オフショット

らいおん

第1話 新たな視点

高校2年生の4月、新しいクラスに馴染もうとする中で、翔(しょう)は周りを観察するように過ごしていた。写真好きの彼は、誰かと積極的に関わるよりも、心惹かれる風景や瞬間をシャッターで切り取るのが日課だった。カメラを片手に、何気ない景色の中に見出す「美しい瞬間」が彼にとっての日常の彩りだった。


ある日の昼休み、教室で彼がふと窓の外に目をやると、グラウンドでスポーツに興じるクラスメイトたちが見えた。誰かが笑顔でボールを蹴り上げ、遠くに飛んでいくボールを仲間が追いかける。そんな情景に思わずレンズを向けていたとき、ふと視界の片隅に見慣れない人物が映った。


その人物は、同じクラスの仁(じん)だった。雑誌の読者モデルとして人気があり、クラスでも目立つ存在の彼だが、今はそのクールな雰囲気とは対照的に、一人で教室の窓際に腰かけ、何かをぼんやりと眺めているようだった。


(あれが、あの仁…?)


普段の雑誌で見かける彼とは全く違う姿に、翔は心を引き寄せられた。その何気ない表情や、静かに一人の時間を過ごす様子が、彼にとって新鮮で、目が離せなくなってしまった。無意識にカメラを構え、ファインダー越しに彼を見つめる。その瞬間、カメラのレンズ越しに映る仁が、不意にこちらを見て、目が合った。


翔は一瞬ドキリとし、思わずカメラを下ろす。


「お前、いつもカメラ持ってるんだな。」

そう言って近づいてきた仁が、興味深そうにカメラをのぞき込んできた。翔は少し緊張しながらも、自分の撮った写真を彼に見せる。


「俺を撮ったのか?」

仁の問いかけに、翔は少し焦りつつも頷いた。「えっと、雑誌で見る姿と違ってたから、つい…」


それを聞いた仁は、少し驚いたような表情を浮かべて、しばらく沈黙した。しかし、やがて口元に微かな笑みを浮かべた。


「へぇ…普段の俺なんて、面白くないだろ?でも、お前が撮るなら、ちょっと撮ってみてもいいかもな。」


それがきっかけで、翔は仁の普段の姿を撮ることになった。クラスで注目を集める読者モデルの彼の、誰も知らない一面を写真に収めることができるかもしれない――そう思うと、翔の胸は少しだけ高鳴った。

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