異世界で無双するギャル〜ギャルになった幼馴染と異世界転移したのでのんびり旅をすることにしました〜

こーぼーさつき

第1話

 時は戻り遥か昔。

 まだ年中さんだった頃の話だ。


 「ひなちん、ずーっといっしょだよ」

 「うんっ! いっしょっ!」

 「ほら、ひなちんやくそく!」

 「やくそく!」


 いぇーいっとハイタッチをして、芹奈せりなは手首を掴む。

 そして。


 「ぜーったいだよ。やくそく。うそついたらはりせんぼんだからね」


 芹奈と約束した小さいけどとても大きな約束。

 手の甲にキスまでされたあの約束。約束もキスされた感覚も、高校生になった今でも忘れられない。

 あまり過去に引っ張られるのは良くない。そうわかってはいるものの簡単に忘れられるものではなかった。忘れたくても、忘れられない。






 芹奈とはずっと同じ学校に通っていた。幼稚園で出会い、小学校、中学校、高校……と。けれど、関係は薄れた。疎遠になってしまった。きっかけはなんだったろうか。別に大喧嘩をしたとか、嫌いになったとか、嫌われたとか、そういう明確ななにかがあったわけじゃない。

 多分お互いに「なんとなく」顔を合わせなくなって、喋らなくなって、関わらなくなっていった。


 無理矢理理由を見出すとしたら。そうだな。芹奈がギャルへと変貌し、私がオタクへと変貌したからだろうか。

 水と油じゃないけれど。

 交わるようなタイプではなくなってしまった。ただそれだけの話。


 きっと芹奈は昔のことなんて覚えていないのだろうなと思う。私の手の甲にキスをしたことも。


 今の彼女はとても生き生きしている。

 教室の端っこから眺めるとよくわかる。私が隣に居ないから。きっとその笑顔を作れるのだと思う。


 「それなー」「マジぃ?」「チョーウケる」


 と、ギャル仲間と楽しそうに会話している。


 金色の長い髪の毛を揺らして眩し過ぎる笑顔を浮かべていた。

 それが私に向けられていない、という事実に少しやきもきするが、私の決めた道だ。文句は言えない。そもそも私がそこに立ったところで、まともに反応できないはず。それなとか言われても反応に困るし……。だからしょうがないんだ。って、言い訳を並べた。

 だから私はブックカバーを覆って隠しているライトノベルを読むことにした。内容が頭に入ってこないのも、言い訳を並べて逃げるのも、きっとぜんぶ芹奈のせいだ。







 ライトノベルを読んでいると放課後になっていた。

 男性向けのライトノベルというのも結構面白い。最初は女性向けの異世界恋愛物。所謂ラブロマンスを嗜んでいたのだが、ある程度読み漁ると飽きがやってくる。少し味変のつもりで男性向けの異世界ファンタジーを読み始めた。そしたらまぁ面白い。無双っぷりが痛快、爽快、心の中の厨二病をこれでもかってくらい疼かせる。

 心底オタクで良かったと思った。


 教室にはもう誰もいない。


 「悲しすぎるだろ……私」


 オレンジ色に輝く窓を眺めながら、ぽつりと呟く。


 誰も声をかけてくれないという事実がただただ悲しさを孕ませる。

 良いじゃん。もう放課後だよって声掛けてくれたって。


 「帰るか……」


 ライトノベルをしまって、立ち上がる。

 凝り固まった肩や背中をほぐすようにぐーっと背を伸ばす。んんっという声を漏らす。

 恥ずかしい……とか思いながら、歩き出す。

 閉まっている扉を開けようとした時。勝手に開いた。って、勝手に扉が開くわけがない。超常現象じゃあるまいし。


 「あっ」

 「……」


 ガラッと開いた扉の向こう側には芹奈が立っていた。

 金髪に女の私から見ても濃いなって感じるメイク、そしてラフランス風の香水。


 「久しぶり……じゃんね。ひなちん。二人っきりってほんといつぶりだろね」


 気まずい空気が流れた中、芹奈は若干困ったようにはにかみながら会話を模索する。

 声をかけられた。会話のキャッチボール的には今度はこちらがなにか返さなきゃならない。

 でもわかんない。

 どういう会話をすれば良いのだろうか。

 悩む。


 「……」


 上手く声が出ない。喋れない。


 「あっ……えーっと」

 「ひなちんは元気にしてたーっ? って、教室ではお互いに見てたし、わかるかー」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」


 うげー、気まず。

 ――神様。どうにかしてくれよ。


 『その願い。しかと受けたり』


 「は?」


 間抜けな声を出す。


 私と芹奈のちょうど真ん中に小さな光が宿った。それはみるみるうちに膨張して、すぐに私たちのことを包み込む。視界を奪い、聴覚も奪い、触覚も奪う。そして眠気が襲い、あっという間に私の意識まで奪った。






 「ひなちん、ひなちん、ひなちん」


 ぐらぐらと身体を揺らしてくる。

 流石にここまでされたら目が覚める。


 「……起きてる」


 なぜか外で寝ていた。しかも草原で。

 こんなところ学校の近くにあったかなぁと考える。まぁ私の知らない場所なんて山のようにあるんだろうし。と、簡単に結論を出す。


 「起きてないっしょ」

 「起きてるよ」

 「じゃー、ひなちん。あれ見て驚かない?」


 芹奈は引き攣った顔で指を差した。

 彼女が指差す先にいたのはドラゴンだった。


 「ドラゴン……」

 「だよねー、ウケるんだけど」

 「ウケないよ。全然ウケない……」

 「マジ? ウチ的にはちょーウケるんだけど。オタクちゃんなひなちんと一緒に異世界とか、さいきょーじゃんね?」


 どうやら私は疎遠になった幼馴染ギャルと異世界に来てしまったらしい。


 ――おい、神様。なにしてくれてんだ。ふざけんな。


 『文句ばっか言いよって。なにが不満じゃ。ほら、喋れておるじゃろ。万事解決じゃ』


 ――なにが解決じゃ。異世界転移じゃん、これ。チートスキルの一つや二つくれるのなら許容できるけど。


 『お前には与えん。チートスキルの代わりにギャルを与えたんじゃ。そのギャルにはチートスキルを与えたわけじゃし良かろう』


 神様? はそんなこと言って、私の思考から消えていく。

 ふざけんなよ。

 チートスキルを貰わずにギャル一人貰って異世界転移する馬鹿がどこにいるんだよ。ここにいるんだよなぁ。


 というか、芹奈はチートスキル持ちか。


 異世界っていうのは生半可な気持ちじゃ生き延びることはできない。無双できるステータスか、スキルか、仲間がいないと。成立しない。


 異世界転移者なのに私には無双できるステータスもスキルもない。

 だから、このドラゴンすら生きていく混沌とした世界で生き延びるには……芹奈と共に生きるしかない。


 「最強なのは芹奈の方っぽいよ?」

 「ウヘェ? ウチがさいきょー?」


 腑抜けた顔をする芹奈。

 なんかすんごい……不安。


◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇



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