このままだと、俺の高校生活で初めてできる友達が『ぼっち美少女』になるかもしれない
ぶぶし
第1話 美少女すぎた『ぼっち』天上甘那
キーンコーンカーンコーン……
終礼のチャイムが教室にこだまする。
俺、
教室内は、部活や遊びといった、放課後のイベントに関する話題で持ちきりだ。
しかし、あいにくと俺には無縁な話のため、みんなの話し声をBGMにしつつ、
教室を出ようとそそくさと席を立ち、扉へと向かった。
「さーて、新刊新刊~」
この後の予定に心を躍らせながら、そのまま扉に手をかけようとしたその瞬間、
突然身体が強い衝撃に襲われた。
「あだっ!?」
なんだなんだと隣を見やると、女の子が少し驚いた表情でこちらを見ていた。
ぶつかった彼女は『
山奥を流れる澄み切った川のように輝く淡い青色の青髪と、直視していると
吸い込まれそうになる宝石のような青い目に、メリハリの効いた抜群のスタイル。
さらには、クールな表情と声色も相まって、この高校一の美少女と噂されている。
俺みたいなモブキャラでは、一生話す機会すら得ることのできない女の子だ。
そんな彼女とぶつかってしまった……。
「あの、えぇーっと、その……」
ぶつかった際に大きめの声を発してしまったことで、現在、教室中の視線が
俺と天上さんに注がれている。
この状況下で、下手なことを言って天上さんに嫌われてしまったら、俺の高校生活は終わる……!!
そう思い、頭の中で必死に弁明の言葉を組み立てる。
「——いえ、私こそごめんなさい。……さようなら」
「っ!! ま、待って——!」
しかし、そんな必死の奮闘もむなしく、天上さんは淡々と謝罪と別れの言葉を
俺にかけ、足早に教室を後にした。
嗚呼——さらば、俺の高校生活——
もともと、ほとんど終わっていたようなものだった高校生活が、完全に幕が閉じる音が聞こえた。
今後は、『あの天上さんにぶつかった挙句、謝罪すらしなかった最低男』という
烙印を押されて残りの高校生活を送るのだろう。
教室中の鋭い視線を背中に浴びながら、俺は失意のままに教室を後にした。
結局なにも口に出せずに終わってしまったが、やっぱり謝罪はしないとな……
あの後、そのまま帰路についた俺は、電車に揺られながらそんなことを
考えていた。
一方的に会話を打ち切られてしまったが、こちらにも非があるのに謝らないのはやっぱりよくないだろう。
相手がどれだけ高嶺の花でも、人として譲れない部分はある。
これで、ちょっとはクラスメイトからの印象も元に戻れば良いのだが。
「よし! 明日登校したら、一番に謝罪しよう……!!」
そう決心したところで、電車は目的地へと到着した。
自宅まではここからもう一回電車を乗り継ぐ必要があるが、今日は一旦ここで
改札を出て大きめの本屋へと向かう。
今日は、最近ハマっている大人気漫画の最新刊が発売される日だ。
少しでも購入できるチャンスを広げようと、あえてこの本屋を選んだのだ。
はやる気持ちを抑えながら、駆け足で目的の本屋に入った。
しかし、一目散に新刊コーナーへと向かうが、肝心の漫画が見当たらない。
流石は大人気漫画、新刊発売当日は、早朝から本屋に並ぶ人も多いと聞く。
夕方ともなると、すでに売り切れてしまっていたようだ。
「やっぱり、新刊争奪戦は学生の身分じゃ厳しいかぁ……」
お目当ての漫画が買えないのならもう用はない。
がっくりと肩を落としながら出口へと踵を返そうとすると、不意に見覚えのある姿が目に映った。
……!! あれは天上さん!?
そう、その姿の正体とは、あの天上甘那さんだった。
天上さんも寄り道とかするんだな、などというどうでもいいことが頭をよぎるが、
明日しようと思っていた謝罪が今日のうちにできるということに気づき、小走りで
天上さんに近づく。
しかし、何という美少女ぶりだろう。
距離が近づくにつれて彼女の解像度が上がり、いやでもその端麗な容姿に目を
奪われてしまう。
何だこれ、本当に俺と同じ人間なのか?
顔ちっさ!? スタイル良!?
やばい、メチャクチャ緊張してきたぞ……
天上さんと会話するのは、さっきを含めて通算2度目。
当然慣れるはずもなく、彼女のところに到着する頃には、緊張で心臓がバクバクと早鐘を打っていた。
「あ、あのっ! 天上さん……だよな? さ、さっきは本当にごめん!!」
緊張で声が震えながらも、何とか謝罪を口にして頭を下げた。
本当は落ち着いて誠心誠意謝ろうと思っていたのに、天上さんを前にすると考えていたことがすべて吹き飛んでしまい、なんとも平凡な謝罪になってしまった。
謝罪したそばから脳内反省会を開きつつ、天上さんの反応を待つ。
しかし、いつまでたっても彼女からの返答はない。
え? 何? 今度こそ本当に社会的に死ぬのか?
天上さん視点で考えてみれば、俺は教室でいきなりぶつかってきた挙句、そこから尾行して校外で声をかけてきた不審者だ。
もしかしたら、このまま通報されてお縄になってしまうのかもしれない……。
嫌な想像をして額ににじみ出た冷や汗を拭いながら、恐るおそる顔を上げた。
するとそこには、学校でのクールな印象からは程遠い、目をまん丸にしながら、驚きと羞恥が入り混じった表情を浮かべた天上さんがいた。
「あ、あの~、天上、さん……?」
彼女の見たこともない表情に動揺しながら、恐るおそる声をかける。
すると、
「ン”ア”ッ、ン”ン”ン”~~~ッッッ!! ど、どうかした?」
咳払いでっか……
「い、いやだから、さっきはぶつかってごめんっていう話で……」
「あ、あぁ~! そ、その話? それなら全然大丈夫だから」
「そうか? ならよかったんだけど……」
互いにぎこちない会話。
だが、とりあえずは謝罪ができてよかった。
何かさっきから天上さんの様子はおかしいが。
まあ、いきなり学校外で、いままで一切関わってこなかったモブキャラに声を
かけられたら動揺もするだろう。
しかし、天上さんは何の用事があって本屋に来たのだろうか。
無事に謝罪できたことへの安堵から、緊張が少しほぐれて別のことを考える余裕が出てきた。
実は漫画好き、などという意外な一面が知れるかもしれないと思い、興味本位で彼女が手に持っている本の表紙を覗き見た。
「……? 『マンガでわかる! 友達の作り方! ~ぼっち生活とはもうおさらば~』」
「◎△$♪×□●&%#!?」
「うわっ! な、なんだ!?」
天上さんが手にしている本のタイトルを口に出すと、彼女は俺の声を遮るように、突然奇声のような声にならない声をあげて本を背中に隠した。
顔をのぞいてみると、額から顎先まで羞恥で真っ赤に染まり、口はアワアワと波打っている。
それにしても、本のタイトルを見られてこの気の動転のしよう。
まさかとは思うが、もしかして天上さんは……
「天上さん、もしかして——『ぼっち』なのか?」
「…………」
『ぼっち』なのか——
そう告げた途端、天上さんはピタリと動きを止め、絞り出すように口を開いた。
「——ないで」
「え?」
「だ、誰にも言わないで……!!」
普段のクール美少女はどこへやら。
まるで捨てられた子犬のような、今にも泣きだしそうな顔で彼女は叫んだ。
これが、俺と高校一のクール美少女(?)、天上甘那の出会いだった。
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