第6話 神様、結衣様、仏様
その日の晩、俺は自室のベッドで考え事をしながら先生に買ってもらったラノベを読む。
とりあえず弓瀬のクラス復帰まではまだ遠いとして、部活か……
我ながら部活という存在に心が揺らぐとは思わなかった。
俺にも残ってるのか、青春的な何かが。
ところでさっきから俺の視界の隅でちょこまかしているのは何なんだよ。
「お兄ちゃん、いつにも増して疲れ切った顔してる。どしたの。学校? この結衣様が話を聞いてあげよっか」
「いや、今はまだ結衣様の出番じゃないよ」
そういって本の後ろから俺を覗き込んだのは妹の結衣。中学三年生で今年から受験生だ。
その小さな顔と、いかにもモテるような容姿は可愛いといえばかわいいが、ちょっと生意気なところがあるのが結衣だ。
まあ、兄としてはそういうところも含めて可愛いのだが。
「お兄ちゃん考え込む癖あるからね。結衣が受け止めてあげないと爆発ちゃうかもだし。結衣を見習うべきだよお兄ちゃん」
それに関しては結衣が能天気すぎるんだよなあ。
結衣は俺の機嫌を伺うなり頭を包み込んで撫でまくる。
「うん。そう言いながら兄をペットみたいになでなでしないで?」
「いいんだよ。これはお兄ちゃんへの癒しであり、結衣のご褒美だからね。みんなお兄ちゃんいる人は撫でてるって。フツーフツー」
「お兄ちゃんわからないけど思春期ってそんなものなのか? これが普通なのか妹よ」
そういいながら結衣は優しい手つきでひたすらに撫で続ける。
……うむ。悪い気はしないな。
「なんか最近のお兄ちゃんからは女の匂いがするからねー。結衣の匂い付けとかないと」
恐ろしい子?!
いや、同時にあざとさをも感じるよ。弓瀬とは違って計画的な何かを。
あの子は天然だからね、多分。
「まあお兄ちゃん女心分からないからなー、結衣は心配だよ。お兄ちゃん結婚はできないだろうし? 彼女もできるか怪しいんじゃないのぉ?」
ほっとけ。
でも核心を突かれてて結構きついぞ。俺には大ダメージ。
「まあ、俺は結衣が隣にいてくれたらそれでいいかなー……なんて」
しまった。ものすごく引きつった笑顔で思ってもないようなことを平然と言ってしまった。
我ながらキモいけどこんなお兄ちゃんを許してね。
「お兄ちゃんさすがに引くわ。ちょっと無理。あ、ていうか風呂冷めるから早く入ってよ。お兄ちゃんいつも最後に入るくせに入浴剤いれるのブチギレなんだけど」
ええ、ちょっとひどくない? そんなことある?
さっきまで嬉しそうに撫でてたじゃん。
お兄ちゃんすごく悲しい。
「……でも、なんかあったら言ってよ。お兄ちゃん恋愛初心者だし、少しは教えてあげるから」
ほう、なら少しは力になってもらおうかな。
「じゃあ質問。学校来ない奴を学校に来させる方法って何ですか結衣先生」
「ない」
即答?!
なんかいつもより辛辣じゃない? 結衣先生。
「じゃあお兄ちゃん。自分から喋らずに友達出来たことある? あ、友達出来たことある?」
「舐めとんのか妹よ」
「いや、できたことないでしょお兄ちゃん。あ、聞くまでもなかったか」
妹の攻撃に耐えられず布団にくるまって全てを塞ぐ。
よし、これでなあんにも聞こえなーい。聞こえないぞ? ほんとに。
「はあ……要するに、クラス側の問題じゃん? そーゆーの。来れない空気作ってるのは、学校に行っている私たちなわけだよ。自分が話さないと友達ができないのに、話せる空気作らないのも私たち」
「まあ確かに、クラスの空気もそいつを受け入れられるような空気じゃないよな」
俺は布団の中からこもった声でそう言う。
「だからまあ、その人を学校に来させたいならクラスの空気を変えることだね。お兄ちゃんにはできないだろうけどねー。相談くらいは乗ってあげるよ」
「さすがです結衣さん頼りになります」
「あったりまえじゃん」
大体わかっていたことではあったが、俺のために少しは考えてはくれたのだ。
さすがは我が妹、頼りになるな。
生意気だけど。
「……で、いつまでそうしてんの。いいけど早くお風呂入ってね」
「あ、はーい……」
そう言って結衣は俺の部屋を出て行った。
クラスの問題。空気作り。そして変わろうとしない本人。
どこぞのポッと出のモブでもわかるだろうが、このミッションはそうそう簡単じゃない。
変えるならクラスの雰囲気から、か……
変わったといえるのは俺の生活くらいで、とはいえ俺の生活が変わったところでクラスの雰囲気は当然変わらないわけで。
誰かどうにかしてくれ。そんな影響力はモブにはないからな。
というわけでこの一ノ瀬友也、救世主求めてます。
頼んだぞ、来島先生。
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