Leave the Truth

岩村亮

プロローグ

 ***


 A案


 ――虎の子も、また虎だ。


 彼以上にこの言葉が相応しい人を、知らない。


 誰もが知るような有名企業を最前線で率いていた社長が、ある日辞任した。その後を引き継いだのは、彼の息子だった。


 初めての経験というものは、誰だって四苦八苦するものだ。特に大企業の社長という立場になって、多くの従業員の人生を背負うことを考えれば、常人であれば気が触れてもおかしくはない。しかし、彼はまるで日常の延長線かの如く、難なく社長業をこなした。しかも、特筆すべきは、就任一年目から業績を上げたことだ。


 元々備わっている才気が開花したのか、もしくは順応するスピードが桁外れなのか。彼の場合、両方だった。


 業績を上げたことで、彼は更に自信を持ったのか、今まで手を出さなかった未知の領域に臆することなく挑戦するようになった。現状に甘んじようとする社員の反対の声も上がったが、彼は勇猛果敢に周囲の声を振り払った。

 その挑戦が功を奏し、多岐にわたって会社の名前が知れ渡るようになった。


 まさしく前社長が取った選択が、正しかったことが証明された。


 どんな人生を歩めば、彼のようにプレッシャーに負けず、人を導けるようになるのだろうか。


 その答えは、この一冊の本を読み終えた後に自ずと分かるようになっているはずだ。


 B案

 ――人の顔は、表と裏で異なっている。


 父親でもある前社長からその役職を引き継いだ彼は、今や知らない人はいないほどに敏腕社長として有名になった。メディアへの露出も高い彼は、多くの人に知られている。

 普通の人生を送っていては浮かばないような経営戦略を惜しみなく展開することで、彼が社長を担う前よりも業績はうなぎ上りとなった。


 しかし、上に立てば立つほど、苦労や心労は増えていく。人付き合いというものも、難しくなって来るというものだ。

 それは、彼も例外ではなかった。


 事業が忙しくなればなるほど、彼の指示は曖昧なものになっていく。曖昧になっていくだけなら未だしも、荒々しい横柄とした言動でもって、社員と接することもあった。

 それでも、部下は彼の指示を聞き入れ、百パーセントの力で応えた。


 周りに支えてくれる人がいるというのは、かけがえのないことだ。彼には類稀な経営の能力だけではなく、周りに好かれる能力も備わっていた。


 一見すると誰もが近寄りがたい敏腕社長というイメージを持たれそうだが、彼にも人間らしい一面があった。その人間らしい姿を持ちながらも、すでに一流企業だった会社を、どのようにして更なる飛躍をさせたのか。


 そこには彼だからこそ成せる技巧が隠されていた。

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