子供たちと勇者物語

「オオカミのお姉ちゃんのお耳もふもふしてるー」

「意外とおムネでかいねー。テレーズおねえちゃんのよりちいさいけど」

「ねぇ、僕もしっぽもふもふして・・・ん?どうしたのヒュウちゃん?」

「ゆーくんはわたしのしっぽモフモフさせてあげてるじゃん。ほかの女の子のしつぽモフモフしないで!」

 私は今、子供たちに集られております。


 四つん這いになった私の上に数人の女児が乗り、私の耳や尻尾を引っ張ったり、モフモフしたり、足や腕にしがみついたりで動けねぇ。

 クリスタとヨセフくんも子供たちの対応をしているけど、初めて会った私に興味を持ったであろう子供たちが私に集まってきてこのザマである。

 子供たちにされるがままの私を助けて2人とも。

 あっ、ヨセフくんの方はダメだ。

 ミアちゃんが顔にへばり付いていて動けない。


「お姉ちゃん、この本読んで〜」

 獣人の一種とされる鳥人族の女の子が動けぬ私の前に1冊の絵本を置いた。

 ・・・読めと?今、この状況の私に読み聞かせをしろと?

 久々に感じる小さな子どもの純粋な容赦の無さにちょっと衝撃を覚えながら、なんとかゆっくりと身体を移動させて、寝そべった状態になって本に手を伸ばす。

 ちょっと、伸ばした足に乗らないでー!?


「つ、掴めた。・・・それじゃあ読むね」

「ルナさん・・・私が代わりましょうか?」

 さっきまで、私と比べて明らかに少人数の子供たちを相手していたクリスタが私にそんな提案をしてくれた。

 その提案はありがたいので代わってもらおう。

「やだ!イヌのお姉ちゃんに読んでもらうの!」

「ははは・・・私、ルナは狼の獣人だからね・・・」

 そんな可愛らしい我儘を拒否したい私だが、ここで断ったらなんか泣きそうだし面倒なことになりそうなので受けることにした。

 本の表紙は・・・『ゆうしゃとめがみさま』か。

 これって、この世界の神話を子供でも分かりやすいようにした!?って今、私の尻尾舐めたの誰!?

 舐めないで!って気持ちを込めて尻尾を振れば、猫じゃらしのようにじゃれ始める猫科獣人少女たち。

 ・・・私は、諦めて本を開き、声に出して読み始める。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 私たちの母なる緑の星。

 かつて、この世界には魔法もなく、信仰の力もなく、神様もいない。

 人々は代わりに、「かがく」と呼ばれる力を使って平和に暮らしていました。

 そんなある日、この世界に「魔王」が現れました。

 魔王は、自分が生み出した、たくさんの恐ろしいモンスターを世界中に生み出しました。

 魔王とモンスターたちは、世界中の人々を襲って、多くの人が不幸になりました。

 そんなある日、とある国の王様は神様に助けを求めました。

 本来は届くことがなかったこの世界にいない神様へのお願い、しかし、その願いは世界を越えて、多くのの神様に届きました。

 力を司る神様、魔法を司る神様、自然を司る神様、様々な神様がその願いを聞き、自分の使徒である「勇者」たちを遣わしました。

 この世界に多くの勇者が舞い降り、神様から貰った力を使ってモンスターを倒し、人々を助けました。

 それでも、魔王には敵いません。

 多くの勇者が魔王に倒されていき、人々は悲しみました。

 ある時、物語を司る神様、女神ヒストリアが遣わした「物語の勇者」が魔王を打ち倒したのです。

 こうして、魔王が倒されて世界が平和になりました。

 他の神様はこれを見て、女神ヒストリアにこの世界を任せて姿を消しました。

 女神様は、自分の勇者が救ったこの世界に加護を与えました。

 文字は魔法に。

 文は奇跡に。

 物語は新しき生命に。

 世界に「物語」の力が溢れて、この世界には魔法や奇跡が溢れました。

 そして、この世界に住む私たちに力を与えたのです。

 いつか、魔王がまた現れた時のために・・・。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おしまい!」

「「「「「おー!」」」」」

「ルナさんって意外とこういう読み聞かせってうまいですね。もしかして、以前にもこういう経験があるんですか?」

 ・・・あったといえば、あったね。

 そんなことより、子供たちに好評でよかった。

 これで下手とか言われたらへこむ。

 というか、誰だ私の頭の上に乗ってる子は!?


「こらこら、ルナお姉さんの頭に乗っちゃいけません。あまり迷惑かけてしまうと嫌われちゃいますよ」

「「「ごめんなさーい」」」

 動けない私の代わりにクリスタが私の上にいる子や、手足にひっついている子たちをどかしてくれた。

 解放された瞬間、もう集られないようにピョンと軽くジャンプして直立体勢になる。

 そのまま、私は見事な足さばきで子供たちを避けてヨセフくんの元へ行き、何事だとこちらを見る彼の肩を軽く掴んで言い放った。

「みんな!今からヨセフくんが外で追いかけっこで遊んでくれるよー。ヨセフくんが鬼でみんなが逃げる。もし半数以上が逃げ切ったらおいしいお菓子をあげる。さぁレッツゴー!」

「「「「「わー!」」」」」

「えええええ!?」

 ヨセフくん、すまぬ。

 しかし、今日初めて知ったが私にはこの数の子供の世話は無理だ。

 どうかベテランの君が何とかしてくれたまえ。

「「「「「ヨセフお兄ちゃん、行こー!」」」」」

「ちょ、みんな、待ああああ―・・・!?」


 私の掛け声とともに、目を輝かせて外へと向かう子供たちに引きずられていくヨセフくん。

 こうして、この部屋には呆れた顔で私を見てくるクリスタと、髪や尻尾の毛がボサボサの私だけが残った。

 ・・・もちろん子供たちの世話を完全に放棄するのは駄目だと分かっているので、クリスタと共に子どもたちがキャッキャと騒いでいる声がする、孤児院の外庭へと向かったのだった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

≪地球・・・勇者・・・≫


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