八色運動会⑻
木天蓼愛希
第1話僕は誰も死なせない! 救出だ。
「あっ、先生が来てくれた」
生徒は言って、喜んだ。先生はこの事態を見て把握した。
「あなた達は何をしてるんですか? こんな問題を起こして!」
先生が生徒達に注意した。
「ごめんなさい」
生徒達も素直に謝った。
「捜索隊を手配したから、間も無く来る筈よ!」
先生は言って、知らせた。
「ごめん。遅くなって、車輪を外すの大変だったのよ!」
自転車の車輪を取りに行っていた海咲ちゃんと大翔君が戻って来た。
「今、作るから!」
一度戻って行った向こう岸の生徒達も混ざって、滑車作りを始めた。
「これだけ作ったら、直ぐにここを離れるから心配しないで!」
海咲ちゃん達は苦戦しながらも、滑車作りを完成させる。残った生徒達は余ったロープをこちらに向かって投げる。F組煌明君がバリキで投げる。新谷知佐ちゃんの姉、五年生の新谷恵ちゃんもバリキで投げる。
「それっ」
恵ちゃんの投げたロープが、こちらの岸まで、届いた。目を丸くする煌明君が拍手すると、皆んなも揃って拍手する。準備が出来ると向こう岸の生徒達は岸から離れて安全な場所に向かう。
E組の担任を復帰して来た先生が靴を脱いで川へ飛び込もうとする。
「おい。今、助けるからな!」
言って、川の中へ入って行こうとして、
「「「馬鹿! ダメだ! そのまま川へ飛び込んだら死ぬぞ!」」」
生徒達が一斉に同じ事を言って、先生がそのまま、川へ入るのを止めた。
「馬鹿だとー! 先生に向かって〜。先生に向かって〜。先生に向かって〜。ムムムムムムムムムムムッ」
先生はお怒りの様子だった。
「ごめんなさ〜い!」
先生に謝る生徒達。生徒達が謝っている中、五年H組新谷恵ちゃんが先生の体にペットボトルを巻き付けた。ギュッと巻き付けたロープはしっかりと着けられていて、頑丈だ。恵ちゃんのバリキでガッシリと縛られたロープは外れる事は無かった。川の中へ入って行く先生。憤慨して入って行った物の。川の泥水の勢いに歯が立たない。ボカブカ流されたまま何の役にも立たない所か足を引っ張るばかりだった。
「助けてくれ〜」
叫ぶ先生に思わず側に居た皆んなが絶句した。
「ハー」
他の先生方までもが呆れる始末。そんな中、濁流の水は増えるばかりだった。そうこうしている内に二人は残りの二人がいる中央まで辿り着いていた。海咲ちゃん達の手作り滑車のお陰で入れる力は少なく済み、スムーズに事は運んでいた。ロープを引き、長ロープまで引き寄せた。四人は無事にこっちに向かった。先生だけが暴れている。もがくだけでロープが崩れて来ていた。離れて行くから、余計にもがくと言った悪循環が生まれていた。
「先生落ち着いて!」
新葉は叫ぶ。四人は先生の居るロープの元まで辿り着いた。四人は先生を助けようとする。助け方はこうだ。藤遠君と木村君が長ロープと 健慎君と樹君を持ち引っ張り上げて 健慎君と樹君は先生を掴み、二人に引っ張り上げて貰うと言う作戦だ。しかし、先生が暴かれた為、ロープは緩み少し長くなっていた為、届かない。そのロープを引っ張ろう物なら、解けそうな程緩々になっていた。こうなったら、先生の元まで助けに行かなければならない物だった。
川岸にいた皆んなはただ見守るしか無かった。思い切って、樹君は握っていた手を離し、ロープを辿って少しずつ先生の元へと近付いて行った。先生の近くまで行った樹君。
「待って。樹君。それ以上近付いたら、ダメだ。今、先生はパニック状態になっている。先生の前から救おうと思っちゃダメだ!」
言って、新葉は樹君を止めた。
「じゃあ。どうすんだ!」
樹君。
「先生。後ろを向いて動かずにいて下さい!」
言って、新葉は声を掛けて見る。
「助けてくれ!」
言って、先生は暴れて聞く様子も無く、夢中になっている。聞き分けの悪い子供より悪い状態だ。
「気を散らして後ろに回って抑えて!」
新葉は言った。 健慎君は先生の気を散らそうと、
「先生。今、助けるから、今直ぐ行くよ!」
声を掛けた。先生は 健慎君に関心を向けるが、樹君が先生に近付こうとすると、樹君の方に向き直った。何度やっても同じだった。生徒達は体が震え、手も足も震えて唇は青く歯毎震えていた。そんな中であっても誰一人として帰ろうとする者はいなかった。何も出来ないままただただその場で見守っていた。心春ちゃんは心配の余り、固まっていた。それを渚ちゃんと結菜ちゃんが支えている。先生方は生徒達に早く帰る様に促している。
酷くなるばかりの川の水量と先生が暴れる事でどんどんとペットボトルが体から離れて行き、終いには体から解け、やっとでペットボトルにしがみ付く状態になってしまった。もうこれ以上持たない状態だ。いつ手が離れて流されてもおかしくは無いのだ。
「先生。俺を見ろ。俺だけを見てくれ!」
健慎君は必死で訴える。樹君はもっと、近付く手を伸ばせば届く程に近付いて見せた。
「ダメだ。樹君。そのまま、近付けば先生に引き摺り込まれる。助かりたい先生はきっと君の上に乗ろうとする。先生は今普通の状態とは違う。助かりたい一心で少しでも高い所へよじ登ろうとする筈だ。頭を押さえて登ろうとする筈だ。樹君の体を沈められてしまうぞ! 機会を待つんだ樹君。チャンスはきっと来る!」
新葉は言って叫んだ。
「なら、チャンスは一生来ねえよ!」
言って、樹君は体からペットボトルを外した。
「やめるんだ。樹君。二人共、もう、上がって来るんだ。もうこの川は持たない。音が限界なんだ。雨も益々増している。子供の僕達には無理だ。限界だ。ここから、直ぐに逃げないと全員死ぬ。巻き込まれるぞ。間も無く、救助隊が来るそうだから、子供の僕達は早くここから、離れなくちゃダメだ。戻って来るんだ〜。樹君!」
新葉は怒った。
「信じているよ。新葉君。誰も死なせやしないから。バシャー」
言って、樹君は川の中へ頭を潜り込ませた。バシャー。ドバッー。と言う、波飛沫を立てて樹君は先生の後ろから、顔を出した。先生は尽かさず、樹君の方に向き直ろうとするがいち早く樹君は先生の背中にしがみ付く。足を絡め雁地固めにしがみ付き、自分のペットボトルを手繰り寄せた。力づくで先生は樹君の方を向き直ろうとするもその都度、先生の顔を川の水に押し付け、そうはさせなかった。先生を殺そうとしながらも先生を助ける。もはや、この方法で助けなければ二人は共に死んでしまうのだ。
新葉は見るに見兼ねて、川に飛び込んで行こうとする。それを大地君が止める。大地君は新葉を雁字搦めにして、今にも飛び込みそうな新葉を阻止した。
「離せ大地君。このままじゃ樹君が死んじゃうんだ。助けに行かないと!」
「ダメだ。新葉君。もっと、冷静になれ、僕達は濁流の恐ろしさを知っている。僕達がしなくちゃいけないのは皆んなを誘導して、この場から、皆んなを離す事だ!」
「嫌だ。このままだと樹君が死んじゃう。離してくれ〜!」
「良い加減にしろ! 新葉君。周りを見て見ろ! 先生の誘導にも生徒達は従わない。だけど、皆んなの顔を体を見て見ろ。人によっちゃあ低体温症だ。皆んなこの寒さに耐えてはいるが、低体温になっている事に気付いていない子もいる筈だ。早く、ここから離れよう。先生やもう直ぐ、来るだろう救助隊の人に任せよう!」
大地君は新葉に言って、断念させようとする。新葉は何も出来ない無力さに憤りを感じて握り拳を震わせた。新葉は樹君を一瞥すると、他の仲間の方へ歩み寄って行った。 健慎君も直ぐに助けに来た。
「樹。お前、一人でカッコ付けんな! 一人で頑張ろうとするなよ! 俺も手伝う」
健慎君は樹君の元へと行った。
「ぷはっ。バハッ。ザバーン。たっ。助けてくれ!」
E組の先生は振り向こうとして、必死に樹君にしがみ付こうとする。頭の上に手を伸ばそうとする。怖い余りに樹君の上に乗ろうとするのだ。こんなに冷静さを欠いてしまう程にパニックになっていたのだ。
「ぷはっ。ドバーンッ。ザザーン。バジャーん。ボコ。バコ!」
二人で押さえ付けながら、先生を押さえ込んだ。
「ブハッ」
樹君は大丈夫とばかり、新葉の顔を見て、笑い掛けた。
「「大人しくしていてくれよ。先生! バコッ。ザバーン」」
樹君と 健慎君はしっかりと先生を捕まえていた。ガバガバとしている様だった。
「藤遠君。木村君。二人のロープを引っ張って⁉︎」
新葉は言って、叫んだ。二人は言われるがままにロープを引っ張った。
「僕は誰も死なせたりしないから、ロープを引っ張って、五人を助けるんだ。行くぞ!」
新葉は言って、改めて気合を入れた。生徒達。先生方は気合を入れて、ロープを引っ張った。五人はこちらに向かって近付いて来た。どバッ〜。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴッ。勢い良く、更に大量の泥水が流れ込んで来た。川の流れの勢いにロープが持って行かれそうになる。皆んな踏ん張って必死に耐える。
「頑張って!」
言って、新葉は励ます。
「大丈夫ですか?」
こちらに向かって話し掛けて来る大人の声がした。見ると、救助隊の人々が駆け付けてくれた。
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