第16話 時の探求者たち

 佐藤悠介は、大学の教室で歴史オタクたちの同好会「時の探求者たち」の次回集会の準備を進めていた。会のリーダーとして、彼は毎月のテーマを決める役割を担っている。今回は「戦国時代の戦術」をテーマにすることにした。悠介は戦国時代の合戦について書かれた本を何冊も読み込み、メンバーの皆に有意義なプレゼンテーションを提供したいと考えていた。


 放課後、悠介は図書館で資料を探していると、高橋美咲がやってきた。「悠介、何を読んでいるの?」と、彼女は興味津々に尋ねる。悠介は戦術書を指さし、「次の集会で戦国時代の戦術について話そうと思ってるんだ」と答えた。美咲の目が輝いた。「それなら、武田信玄の戦術を中心にしよう!彼の『風林火山』がどう活かされたかを話すのが面白そう」


 二人は意気投合し、集会の内容をさらに深めることに決めた。


 集会当日、同好会の部室にはメンバーたちが集まった。小林誠は幕末の話題を持ち込み、田中直樹はフランス革命の視点からの歴史の流れを話し始める。しかし、話が進むにつれて、雰囲気は次第に重くなっていった。


 拓也の冷たい視線が悠介に向けられた。「悠介、お前の意見はいつも古臭い。もっと新しい視点が必要だ」拓也の言葉はメンバーたちをざわつかせた。悠介は驚きながらも、「それはお前の主観だろう。歴史を知ることが大切なんだ」と反論した。周囲は二人の緊張感を感じ取り、言葉を交わさなくなった。


 次の週末、同好会は歴史再現イベントに参加することに決めた。高橋美咲が提案したテーマは「桶狭間の戦い」。彼女は、「この戦いの中での奇襲戦術を実際に体験してみたい!」と熱心に語った。メンバーたちもその意見に賛同し、桶狭間の戦いを再現するための計画を立てることになった。


 各自が役割を分担し、武器や衣装を用意することに決まった。悠介は信長役、高橋は武田信玄の部下として参加することにした。彼らは戦術を再現するため、何度も集まってリハーサルを行った。


 再現イベント当日、参加者たちは本格的な衣装を身にまとい、フィールドに集まった。悠介と高橋は自信に満ちた表情でスタート地点に立ち、合戦が始まるのを待っていた。


 戦いが始まると、メンバーたちは各々の役割に徹し、戦術を駆使して戦った。悠介は敵陣に奇襲をかけ、見事に戦術を成功させた。高橋も信玄の部下として勇敢に戦った。周囲の観客からは拍手と歓声が上がり、彼らは達成感に包まれた。


 しかし、イベントが終わった後、メンバーたちの間に潜む緊張感は消えなかった。拓也はまだ悠介に不満を抱いているようで、悠介もそれを感じ取っていた。歴史に対する情熱が、時には友情を試すこともあるのだと、悠介は思った。


 数日後、再び集会が開かれた。その席で、悠介は拓也に直接話をすることに決めた。「拓也、どうしてそんなに厳しい言葉を使うんだ?僕たちは同好会で楽しむために集まっているんだろう?」拓也は少し驚いた表情を浮かべながらも、「俺はお前の意見に納得できないんだ。歴史を学ぶことは大事だが、何も新しいことを学べていない気がする」と答えた。


 悠介はその言葉に胸が痛む。「でも、同好会はみんなの意見を尊重する場所なんだ。新しい視点は大切だが、古い知識もまた重要だよ」


 拓也は黙り込み、しばらくの沈黙が続いた。しかし、周囲のメンバーがその様子を見ていて、悠介が拓也に向き合う姿勢に感心しているのを感じた。やがて、拓也は小さくため息をつき、「わかった。俺もお前の意見を尊重するよ」と口にした。


 その後、同好会はメンバー全員の意見を交えて新しいテーマを決めることにした。「それぞれの好きな時代をもっと深く掘り下げよう」と提案し、次の集会でそれをテーマにすることに決めた。


 悠介はその中で、メンバー同士の絆が深まっているのを感じていた。歴史を通じて、彼らは新たな視点を得て、互いを理解し合うことができるのだ。これからも共に学び、探求し続ける仲間たちとの時間が待ち遠しいと感じるのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る