ダイエット大作戦
製本業者
〜 ミッション・ポシブル〜
「お願い、ダイエット手伝って」
それがすべての始まりだった。
「唐突だな、いきなりすぎるよ」
虚を突かれたボクは、少し間を置いて彼女に問いかけた。
「いいでしょ。とにかく手伝って」
「理由もわからないのに、どうしろっていうんだよ」
「痩せたいから、黙って手伝ってほしいのよ」
「健康診断、そんなにひどくなかっただろ?
ボクですら大丈夫だったんだから」と、つい日頃の親しさから小声で付け加える。
「さすがに、いっしょにしないで」
彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「でも、一人だと挫折しそうだから……お願い!」
片手を合わせて頼み込むように頭を下げ、顔を上げたり下げたりとその動作を繰り返す。
彼女の必死な様子が伝わってきて、ボクはその理由にピンときた。
彼女は、ぽっちゃりとした体型……いや、もっと正直に言えば、かなり太めだ。ふとましい女性ってやつ。
人によってはデブスと思うかもしれないが、実際には顔のパーツは整っていて、愛らしい表情をしている。彼女の体型を抜きにすれば、小顔とすら思える。
「……好きな人ができたの?」
「……そうだよ。悪い」
ぷいと顔を背けるその様子に、胸にちくりとした痛みが走る。彼女もボクと同様、リアルな恋愛に興味がないと思っていたのに。
それでも、最近彼女がちらちらとクラスカースト上位の男子を見つめていたのは気付いていた。同志だった彼女を応援するべきなのか迷う。
「で、誰?」
「……まだ言えない」
仲の良いオタク仲間として、案外すんなり話してくれるかと思っていたけれど、恋愛のことになるとさすがに恥ずかしいのだろう。彼女が視線の先に男子を置くのを見たとき、一瞬『腐に目覚めてカップリングか?』と考えたこともあったけど、今となっては点と点が繋がった。
「痩せてる子が好みとか言われたの?」
「ううん」彼女は首を横に振った。
「ただ……ぽっちゃりした子が好きって言ってたらしい」と、顔を伏せて消え入りそうな声でつぶやく。
なるほど。この「ぽっちゃり」とは、美容体重やシンデレラ体重のようなスリムさではなく、標準体重を指しているのだろう。BMI24未満の娘が「ぽっちゃり」なのであって、決して25以上ではない。場合によっては23以下かもしれない。実際、BMIが25以上なんて、その男子ははなから対象外にしているだろう。
彼女は腐っているが頭はかなりよく、勘も鋭いだけに、そのことをきっと理解している。
だから、「このままアタックしても大丈夫かも」なんて勘違いすること無く「痩せたらターゲットに入るかも?」と、ボクにお願いしてきたわけだ。
ちなみに直接体重を聞いたことはないが、彼女はボクより背が低いけど160cmは超えている。そして体重はおそらく70kg近い。
つまり……
「10kg以上痩せれば、ほぼいい感じか……」
彼女は力強くうなずく。
「でも、それなら女友達に頼んだほうがよくない?」
「頼んだ。でも……」
彼女は顔を曇らせて続けた。
「協力するよって言われた夕方、週末のケーキバイキングに誘われた」
「あぁ……うん、知ってた」
口先では協力すると言っても、実際には逆のことをする友達を何度も見てきたからよくわかる。
ケーキバイキングとは、色とりどりの甘い誘惑が並ぶ場だ。
クリームたっぷりのショートケーキ、チョコレートムース、カスタードがたっぷり詰まったシュークリーム。イチゴやキウイやフルーツが載って彩り鮮やか。
そんな場所で「少しだけ食べよう」という約束は破られるのが常だ。意志の弱さと甘いものへの欲望が交差する戦場。それに負けた友達を何度見てきただろうか。
同時に「てめぇだけ痩せようとするんじゃねぇよ」と言う怨嗟の呪文がきっと込められている。
「わかった。じゃあ、いっしょに頑張ろう」
「うん、よろしく」
彼女の笑顔がさらに愛らしくなる予感がした。ボクも本気で頑張るしかない。彼女と一緒に痩せてボクも彼女をゲットすれば、ウインウインの関係ってやつだと、自分にそう言い聞かせた。
一日目。
まずは方針を決めることから始まった。彼女に食事内容を尋ねてみると、話している限りでは意外と少なめだ。朝はヨーグルトだけ、昼は母親が作ってくれる小さめのお弁当、夜も家族と一緒に普通の食事をしている。
しかし、さらに詳しく聞いてみると……問題の片鱗が見えてきた。
「……やっぱりか」と心の中でため息をつく。
まず、推しのYouTube動画を観ながらお菓子をつまむのが習慣らしい。
ポテチ一袋を「栄養ないからゼロカロリーだよね」と言ってはパクパク。
さらには「体に良いし」と、スポーツ飲料をごくごく。
夏場はクーラーをかけてアイス、冬場はこたつでアイスと、季節を問わず甘い誘惑に負けていた。
「……お菓子禁止。推しの動画を見るときは、炭酸水だけOK。それでどう?」
「えー、そんなの無理だよ~」と、彼女はブーイング。
でも、ボクが「痩せたいんでしょ?」と一言返すと、しばしの沈黙のあと「……分かったよ」と渋々うなずいた。
なんだかんだ言って、やる気はあるのだ。
ネットで彼女の食事内容を元に検索していくと、朝のヨーグルトは、実はあまり良くないことに気づいた。
腸内環境を整えるには良いが、寝起きの冷えた内臓をさらに冷やしてしまうので燃焼効果が下がるらしい。つまり朝食は温かい味噌汁などの和食が適しているようだ。
「ねえ、他の家族は朝ごはん何食べてるの?」
「うん、ご飯と味噌汁だよ。私だけ、朝はあまり食欲がなくてヨーグルトだけなの」
「それなら、みんなと同じでご飯と味噌汁に変えよう。推しの動画見るときだけヨーグルトは許可するってことで」
「ほんと? ちょっとは優しいじゃん」と彼女はクスリと笑う。
昼のお弁当について聞くと、母親が可愛らしいおかずを詰めてくれるそうだ。
「……つまり、家事手伝いしてる?」
「は? なにそれ」
ちょっと料理が苦手なことを茶化してみたら、彼女は黙ってグーでボクの腕を軽く叩いた。
「痛っ!
おい、暴力ヒロインかよ」
「うるさい。
もっとちゃんと手伝ってるもん」
お互い顔を見合わせて、思わず笑ってしまう。この小さなやりとりが、ダイエットを続けるモチベーションになる気がした。
「じゃあ、次は間食をどうするか考えよう」
「……お願いだから、少しは甘いの許してよ?」
「それは、週末のご褒美だな」
「むー、しぶといなぁ……でも、ありがとね」
それはさておき、まずは基本的なことから始めることにした。
食事の量をコントロールし、脂質を控える。特に夜は、野菜を先に食べ、しっかりと噛むことを徹底。ご飯はお茶碗半分に減らしてもらうことにした。これに加えて、食事のたびに「よく噛むこと」を意識してもらう。いわば緩やかな糖質制限ダイエットだが、これはむしろ食生活の見直しに近い。完全な糖質カットでは続かないため、控えめに制限し、その代わりにタンパク質を増やして脂質をカットする。
「それで、夜ごはんはどんな感じに変えるの?」と、彼女は興味津々で聞いてきた。
「まず野菜をしっかり食べてから、主菜を食べるんだ。ご飯は少しだけにして、ゆっくり食べる」
「ゆっくり食べるかぁ……それ、けっこう大変かも」
「でも、やらないと意味ないよ。咀嚼って満腹感にすごく影響あるんだって」
「ふーん……じゃあ、頑張るよ。ボクもついでに痩せるかもしれないし」
「おいおい、自分のことじゃないんだろ? まあ、いいけどさ」と、彼女は笑って肩をすくめた。
ちなみに、ボクの食生活はもっと酷い。ひとり暮らしを良いことに、コンビニ弁当やカップ麺、スナック菓子、ジャンクフードが主食のようなものだ。そこにゼロカロリー炭酸飲料の2リットルペットボトルが加わる日々。
「それって本当にダイエットする気あるの?」彼女が疑いの目を向けてくる。
「だからこそ、これを機に一緒に変えるんだよ」と言って、お菓子のストックと炭酸飲料のペットボトルを一気にゴミ袋に放り込んだ。
「本気じゃん……じゃあ、私もやるか!」
ボクは決心して、基本的にはゆで卵、野菜、時々お肉やお魚を食べるという極端な食事制限を始めた。お米や小麦粉はほぼ抜き、お砂糖は厳禁だ。
「ねえ、これ本当に続くと思う?」彼女が少し心配そうに聞いてきた。
「正直、簡単じゃないけど……君が一緒なら案外いける気がする」
「それって励ましてくれてるの?」彼女は少し照れ笑いを浮かべる。
「まあ、そういうこと。お互い様だしね」
彼女が頑張る姿を見て、ボクも自然と気合が入った。
校正し、加筆修正した文章を以下に示します。二人の掛け合いも追加しています。
次に運動について。
厳密に言えば、“Diet” は本来「食事」を指し、運動や美容に関しては “Fitness” や “Body make-up” と呼ぶのが正しいらしい? まあ、細かいことは気にしない。日本語の「ダイエット」は食事だけでなく運動も含むし、問題ない。つまり、「モーマンタイ」ってことで。
彼女は背は平均より少し高めだが、筋肉はあまりついていない。何でも「ダイエットは食事9割、運動1割」と言われるらしいが、食事だけに頼るとリバウンドの危険があるらしい。運動も少しは取り入れる必要があるというわけだ。
「で、運動はどうする?」と、彼女が興味津々に尋ねてきた。
「まずはウォーキングから始めよう。無理すると膝を痛めることもあるしね」
「えー、ウォーキングって地味じゃない?」
「地味だから続けやすいんだよ。いきなり激しい運動は無理だろ? 少しずつ慣れていけばいいんだ」
「……まあ、そうかもしれないけど。歩くときも話してくれる?」
「もちろんさ。退屈しないようにするから、安心して」
そんなわけで、ウォーキングを始めることにした。彼女とは、途中で別れるとはいえ同じ方向のバス通学。バス停は異なるけれど、バスの乗り降りを2つくらいずらして歩く距離を増やすことにした。
「朝はこのバス停で一緒に乗って、帰りは少し遠回りしてこのバス停で降りる。どう?」
「うん、それならちょっとずつ慣れていけそう」と彼女は笑顔でうなずいた。
「慣れてきたら、自転車通学ってのもアリだな」
「え、自転車!? それはちょっと先の話でお願いしたいかも……」と、彼女は苦笑いを浮かべた。
「大丈夫、いきなりはしないよ。まずはウォーキングでしっかり体を慣らしてからだ」
「頼りにしてるよ、トレーナーさん」と、彼女はからかうようにウインクする。
「はいはい、まずは一歩ずつね」
こうして、二人で日々のウォーキングを始めることになった。朝の空気を吸いながらの会話は、意外にも新鮮で心地よかった。
1週間後
朝のウォーキング券通学で、バスのシートに腰を下ろすと、彼女が息を整えながら口を開いた。
「ねぇ、1週間で2kgくらいって、減るかなぁ?」
ボクはペットボトルの水を飲んでから、少し考えて答える。
「うーん、現実的には1kgくらいがいいとこじゃない?
2kgはちょっと急ぎすぎかも」
彼女は少しがっかりした表情を見せる。
「やっぱり……そうなんだ。でも、もうちょっと速く結果が出ないと挫折しそうで怖いなぁ」
どうやら1kg程度しか減っていなくて、早くも心が折れそうになっているらしい。
「わかる。でも、最初の1週間って、体が変化に慣れてくる準備期間でもあるから、無理しすぎると続かなくなるよ。逆に、最初に頑張りすぎてリバウンドしたら意味がないし」
「うん……それは嫌だな。せっかく始めたんだし、頑張りたいけど、あんまり無理しないようにしなきゃね」
「そうそう。1週間で体重が大きく変わらなくても、むくみが取れたり、体が軽くなった感じがすることがあるんだ。それをモチベーションにすればいいと思うよ。
それに、始めたときより、二本ほど早いバスに乗れるようなったのも、すごい進歩じゃ無い?」
「そっか、それならちょっと安心したかも。今日は体が軽く感じる気もするし」
彼女はにっこりと笑った。
「その調子! あと、少しずつ筋肉もついてくると基礎代謝も上がって、もっと痩せやすくなるからさ」
「なるほどね、筋肉か……じゃあ、今度は軽い筋トレもやってみようかな?」
「いいね。でも、まずはウォーキングを続けて、少しずつ負荷を上げていこう」
「了解! ボク、頼りにしてるからね、コーチさん」と、またからかうようにウインクする彼女。
「はいはい、コーチ料は笑顔でよろしく」
「それなら安いもんだよ!スマイルゼロ円って、昭和な感じだけど」と彼女が笑うと、二人の笑い声が静かな車内に響いた。
ウォーキングと食事制限を始めてから2週間が経ったある日、ボクたちは学校帰りのバス停へ向かう道で話していた。彼女の顔は明るく、歩くリズムも軽快だ。
「ねぇ、最近ちょっと体が引き締まった感じがしない?」彼女が嬉しそうに言った。
「うん、確かに。顔も少しすっきりしてきた気がするよ。どう? ウエストとか少しゆるくなったんじゃない?」
「うん! ウエストは少し減ったかも。でも、体重自体は思ったより減ってないかな……1.5kgくらいで止まってる感じ」
ボクはうなずきながら彼女に説明する。
「まあ、最初の2週間って水分とむくみが取れるのが主だしね。でも、中性脂肪や内臓脂肪が減り始めるのはそろそろだよ。今はその下準備の段階って感じかな」
彼女は少し眉をひそめて考え込む。
「そっか、でももっと効果を感じたいなぁ……何か次のステップに進めない?」
「じゃあ、バス停を変えて歩く距離をもう少し伸ばしてみようか。少しずつ運動量を増やしていくと、もっと脂肪が燃えやすくなるよ」
「えっ、さらに歩くの? でも……今は大分慣れてきたし、やってみようかな」
「そうだね、あんまり無理はしない程度に。例えば、朝は一つ先のバス停まで歩いて、帰りはもっと遠いところから乗るようにしてみる?」
「それ、良いかも! でも、ボクだけじゃなくて一緒に付き合ってよね?」
「もちろん。ここまで来たら一緒にやり切るよ。だって、君が頑張ってるのを見ると、こっちも負けてられないし」
彼女は照れたように笑って、「ありがとう、頼もしいな」と言った。
「それに、これで中性脂肪や内臓脂肪が減り始めれば、体重もまた動き始めるはず。あと、体のラインも少し変わってくるんじゃないかな」
「うん、そう信じて頑張る! よーし、明日から歩く距離増やすよ!」
ボクは彼女のその決意に満足し、「そうこなくっちゃ」と笑顔で応えた。そして二人はいつもより短く感じる帰り道を歩き始めた。
ダイエットを始めてから3週間以上が過ぎ、彼女はだいぶ食生活に変化が出てきたようだった。帰り道で、彼女がボクに話しかけてきた。
「ねぇ、不思議なことに最近、空腹でもそんなに気にならなくなってきたの」
「本当? それってすごい進歩じゃないか。空腹を感じなくなるってことは、体が新しいリズムに慣れてきた証拠だよ」
彼女は頷いて続ける。
「最初の頃はお腹が空くとすぐ何か食べたくて、そわそわしちゃってたけど。最近は『あ、ちょっとお腹空いたな』って感じで済むようになったんだよね。変わるもんだね」
「そうそう、それが習慣になってきた証拠。お腹いっぱいじゃないと不安だったのが、体が新しい摂取量に適応してきたんだよ」
「でもさ、最初は本当にきつかったよね。何度かお菓子に手を伸ばしかけたけど、その度に君の顔が浮かんで止まったんだから」
「はは、それは光栄だね。僕も一緒にお菓子を減らしてるから、気持ちはよくわかるよ。でも、ここまで来たらお互いに成功しそうだね」
彼女は笑って「そうだね、ありがとう」と言いながら空を見上げた。
「これで食生活がもっと自然になって、体の調子も良くなれば最高だよね。あとは、食事を楽しむことも大切にしないと」
「そうだね。ただ単に我慢するだけじゃなくて、ちゃんと美味しいものを味わって、少しずつ食生活を整えていこう」
「うん、これからもよろしくね。やっぱり一人でやるのは大変だから」
「もちろん。これからも一緒に頑張ろう」と言って、ボクたちはいつものバス停を通り過ぎて、少し遠回りの道を歩き続けた。
一ヶ月が過ぎ、ボクたちの生活にも変化が見えてきた。彼女は少し体が引き締まってきたようで、表情にも自信が出てきたように見える。帰り道、彼女が嬉しそうに話しかけてきた。
「ねぇ、最近鏡を見るとちょっとスッキリしてきた気がするんだよね。洋服も前より着やすくなったし」
「お、それは大きな進歩だね。頑張った甲斐があったってことだよ。続けてきた甲斐があったね」
「うん、本当に。でも、そろそろウォーキングだけじゃ物足りなくなってきた気がしてさ。ねぇ、これから自転車通学に変えるってのはどうかな?」
「自転車か……。確かに有酸素運動としても効果的だし、良さそうだよね。でも、一つ気になったことがあるんだ」
「何?」
「自転車通学中に併走して話すのって、ちょっと危険じゃないかな? それに、学校でも禁止されてるよね、友達と並走するのは」
彼女は一瞬考え込んで、頷いた。
「あ、そうか……確かにそれは問題だね。事故になったら大変だし、学校で怒られるのも嫌だし」
「そうだよね。安全第一ってことで、やっぱりウォーキングの方がいいんじゃない? 話しながら歩けるし、気持ちもリラックスできるしさ」
「うん、そうだね。やっぱりウォーキングが一番いいかも。これからも一緒に歩いてくれる?」
「もちろん。これからも一緒に歩いて、もっと良い結果を出そう」
彼女はにっこり笑って「ありがとう、頼りにしてるよ」と言いながら、また前を向いて歩き出した。ボクたちは、そのまま一緒に帰り道を進んでいった。
「ねえ、最近ちょっと停滞してる気がするんだけど、体重が全然減らなくなっちゃって…」
見違えるようにかわいくなった彼女が、少し不安そうな顔でボクに話しかけてきた。
「それ、停滞期かもしれないね。2か月でここまで頑張ってきたんだから、体が慣れてきたんだと思うよ。体重って、減るときとそうじゃないときが波のように来るって言うし。」
「そうなんだ…。じゃあ、このまま続けていけばまた減るの?」
彼女は心配そうな目をボクに向けた。
「うん、そう。ここで焦って無理なことをすると逆効果になりかねないからね。体が慣れるのを待ちながら、少し食事を見直したり、運動を工夫するのもいいかもね。」ボクは少し考えてから提案した。
「そうだ、ウォーキングは続けるとして、公園でちょっとした筋トレをやってみるのはどう? 斜め懸垂なんて良いんじゃ無いかな」
「筋トレ?」
彼女は目を輝かせ、興味津々の様子だ。
「斜め懸垂って、あの鉄棒を使うやつでしょ?
それ、なんか面白そう!」
「そうそう。腕や背中を鍛えるのにちょうどいいし、ちょっと筋トレを加えるだけでも代謝が上がって効果が出やすくなるって聞いたことあるんだ。だから無理なく始められる。」
「お、それはいいかも。
新しいことを始めると気分転換にもなるし、停滞期も乗り越えられそう」
彼女は嬉しそうにうなずいた。
ボクは笑顔で頷き返した。
「だよね。無理せず気楽にやれることが大事だからさ。ウォーキングのついでに公園に寄って、一緒にやってみよう」
「明日から公園に寄り道してみようか。試してみて、合わなかったらまた別の方法を考えればいいし」
彼女は微笑んで、前を向いて歩き出した。
「そうだね、楽しみだ。じゃあ、明日から一緒に新しいステップを踏み出そう」
「うん、一緒に頑張ろう!」
彼女の笑顔はこれからの挑戦を前向きに受け入れていて、ボクも自然と笑みがこぼれた。そんな気持ちで、僕たちは家路を進んでいった。
「そういえば、最近停滞してるって話してたけど、少し違う視点でモチベーション上げてみない?」と提案してみた。
「違う視点?」
彼女が首をかしげて聞いてきた。
「うん。例えば……コスプレとか。
痩せた自分を見てみたいとか、特定のキャラになりきるのを目標にするとかさ」
一瞬、彼女の目がぱっと輝いた。
「コスプレかぁ…。それ、面白そうだね!
私、実はちょっとやってみたいって思ってたんだよね」
「やっぱり?
僕も思ってたんだよ。これだけ頑張ってきたし、もうお互い変化が見えてきたよな」
鏡をちらっと見て、自分もかなり体が引き締まってきたことに気づいた。
彼女は笑顔で頷いた。
「そうだよね、最初に比べたら私たち、結構痩せたよね。これなら衣装も映えそうだし!」
「うん、もう少し頑張ればもっと理想のスタイルに近づける。
コスプレするキャラとか考えるのも楽しいし、それがまたモチベーションになるよな」
「そうだね!
それに、コスプレのイベントとか行ったら写真撮ってもらえるし、そのためにもさらに頑張れるかも」
「じゃあ、どのキャラにしようか?
一緒に考えるのも楽しそうだ」
「うん、考えよう!
せっかくならお互いが映える組み合わせもいいかもね」
僕たちはそんなことを話しながら歩いて、自然と笑顔がこぼれた。
コスプレという新しい目標が、停滞期のモチベーションを一気に引き上げてくれる気がした。
「さあ、もう一息だ。ここまで来たんだから、乗り越えていこう」とお互いを励まし合いながら、新たな気持ちで帰り道を進んだ。
「よし、じゃあ告ってくる」彼女は少し緊張した顔をしながらも、決意に満ちた目でそう言って、僕の目を真っ直ぐ見つめて頷いた。僕はその勇気に、ただ頷いて見守ることしかできなかった。
数分後、彼女が戻ってきた。足取りは重く、遠くからでもわかるほど肩を落としていた。
「振られちゃった」
寂しそうな、それでいてどこかサバサバした表情で話しかけてきた。
「まったく見る目無いね。こっちからお断りだって言ってやってもいいくらいだよ」と僕は冗談めかして言ったが、彼女は微笑んだだけで言葉を返さなかった。
「『もっと相応しい人がいるから』なんて、ベタな断り方されると、一気に醒めちゃうんだよね」
彼女は小さく息をついた。
「じゃあ、今日は僕のおごりで、ぱーっと行こうか!……コンビニのチキンと炭酸水あたりで」と僕が言うと、彼女は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「ケチくさい!
ぱーっと卵くらい付けなさいよ」
「OK、卵付きでね」と僕も笑いながら答えた。
彼女の表情が少しでも明るくなるなら、それだけで十分だった。
おまけ
「へー、告白断ったんだ。結構かわいかったのに」と友人が興味深げに言った。
「……まあ言いたいことはわかる。正直、彼女をエロい目で見ないようにするのが精一杯だったからな」と彼は肩をすくめて苦笑した。
「ならさあ……」
「いや、言いたいことはわかる。わかるけど……それ以上に」
その瞬間、廊下を歩いていた別の生徒たちが話し始めた。
「ねえ、知ってる?あの二人、付き合ってなかったんだって」
「うそ、絶対付き合ってると思ってたのに」
二人は、声をそろえて言った。
「「ウソみたいだろ、これで付き合ってないんだぜ 」」
ダイエット大作戦 製本業者 @Bookmaker
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