第15話 魔法技術省

「おおー、なんか対照的だなー……」


 翌日訪れた魔法技術省は、魔法省とは何もかもが違っていて新鮮だった。苔むした味わい深いレンガ造りの建物だった魔法省とは打って変わって現代的で洗練された建物で、おそらく魔法技術で最近作られたであろう何だかよくわからない銀色の金属などがところどころにあしらわれていた。センスの良さと挑戦的なデザインが融合されていて、まさに今勢いのある機関って感じだ。


「同じ国の機関でもそれぞれ特徴があって面白いわよね。それにほら」


 ミアの見つめる先には魔法技術省の職員たちが遠巻きに聖女様を見つめていて、


「うわー、聖女様よ。かわいいー」

「すごーい、いつもは遠くからしか見れないもんねー」

「聖女様ー」

「あっ、ずるーい。聖女様私も―」


 若い女性職員たちが聖女様を見てキャッキャッしながらはしゃぎ、フランクに聖女様に向かって手を振ったりしていた。少し気安すぎるような気もしないではないが、そこには魔法省であったような独特な疎外感は感じられなかった。他の職員も応じて笑顔で手を振る聖女様を、好意的な眼差しで見つめていた。


「魔法技術省は聖女の恩寵の力を利用する方法を生み出すことで急速に発展したからね、魔法省に属する魔法技術庁だったのに同じ省になって肩を並べるくらいに。だから、聖女に対する評判は他に比べてもかなり良いのよね」

「でも、聖女様を利用しようとかよからぬことを考えてるやつがいそうなんだろ?」

「そりゃ、好意的な人が多くても全員がそうだとは限らないからねー。それに好意は好意でも、聖女って崇拝されやすいからそれがおかしな方向に行っちゃう人もいるのよ」

「そういうもんなのか……。そういえば、そういう噂の情報収集ってどうしてるんだ? リゼットみたいな協力者とか?」

「うん、そうね。それもあるけど、もう一つはこれね。わかる?」


 ミアは近くにあった彫像を指差す。確か魔除けの意味があるとかいう、鳥みたいな形をした化け物の彫像だ。いや、でも今聞かれているのはそういうことじゃないだろうし……。

 彫像を訝しげに見つめ半信半疑で解析の魔法をかけると、かすかに魔力の痕跡を感じた。驚き、慌ててより詳しく解析してみると、おそらく一種の集音装置でその音を伝達する仕組みも持っている魔導具だということがわかった。


「さっすが、わかったんだ?」

「ああ。でも、すごいなこれ……」


 自慢ではないが、魔力の感知にはかなり自信がある。なにせ魔力の弱い初級魔法使いの自分にとっては相手の魔力を感知し、相手の魔法に対して一刻でも早く対策を練って実行できるかどうかは文字通り死活問題だからだ。

 訓練の甲斐あって、解析の魔法を使わなくても多少魔力を隠蔽されたところでそれが魔導具かどうかなどたやすく判別できる自分にとって、解析の魔法を使わなければ魔導具だとすら認識できないほどの魔力の隠蔽が行える魔導具というのは信じられない代物だった。


「そうでしょうそうでしょう、ふふーん」

「……何で自慢げなんだ? それにしてもこの魔導具ってひょっとしていろいろな所に置いてあるのか?」

「そうよ、形は違うけど色々な政府機関、なんなら城や大聖堂の中にだってあるわよ?」

「さ、さすがに勝手に置いてるわけじゃないよな……?」

「まさか、いくらなんでもそんなことしないわよ。そこは聖女の強み、ちゃんと王様からも枢機卿様からも許可は取ってあるわ。管轄する区域の情報は横流しする条件でね」

「なるほど……」


 逞しいな。聖女は教会に所属してはいるが国からも聖女として認定されていて、ある種中立的な立場にいつつ、その割には直接的な権力は無いから情報を渡しても脅威にはなりづらい。どちらの側からも尊重される聖女の強みを活かしたいい方法だな。 

 まぁ、国と教会の関係が良好なルミエールだからできることだろうけど。そうじゃなきゃ、どちらかのスパイになっていると疑われかねないし。


「だから、この魔導具と――」

「ミア!」


 説明の途中、ミアの知り合いだろうか? 魔法省の女職員が通りすがりに手を上げて声をかけてきて、ミアも手を振って応じた。


「こういう風に、知り合いを増やして人からの情報収集をするってわけ。目立つでしょ、この格好? 面白がって、結構声かけてくれる人がいるんだよねー」


 メイド服のスカートの端をつまんでひらひらと揺らすミア。確かに政府機関や教会でがっつりメイド服を着ている人など見かけないから、かなり目立って会話のきっかけになる上に、社交的なミアのことだからきっとすぐに仲良くなってしまうのだろう。ただの痛いメイド服フェチの人かと思っててごめん……。いや、それにしても、


「優しいんだな、ミアは。知り合いが多いなと思っていたけど、聖女様を助けるためだったんだな」

「えっ? いやいやいや、別にセシルのためってわけじゃないし。仕事よ、仕事! それに、私がただ人とおしゃべりするのが好きってだけで……」


 いざ指摘されると恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯くミア。いつも明るい彼女の意外な一面を見て、かわいいなと思っていると、


「あらあら、人が愛想を振りまくのに神経をすり減らしている中、随分と仲が良さそうですねぇ」


 延々と手を振り続けていた聖女様が一段落したのか、いつの間にか戻ってきていた。ほったらかしで話し込んでいたことに怒っているのか、笑顔ではあるものの怒りのオーラが漏れ出ているように見えた。

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