第7話 来島綾香は青春したい

「一ノ瀬、どうだ。先生と一緒に食う飯は美味しいか」


 昼休み。いつも通り弁当を持って、あるようでないような自分の居場所に向かおうとしていた時に、いきなり放送で呼び出されてこれだ。

 とうとう教師と飯を食わなければならなくなったのか俺は。

 

 青空の下、校舎裏の階段。

 横では、まるで彼女のように隣に座るロングヘアで見た目だけはモデル級の変態教師がルンルンで弁当を突いていた。


「いやいや先生。美味しいどうこうじゃないですって。わざわざ職員室に呼び出された後、校舎裏の階段に連れてこられるし。そこからいきなり弁当を開きだして、食べないのか? なんて。寂しいんですか? 会いたかったんですか? 独身なんですか?」


 あっとまたもや一ノ瀬の口がスリップ! 

 これで二回目だね。さすがに今回は生きて帰れなさそうだね。


「こんの野郎っ、長々とうるさいぞ一ノ瀬っ! 飯くらい黙って食え!」


「っ?! はぁへ!?」

 

 唐揚げっ?!

 その瞬間に箸に掴まれた唐揚げが俺の口に勢いよく放り込まれた。

 話しかけたのはそっちだろ理不尽な!


「独身女性を馬鹿にしていいやつは、そいつをもらう覚悟のある奴だけだぞ一ノ瀬。覚えておけ。それともあれか? 貰ってくれるのか?」

 

 てかこれ間接キスだろ。

 俺の初めては先生なのか。マニアックなシチュエーションですね。

 嫌いじゃないです。でも結婚は無理です。


「いや貰いませんよ。変態はこのくらいの距離がちょうどいい」


「あーもういいもん。一ノ瀬とは話しなーい」


 子供みたいに来島先生はそっぽを向いて拗ねる。

 まったくこの教師は。

 先生はそっぽを向いた状態でボソッとつぶやく。


「あーあ、古来からラブコメというのは人気のない階段で青空の下、男女二人で弁当を食うもんだと思っていたんだがな……十年遅かったかな。誰か私と青春してよ……」


 それは27歳から一番聞きたくなかったよ生々しい。

 ていうか俺みたいなのでいいんですか? それ。


「……ちなみにそれなんてラブコメなんすか」


「と〇ドラとか……け〇おん! とか……」


 あれ、そんなシーンあったっけか。

 そもそも後者ってバンドアニメだったよね。


 何だろう。アニメのラインナップが10歳差あるだけに時代を感じるな。


「なんか違う気が……」

 

「いや私これでもけ〇おんに憧れてバンドやってたんだぞ?」

 

 いや知らないです。いらないですその情報。

 でも先生ってば結構ロックだよね。もはやロック通り越してファンキー。

 って、どうでもいい。そんなことより本題をどうぞ。

 

「……って、そんな話するために読んだわけじゃないんすよね、先生」


「ん、ああそうだったな。」


 先生は再び弁当のむすびを食べ始める。

 コンビニ弁当なのか。唐揚げが入ってたであろうところがすっぽりと開いていた。

 二個中の一個をくれたのかよ。


 こういうところで変に優しいよなこの人。

 先生は俺に箸を向けて話始める。

 

「一ノ瀬喜べ。部員が見つかったぞ? それもかなりの良いやつだ。バスケ部ながら兼部してくれるらしい。これには冷血なお前も涙流して喜ぶんじゃないのか?」


「兼部って、うちって兼部するほどの魅力ありましたっけ。それともまた学校来てない生徒とか」


 しかもうちのバスケ部は男女ともにベスト8は入っていたはず。

 ソースは誰も見ないであろう教室掲示板の生徒会新聞『あきの便り』。

 俺は定期読者だぞ?


「そうそう不登校がいてたまるか。……と言っても、いるのが現状だからな。無くなりはしないし、助かるのは少数なのも残念ながら事実だ。大体は自分一人で抱えてしまっている子が多いしな。我々教師の仕事なのはわかるが、悔しいことだよ」


 どうやら本気で考え込んでいるらしい。

 いつもはふざけたように接してくるからわからなかったが、真剣な顔がこうも可愛いとは。

 俺も中学生のころにこんな教師がいてくれたらな、なんて思う。

 

「まあ安心しろ一ノ瀬。今回は違う。小柄で少しクールな奴だったぞ。いわゆる清楚系ってやつか? それも女子だ。いかにもお前が苦手そうな人種だな」


 どこで何をしている部活か分からないのによく入部してくれたな。

 いや部活かどうかも怪しいのに。

 これって、もはやいい人じゃなくて変わった人では?


「なんか俺よりスペック高い助っ人来ましたけど。俺、戦力外になりません?」


 いや、ほんと、やめてくださいね? 俺やっと馴染んだばかりなのに。

 

「大丈夫だ。男キャラはいた方が面白いだろう?」

 

 それは見てる側は、ってことですよね。

 これだからラノベオタクは……

 

 俺は部発足に安堵しながらも、今後の弓瀬についての不安が募った。

 

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