第8話 八方美人すぎた『ぼっち』仮織辛燐
「——その人たちは、本当に心からの友達ですか?」
俺の背後から現れた天上さんは、仮織さんにそう問いかける。
その声色と表情は、俺と話すときの素ではなく、クールな仮面を纏ったものだ。
「天上甘那……どうしてアンタがここにいるわけ?」
仮織さんは、突然現れた天上さんに動揺しているようだ。
「そんなことはどうでもよいでしょう。それよりも、私の質問に答えてください。仮織さん……あなたは、普段から関わりを持っている人たちのことを、本当に友達だと思っていますか?」
「——ッ!!」
仮織さんは、思わず息を呑む。
やはり、この状態の天上さんはすごいオーラを纏っている。
誰も寄せ付けない、誰にも指図させない。
自分とは住む世界が違う人間なんだと思わされるような、そんなオーラだ。
頑張って演技してるなぁ……
——もっとも、すでに素の天上さんを知っている身からすれば、こんな感想になるのだが。
あっ、こっち見た。
なに?俺ってそんなに表情に出てるのか!?
そんなことを考えている間に、仮織さんは観念したかのようにポツポツと本音を吐露し始めた。
「……本当の友達なわけないでしょ?あんなの、ただテキトーにつるんでるだけ。みんな、ちょっと愛想よく振舞ったら、すぐ友達になったと思い込んでズケズケこっちに踏み込んでくるし……。アタシは、一回も友達になりたいなんて言ってないのに」
どうやら、天上さんの予想は的中していたようだ。
仮織さんは、表面上は愛想よく振舞っているが、本当に仲良くなるまでには結構時間が必要なタイプなのかもしれない。
「それで、現状ぼっちってわけか」
「ぼっちじゃないわよ!ただアタシが友達になりたいヤツがいないってだけ!男子はやけに優しく接してくるくせに、話してるときに鼻息荒くしてんのがキモいし!女子はアタシのことを『横に置いてると自分のステータスが上がる置物』みたいな目で見てくるし!結局みんな、アタシの上っ面しか見てない!!」
仮織さんは、堰を切ったように心の内に溜め込んでいた感情を吐き出す。
「みんな、アタシの中身なんて見ようともしてくれない……」
「「…………」」
俺と天上さんは、二人して押し黙る。
仮織さんの本音。
彼女は、
「……なら、なんでわざわざ演技してるんだ?初めから素の性格で接すれば、いつか中身も理解してくれるやつも出てきてくれるんじゃ……」
俺は、疑問に思っていたことを率直に質問した。
本当の自分を理解してくれる人と友達になりたいのであれば、初めから素の自分でいた方が楽だと思うのだが。
「…………それは言えない。」
しかし、仮織さんはそう答えたっきり何も言ってくれない。
おそらく、なにか深い事情があるのだろう。
今の彼女を形成した『なにか』が。
「もうこれで十分でしょ。どう?『誰にでも愛想が良くてみんなから愛されてる仮織辛燐が、裏ではみんなにサイテーなことを思ってた』って知れてよかったわね!どうせみんなに言いふらして、アタシを貶めるつもりなんでしょ?」
仮織さんは、やけくそ気味にそう言い放つ。
そうじゃないと言おうとした瞬間、後ろからこちらに駆け出す音が聞こえた。
「——かるよ」
「え?」
「わかるよ~辛燐ちゃん!!滅茶苦茶わかる!」
それは、天上さんが仮織さんに駆け寄った音だった。
そして、天上さんはそのまま仮織さんをギュッと抱きしめた。
「は!?な、なに!?急にどうしたのよ!?」
「私も辛燐ちゃんと一緒なの!素の自分がなかなか出せなくて、気づいたら勝手にキャラが作られちゃってたんだよ~!」
仮織さんの動揺を余所に、天上さんは唐突な自分語りを始める。
多分だけど、天上さんと仮織さんはぼっちになった境遇結構違う気がするぞ……?
「アンタ、ホントはそういうキャラなの!?とりあえず苦しいから離れなさいっ!……宝生!コイツを何とかして!!」
「わ、わかった!ほら天上さん、仮織さんが困ってるから一回離れなさい」
仮織さんからのヘルプ要請を受け、俺は慌てて天上さんを引きはがす。
「ゼェ……ッ!ハァ……ッ!な、何なのよアンタたち……」
「そうだ!本筋に話を戻すね!」
ツッコみが追い付かずに息切れしている仮織さんに改まって向き直り、天上さんは本題を切り出す。
「辛燐ちゃん、私たちが新設する部活に入部してくれないかな?」
「……は?部活?」
突拍子のない話を聞いて、仮織さんの頭の上に、はてなマークが浮かぶ。
「そう!部活の目的は、『ぼっちから脱却して、本当の友達を作ること』だよ」
「 『ホントの友達』……」
「まあ、つまりはみんなで脱ぼっちに向けて色々考えようって部活だ。仮織さんが良ければ、是非入部してほしいんだが」
自分で言ってて何だが、やっぱり活動目的がざっくりし過ぎじゃないか?
こんなので仮織さんは納得してくれるのだろうか。
「……ふ、ふーん!まあ、アンタたちがアタシに目を付けた理由はわかったわ。……それで、具体的には何をするの?」
その質問に、俺と天上さんは互いに見つめ合う。
「……何するんだ?」
「そ、それはっ!その~……、これから決めるって言うか、やっぱり部員みんなでコンセンサスを取って——」
「横文字で誤魔化すな。全然決まってないのか!?」
「だ、だって数日前に思いついたんだもん!まだ具体的な内容は何も決まってないよ!!」
「なっ!?なんだよそれ!?そんなガバガバな状態で勧誘しに来たのか!?」
「——ふふっ!あはははっ!!!」
俺たちが言い争っていると、仮織さんは突然笑い出した。
「はーお腹痛いっ!……いいわ、入ってあげる」
彼女の回答は、まさかの了承だった。
「え?こっちから勧誘しておいて何だが、本当にいいのか?」
「別に?アタシは友達が欲しいなんてこれっぽっちも思ってないし、ぼっちでもないわ?けど、アイツらと一緒にいるよりは楽しそうだし、乗ってあげる」
諦めたような、吹っ切れたような、そんな表情で、仮織さんはそう答えた。
しかし、ぼっちじゃないと言いつつも入部してくれるなんて……
彼女は、所謂『ツンデレ』というやつなのかもしれない。
「そっか、ありが——」
「ありがとう辛燐ちゃん!!」
俺がお礼を言う前に、天上さんが再び仮織さんに抱き着いた。
「これから一緒に頑張ろうね!辛燐ちゃん!!」
「こ、こら!離れなさい……!!ていうか、しれっと名前で呼ばないでっ!」
「ええ~いいでしょ?可愛い名前だし、『辛燐ちゃん』って呼ばせてもらうね?」
「こいつ全然人の話聞かないわね……!」
この二人、意外といいコンビなのかもしれないな……
そんなこんなで、仮織さんの勧誘は成功に終わった。
残すはあと一人だ……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます