲームスタジオが製作したことから、マジで誰も期待していなかったのだが……いざ発売されてみると、そのグラフィックの良さ、不具合の少なさ、システムの面白さがクチコミで広まって今や世界でプレイ人口が一番多いフルダイブMMOとなったのだ。

 ちなみにオレは怖いもの見たさで初日に購入し遊んでいる。


「さて、とりあえずギルドに顔を出すか」


 レンガ街を歩き、ギルドの扉の前に立ち、所属しているギルド名『セイントクロス』を選択してから扉を開ける。


「こんにちは。クロスさんはインしてる?」

「おっ、ウィーッス! マトヤさん! クロスさんはまだ来てないすね!」

「ん……というか、オレたち以外誰も来ていないね」


 室内を見回しながら質問するが、今ギルド内にいるのはオレと女ウサギ獣人のラチェルさんだけのようだ。


「まあ、まだ夕方すからね! クロスさんに何か用事があったんすか?」

「おう、例の——」

「例のダンジョンのことだろ? って、すまん、被っちまったな」


 答えようとした瞬間、背後の扉が開き、ハゲの大男が入ってきてオレの言葉を持って行った。


「まあ、セイントさんは事情を知っているし、代わりに答えてくれるんならそれでもいいよ。じゃ、後の説明よろしく!」

「おいおい、被っちまったからって全部押し付けようとすんなってー! 俺、ギルド長よ?」

「はっはは、冗談だって。オレから説明するよ」


 そう、このハゲでいかつい大男がギルド長のセイントさんだ。アバターの見た目は厳ついが、冗談が効いて親しみやすい。

 オレが探していた副ギルド長のクロスさんとはリア友のようで、二人でこのギルドを立ち上げたらしい。


「例のダンジョンって、あの……一ヶ月間誰も突破していない二人用ダンジョンのことすか?」

「そう。あのダンジョンのこと。実は、クロスさんと潜りたいなって思っててさ」

「え……マトヤさんがすか? たしかに実力ではワンツートップすけど、それじゃあセイントさんが……」


 ラチェルさんが目を見開かせる。それはそうだ。

 そのダンジョンにはある制限がかかっているからだ。それは、『そのダンジョンには一度入ると同じ相手としか入れない』という制限で。


「そう、だから昨夜セイントさんには話をつけたんだよ」

「俺は二人用ダンジョンはそこまで好みじゃねぇからな……なら、実力のある二人で行ってもらおうって」


 ちなみに、ここで使われている『実力』というのはレベルのことではない。

 俺もセイントさんもクロスさんもレベルは上限である500に到達している。それならばどこで実力を判断するのかというと、一対一の模擬戦であり、その勝敗を決するのは戦闘センスと武器防具だ。


「あー、クロスさんは飲み会でいなかったすからね。まあ、セイントさんがいいって言うならいいんじゃないすか?」

「……んー、そうだといいけど」

「……な」

「?」


 楽観的な表情のラチェルさんを見て、セイントさんと顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

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