今井ミナト短編置き場

今井ミナト

#匿名お見合い企画 延長戦

あなたは一体、何者……?(ユキトラ カドザキ✕冴島 野乃花)

「あの……、この前はありがとうございました」

「なあに。人助けが趣味みたいなものなので、お気になさらず」


 あっはっは、と豪快に白い歯を見せてカドザキさんが笑う。かなり大柄の筋肉質な身体に服がぱんっと張る。

 ここはカドザキさんが働く定食屋さん。老夫婦が経営しているらしい、年月を重ねてきた温かみのある店だ。


「ご無事でよかったです」


 当然のように優しい目を向けてくれるから、胸の奥がキュンっと高鳴る。

 二十年も魔法少女を頑張り続けたけど、私のナイト様は現れなかったからな〜。


『ぽぽんっ』


 ついうっかり、魔法が漏れて小さな花が出てきちゃった。引退してから、ときめいたり驚いたりで感情がたかぶると、ときどき魔法があふれちゃう。


「あはは、手品なんです……よ?」


 小さな花がカドザキさんの胸のあたりに吸い込まれて――

 ぱぁぁぁんっ!! とひときわ眩しい光で瞼が焼かれそうになる。

 ぎゅっ、とつぶった目を開いたときには、なぜか、硬質な材質で作られた廊下のような場所にいた。


「ここは……?」

「私にもわかりません。なにせ、記憶喪失ですから。あっはっは」

「さっきの――ううん。よくない気配がする。……カドザキさんは私の後ろに」

「いえ。女性にかばわれるわけにはいきません」


 う。そんな場合じゃないけど、ちょっと。ちょっとだけ刺さってしまう。


「なら、気をつけていきましょう。気配が近づいてきてる」


 気配から遠ざかるように進もうとすると、後ろからガヤガヤと騒がしい声が――


「いたぞ!」


 ピキィィィン、と光線銃のようなものを撃たれて、反射的に花の魔法でガードする。

 本当は隠しておきたいけど、今はそんな場合じゃなさそう。


「なに、これ――!?」


「とにかく、急ぎましょう。やっぱり、先に」


「大丈夫、私……。これでも強いんです」


 どんどん増える黒尽くめの制服の追手。行き場のない迷路のような廊下を二人走って逃げる。

 これでも運動は得意。さらに魔法で加速すれば、普通の人間には追いつけない――はずなのに、なぜか並走できてるカドザキさん。……何者なの?


 走っていく先に、シャッターをさらに重くしたような扉が見えてくる。

 魔法でいける……かな?


 最大出力の魔法を扉に向かって打ち込む――けど、かなり重いらしく跳ね返されて霧散してしまう。

 二度目、三度目、四度目……! ダメだ。私じゃ、パワーが足りない。

 至近距離の扉に、全力をかけても開けられない。


「他の出口をさが――」

「くっ、ぐっ……!」


 太い腕に浮き立つ血管。身体全体で力をかけて、扉を押し上げようとしてる。無理だよ。パワーが足りないっていっても、私の魔法はくま型の魔獣くらいなら一撃だもん。


「ぐっ、ぐっ、うおぉぉぉーーーーーー!!」


 ガッ、ガッと硬い軋むような音に、唸声のようなカドザキさんの声が被さる。


「うおぉぉぉおおおおーーーーーーーっ!!!!」

「開いた!?」


 常人ふつうの力じゃない。さらにカドザキさんが通れるほどに扉を押し上げていく。


「はあ、はあっ。行きましょう」

「は、はい……」


 扉をくぐった眼下には、暗黒のビル群に青白いライトの光る都市が広がっていた。

 どうやら、ここが一番高い建物らしい。


「ここは……、どこ、なの?」

「いけない。追手が……」


 ピキィィィン! 撃たれた光線が右のふくらはぎをかする。


「……っ!」


 焼かれたようで血は出ていない。これくらいなら、まだ……いける!


「動かないでください」


 言われたと同時にふわりと身体が浮いた。厚い胸板と抱かれた腕から高い体温が伝わってくる。

 こ、これ!? おひめさまだっこ、では……?


 恥ずかしくて、降りようとすると、太い腕が私の身体を抱きすくめた。


「屋根を伝います」


 ぐんっと重力に逆らって、カドザキさんが跳躍する。手すりを乗り越えて、不思議なデザインの屋根の上を走っていく。

 私を抱えている上に、これだけの巨体を機敏に動かせるなんて。


「できれば、掴まっていてください」


 がっしりとした首にぎゅっ、と腕を回す。足場の悪いところを走っているから安定が悪くて、自然と自分の身体や頬を押し当てるようになってしまって余計に恥ずかしい。

 がたがたと揺れる視界の先、屋根の終わりが見えてくる。


「ちょ、ちょっと、待って! もう先が」

「どうしましょうね」


 笑うような明るい口調。

 肩口に覗くと後ろからは、諦めの悪い人たち。さすがにある程度は振り切れたみたいだけど、まだまだ追ってくる気は満々みたいだ。


「そのまま、まっすぐ進もう!」

「でも、その先は――」

「いいから! 私を信じて!!」


 カドザキさんが虚空に足を踏み出す。そのタイミングに合わせて、花の魔法の足場を作っていく。


「あっはっは、すごい!」

「集中してるから、しーっ!!」


 もしも落ちたら真っ逆さまだ。私一人ならやったことがあるけど、カドザキさんと合わせるときっと三人分くらいには重い。

 それに、そんなキラキラした目を向けられてときめいちゃったらどうするの!?

 こんな場所で暴発なんてしてられない。


 真っ黒に青色ネオンの街の上空に、転々と続く花の足場を、私を抱いたカドザキさんが走っていく。

 ……どういう状況なんだろう、これ。


 だいぶ走った先。他のビルの上までは、あのしつこい追手もついてこれなかったみたいだ。

 優しく地面に降ろされても、なんだかふわふわする。カドザキさんの方は、荒い息を整えているみたいだ。


「カドザキさん、あの……」

「なんです?」

「胸に、なにか入ってませんか……?」

「胸……? ああ、これですかね」


 カドザキさんが取り出したのは一枚の身分証明書。


『ユキトラ カドザキ』


「記憶喪失で道に倒れていたとき、これだけは持っていたようです。よくできたオモチャでしょう?」


『西暦2185年発行』


 よくよく見ると、おかしな――ずっと未来のはずの年号が記されている。


「ちょっと、試してもいい?」

「……いいですけど、なにを?」


『ぽぽんっ』と出てきた花は、やっぱり身分証に吸い込まれて……、とある印が浮き上がる。


「これ、は、なんで、……なんで、この印が――?」


 だって、この印を使う組織はもう、私が壊滅させたはずなのに。魔法少女時代、ずっと戦ってきた悪の組織。

 その終焉をもって、私の魔法少女生活も幕を閉じた。

 まさか、カドザキさんは、その関係者……なの!?


「冴島さん? どうなさいましたか?」

「わからない、の……」


 同じように、魔法を込めたら元の場所に戻れるかもしれない、なんて思ってた。

 ここがどこかも、もしかしたら、いつの時代かもわからない。カドザキさんが、私の敵かどうかも。


「なあに! わからないのは私も一緒です。あっはっは」


「そう……、そうだね」


 カドザキさんは、何の関わりもない私を助けてくれた。このわけもわからない状況でカドザキさんを信じなくて、どうするの?


「もうしばらく……よろしくお願いします」

「こちらこそ」



 こうして、魔法少女生活の第二幕――未来を舞台に組織の謎を暴く物語が始まった。

 二人は敵なのか、味方なのか。はたまた現代には帰れるのか……? そして二人の恋の行方はいかに……!?



(続かない!)








――――――――――――――――――――――――



板野かもさん@itano_or_banno主催の『#匿名キャラお見合い企画』参加作の番外編です。

https://kakuyomu.jp/works/16818093085133939965


匿名の方の考案した複数のキャラクターの中から二名のメインカップリングを選び、恋愛短編を書くコンテストに寄稿しました。


キャラクターの作成者は、

ユキトラ カドザキさん(作成者:右中桂示さん@miginaka)

冴島 野乃花さん(作成者:野村絽麻子さん@an_and_coffee)


素敵なキャラクターを生み出してくださり、心からお礼申し上げます。

匿名短編コンテストウィキにキャラクター設定が掲載されています。


https://w.atwiki.jp/tokumeicon/


(二ノ宮 宙✕冴島 野乃花の二人のお話、『恋はチョコのように、魔法のように』の一話からの分岐です)







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