唐突な信仰が重すぎる!
北路 さうす
第1話
急に強い力で体を揺さぶられ、予想外な起床をしてしまった。不快感はなく、久々に森から出てみたら、何も無かった。
焼けた匂いがした。見渡す限り茶色い土とポツンポツンと生えている木々、そして山。地面がまだ熱を持っていて、裸足の足を焼く。
「戦争か……?」
幾年かぶりに出した声は少し掠れていた。
「起きたら全てが無くなっていたのだが!!!」
ヨタヨタと祠に戻って座り込み、何も理解出来ぬまま叫んでみた。カサカサと小さな音を立てて動物の逃げる音がしただけだった。
小さな村を守護していたワシは、年月が経つにつれて村から人の子がいなくなり信仰を得られずいつの間にか寝てしまっていた。それを急に叩き起されたと思ったら、全てが消え去っていた。先の戦争でも今回と同じく急に叩き起された事を覚えている。遠くの空が明るくなるほどの大火事に震えたものだ。森に逃げ込んだ人の子達を腕に抱くことしか出来なかった。
状況を知るために、近くの神社に祀られている兄妹神に思念を送ってみた。返事はなかった。恐れ多くもここらを仕切る神にも思念を送ってみた。返事はなかった。受け取られた感触すらない。
「まさか人の子達が……いや、外つ国の神々……?」
人の子達が我々を打ち捨てたことがある。まさか……
背後でガサガサ音がして、振り返ると小さな人の子がいた。
「ギャ!人間!」
「神様……?」
おぉ、信仰があるらしい。つい神らしからぬ声を上げてしまったが、襟を正して威厳のある顔で問う。
「いかにも。ワシはここらを守護する神である」
「あぁ神様。助けてください」
人の子はその場でしゃがみこみ泣き始めてしまった。顔をべしょべしょに濡らし、言葉がつまりしゃくりあげる。信仰がどんどん上がっているのを感じる。久々の感覚……いや初めての感覚だ。
「助けてやるとも人の子よ。ワシも森の外の惨状は目にした。ワシが寝ている間に何があったのだ?」
「う、宇宙人が……宇宙人が攻めてきたんです」
「宇宙……人?外つ国の人間か、酷いことをする」
どこの国かは知らないが、良い度胸だ。今のワシならあの時のように守るだけではなく追い返すことすら容易いだろう。しかし人の子は首を傾げ、しばし考え込んだ後言葉を選びながら話し始めた。
「宇宙人はこの地球の外からやってきた生命体で、この星の生き物ではありません。地球の最新鋭の武器ですら太刀打ちできなくて、あっという間に焼け野原にされてしまいました。神様、祟りとか神秘のパワーでどうにかなりませんか?」
「祟り!?ワシは守り神、祟りも神罰も一度として与えたことはない!」
聞き捨てならない言葉にカッとなって反論すると、なんだか天気が悪くなってきた。いかんいかん、権能が弱すぎて神罰与えようにも与えられんかっただけなのがばれてしまう。
「ごめんなさい」
人の子は慌てて謝る。ワシはどうにか落ち着きを取り戻すと、空から雲が退きはじめ、さっきの薄曇りを取り戻した。
「この星の外から……なんだか理が違う生き物か」
「その宇宙船はミサイルを何発撃ちこんでもびくともしなかったし、堅牢なアーマーに守られた宇宙人自体も銃じゃどうにもならなくて、対戦車用をバズーカ使ってやっと負傷させられるくらい強いんだ。もう神頼みしかないんだ」
人の子は潤んだ目でワシをみつめているが、そんな化け物じみた連中どうしろというのだ。
「とりあえず……宇宙人とやらのところにワシを連れて行け」
宇宙人がどれほどのものか知らないが、今のワシはおそらくかなり強い権能を得ている。人間の武器が役に立たずともどうにかなるのではないだろうか。人の子は恐怖から物事を大袈裟に捉えることもある。幽霊の正体見たり枯尾花というやつだ。
「見えますか?あいつらです」
人の子に案内され、ワシの祠がある山裾の反対側に移動した。木々の間から覗いた宇宙人は、人と同じような体をしているが、見上げるほどの体躯を持ち全身を銀色のつやつやした装甲で包んだどう見ても敵わないやつだった。周りに同じような装甲で包まれたもっと大きい四つ足の宇宙人もいる。
「これは……むりじゃろ」
「無理だったので神頼みですよ」
人の子は真剣な顔でこちらを見ている。信仰心がちくちくと私に刺さり、本気が伝わってくる。
「人の子、ワシの祠見たか?」
「祠……?あの森に呑まれかけてしめ縄が今にも崩れ落ちそうな……?」
「そうじゃ!ワシは長らく人々から忘れ去られて、ずっと眠りについておったのじゃ!先の戦争で権能を取り戻した時ですらこの森以上は守護出来なかった……あんなピカピカ野郎どうにか出来るわけ無いじゃろがい!」
「神様でしょ、どうにかしてよ!」
小声で言い合っていると、小競り合いに気付いたのか四足歩行の宇宙人がのそのそこちらに近付いてきた。ゆったりした動きだが図体が大きい分かなりの速さで接近してくる。
「このままじゃ踏み潰される、逃げよう」
人の子はワシの手を掴んで急ぎ逃げようとするが、ワシはその手を振り払った。
「この森は……守る!」
しっかり手を組み宇宙人を睨みつける。力がじわりと湧き出るのを感じる。光沢のある足が草木を踏みしめようとした途端、宇宙人は急に動きを止め、周りを見回した後に元の群れへ戻って行った。
「ワシの守護が及ぶ範囲に近づく事を回避させるくらいなら出来るらしいな」
手を解いて振り返ると、人の子が呆然とこちらを眺めていた。
「今のは……?」
「ん?ワシは村を守る神だったからな、守護は得意じゃ。久しぶりだから心配だったがこの位は楽勝じゃ」
生意気言ってたガキンチョがポカンと口を開けているのが小気味いい。腕を叩いてニンマリ笑ってみせる。
「神様……神様!」
「そうだ神だぞ」
涙を浮かべながら抱きついてきた人の子を優しく抱きしめる。人の子は抱きついたまま泣き出してしまい、腹が暖かくなるのを感じた。苦笑して背中を撫でてやる。こんなに深く人と関われたのはいつぶりか。人は様々な考えがあって、いつも敵対して自分たちの数を減らしてしまう。しかし、儂に頼ってくる人の子は皆儂の氏子だ。全員がいとおしい。
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