第4話 祝☆新聞部発足?

「……わかった。わかったから落ち着け。よし、 これから学校ある日は毎日ここに来る。ただし! 俺はひなのがクラスに復帰してもらうために来るっていうのが理由だ。だから俺が毎日来る代わりに、ひなのはクラスに来る努力を今まで以上にすること! これが条件!」


「のんだあー!」


 弓瀬は大きな声でこぶしを突き上げる。

 相変わらずこの子、情緒がおかしい。


「なるほどね一ノ瀬君っ。その条件吞んだよ!」


 ほんとか? 信じていいのか?

 出会ってから数十分。もう信用できない人間のオーラが漂っている弓瀬が心配になる。


「ってなわけで約束ねっ? 明日も待ってますので。来てね。ねっ、一ノ瀬君」


「りょーかい」

 

 俺は部分的に錆びたパイプ椅子に深く腰掛ける。

 しかし、なんだろう。こいつがヒロインだとしたら俺の高校生活凄いことにならないか?

 

 

 ……そんなわけで、この日から俺の『弓瀬クラス復帰作戦(仮)』がスタートした。



 ◇


 

 そんなこんなで、三日ほど時が経ってしまった。

 あれから、俺はちゃんと元部室に来ては弓瀬と楽しく? やっている。

 

 たしか昨日は部室にあったオセロを、弓瀬が勝つまで三時間耐久をしたっけか。

 そして一昨日はアイドル時代の弓瀬を映像付きでひたすら自慢されたな。

 でも、そんな忙しい一週間も今日で終わり。


 そう、今日は華の金曜日。

 家から出るとき妹に華の金曜日というと「お兄ちゃん、それふつーに古臭いからやめなよ」なんて言われてしまった。

 

 そうかこの言い方は古いらしい。でも華金は華金だ。

 明日が休みとなると並大抵の嫌なことは忘れられる。


 とはいえ今日は、特に何もなく平和な一日を過ごせているので何一つ問題はない、はず。

 なのだが、部室の扉の前に生徒会の腕章がついた門番が腕を組み仁王立ちしている女子生徒が俺の平穏な華金を邪魔しそうなので。


 俺は、迷惑そうに眉間にしわを寄せてガンを飛ばしてみる。


 ……ダメだ。俺の必殺技なんだけどなあ。

 目の前のたわわな身体つきの壁はぴくともしなかった。

 

 恐らく地毛であろう、その派手すぎない茶髪にウェーブのかかったボブヘア。

 くびれの目立つ体。この一ノ瀬友也、その胸はFカップと見たぞ。

 

 ん……? この人どこかで、いや生徒総会で見たようなそんな気が。

 

 

「そこのあなた、この部屋を使っている人?」

 

「え、ああはい。そうですけど」


「そう、やっとまともな人に会えたわ。というのも昨日も一昨日も来ているのだけれど。その度に見覚えのある女子生徒に追い出されるのよ」


 

 何やってんだあいつ。

 てかあなたいつ来たの? 俺昨日も一昨日もいたんだけどな。


「生徒会も暇ではないし、単刀直入に言うわ。貴方たちにこの部屋を使う権利はない」


 は? 先生これは何かやらかしのにおいがします。

 俺は先生信じてたよ。シンジテタ、ホント二。


 

「あなた達が許可を取っているのは火曜の一日だけ。それ以上は部活でない以上、使わせることはできないわ。生憎、この部屋を使いたい連中は結構いてね」


「そいうことですか……」


「ええ、よってあなた達には立ち退きを命じます」

 

 

 どうしたものか。

 話が通じなさそうな人ではないのは幸いだが。

 とはいえ話し合いというわけにもいかない。


「いやそこを何とか――」

 

 どうにかしてそれは阻止したい。

 俺は目の前のドアを開けようとする女子生徒を止める。

 ――その瞬間に部室のドアがあり得ない勢いで開く。


「聞かせてもらったよっ! なるほどね一ノ瀬君。つまりものすごくお困りなんだね!? このひなのちゃんが助けてあげようか」


 目の前には『祝☆新聞部発足!』と書かれた襷を肩から掛け、目には星型の光るサングラスをかけた弓瀬がいた。

 

 いったい何やってたんだお前。

 それに続いて同じような恰好をした来島先生も出てくる。


 ほんとに何やってんだお前ら。


 

「このひなのちゃん。事情は聴かせてもらっちゃいましたっ。見てよ一ノ瀬君この格好、いいでしょ」

 

「うん。ひなのは可愛いけど後ろのその人はなに、誰? そして新聞部発足って何なんですか教えてください色々と」

 

「うるさいぞ一ノ瀬。なんだお前も掛けたいのか? そういうことなら焦るな、もう一つ準備が……」


 

 何であるんだよ。

 ほら生徒会の人すごい目してんじゃん。もう怖いから目を見れないよ俺。

 

「いや、先生。俺が聞きたいのはその新聞部発足のことですよ。なんですかそれ。あ、あとそのピカピカ光る眼鏡やめてください。眩しいっす」


「……来島先生。学校内ですのでそちらは没収対象です」

 

 生徒会の女子生徒はそう言うと二人の眼鏡を取り上げる。

 ……ほらこうなる。


「あ、ひどいことをするな私は教師だぞ」


 教師はそんなこと言っちゃだめですよ絶対。

 来島先生は何かに気づいたようにその女子生徒を見つめる。

 

「ん……? お前どこかで会ったことあったか? ……あ! 思い出した、お前鹿ケ谷だろ! 久しぶりじゃないか! 相変わらず真面目そうな面しやがってえ」


 鹿ケ谷? ああ、あの鹿ケ谷花憐か。

 成績優秀、容姿端麗。かといって陽キャでもなく、常におしとやか。

 

 そのためか、性別問わず大人気の次期生徒会長候補。

 連休前の生徒会選挙の演説、一人だけ幕張レベルの歓声上がってたのはこの人です。

 いや、そんなキャラが三次元に居ていいものか。


 来島先生は鹿ケ谷と肩を組み、まるで酔っぱらいのように絡む。

 

「……お久しぶりです来島先生。ところでそこの見覚えのある子と、こののっぺりした人は誰なんですか?」


 のっぺりしてて悪かったなFカップ。

 顔か? のっぺりしてるのは顔なのか?

 

 俺、自分の顔普通だと思ってるんだけどな。


「そいつらはまあ、あれだ。えーと……私が顧問をしている部活の生徒だ。うん。だから生徒会の許可はいらん。だ、だからこの部屋を使ってもよいだろ?」


 いや、いくら何でもそれは無理があるだろ。


「はぁ……先生。部活は部員が三人からってご存じないのでしょうか。それに、生徒会に部発足の届けが来てないんですけど。生徒会舐めてます?」


「あ……あ、あはは、忘れてたんだよ。 細かいこと言わないで許してくれよ鹿ケ谷ぃ~。なんてったってぇ、私は教師だぞ??」


 何でぶりっ子?!

 それで通じると思ったのか先生。

 

 気まずい沈黙、鹿ケ谷がぶりっ子を理解するまでの数秒の間だった。

 

 

「……わ、分かった。わかったぞ。部員を連れてくればいいんだな? なら明日までに連れてきてやろう。な、一ノ瀬、お前なら余裕だろ?!」


「やりませんよ? ていうか俺部活とか入りたくないんで部発足とか反対です。てことで先生、お願いしますね」


「ええ、一ノ瀬まで……ああもう、わかった連れてきてやろう……そしたら部屋が使えるんだろう? なら月曜にでも連れてきてやるから待っておけ」


 

 こうして金曜の放課後、来島先生による部員探しが始まる。

 平穏な学校生活は終わりを告げた、のかもしれない。

 俺は気づかぬうちに『祝☆新聞部発足!』と、書かれた襷を弓瀬にかけられたことに気づく。

 

 ……新聞部。悪くはないかな。

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