第41話 凶悪!南国の戦士達
ファイアカロリーが現れた事で、多くの人々はこれが単なるイベントのようなものだと勘違いしたらしい。逃げ惑っていた人々はいくらか落ち着きを取り戻していたが、既に市内には重人とファイアカロリーの噂が広まりつつあったことから、いつでも逃げられるように遠巻きに見つめる者達だけが残っていた。
「コ~コッコッコ!お前の攻撃は通用しないんダヨン!でも、こっちの攻撃は効くんダヨン~!」
「久し振りに変な喋り方する重人だな…!でも、あの装甲は確かに驚異的な硬さだ。……どうする?」
恐るべきココナッツ重人の装甲を前に、ファイアカロリーは攻撃手段を迷っていた。必殺技であるハイパーカロリースマッシュや、オーバーメルトキックなら、あの硬い殻を打ち破る事は出来るかもしれない。しかし、それらはどれもエネルギー消費が多い技ばかりだ。安易に連発は出来ないし、万が一効果が無かった時は戦えなくなってしまう。やはりまずは、通常の攻撃手段の中から通用するものを探す方が賢明だろう。
とはいえ、先程殴った時の感触は、想像を絶する硬さだったのも事実だ。ココナッツ重人はファイアカロリーのパンチをヘナチョコと言っていたが、実際にはそんな事はない。FATエネルギーの身体能力ブースト効果により、ファイアカロリーの能力は変身前の数倍から数十倍にまで引き上げられている。彼が最初に変身した時、ちょっと軽く跳んだだけのはずが、ビルをも飛び越える高さまで跳躍してしまった事がその証拠だ。普通のパンチに見えても、それは鋼鉄をも容易に砕く破壊力を秘めているのである。
そんなファイアカロリーに向け、ココナッツ重人はおもむろに背中へ手を回すと、どこからともなく小型のココナッツを取り出した。しかもそれはお手玉のようにいくつもあって、ココナッツ重人は器用にそれを手の上で転がしている。
「そ~れっ!美味しいココナッツ爆弾ダヨ~ン!あ、それポイッ!」
「はぁっ!?ば、爆だ……んんっ!?うわぁ!」
ファイアカロリーの前に落ちたココナッツ型の爆弾は、その瞬間には激しい爆発を引き起こした。厄介な事に爆発の際にほとんど炎は出ず、その衝撃がファイアカロリーを襲う。咄嗟に両手で衝撃を防いだが、小型ながらもかなりの破壊力を持つココナッツ爆弾の衝撃は、ファイアカロリーにしっかりとダメージを与えていた。
「コ~コッコッコ!お前が火を取り込む事は解ってるんダヨン!だから、爆発してもあまり火が出ないようにして、衝撃だけを与えるサイズにしてるんダヨン!いくらお前でも爆発の衝撃までは吸い取れないダヨン~!」
「う、い…っつう!確かにこれは、痛いだけだな…!」
「お、おい本当に爆発したぞ…?!ほ、本物の爆弾だ!逃げろー!」
誰かがそう叫んだことで、それまで様子を見ていた人達が再び恐慌状態に陥り、一斉に駆け出した。バスターミナルには数台のバスが停車していたが皆、我先に乗り込もうとしている。しかし、それによってバスは詰まってしまい、発車できない状態だ。しかも、そこへ更にバスが入ってきてターミナルは大混乱である。
「コ~コッコッコ!間抜けな奴らダヨン!どうせ逃げられやしないんダヨン!そ~れっ!」
「あっ!」
バスターミナルの出口に向けて放られたココナッツ爆弾はやや大きく、轟音と共に道路に穴を開けてしまった。あれでは車は通れない、しかも乗客を満載したバスなら猶更だ。運悪くその近くを通った一般の乗用車が数台、爆発に巻き込まれたようで、横転してしまっている。ここへ来て、今までは人を太らせるだけだった重人が、人を傷つけた瞬間をファイアカロリーはその目で見てしまった。
「コ~コッコッコ!これで逃げられないココナッツねぇ!」
「そこはダヨンじゃないのかよ!?キャラブレ激しいぞ、コイツ!……って、そうじゃない。なんてことをするんだ!あんな爆発に巻き込まれて…もしもの事があったらどうする!?
」
「コ~コッコッコ!あいつらはお前を倒した後で、一人残らず肥満にさせてやるんダヨン!ココナッツジュースはヘルシーだから、たっぷり飲ませてやらないといけないんダヨン!少しくらいカップルじゃない人間が減った所で関係ないんダヨ~ン!」
思い出したかのように語尾を統一し、ココナッツ重人が勝ち誇っている。間抜けな見た目とは裏腹に非道な行いをするココナッツ重人に対し、ファイアカロリーは激しい怒りを覚えたようだ。すると、その身体に変化が起きた。
「コイツ、許せない!……うっ!?な、なんだ……か、身体が…熱い!う、うううう…うおおおおおおっ!」
「なんだ!?なんなんダヨン!?」
その怒りに呼応するかの如く、ファイアカロリーの強化皮膚装甲が大きく盛り上がり、肉切れを起こしたようにひび割れていく。それに伴って身体の色が濃く、黒ずんだ赤色に変化した。更には頭部に生えていた触角のようなものまでが硬い角のように変化し、目の部分にあたる炎を模したようなアイガラスは、赤々と怪しい光を放っていた。
「せ、先輩が……こ、恐い…」
ファイアカロリーの変貌ぶりは、植え込みに隠れていた藍にすら恐怖を与えるほどの威圧感を放っていた。彼女からは背中しか見えていないが、それでも恐れを抱くほどのプレッシャーだ。まるで目の前に爆発寸前のダイナマイトがあるような、大変な恐怖であった。
「うおおおっ!」
「な、ななな!?速いんダヨン!」
変化したファイアカロリーの力は凄まじく、一瞬にしてココナッツ重人の懐へと飛び込んでいた。そしてそのまま、一撃、二撃とその拳を叩き込む。先程のパンチと同様、ココナッツ重人の殻を破壊出来てはいないものの、その衝撃で大きく怯ませることには成功している。しかも今度は、ファイアカロリーの手の方が痛む事もないようだ。
「ぐっ!ぐわぁ!?くそ!む、無駄ダヨン!いくらパワーが上がっても、打撃でココナッツの殻は破れないんダヨン!……ん?」
「フーッ!フーッ!おおおおっ!ブレイズリングチャクラム!」
正気を失っている様子のファイアカロリーが新たな技名を叫ぶ。それは、栄博士が予め登録しておいた色々なゲームのキャラが使う技のワード達だ。その中から三つのワードを抜き出して、新しい技として再構成したようである。
ファイアカロリーがコマンドとして両手を合わせると、その手を中心として炎の輪が現れた。それは人の頭ほどのサイズで、高速で回転している。ファイアカロリーはそれを、渾身の力でココナッツ重人に投げつけた。
「げげっ!?き、切るのはダメダヨン!?あああああっ!や、止めてくれぇぇぇぇっ!」
どんなに堅いココナッツの殻でも、通常は鉈のような包丁を使って天辺を落とし、そこからストローを差し込んで飲むものである。つまり、ココナッツ重人は切断されることに弱いのだ。
殻を綺麗に切り裂かれ、中の白い果肉が露出するとココナッツ重人は大きく力を削がれたようだ。既に戦意を喪失し、フラフラと逃げ出そうとしている。だが、ファイアカロリーはそれを許さなかった。
「逃がさないっ……スーパーカロリーバーナー!」
「ギャアアアアッ!バァーニーィィィングッ!!」
強烈な火炎がココナッツ重人を包み、一瞬にして焼き尽くす。背中から敵を攻撃するなど、普段のファイアカロリーからは考えられない行動だが、変化したファイアカロリーにそれを躊躇う様子は一切見られなかった。それどころか、敵を倒しても尚、まだ恐ろしい威圧を放ち続けている。
「ほう。ファイアカロリーめ、あんな力も持っていたのか。よし、続けてお前も行け」
「御意!」
その戦いを観察していた欧田華麗の元から、更にもう一人の男が前に出た。その男は、ココナッツ重人とは違う色のアロハを着ていて、柄がもう少し派手である。仲間であるココナッツ重人が敗れた所を目の当たりにしていたはずだが、一切気にする気配もなく、スタスタと歩を進めてファイアカロリーの前に立ちはだかった。
「ふふ、ファイアカロリーよ、お前は確かに強い。だが、この俺には勝てん。何故なら俺はお前という戦士を倒す為の
後から出てきた男は、漫画でくらいしか見た事のない完璧なモヒカン頭をしており、そのアロハシャツ姿も相まってかなり厳つい印象を受ける。そんな印象の男の身体からMBNが湧き立ち、変身した姿は青々とした葉がそびえる茶色い果実であった。
「プルルルル……パイナップル重人、参上。今日がお前の最後だ、ファイアカロリー!」
ここに、南国を模した重人達との壮絶な連戦が始まる。
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