謎島サバイバルライフ
クロ
第1話 起きたらそこは
「うー...ん。んあっ」
男は飛び起きるように上半身だけを起こした。起きたのは、自分の左手に冷たい何かが触れたからだ。半分寝ぼけ気味に、左手を見る。濡れているようだ。はて?
「あれ...なに...これ」
濡れた要因がわからない。
まだ寝ぼけているから、と思うと頭を振って目を完全に覚まそうとする。
「え?え?砂?海?」
目の覚めた男が周囲を見回すと、そこは砂浜だった。潮の香りがしており、左手は浜に寄ってくる波に浸かったから濡れていたのだ。
困惑しつつ、立ち上がる......
やはり、砂浜ということに変わりはない。背後に目をやると、明るい緑色をした草原らしき空間が広がっていた。
「は?え?は?」
状況が理解出来ず、パニックに陥った。ここはどこだ、何故こんなところにいる、どうなっている...正直、夢だと思って頬をつねったり指の関節を逆に曲げたりしてみたが、普通に痛かった。流れてきた波に指を突っ込んで舐めたらしょっぱかった。どうやら夢ではなく現実で起きている事象らしい。
「はぁ...?」
言葉にならない声を発しつつ、首から下を見ると衣服は着ていた。足元はランニングシューズ、ジーンズに紺色のTシャツ、その上から青いパーカーという服装。
持ち物は...携帯端末、無し。財布、無し。ポケットというポケットを片っ端から探ってみたが、出てきたのは何故かライター、それも一つ、ただこれだけだった。
「どうなってるんだろ...うわ、何も思い出せないし...スマホ無いから助けも呼べないし」
独り言を呟き続けるのに飽きて歩き出すのに大して時間は要さなかった。草原らしき場所に踏み込んで行くと、木が数本生えていて、花まで咲いていた。緑の先には今度は砂浜を歩く。浜は湾曲気味の地形なのだろうか、緩やかにカーブしているかのように見えた。
こんな場所、オレの住んでいたところにあったかな。
夢ではなく現実、思い出せないそれ以前の記憶、ライターが一個だけ、他に持ち物は無く助けを呼べない。勿論、海に向かって大声で叫んでみた。やはり船も何も通る気配がない。緑の大地に叫んでも答えはなかった。暫時、絶望していた男は諦めたように腰を下ろし、草の上に胡座をかいて座り込んだ。
オレ、何かやっちゃったかな。こんなよくわからん場所に漂流しちゃうくらいヤバい事やらかしたかな。全然そんな覚えがないんだけどなぁ...
ちょっと整理しよう。オレの名前から。オレの名前は堂上(どのうえ)、下の名前は誠司(せいじ)。そこは明確に思い出せた。年齢は20歳ちょうど。性別は勿論男。......それくらいしか思い出せない。
波が寄って離れてを繰り返している。穏やかな音だ。順を追って考えていくことで、精神が落ち着いてくる。それでどうしようか。
「誰か、船とか飛行機とか通るまで待つか」
とりあえず、人が通るまで待とう。なんでも良い。人が来たら助けてもらえば良い。もしも人がここに来たらの話だけど。誰もここを通らないなんて考えたくもない。
でも、なんとかなるかな。いや、きっとなんとかなる。なんとかなると思っていればどうにかなるもんだ、多分。
「なんとかなる」
声に出してみる。いやそれだけじゃなんにもならないんだけど、なんとなく大丈夫なような気がする。そういう風に考えてないと、本当に気が滅入っちゃう。まぁまぁ、しつこいけどなんとかなるでしょう。
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