第13話 ミアとリゼット

「すっごーい、ほんとに防御破れたの?」


 残されたミアがリゼットに尋ねると、リゼットは自嘲しながら答えた。


「まさか、完璧な防御でしたよ。ああ言ったのはただの負け惜しみの嫌がらせです。一瞬で相手の魔法を解析して、効力を発揮する前に潰す技術は神業でした。魔法の等級はあくまで使う魔力の総量で決まるもの、初級魔法使いといえどその魔法解析技術や魔法発動までの速度は驚嘆すべきものがありますね」

「へぇ、さすが二コラさんに教わっただけのことはあるわね。あっ、じゃあどうやってあの話知ったの?」

「マルタン様が酔っぱらったときに、聞きもしないのに勝手に話してくれたんですよ。しかも泣きながら……」

「うわっ、大変だったんだろうねー」


 その時のことを思い出したのか、頭を抱えるリゼットを同情しながら見つめるミア。しばし経って落ち着くと、リゼットは二ヤリと笑って言った。


「希少な精神感応魔法に対してすら、あの桁違いの解析と防御の反応の速さです。他の一般的な魔法に対しては推して知るべしでしょうね。きっとセシルの面倒を見させるのに役立つでしょうし、何か不測の事態があったとしてもしっかり対処してくれると思いますよ? 私たちも少し楽ができるかもしれません」

「そっかぁ、それならいいんだけどね」


 初級魔法使いであまり魔法に自信のないミアは、リゼットにジャンの魔法の実力の品定めを頼んでいた。もちろん有能なのはいいことだが、そのせいでこれからありとあらゆる聖女を巡る厄介事に巻き込むことになるのかと思うと、少し申し訳ない気持ちになった。


「仕方ありません、国の中にも外にも敵が多いんですから利用できるものは利用しないと」

「利用ってねぇ……」

「大丈夫ですよ、それに本人も乗り気みたいですし」

「うん、そうよね。そうなんだけど……」


 確かに聖女に思い入れがあるみたいだし、聖女をサポートする仕事に対する意欲も高いようだけど、

セシルについての諸々を知ってもちゃんと尽くしてくれるのかどうか? ミアの心配は尽きなかったが、


「まぁ、いっかぁ! あんまり心配しても仕方ないわよね! なんとかなるなる!」


 持ち前の楽天性を発揮して、両手を上げて夕焼け空に叫ぶミア。決してただの能天気のアホというわけではなく、自分の役割を考えて上手く立ち回りのできる子ではあるが、こういう前向きさがあるから常に聖女のそばについて交渉するというストレスフルな環境でもやっていけてるんだろうなと、リゼットは少し羨ましく思った。


「私にはとても無理ですねーっと」

「えっ、何が?」

「ミア―! 早く行かないと祈りの時間がー! あっ、聖女様そっちは駄目です!」


 もう帰りたいのか、大聖堂ではなく聖女館へ向かおうとするセシルを必死に引き留めるジャン。そんな二人を見て、ミアとリゼットは顔を合わせて笑った。

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