第6編 南京錠
1 通帳
付け足された5桁の数字。貴重な時間をコインで削り出てきた数字。削りカスを集めると両手にとても収まらない。
2 喫茶店
運ばれてきた水色グラス。弾ける泡とアイスクリーム。トースト、卵に、乳飲料。おじい、おばあが作ってくれた夏の間の朝食時間。
3 ラーメン
茎が粗方なくなって、残るは底が見えない池の水。水面に浮かぶ葉々もろとも、花弁で掬ってみたくなる。
4 鬼ごっこ
あの背中、追いかけ続けて手を伸ばす。指先一つも触れられず、やがて息切れ立ち止まる。一度きりの一本道。まだまだこの手を伸ばしたい。
5 ビスケット
ポケットに入れた一枚、取り出すと四片の破片が顔を出す。すべてを口へと含んでみても満ち足りないこの想い。僅かなカスが皮肉顔。
6 ベルトの穴
6番目。それが私の定位置で変わることなどありはしない。そう思っていたはずなのに。朝早くに締め上げて、夜遅くに取り外す場所は3番、いや2番。
7 パンフレット
開いてみると浮き出てくるのは、色とりどりの綺麗事。あえて細かいモノクロを追っていったその先に見えてくるのはやはり黒。
8 悪夢
信頼していたあの人に裏切られて耐えきれず屋上からの大跳躍。気が付くとベッドの上で目を覚ます。靴を取りに行かないと。窓を抜けて飛び出した。
9 南京錠
錆びて回らぬ南京錠。無理やり断ち切りお役御免。何者にもなれない哀れな残骸を、拾い上げて川底へただ気まぐれに投げ込んだ。
10 朝顔
蔓のつぼみが花開く。それがどうにも信じきれずに、夜通し鉢の前にいる。空が青く透き通る、そんなときに呼び出したこっくりさんに首を垂れて。
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