パッとしない俺でもヒロインを助けたら主人公になれるだろうか
汐川ナギサ
プロローグ
プロローグ モブの日常はこんなもの①
世間じゃ徐々に五月病が騒がれるゴールデンウイーク最終日。
一ノ瀬 友也は近所の本屋で新作のラノベを読む。
連休最後の日、祝日の昼下がりはどこも人が多く、どこに行こうにも同級生がいるか警戒して歩かなくてはならない。
高校二年生になったばかりの五月。
ゴールデンウイーク。
陰キャにとって連休の外出というのは多くのリスクを伴うものだ。
いざ見つかっては学校で俺の私服がどうだったとか、「一ノ瀬君きのう本屋にいたよね。なに読んでたの」などと話しかけられたり、話題になる可能性もあるわけで。
俺はその可能性を危惧し、家が近くなおかつ学校とは反対の商業施設のアルパーク。
それも別館の本屋を選んだ。
ここなら同級生とも会わず、ゆっくりとオタク全開のラノベを読めるに違いない。
我ながら良い考えだと思う。ここならポイントカードも使えるし、それに立ち読みができる。
金欠学生オタクのはもってこいだ。
根拠のない自身に胸をなでおろし、テキトウに辺りを見渡す。
「よし、始めるか」
俺は目当ての出版社の棚から『異世界巫女は現代転生でおじさんスタート』の十二巻目を探し手に取る。
このシリーズ、初見の読者なら異世界なのか巫女なのか、なぜおっさんからスタートなのか恐らく理解が追い付かないだろう。一応五巻までは真面目に読んだ俺でも、途中からの設定の多さに理解ができなかった。
きっとこの世界観、よっぽどのラノベ上級者でないと理解ができない。
イラストのタッチが自分にドンピシャの表紙絵をじっくりと見た後、一ページ目を開く。
ほう、今回は他キャラからの導入なのか――
「一ノ瀬……お前、そういうの読むんだな」
耳元で何か聞き覚えのある不快な声で言葉をつぶやかれる。やっと本に集中できたのだ。今のご時世、本を読む高校生を邪魔しに来る変な人も一人や二人いるものか。とにかく邪魔しないでいただきたい。
「おうおう、シカトかますのか一ノ瀬。お前ってやつは……いいぞ、おもしろいぞ。そういうの先生嫌いじゃない。お前がそうするなら私も対抗するぞ?」
――あ、邪魔しないでください。ほんと、切実に。
「なあ一ノ瀬ぇ。こちらが好意的に接しているんだから。少しは相手してくれてもいいだろぉ」
シカトとか抵抗するぞとか、どこが、どの辺が好意的なんだよマジで。教えてくれよ。
「おーい聞こえてるかー。生きてるかー」
「……はぁ、先生。 来島先生」
仕方なく反応してやる。
理由としては半分勢いに負け、もう半分は覗き込んできた来島先生が悔しいほど可愛かったからで。
「お、一ノ瀬。やっと気づいたか! よしよし。先生は無視されているのかと思って悲しかったんだからな。 とはいえ、まああれだ一ノ瀬。本に集中しすぎるのもよくないぞ」
いや、最初から気づいてましたし、というか先生。
……あなた現代国語の教師でしたよね。
来島先生は俺の肩をトントンと、笑顔で嬉しそうに叩く。
その可愛いさは100点満点。
でも自分の担任ということと、単純にうざいのでマイナス70点。あと肩が痛いので30点減点。
「……それで、何の用すか。それとも用もなく、わざわざプライベートで会った生徒にちょっかいかけるほど暇なんすか」
「面白いな一ノ瀬、ちょっかいをかけるなんて。これはスキンシップだ。 それに私は暇じゃないぞ。ついさっきも生徒の家で話を聞いてやってたんだからな。カウンセリングも担任の立派な仕事なんだ」
来島先生はけらけらと笑い、俺の持っている本を指さす。
「用件というなら、その本。私もたまたまお前を見かけたからと言って絡みに行くわけでもないが、お前の持っているその本を知っていてな。ちなみにだがそれの短編集も持ってる。私もその本は好きだから、できればその本について語り合いたいわけだがな」
まじすか先生ラノベ上級者だったんですね。
というかこの先生意外とオタク気質だったりする。
「だが大事なのはそっちじゃないんだよ。カウンセリングの件なんだ。その生徒について、正直私じゃ手に負えないことが山ほどあるわけなんだよ」
先生はわかりやすくため息をつき、額に手を当てる。
珍しい。てっきり来島先生と言ったら私生活以外は完璧のバリキャリな人かと思っていたんだが違うのか。
「それでだ。その本を私が買ってやろう。その代わりに私のお願い……というか、まあクラスとしての仕事を引き受けてはくれないだろうか。もちろん本だけじゃ安いというならそこのカフェで何か奢ってやろう。どうだ」
せめて内容を聞いた後に後悔しない位には欲張ってもよいだろう。仮にその仕事が簡単であれば、そのタスクをもらった分きっちりこなせば良い。
俺は『異世界巫女は現代転生でおじさんスタート』の十二巻と短編集。そしてカフェのコーヒーとサンドイッチで手を打った。
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【あとがき】
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