第10話 中二病すぎた『ぼっち』志築静莉
放課後、俺たち三人は再び志築さんのクラスの前に集まっていた。
昨日の仮織と同様、教室を出て一人になったところを急襲するという作戦だ。
「にしても、ホントに入部する気になってくれるのかしら」
仮織は、まだ志築さんが入部してくれるか疑問に思っているようだ。
「大丈夫大丈夫!この私に任せなさい!」
しかし、相変わらず天上さんは自信満々な様子。
実際、仮織さんの本質を見抜いて勧誘に成功しているので侮れない。
天上さんには、ぼっちだけを見抜くセンサーでも搭載されているのだろうか。
そんなことを考えながら待機して早20分。
志築さんは一向に教室から出て来ず、遂に教室には彼女しかいなくなってしまった。
それでも尚、志築さんは帰る素振りを見せず、窓の外を静かに眺めて続けていた。
「どうするのよ?まさか、このまま何十分も待つつもりじゃないでしょうね?」
痺れを切らし、仮織は天上さんに視線を送る。
「そうだね〜。もう教室には静莉ちゃんしかいないし、このまま突撃しちゃおっか!」
「と、突撃するのか!?」
「うん!と言うことで、頼んだよ!宝生くん!!」
「また俺かよ!?最初から天上さんが出て行った方が話が早——」
「さっさと行ってきなさい」
前回に続き先陣を任された俺は、天上さんに異議を唱えようとしたのだが、言い終わる前に背中を押されてつんのめるような形で教室へと入った。
「ッとと!危ない危ない。もう少しでコケるところだ——」
「!!!!」
体勢を立て直して顔をあげる。
するとそこには、目をまん丸にして驚いている志築さんがいた。
「あー、その、なんだ……。し、志築さん……で、合ってるよな?」
「…………」
恐るおそる声をかけるが返事はなく、驚いた表情のまま固まってしまっている志築さん。
「俺は、宝生友斗。今日は——」
「……ごっ、ごめんなさいっ!!」
「え?——ま、待ってくれ!」
俺の話を聞かずに、いきなり謝りながら教室から走り去ろうとする志築さんに慌てて声をかけたが、彼女は脇目も振らずに扉へと一直線。
そして、そのまま扉を開けようとしたが、無情にもその扉が開くことはなかった。
「なっ、何で!?扉、開かない……!!」
ガタガタと扉を開こうとするが、全く開く気配がない。
扉についている窓から外を見ると、天上さんが全力で扉を閉めている姿が見えた。
それを横で仮織が呆れた目で見つめている。
しばらくの間、二人の戦いは続いたが、最終的には志築さんの体力切れという形で幕を閉じた。
「ぜえっ……ぜえっ……!だ、誰かが外から閉めてる……!お、おかしい……」
「俺も本当におかしいと思う」
天上さんは何をやってるんだ。
逃げられたら困るのはわかるが、それにしてももうちょっとやり方があるだろ。
彼女の奇行に呆れていると、さっきまで激闘が繰り広げられていた扉がおもむろに開いた。
「初めまして志築さん。私は、天上甘那と言います。よろしくお願いします」
激闘の覇者である天上さんが教室に入ってきた。
心なしか、やりきったという爽やかな表情をしている。
「もう、天上ちゃんさっきのはやりすぎだよ~!あたしは、仮織辛燐!よろしくね~?」
続いて、仮織も入ってくる。
ていうか、二人ともがっつり仮面被ってやがるな……
そんな二人の挨拶を聞いた志築さんは、その場でヘナヘナと座り込んだ。
「あ、あああ天上さんと、かかか仮織さん……!?そんな超有名人がな、なななんでここに……!?」
志築さんは、想定外な二人の登場に声を震わせながら混乱している様子。
大丈夫かと声をかけようとするが、それよりも前に、彼女はバッグから財布を取り出した。
「い、今、千円札、しか、なくて……!こ、これで、ゆ、許してください……!!」
志築さんは、ビクビクと震えながら、二人にクシャクシャになった三千円を差し出した。
「おい、何やってんだ!?」
「だ、だって!こ、こんな二人が、わ、わたしなんかに話しかけてくれるわけない……!き、きっと、カツアゲ……!!」
志築さんの中では、この二人はコンビでカツアゲをしに来たという結論になっているようだ。
それにしても、聞いていた話と全然違う。
クールさのかけらもなく、むしろずっとオドオドしている。
志築さんの言動に疑問を覚えていると、彼女の回答を聞いて、さっきから呆気に取られて固まっていた二人がようやく動き出した。
「ちょ、ちょっと!いきなり何してんのよアンタ!?」
「そうだよ静莉ちゃん!私たちをそんなことするヤツだと思ってるの!?」
慌てて誤解と解こうとする二人。
焦りからか、普通に素で喋っちゃってるな……
「あ、あれ?二人とも、き、キャラが違う……に、ニセモノ……?」
「あー志築さん、一旦落ち着け。そこの二人も」
収拾がつかなくなってきたので、一旦みんなを落ち着かせる。
静かになったところで、ようやく本題に入った。
「驚かせて悪い!今日は、志築さんに話があって来たんだ」
「は、話……?」
「そう、俺たちが新しく作る部活に入ってくれないかなって」
「ぶ、部活……」
突然の部活への勧誘に困惑する志築さん。
「そう!活動目的は、本当の友達を作ること!」
「みんなで友達を作るために色々やる……らしいわ。まあ、まだ具体的なところはなーんにも決まってないらしいけどね」
「しーっ!辛燐ちゃんそれは言わなくていいの!!」
「事実なんだからしょうがないじゃない」
二人が言い合いをしていると、部活の概要を聞いた志築さんが不思議そうな顔をする。
「……な、なんで、わたしを……?」
「それは……お前が『ぼっち』で、『友達が欲しい』という欲求を持っていると判断したからだ」
「なっ!?」
志築さんは、顔を真っ赤にして固まる。
「で?どうなのよ実際?」
「静莉ちゃんも友達欲しいよね!?」
「…………ほ、欲しい……です……」
迷いに迷った挙句、志築さんは白状した。
「おぉ、本当に欲しいのか……」
「やっぱり!だから言ったでしょ?絶対大丈夫だって!!」
こうして、拍子抜けするほどあっさりと志築さんの入部が決まった。
「ところで、何で志築さんは友達が欲しいんだ?」
入部が決まった後、俺たちはそのまま教室で話をしていた。
現在は、志築さんが友達を欲しい理由に関する話題だ。
「そうよ。アンタ、自分から声をかけてきた人を拒絶してたんでしょ?」
「そ、それは……その……。わ、わたしとみんなとでは、住む世界が違った、って言うか……、しゅ、種族が違ったって言うか……」
志築さんは、恥ずかしそうに口を手で覆いながら、モゴモゴと理由を教えてくれた。
「世界?種族?アンタなに言ってんのよ?」
「い、今はもうみんなと一緒!!去年までの話、だから……!!!」
何かを振り払うかのように、いきなり声を荒げる志築さん。
ふむ、それにしても、『世界』『種族』か……
それに、『友達は不要』と冷たくあしらっていた、と……
色々と考えながら、ふと志築さんのバッグを見ると、そこにはあるキャラクターのアクリルキーホルダーが付いていた。
————ま、まさか!?
そのとき、俺の脳内に電流が走る。
もしかしたら……いいや!間違いない!!
「志築さん」
「な、なに……?」
「 『黒より黒き黒は無く、白より白き白は無し』 」
「え?ほ、宝生、いきなり何言ってんの……?」
「宝生くん、頭でも打っちゃった?」
二人に心配そうな目で見られているが、ここは我慢だ。
俺の推測が合っていれば、必ず志築さんは反応するはず……!!
「——『今日より儚い今日は無く、君より愛しい君は無し』 」
「——!?やっぱり!!」
思わず勢いよく志築さんを見ると、彼女は『やってしまった』といった表情でこちらを見ていた。
「なに?どういうこと?」
「二人でなにしてるの?」
「これでハッキリした。志築さん、お前は『元中二病』だ!!」
「◎△$♪×□●&%#!?」
志築さんは、声にならない声で悲鳴を上げた。
そう、彼女は間違いなく『元中二病』だ。
さっき俺が言ったのは、隠れた名作として呼び声が高い漫画に出てくるポエムだ。
その漫画は、作品全体がとにかく洒落ていて、中学生が読んでしまえば必ずと言っていいほど拗らせてしまうほどの中毒性があり、全国の中学生を中二病へと誘った。
『中二病』。それは、多感な時期の中学生が主に患ってしまう病だ。
独特な自己顕示欲や空想傾向が強い行動や言動をとってしまう、所謂イタいヤツな時期のことである。
様々な創作物が溢れ返る現代において、中二病を発症してしまう者は少なくない。
かく言う俺も、中学生の頃は先の漫画やアニメに影響され、詠唱やポエムを自作したものだ。
志築さんのバッグについていたアクリルキーホルダーが、その漫画の登場人物だったので、確証を持つことができた。
「中二病って?」
「まあ、知らなくてもいいことだ」
「ふーん、まあいいケド」
この二人は、中二病を通ってこなかったらしい。
「まあつまりは、志築さんはその『中二病』というやつを患ったまま高校にあがったことで、自ら友達は不要だという態度を取ってしまっていたってことだ」
「もうちょっと簡単に」
「 『友達を作らない自分カッケー!』って思ってたってことだ」
「も、もう殺じで……」
志築さんは、そのまま泡を吹いて倒れてしまった。
こうして、最後の一人も無事(?)勧誘することができた。
いよいよ、部活の始まりだ——!
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